幕間 勇者 ロア
少しグロい表現があります。閲覧注意でお願いします。
戦いが始まって、すでに2日たった。
僕は、自分の陣地から、砦の様子を見ていたが、もう、戦いは終わったと思ってよかった。
最後の壁、今回の謀反首謀者と言われているバルクルスがあの壁の上にいるはずだった。
さっさと彼が出て来てくれれば、こんなに犠牲を出さずに済んだというのに。
彼は、部隊の一番後ろで、いまだに隠れているかのように出て来ない。
本当に腹が立つ。
人の上に立つ者なら、自分が真っ先に出て来て、自分の命と引き換えに町の人間の命を助けてもらえるように話をするのが普通だろう。
僕は、聖人とか、勇者とか言う人も多い。
だが、僕は僕だ。決して聖人でもないし、全てを許すのは無理だ。
普段は、なるべく気持ちを抑えるれるように話をする事を心がけていたら、さわやかとか、礼儀正しいと言われるようになっただけだ。
ライナは、この性格を本当の意味では知らないのだろうが、レイアは僕の事を全て知っている。
彼女が落ち込んでいる時に、僕が弱みに付け込むように彼女を落としたからだ。
そして、僕の醜い部分を含めて彼女は僕を好きになってくれた。
本当にいろいろあった。
オークは普通の兵士では倒せず、超回復力を甘くみていた自分に腹が立った。
新しい武器を作ってみようとしたけど、結局一本もできなかった。
オークを1体ずつ倒す方法に切り替えて、じっくり攻略していたら、王都の動乱だ。
自分の父親が相手なのに、ライナは気丈に僕について来てくれた。
動乱が終わった後も、彼女は涙すらみせずに僕の世話をしてくれる。
彼女は、本当に僕の妻だ。
貴族の名前ももらい、地位も手に入れた僕は、彼女たちに少しは恩返しができたと思っていた。
なのに、ふたたびこの討伐依頼だ。
今度は、ライナの兄。
今回も、ライナは何も言わずについて来てくれている。
しかも、ライナの姉であり、バルクルスの姉でもあるデラウも一緒だった。
彼女も、弟が相手というのに、まったく手加減する気は無いようだ。
僕も、気を引き締めていかないとダメだなと強く思っていた。
そんな中、数倍の戦力を持って攻め込み、大将をとらえて、あっさり帰れると思っていた僕は、目の前の突然の変化が一瞬理解できなかった。
突然、壁に登れる階段全てに、光輝く壁が現れたのだ。
しかも、じりじりとその壁は下に降りて行き、登っていた兵士達を落としていく。
「なんか、良く分からない事が起きてるみたいだ。ちょっと見て来るよ」
僕の言葉に、レイアはうなずく。
ライナも自分の杖を持って同意してくれた。
僕は、そのまま砦へ向けて歩き出す。
大体、砦までは、昔の感覚で、30分くらいか。
ちょうど砦に近づいた時。
それは起きた。
いきなり、無数の真っ黒い板が、はじけるように砦の入り口付近で飛び始めたのだ。
その板は、僕たちの兵士を簡単に真っ二つにしていく。
「助けてくれぇ!」
「ありえないだろぉ!」
そんな悲鳴が聞こえ続ける。
一度聞いてしまえば、二度と忘れる事も出来ない、人の絶望の声。
その声の後、首が、腕が、赤い花火のように血をまき散らしながら空中に飛んで行く。
あきらかに異常な数。
道すらみえないくらい詰めていた兵士達がすべて地面に倒れているのが分かる。
地面は、もともとその色だったかのように真っ赤に染まっている。
全ての兵士が倒れている中で、たった一人立っている人物がいた。
僕の知っている人物。
行方不明になっていたはずの人物。王都で、指名手配になっている人物。
エリート冒険者の道を進むはずだった彼が、小さな子を抱いて立っていた。
僕は、その光景で全てを理解してしまった。
この黒い板は、彼の仕業なのだ。
「シュンリンデンバーグっ!何をしたのかわかっているのかっ!」
僕は、叫びながら剣に手を添える。
彼は、まったく悪びれる事もなく、普通に答えた。
「大事な人を助けたかっただけだ」
その言葉に、僕の感情が爆発する。
お前が、殺したその兵士にも大切な人がいるんだぞ。
何人殺したと思っているんだ。
ふざけるな。
僕は感情のまま、剣を抜き、彼を斬りつける。
【予知】が、この攻撃は止められる事を教えてくれる。
ならば。
魔力球を彼の背中に発動させる。
学生時代よりも、さらに強く、早くなった魔力球だ。
拳より大きい魔力球から、一斉に攻撃をさせた時。
【予知】が僕の死を伝えて来た。
慌てて、後ろに飛び退る。
魔力球から放たれた魔法は、光る壁に全てとめられていた。
しかも、数個、僕の前を小さい黒い板が通り過ぎて行く。
あれは、危険だ。彼は危険だ。
冷静になった僕は、シュンをにらみつける。
何を言ったのか、自分でもよく覚えていない。
だが、レイアも同意してくれていた。
「これは、見逃せないよ」
その言葉を合図に、僕はもう一度彼に突撃する。
一撃は、今度は彼の槍に受け止められる。
おかしい。
彼はこんなに力が強いわけでも、槍裁きが早いわけでもなかったはずなのだが。
でも、関係ない。
今は、僕一人じゃない。
僕の妻たちも、十分強い。
僕がすかさず飛びのくと、ライナが魔法を発動してくれる。レイアも後ろに回り込んでいる。
信頼の証。【槍弓】と言われた、僕たち3人の連携攻撃。
しかし、彼は、あっさり氷の魔法を弾き飛ばし、レイアの攻撃も軽くかわし、短剣すら弾き飛ばす。
彼が笑ったと思った瞬間。
彼を見失い、【予知】が再び僕の死を伝えて来る。
慌てて、僕がその場を飛びのいた時、息も出来ない何かに押しつぶされるような、弾き飛ばされるような感覚を感じて意識が無くなっていた。
再び、僕が気が付いた時。
彼は、その場にまだ立っていた。
しかし、違和感を感じる。戦いが終わった後のような、諦めのような雰囲気が戦場を包んでいる。
少し話をした後で、撤退となってしまった。
結局最後まで僕は動けなくて、結局二人に支えられながら帰る事になってしまった。
けど、納得できない。
何百人も殺しておいて、平然としている彼を。
理解できない。
あれだけの力を持ちながら、反逆者と呼ばれるような人間をかくまうその姿勢が。
僕は、彼を問い詰める力もない事を思い知られてしまい、二人の妻に支えられながら、悔しくて泣いていたのだった。
あけましておめでとうございます。
今年もゆっくり書き進めていければと思っております。
さらに引き続きみなさんに読んでいただければ、本当にうれしい限りです。




