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優しくない世界に転生した。精一杯生きてやる。~創世記の英雄は転生者~  作者: こげら
第2章 フェーロン共和国編 あらたな冒険
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限界突破と報酬

「シュン!もういいっ」

私は、地面に降り立ち、震えるほどの地獄を作り出している少年を見て、思わず叫んでいた。


彼は、まるでシャワーでも浴びたかの如く汗だくになりながら、自分の槍にもたれかかるようになりながら、魔法を使っていた。

無防備。そんな言葉すら思い浮かばない。

これは、命を削る行為だ。

両目すら開いていないのが分かる。

魔力が、光となり目に見える形で彼からあふれ出している。

この現象を私は知っている。

私もこの状態になっていた事がある。

全てに絶望し、自分の命すらいらないと思いながら、魔物を作り続けていたあの頃。

ファイの母親でもある彼女に、思いっきり頬を叩かれなければ、私はあの時に魔力を使い果たして死んでしまっただろう。

全てをくだらない事につぎ込むほどの覚悟と、絶望。

普通なら、リミットがかかるはずなのに、精神力で、その上を行ってしまう現象。

魔力限界突破(オーバーフロー)

この状態になってしまうと、周りの声すら聞こえなくなる。

私は、覚悟を決めると、彼のみぞおちに力いっぱいこぶしを繰り出した。

鈍い音を口から吐き出し、彼はその場に崩れ落ちる。

よかった。彼が普段まとっている結界は、発動していなかったようだ。

支えた彼の体重を感じながら、私は自分の部隊に叫ぶ。

「シュンが、整えてくれた好機だっ!全軍突撃っ!アンデットを殲滅せよっ!

アンデットマスターの生死は問わんっ!必ず連れて来いっ!」

私の言葉に、兵士達は茫然としていた顔を引き締め、大声を上げ都市ドウタツに突撃していく。

私は、その姿を見ながら、私にもたれかかるシュンに呟く。

「一人で出来る事など、知れているのですよ。私が手伝うと言っているのです。適当な所でもたれかかってくださいよ。盟友」

汗だくの彼を見ながら、私は笑う。

この盟友は、私の寿命をエルフなみにしてくれるだろう。

心配しかさせてくれそうにないけどな。



俺は、必死に魔法を維持する。

これだけの大量のビットを運用するのは初めてだ。

何百のビットから送られてくる情報を処理して、魔力をこめ魔法を放つ。

データベース、ビットシステムの補佐があっても気が狂いそうになる。

魔力はすぐに枯渇する。

すぐに10本目のポーションを飲み干す。

吐き気がすごい。

もう、感覚すらおぼつかない。

魔力を維持するのだけで精一杯になりそうになる。

槍を杖のように使いながら俺は地獄を作る。

子供の恰好のままのゾンビが焼き払われる光景が見える。

気にしていたら、ダメだ。

そう自分に言い聞かせる。

ミュアの光すら感じられなくなる。

精神すら擦り切れそうになった時、誰かが叫んでいるのが聞こえた。

けど、どうにもならない。

今更、引き返せない。

トランス状態のようになってしまった自分を元に戻す方法が分からない。

頭の片隅で鈍くそんな事を考えていた時に、俺は腹を殴られた。

ステータスオーバーの俺が、どうにかなる攻撃では無かったのに。

自分の全てを魔力維持に使い、へとへとになっていた俺は、そのまま気を失ってしまったのだった。



「親父」

ファイが、倒れかかったシュンを受け取ってくれる。

「父親と呼んでくれるのか?ファイ」

「嫌だがな。心から嫌だがな。だが、あんたと、この人を見ていたら、あんたを父親と呼んでもいい気がしてきた」

私は、思わず涙が出そうになるのをこらえる。

まだ、大戦の指揮中だから。

ファイは、シュンを支えながらシュンが持っていたポーションを取ると、少し舐めてみる。

「ぶはっ!なんだよこれ、泥かよっ!こんなの飲んでるのかよっ!」

と叫ぶファイ。

私も、少し飲んでみたが、これは、人が飲む物じゃない。

「はぁ。あんたら、本当に【人】なのかよ」

息子にまで言われたらおしまいだな。

私は笑いながら、ファイに答える。

「このまま、さっさと殲滅してキンカに帰るぞ。シュンは少し寝かせてやってくれ。あと、お前も化け物の子だからな。覚悟はしておけよ」

「ここまで人間離れが出来る気はしねぇよ。安心しな」

ファイは憎まれ口をたたく。

私は心で笑いながら、気を引き締める。

もう、半分以上が壊滅しているドウタツの殲滅戦は早くも終わりに近づいている。

戦争終了後に、シュンに対してお礼として、何を返したらいいのか本気で考えながら私は、死霊都市内の殲滅を自分の兵士に伝えるのだった。




「ん」

俺は、体を起こす。

ふと周りを見ると知らない部屋だった。

ベッドに寝かされていたらしい。

「ここは?」

自分では呟いたつもりだったが、錆びた声しか出ず、思わずむせる。

その時、背中を小さな手が支えてくれ、水を差し出してくれた。

その水を一気飲みして、ため息をひとつつくと、ふと目の前のピンクの髪の少女を見る。

本当に、美人である。

エルフの整った顔なのに、身長にあいまって、顔もびっくりするくらい小さい。

その小さい顔の少女は、本当に心配そうに俺を見ている。

「ほんとうに、私の相石は、心配ばかりかけるのです」

ためいきをつきながら、少女は、そう。リュイは俺にもたれかかる。

力はまだ入らないのに、俺はリュイを支える事が出来た。

リュイが力を抜いているせいもあるし、こちらを気遣っているのも分かる。

俺は、リュイの頭を撫でてやる。

ボッと赤くなるリュイ。

しかし、彼女は俺から離れない。

「いきなりいなくなるから、追いかける所だったのです」

彼女が小さく呟いた時。

扉が開いて、50才にすら見える老人が入って来た。

「気がついて良かったよ。私の盟友は、本当に無茶をする」

ドンキは笑いながら、俺たちを見ていた。

「彼女は、私から君への報酬だよ。ドワーフの大穴から連れてくるのは大変だったんだからね」

ドンキは、リュイを見ながら大げさにため息をつく。

「しかし、向こうですでに結婚済とか、びっくりしたよ。教えてくれたら、一緒に来てもらったのに」

「そんな時間があったか?」

「はは。そう言われれば、無かったかもしれないね」

ドンキは悪びれもせずに笑う。

「まあ、元気そうで何よりだよ。それと、ここはキンカにある君の家だから自由に使ってもらっていいからね。ドウタツの100万討伐の報酬だよ。子供が出来ても十分な広さがあるから気にしないで大丈夫だからね」

ドンキは、手を振りながら部屋を出ていく。

その言葉に、さらに顔を赤くしてしまうリュイ。

ドンキが居なくなったのを確認した彼女は、俺の顔を見る。

「ただいまなのです」

真っ赤な顔をしながらも、俺を見て彼女は笑っていたのだった。



新婚の部屋にいると、にやけて仕方ないな。

私は、笑いを抑えきれないまま自分の屋敷に帰る。

帰りながら、キンカに帰るまでの事を思い出す。

あの後、シュンが倒れた後、都市の半分以上の敵が焼却済みで、残っていたアンデットは戦う事すらしなくなっていた為、いとも簡単にドウタツの殲滅を終えた私たちの軍は、キンカに帰る事にしたのだったのだが。

一番考えたのは、シュン君への報酬だった。

彼一人で、100万以上のアンデットを倒してしまったのだ。

普通の報酬では釣り合わない。

彼に、女性をあてがう事も考えたのだが、彼自身が嫌がるのは目に見えていた。

だが、女性が嫌いなわけではないだろう。

それと、彼を止めてくれる人も探さないといけない。

今回のように、暴走気味になった場合、彼を止めてくれる人がいなければ彼は自滅する可能性が高い。

私が常に彼と一緒に行動するわけにはいかないし、ファイを付き添わせるわけにもいかない。

息子は、キンカの諜報部員なのだから。


そんな事をぶつぶつ言いながら考え事をしていたら、そのファイが、とんでもない話を持ち出してきた。

彼をドワーフの大穴で見つけた時、一緒に女性がいたと言う。

しかも、どう見ても恋人のようだったと言う。

その話を聞いた瞬間、その子を迎えに行くようにファイに伝えていた。

「やっぱりクソ親父だ」

などと悪態をついてはいたが、ファイはすぐに飛び立ってくれた。

まぁ、今回の功績に対しての報酬だ。

と伝えたのが一番大きかったのかも知れないが。

彼女の事は、ダザから聞いた事がある。

ハーフのハーフ。ドワーフの中で、神の子と言われている子だ。

子と言ってももう20になるため、人間から見れば、十分な大人なのだが、ドワーフの寿命は人間の3倍近く、200歳近いため、ドワーフの中では、まだ子供になる。

それと、ドワーフの特徴として、知られていない事なのだが、種族特性をすべて受け継ぐという性質がある。

彼女は、エルフの魔力も受けついでいるはずなのに、その全てが力に行っていると聞いた事がある。

まあ。ゲームで言う所の、力のステータスリミッターが外れた状態なのだろう。

彼女なら、シュンの盾となり、シュンを止めてくれるはずだ。

荒野で、蟻の大群に襲われている彼女を拾って帰ってきたファイは、しばらく寝込んでしまったので、息子には、悪い事をしたとは思っている。


心配事もある。

あの事件を起こしたであろう、転生者か、転移者の死体はあったのだが、どうもおかしい死に方だった。

気が狂って死んだ可能性もあるのだが、なんだかすっきりしない。

だが、そんな事を忘れてしまうほど、微笑ましく見てしまった、二人が仲良くしている姿を思い出し、私はふたたび顔が緩むのをおさえられなかった。

あの幸せそうに笑っていた二人の姿。その光景こそが、私が心から望む物なのだから。


すみません、最後の方をこっそり修正しました。

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