幕間 リュイの思い
「で、誰ですか?その人は?」
本当に、この人は。
私は、西の砦と言われる場所の部屋の一室で、私の大好きな人を問い詰めていた。
キンカに住んで、本当に楽しかった。
彼といや、旦那と一緒にいられる事がこんなに楽しいのは本当にうれしい事だった。
彼は、なんだかんだで、私の肉のスープと、唐揚げを本当にうれしそうに食べてくれる。
その顔を見ているだけで幸せだった。
一緒に町を歩き、買い物をし、日々を楽しめた。
旦那が旅に出る事になれば、普通について行った。
けど今回の遠出で一番つらかったのは、馬だった。
乗っているだけで、視線がふらふらしてしまい、頭が痛くなる。
最後には、気分が本当に悪くなり何度もシュン様の胸で吐いてしまった。
それでも、彼はまったく気にしてない様子で私を介抱してくれる。
キスもしてくれる。
本当にうれしい。愛されているという実感に、震えそうになる。
ある日、ふと彼の誕生日を思い出し、私は旦那におめでとうと伝える事にした。
あっさり、キスだけされて寝かしつかされたのは、誤算だったけど。
本当に旦那はやさしい。
常に私を気遣ってくれる。
守ってくれる。
けど、私はドワーフ。
守る専門。誰かを守る種族。
しかし、そんな昔からの考えすら吹き飛ばしてくれるほど、旦那の言葉の一つ一つがうれしくて仕方がない。
馬酔いで、最悪の旅だけど、それでもついて来て良かったと思えた。
彼のそばにいられることが本当にうれしかった。
森の中では、じめじめして、居心地が悪くて、あまり旦那に甘える事が出来なかったけど、襲ってくる魔物に八つ当たりして気を紛らわしていた。
それくらいこの旅も楽しんでいたし、うれしかったのに。
西の砦で、出迎えてくれた一人の男の言葉で全ての気持ちが吹き飛んでしまった。
「ミュアさんは?後から来るっすか?二人相手にするなら、声には注意して欲しいっす」
その言葉に私の思考は吹き飛んだ。
昔の女?
私より年下の女と?
私はあなただけなのに?
私は、怒りとも悲しみともつかない感情を、旦那にぶつける。
おろおろしてる旦那を見るのも初めてだったけど、そんな事も私の気持ちを逆なでする。
なぜなら、その子が彼にとって本当に大切な人である事が分かってしまったから。
しっかり問い詰める。
一体どんな女なのか。
私より可愛いのか。
自分を可愛いと思った事もないのに、なぜかそんな事までが気になる。
そして、旦那からやっとその子の話を聞く事が出来た。
聞いてしまい、切なくなってしまった。
絶対不幸というスキルのために、生きているだけで周りに不幸をまき散らす少女。
絶望しかなかっただろう少女は、旦那に拾われた。
私は世界に絶望した経験もないし、人から本当に捨てられた事もないから彼女の気持ちは分からないけど、旦那と一緒にいる今なら、彼女の気持ちが本当に手に取るように分かる。
旦那と一緒にいれば、本当に大事にしてくれる。
自分が自分でいられる気がする。
全ての不幸も、絶望もはねのけてくれる気がする。
でも、上手く行かなくて、彼はすぐに落ち込み、そんな彼を助けたくなる。
生きる理由と、生きる意味を教えてくれる。
旦那はそんな人だ。
だからこそ。
「助けられなかったんだ」
旦那の言葉に、私は泣きそうになる。
違う。
そう言ってあげたくなる。けど旦那はそれでは納得出来ない。
彼は強いから。
誰よりも強いから。守る側だから。
同じ守る種族として生まれた私にも、守れなかった事が彼自身の中で納得できないのが理解できる。
旦那の気持ちも分かるけど、私だから。旦那の妻だから分かる事もある。
ミュアさんは、そんな旦那を支えてくれた人だ。全てをささげてくれた人だ。
旦那は、心の底から支えてあげたくなる人である。
自分が自分でいられ、大事にしてくれるからこそ。彼に全てを預けたいと思えるのだ。
ミュアさんは、最初の妻なんだと思える。
その心も、体も全てを持って彼を支えてくれたからこそ、彼はここにいる事が出来ているのだろう。
きっと、泣いて、落ち込んで、けど彼女が支えてくれたからこそ。生きて、私に出会ってくれたのだ。
本当に感謝しかない。
その上で、最後に、ミュアさんは自分が殺してしまった、エルフの蘇生をして消えて行ったと聞いた時。
本当に彼女には敵わないと思った。
私には世界の法則まで捻じ曲げる力はない。
ましてや、蘇生なんて実現できる気すらしない。
なのに、ミュアさんは、行ってしまった。たった一人の愛する人のために。
一人の愛する人の心を救うために。
だから私は全てを聞いて、うなだれる旦那に一言たたきつけるように言葉を放つ。
「エルフの森は近いですか?近いならすぐ行くです。これは決定です」
旦那の妻として、ミュアさんに会いにいかなければならない。
お礼を言うために。
彼を救ってくれて、彼を助けてくれて、彼を支えてくれてありがとうございましたと。
そして、その役目を引き継がせてくださいと、お願いをするために。




