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マザーツリー ミュアの思い

翌朝。

目が覚めた俺たちは、そのままマザーツリーと呼ばれている大樹に向かう事になった。

俺も見るのは初めてなのだが、この大樹はエルフを作った木とも呼ばれている。

エルフの魂の戻る場所であり、エルフの母であり、エルフを見守る物だ。

昔のゲームなんかだと、世界樹とか呼ばれていたりするのだろうが、この世界には世界樹なんて呼び名な存在しない。

そして、ほぼ半日かけてエルフの里から歩いた先に、その大樹はあった。

エルフの結界の中心ともなっているその木は、雲の上まで伸びている本当の大樹であった。

遠く、木の天井あたりから、緩やかに光が広がっているのがうっすらと分かる。

エルフの結界の光である。

木の近くに寄って行くとめまいがしそうなくらい膨大な魔力を帯びているのが分かる。

「これが、マザーツリー」

俺は、首が痛くなりそうなくらい大きな木をじっと見上げる。

リュイも、俺の手を握ったまま、その木を見上げていた。


「すごいな」

何も言葉が思い浮かばず、ただ、それだけを呟く。

リュイが、ゆっくりとマザーツリーの足元により、その木の下で両手を組んでお祈りをしようとした時。

いきなり空間が、ゆがむような激しい揺れが起きた。

「地震か?」

俺が叫んだ時。


フルが、木々の間を飛んで来た。

「シュン様。まことにすみません。お願い出来る立場ではないのですが、助けていただけませんか?」

フルは俺の前で膝まずいたまま、動かない。


「何があったのですか?」

リュイがフルに声をかけると、元エルフの長が震えながら呟く。

「この、結界の中に、魔物が出てきたのです。こんな事は初めてなのですが、数が多く、倒しきれません。今は、私たちでなんとか抑えていられるのですが、シュン様なら、どんなに多くの敵でも倒せると思いまして」

震えながら、フルは頭を下げる。

思い出したのかも知れない。

俺が、彼の手足を切り落とした事を。

俺が答えらずにいると、リュイに手を引っ張られる。

「ミュアさんの眠る場所を、騒がしくはしたくないです。行きたいです」

リュイの言葉に。俺もうなづく。

お礼を言うフルの言葉を抑え、案内をしてもらうと。

エルフ達と対峙するように、魔物たちが大量にいた。

「50匹くらいか」

俺が呟くと、「もう少しいるかも知れません」

エルフの青年の一人が呟く。

ほぼ全員のエルフが、傷を負っているのが見える。

「まずは、回復か」

俺が呟いた時。魔物たちが一斉に叫び声を上げる。

「来るぞっ!」

エルフ達が傷だらけの体を押して、武器を構えようとしたとき。

「シュン様は回復をっ!」

そい言いながら、リュイが魔物の群れに突っ込んで行った。

「おいっ!」

俺は叫びながら、即座にビットを何個かリュイのフォローに回す。

とりあえず、回復が先か。

血を流しているエルフ達を見ながらそう判断する。

彼らは、接近戦にめっぽう弱い。

今湧いている敵は、オオカミなど一気に間合いを詰めて来る敵たちだ。

エルフの天敵ともいえるかも知れない。

そんな事を考えながら、俺は広範囲での回復を試みる。

一気に地面に巨大な緑色のサークルが現れ、エルフ全員の傷を癒し始める。


傷を治しきった俺が目を開けた時、そこはリュイが無双していた。

斧を振り回し、オオカミを、イノシシを斬り飛ばす。

魔物が打って来る、氷の魔法を魔物の死体で防ぎ、次の獲物を一撃で刈り取る。

魔法を使う魔物まで出て来ている事に驚く。

これは、この辺りには今までいなかった敵のはずだ。

しかし、そんな敵をいとも簡単に倒しきるリュイ。

「強い」

俺が呟くと、その声が聞こえたのか。

「当然なのですっ!シュン様の妻ですからっ!」

そんな声が聞こえてくる。

いや、リュイ、お前、そんな地獄耳だったか?

そんな時、リュイの前で光の壁が何かを受け止める。

「ひゃっ」

少し可愛い悲鳴を上げるリュイ。

敵の風魔法のようだった。

時々避けるのが難しい攻撃も来るのだが、その時は俺のビットが自動で全て防ぎきっていた。

しかし、魔物の数が多い。

一気にエルフ達を蹂躙しようとする魔物たち。

しかし、その魔物たちは走り出した数歩で見えない壁にぶつかり一歩も進めない。

俺の絶対結界が、相手を押しとどめる。

しかし、リュイが明らかに敵のど真ん中に突っ込んだ形になっていて、囲まれ始めている。

このままだと、リュイが危ない。

そう判断した俺は、エルフ達に指示を飛ばす。

「リュイを迎えに行く。エルフは全員、その場から一斉射っ!俺や彼女には絶対当たらんから気にするなっ!」

俺は、そう言い残し、リュイの方へ走る。

敵を、一部殲滅し絶対結界をずらし道を作り、作っていた結界の壁の向こう側へ出る。

リュイが、肩で息をしているのが見える。斧がすでにブレ始めている。

対多数は、数匹を相手にするのは違う。

その数十倍の精神と、体力を削るのだ。

俺はそんなリュイの腰を唐突に掴み、抱え上げる。

「ひぇ」

気の抜けた声を上げるリュイに、微笑むと「無茶するな」

と叱り、一気に槍を振るう。

自分の周りの魔物が全て半分に吹き飛んだのを確認し、リュイを下ろす。

「はいです」

リュイが笑うのを見て、俺は槍を構えなおす。

背中にリュイの小さな体を感じる。

「リュイ。いくぞっ!」

「はいっ!」

俺は、目の前の魔物を一気に刈り取る。

飛んでくる矢は絶対結界が全て防いでくれるから、俺にはまったく当たらない。

矢でひるんでいる魔物を狩るのは、本当に簡単だった。

リュイも、斧を振るうだけではなく、斧を投げる余裕が出ている。

斧投げは、長時間の隙が生まれるのだが、それも気にはならない。

無数に飛んでくる矢が、弱った魔物を狩りとり続ける。


最後と思われる魔物を俺が切り取った時、大きく羽ばたく一匹が居た。

魔物は空を飛び、エルフ達の数倍の速さの高速で飛んで行く。その方向は。

「マザーがっ!」

エルフ達の叫び声が聞こえる。

「リュイっ!」

俺は、気の抜けた顔をしていたリュイの腰を再び掴み、脇に抱える。

足に力を籠める。

【力加減】のスキルを無視する。

「しっかりつかまれ」

俺の言葉と同時に、俺は爆速で走り出す。

木も、枝も、地面も、絶対結界も、全て俺の足場だ。

まだ、まだだ。

まだ速く。


そして、俺は、マザーツリーの前にたどり着く。

リュイは、腰につかまったまま動かない。

目の前から、魔物が飛んでくるのを確認する。

「降ろしてです」

リュイがもがきながら呟く。

俺がリュイを地面に降ろすとすぐにリュイは斧を投げた。

真っ赤に燃える斧が、魔物を空中で真っ二つにしてリュイの元に戻って来た。

「あんな速さで走るなんて、酔ったらどうするですかっ。本当に酔いそうでしたしっ!」

力いっぱい、恨みがましい目でこちらを見るリュイ。

俺が、苦笑いを浮かべた時。


周りが一気に青く染まった。

澄み渡るような空のような青。

どこまでも広がる凪の海の穏やかな青。


俺たち二人が、驚いていると、心の中に声が響く。

『また、助けていただきました。ありがとうございます。マスター』

俺は、その声に。その気配に思わず涙が出る。

ミュア。

俺がマザーツリーに手を伸ばした時。

『私は、常にマスターとともにいます。大丈夫ですよ』

俺は、ふわっと頬を撫でられる。

ミュアはそのまま、空気に溶けるように消えて行く。

『リュイさんを大事にしてくださいね。私より大事にしないとダメですよ』

そんな声が聞こえた気がした。

リュイはと言うと、両手を組んで何かを祈っている。

『もちろんです。私が守るです』

そんな言葉が聞こえる。

そして。

リュイは顔を上げると、まぶしいくらいの笑顔を見せてくれる。

「ミュアさんとお話し出来て良かったです。これからも、よろしくお願いしますね。シュン様」


その笑顔を見ながら、俺が戸惑っている中で、エルフ達が焦った顔でこちらに走ってくるのが見えていた。

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