入学試験
泣きなくなるあだ名を付けられながら。とりあえず一日一日が過ぎて行き。
やっと来た。入学試験の日。
午前中は、筆記試験だったのだが。
これは、大っぴらのカンニングで難なくクリアできた。
データベースという、スマホを持って入れるテストほど、楽な物はない。
しかも、検索スピードは、現代のWi-Fiをはるかに超えるスピードだし。
文字が書けない人は、面接試験らしい。
ただね。その筆記試験がね。今の国王の名前とかはまだ、問題としてわかる。
安宿でもある、火喰い鳥。一泊が安いから、俺も宿をとってるけど、そこのオーナーの名前とか、試験に出るとは思わなかった。
なんだこれ?! 状態の問題が一杯ありすぎて、逆に頭を抱えるはめになってしまった。
一番笑ったのは、ゴブリンは、何オークか?と言った問題かもしれない。
種族が違うので、何オークにはなれません。
突っ込むつもりで、そんな回答を書いてやったのだが。
で、午後からの実技試験。
「ライナですっ!よろしくお願いしますっ!」
金髪の可愛い子がちょっこっと頭を下げて、自己紹介をしていた。
俺が入学を希望したのは、魔法学科だった。
とにかく、銃を始めとする、大量殺戮兵器は素材不足で、作れない。
大規模殲滅魔法もない事がデータベースを調べていて、絶望的な気分になるくらい理解した。
そんな詰んだ状況でも、なにか、魔法で大量に敵を殲滅する方法がないのか。
その手掛かりの一つでも見つけられたらいいなと思ったからだ。
剣をどんなに振り続けたって、1万匹だって倒せる気はまったくしなかった。
俺は他の受験生が魔法を使う様子を見ている。
今、ライナと言った可愛い子は、俺たちの目の前で必死に集中し、頭くらいの大きさの水の玉を出し、的にぶつけていた。
へぇ。無詠唱か。珍しい。
ただ、的には傷一つ入ってない。
まあ、13歳だし、実戦も経験ないだろうし。
俺は、皆はびっくりしている。
試験監督の先生も、拍手していた。
「ちょっと、あんたっ!」
何も反応も示さない俺に、突然声をかけてきた、女の子がいた。
「あんたよっ!あんたっ!何、ライナがスッゴい魔法を披露してあげたのに、すました顔して立ってるのよっ!ライナは天才なんだからねっ!」
振り向くと、赤い髪のいかにも気の強そうな女の子がこっちをにらんでいた。
あ~ ライナって言った子の前に、炎の矢を使って的に当てていた子だ。
なかなかの威力で、この子の魔法で、的が少し焦げてたな。
この子も十分天才だと思う。
「あんたね!声をかけてるんだから、返事くらいしなさいよっ!」
女の子が、赤い髪を逆立てるかのように、ぷりぷりと怒っている。
「次、シュンリンデンバーグ」
あ、呼ばれた。
まわりから、クスクスと笑い声が聞こえる。
まあなぁ。俺の名前は日本いた頃でいうなら、[佐藤左枝座江門]みたいな古臭く、ありそうで無い名前だからなぁ。
「ぷっ。あなた、変わった名前ね。ライナの魔法を見て驚かないんだから、どんな魔法を見せてくれるのかしら?」
笑いながら、煽ってくる。
はあ。面倒だけど、ちょっと本気を出してみようか。
定位置に立ち、的を見る。
的をイノシシに見立てる。
レイアさんの言葉を思い出す。
「足止めの意味を込めて、敵の足回りを先に崩すと楽よ」
うん。分かってる。
風魔法を使う。 もちろん無詠唱。
足の筋を切り取る最初の一撃。
あれ?柔らかすぎる。こんなもの?
戸惑いながら、一瞬で次の魔法の発動も終わる。
「早くしろっ」
試験官の先生が少し苛立った声を出す。
「終わりましたよ」
審査官の言葉にそう返し。的に向かって走れる態勢になっていた体を戻して、元の位置に戻る。
的は、一瞬で空中に吹き飛び、バラバラになっていた。
カイル達と戦ってた時によく使ってた魔法。
大体、うさぎとか、鳥とか、動きが速いやつばっかり相手にしてたから、手をつき出す動作すら、省かないと当てれない。
さらには、動きながらこの魔法の発動をするように言われてたし。
本当に、子供イジメだったと思う。
ただ、ありがたいとも思う。イノシシとかで、ちょっとでもぼーっとしていたら轢き殺されるような、とんでもない魔物ばっかり相手をしていたから。
今では、こんな感じで、連続魔法を打てるようになっていた。
イノシシに見立てて、足回りを一気に切り崩し。相手の態勢が崩れた所でするどい追撃。
頭部や、目を切り裂き相手の視界を奪う。
本当なら、ここから、カインさんの剣や、俺の槍が入る所なんだが。
的が柔らかすぎて、バラバラになってしまった。
僕は、何事もなく自分の列に戻る。
他の受験生が声もあげれず、しんとしてる中。
「あー、まとぉ~!」
と試験官の思い出したような叫びが試験会場に響いた。
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「はぁ」
俺は、試験結果を待ちながら、学校の中庭でため息をついていた。
年甲斐もなく、張り切ってしまった自覚はあった。
同年代というか、若い子にいいところを見せたくなった。
「80年近く生きてるのになぁ」
体は、13歳だし、心も13歳だけど。
自分の子供っぽさにうんざりする。
「シュンリンデンバーグさん」
そんな感じで、一人で落ち込んでいたら、誰かが顔を覗き込んでくる。
赤毛の子とライナと言っていた子だ。可愛い、金髪の髪がふわっと揺れるのが見える。
「何してるのよ」
赤毛の子が、怒ったような顔でこちらを見ている。
「いや、何もしてない。ただ、張り切り過ぎたな~と反省中」
俺が返事をすると、ぷっと吹き出す赤毛の子。
「それ、自分で言う?あなた、面白い人ね。私の名前は、レイアって言うの。こっちは、ライナ。よろしくね」
「まだ、受かったかどうか、分からないけどな。受かってたらよろしく」
その名前に。赤毛の少女に。一瞬、やさしい魔法使いを思い出してしまって、ドキッとしてしまう。自分でも分からないが、なぜか、ぶっきらぼうに返事を返していた。
「あら、あなたが落ちたら、今回誰も合格者はいないんじゃない?」
いたずらっぽい顔で、こっちを覗き混むレイア。
うん。胸はまだ、発育期だ。
「あなた、今、私の胸見たでしょ?見たよね!罰として、何か手伝ってよねっ」
思い切りレイアと言った、赤毛の少女に押されながら、俺はうなずくしかなかった。
女の子は、強いなぁと年寄りみたいな考えをしながら。
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試験終了後、合格審査の中、二人の中年が話しをしていた。
「シュンリンデンバーグですか?」
「はい。冒険者ギルドに登録がありました。冒険者付き添い として」
「ほう。冒険者付き添いは珍しくないですか?あの年で。あの魔法の威力と正確さは、異常です。どこのパーティーにいたのですか?」
「《炎の楔》だそうです」
「なるほど。《火炎の魔女》の申し子ですか」
頭を抱える、スキンヘッドの男性。
「どうやら、3人とかなりの時間、一緒にいたようでして、すでに、Dランクの魔物くらいなら、倒せる可能性があります。あの子がいる時に、ゴブリンアサシンもパーティー討伐しています。さすがは、元Bランクのトップパーティーと言ったところですか」
「Aランクの魔物の討伐実績ですか。しかし、そうなると、本当に扱いに困る子ですね。すでに、ここで学ぶ事以上を知っている可能性が高い。だからといって、国の規則で、冒険者ライセンスは卒業後の17歳にならないと上げれない」
大きなため息が出る。
「とりあえず、超特待生としての入学を認めましょう。あのロア君と言い、とんでもない子が来ますねぇ」
「あと、彼が無茶苦茶しないように、対策も考える必要がありますか」
「はい。何か考えないといけないでしょう。冒険者が生き残って、有名になれるのは、地を這う以下の確率ですからね。あの、ところで相談なのですが、胃薬は、経費で落ちますか?」
「そこは、諦めてください」
あっさり切り捨てられた返事にうなだれる、担任予定の教師であった。
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「合格おめでとう~!」
日も完全に落ちきった中、安宿、火喰い鳥の食堂で、レイアとライナにおごる羽目になってしまった。
まあ、レイアの胸を見たお詫びと、ライナの笑顔に負けてしまったせいなのだが。
「シュンリンデンバーグさんは、本当にすごいです!あんな魔法、お父様も見せてくれませんでした!」
興奮気味に話すライナ。
ライナは、魔法騎士の父親を持つ家の5女らしい。
長男、次男も魔法騎士見習いとして騎士団にいるらしく、まさに、魔法一家であった。
妹、弟もいるため、ライナは家を出るしか道がなかったらしい。
レイアは、冒険者の親を持ちながら、親が死んでしまい、ライナの家に引き取られたとの事だった。
この世界は基本子沢山で、大体、7、8人は兄弟がいる家庭が多い。
まあ、死んでしまう人数も凄まじいのだが。
多婚も認められていて、数名奥さんを持つ男は、格好いいと言われる。女性同士のトラブルを回避しながら、数多くの家族を養えると見られるのだ。
「しかし、超特待生て、なんなのよ。ロア先輩以外、2人目だって聞いたわよ」
「そうです!それもすごいです!こんなすごい人とお知り合いになれて、本当に嬉しいです!」
ひたすら、褒めちぎるライナと、ちょっと羨ましそうに見て来るレイア。
まさかの超特待生。
授業料免除と、授業への参加は自由、調べ物や移動に制限なし。
入学したら、寮生活なのだがそれも自由にしていい。と言われた。
だが、俺は授業料はきちんと払うし、授業も出るがただひとつ、お願いしたい事があると、頭をさげた。
比較的安全地域での、魔物討伐の許可。
これだけは譲れなかった。
ステータスアップは必須だし、武器作成スキルはすぐにでも欲しい。
EPは稼ぎまくらないと全く足りない。
そして、本当に、本当に粘り強い交渉で、冒険者疑似カードをもらったのだった。
本当なら、最高学年にしか配られないカードで、冒険者Fランクとして、狩りをする事が許される証明書だ。
本当に冒険者として、魔物と戦えるか。それを確認するための実習を行う時に初めて発行されるカード。
それを超超、特例処置でもらえる事になったのだ。
もちろん、素材の買い取りもギルドで、相場でやってもらえる。
ただ。誰か必ず連絡役を付き添わせる事。と条件をつけられた。
にやけた顔で、先生から
「試験結果トップクラスの二人と仲良くなってるみたいだし、ちょうどいいんじゃないかな?」
と言われた時にちょっと殺意が浮かんだ。
こいつ、〈2人を囲いたかったら、囲ってもいいんだよ?見逃すよ?あと、君がむちゃくちゃしないための首輪がわりにもなるしね〉
と、隠す様子もなく、態度で伝えて来やがった。
明らかに、子供扱いではなく、冒険者。というか、危険人物としての扱い。
上機嫌で、美味しいご飯にかぶりつく二人を見ながら、俺はこっそりため息を吐くのだった。
名前の一部を変更しました。7/21
10 24 少し書き換えました。
2023 2 加筆修正しました。