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エルフの森 エルフの里

今。俺たちは二人で圧倒される光の渦をゆっくりと見ていた。

本当にきれいだと思う。

「行くです」

何も考える事もなく、ただ光のカーテンを眺めていると、ふとリュイに声を掛けられる。

俺は空間収納から急いで、エルフの証と言われている玉を取り出そうと自分の空間収納に手を入れようとしたのだが。ふと光のカーテンに触れると、まるでその動きを待っていたかのように、光のカーテンが素早く、優雅に左右に分かれ入り口が開いた。

その入り口も、うっすらと光っているのだが、前に玉を使って入った時とは違い、完全に光が遮断されているわけではなく、うっすら残っている光すら左右に揺らめいていた。

「ああ。【エルフの長】の効果かな」

俺がそんな事を思っていると、リュイが俺の手を取り、歩き出す。

「早くです」

そんな事呟きながら、急いでいるリュイに引っ張られるように俺は、エルフの里の中に入っていった。

エルフの森の中は、ところどころ黒くなり、燃えている所が見えるものの、前来た時と変わらなかった。

ウサギのような小動物が草をはみ、鳥たちが空を飛び回る。

ふと、鳥が数匹、リュイの肩に乗り、歌を歌うようにさえずり、そのまま飛んで行く。

「すごく、綺麗です。すごく、穏やかな気持ちになるです」

リュイが、緩んだ顔で周りを見ている。

ところどころ焦げてしまっているのは、俺が無作為に飛ばした炎の切断結界が燃やしていった後だろう。

そんな事を考えながら、俺はゆっくりと回りを見る。

すると、道がうっすらと光っているように見えた。

その光は綺麗に奥まで伸びていた。

俺はその光の道に沿って歩き始める。

「あ、シュン様、待つです」

リュイが、俺のそばに立ち、並んで歩き始める。

何分、歩いたか。

いきなり、木々が揺れ始める。

「何ですか?敵が来たですか?」

心配そうに、斧を持ち直すリュイ。

しかし、俺は構える事もなく、その場にたた立っていた。

心配はいらない。

何故か、そう確信できる。これは、彼らが来た証拠であり、敵対する気がまったくないのが何故か分かっていた。

俺がリュイに声をかけようとしたとき、彼らは、木々から降りて来て、俺にむかい、膝をついていた。

「シュン様におかれましては、ご機嫌麗しく、ご壮健にて何よりです。里へのお帰り、ありがとうございます」

そう言って、頭を下げていたのは、エルフの里の元長であったフルだった。


何を言っていいのか、戸惑っていると、フルが顔だけ上げる。

「シュン様には、戸惑いもあるかもしれません。しかし、今の長はあなた様ですし、何より、知らぬ事とは言えマザーツリーの化身ともいえる、ミュア様を連れておられたのに、私たちの無知により、取返しの出来ない事態を起こしてしまった事は事実。なれば、あなた様の怒りも最もな事であったと、実感しているのです」

まるで、神を敬うかのように、俺に敬意を払う、フルとその従者たち。

ああ。これは。

「一度死した者、手足が消えた者。燃え尽きた者すら、復活する事が出来るあなたと、ミュア様に私たちがしてしまった事は、償う事も出来ぬ物。なれば、生まれ変わったこの命、全てミュア様をお守りしていたシュン様にお預けいたそうと。これは、エルフの里の総意なのです」


フルが、ここまで下手に出る理由は分かった。

エルフの里を滅ぼしたのは俺だが、その全てを生き返せたのはミュアだった。

だが、ミュアはあの時、すでに死んでいたのだから、生き返りのその力を使ったのは、俺だという事になってしまったのだろう。

あれは、ミュアが自分の全てを使って出来ない事をしてくれたのだが。


「道を案内させていただきます」

俺はフルに連れられて、歩き始める。

相変わらず、光の道は足元にある。

リュイが、俺と手を繋いで歩いているものの、足元が滑りそうになり、バランスを崩すと、フルが心配そうに声をかけて来る。

「フルだったっけ?エルフは、ハーフを嫌っているのではなかったのか?」

明らかにハーフのハーフだと分かるリュイを気遣う姿に、疑問すら湧いてしまい、俺が聞いて見ると、フルは苦笑いをしながら答えてくれた。

「もう、そのような偏見は捨てました。前の命とともに。この里の全てのエルフも一緒です。ミュア様が、マザーの全てを持っておられたのに、その事に気が付きもしなかった。

私たちは、自分の小さい価値観で何も見えなくなっていた事に気が付いてしまったのです」


だからこそ。

全ての偏見も、価値観も命と、前の里と一緒に捨て去り。

あるがまま、あるが通りに全てを受け入れるようにしたのだと言う。

「そうして過ごしていたら、忘れられていたマザーへの道を見つける事が出来たのです。そう。私たちエルフは森に生きる者。あるがまま、自然のまま。全てを受け入れて生きるだけの存在であったと、思い出す事が出来たからこそ、マザーが私たちを受け入れてくれたのだと、思っているのです」

フルはそう言いながら、森の中を歩いて行く。

しばらく歩いていると、開けたすす黒くなった平地に多くの家が建っているのが見えた。

「私たちは、自分たちの罪を忘れないため、地に住まいを作る事にしました。高い場所に作った住まいからでは、地を這う生き物を忘れてしまう。飛ぶ生き物も、地を這う生き物もすべて私たちよりも、罪の無い者である事を忘れないように。ようこそ、生まれ変わったエルフの里へ。シュン様」

フルの言葉に、後光すら見える。

そのうち、教えでも説き始めるんじゃなかろうか。


「ミュアさんの死んだ場所はどこですか?」

リュイが尋ねると、フルは困った顔をする。

「私たちも知りたいのですが、シュン様の怒りの制裁の中で分からなくなってしまったのです。今は、このへんだったのではないかと思われる所に、マザーツリーの分木を植えています」


フルがそう言いながら、植えたという分木の場所に案内する。

そこには、小さい木がささやかに育っている所であった。

「ミュア様の木という事で、ミュミアの木と名付けております。この木を見る事で、自分たちのおごりを正すべきであると、日々、この心の中にある木々に刻むのです」


フルはそう言って、穏やかな顔をする。

ふと見れば、ほぼエルフの里の全てのエルフが俺の周りに集まり、膝をついていた。

小さい子供達がこちらをじっと見ているだけか。

「おかぁさん、青い髪の人がいる」

と子供が言った時はドキッとしたのだが。

「ここでは挨拶しずらいですね。どうしましょうか?」

リュイが居心地悪そうにしているのを感じた俺は、フルを見る。

「マザーツリーに行かれるなら、明日案内いたします。ここからですと、かなり時間がかかりますので、今日はゆっくりして行かれてください」

フルがこちらの視線に気が付き、家へ案内してくれた。

「こちらの家は、まだ使われておりません。どうぞご自由にお使いください」

フルはそう言い残して立ち去って行く。


データベースさんも、警告は一切してこない。

俺は、安心してベッドに横になる。

木の臭いや草の臭いが昔の日本家屋の臭いを思い出し、落ち着く感じがする。

ベッドで大きくなっていると、リュイが俺に覆いかぶさって来た。

本人の体が小さいから、そんなに気にはならない。

「シュン様、少し疲れましたです」

リュイはそう言いながら、俺の上で寝息を立て始める。


俺は、そんなリュイの頭を撫でる。

「ん。。」

小さく声を上げるリュイの寝顔を見ながら、俺はうっすらと笑う。

ミュアを忘れたわけじゃない。

ミュアと同じくらい大事な人が出来るとは思わなかっただけだ。


ただ、ミュアの時と違うのは、この人が大事な人だと自分が分かっている事かもしれない。

空気のように、ただ傍にいてくれるだけでいい人など、そうそういるものじゃない。


俺は、穏やかな気持ちのまま眠りにつくのだった。









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