結婚式
「大地に根付き、大地とともに生きる同士よ。岩よりも強き絆にて、鉄より強く心あれ。大地の闇は全てを癒すが、闇より生まれる物は無い。今、大地と、岩と、鍛冶の導きにて出合った二人が、さらなるおおきな大地となり、命を育まん」
俺は、何故かリュイと結婚する事になり、リュイの横で、ドワーフの口上を聞いていた。
リュイは、ドワーフの黒装束。
俺は、真っ赤な衣装であった。
黒は、ドワーフにおいて、大地の、洞窟の色であり、全てを癒し包み込み抱く物。
赤は、火であり、熱であり、新たな物を生み出す力であり、全てを変える物。
「炎に包まれ、闇は照らされ、あらたなる命となる。二人に、大いなる神々の力の加護があらん事を」
ドワーフの結婚式は、簡素な物と聞いていたのだが、思ったよりも立派であった。
数名の立ち合いの元、タチュと、口上を述べている神父のようなドワーフが二人並び、こちらを見つめている。
リュイは、真っ赤な顔をしており、黒装束とは真逆になっていた。
ただ、やっぱり可愛い。
思わず、このまま連れ去りたくなる可愛さである。
とにかく、美人という意味で、可愛い。
本物のロリコンじゃないからな。俺は。
「二人の命の証をこれに。
そう神父に言われる。
俺は、リュイと二人で、自身の武器を渡す。
俺は、竜の槍。リュイは、両刃のグレートアクス。
その二本を、タチュが受け取る。
本当なら、この後父親がタチュがその二本を一度一つの塊に戻し、2つの武器を作って戻すのだが。
この結婚式の前に言われたのだ。
「俺には、この武器の調整は出来ても、この槍だけはどうやっも潰す事は出来ん。だが、ドワーフの掟として、2つの武器を合わせ、再び2つ分ける事は婚姻の儀には必要な儀式なのだ。本来なら、新郎に頼む事ではないのだが、儂では手に余る。本当にすまんが手伝ってくれんか?」
と言われてしまっていた。
まあ、俺の槍は、ワイバーンを素材とした槍だし、強度も桁違いである。
俺の力は、3000超えなのに、力いっぱい振り回しても折れないのだから、その強さは推して知るべきだと思う。
ちなみに、普通は、レベル99でも、ステータスは、999が最高であり、普通は、レベル99でも、そこまで伸びない。
良くて950くらいである。
そんな世界で、ほぼ全てのステータスが1000を軽く超えている俺のEPシステムの異常さが分かるというものだ。
ただ、【力加減】というスキルを取らないと、片手で人の頭くらい握り潰してしまえる力である事には変わりないので、自分でも怖くなる事がある。
スキル【力加減】は、いつの間にか追加されていたスキルで、全てのステータスを普段の生活では抑えてくれる。
つまり、街中で走って暴走したり、壁を殴り壊したりしないで済むスキルなのだ。
それはさておき、化け物と言われる人間の3倍以上の力で振り回しても折れない武器だ。
普通の方法で潰せる訳も、無い。
そんな事を考えていると、タチュが二つの武器を持ち、自分の工房へと入って行く。
「これにて、二人の絆の儀は終わりとする。さぁ、飲め、飲め、若い二人の門出に飲むのだっ!」
神父役をしていたドワーフは、突然どこからともなく、ジョッキを取り出し、飲み始める。
立ち合いのドワーフたちもおのおの酒を取り出して飲み始める。
俺は、さらに他のドワーフたちまで巻き込んで始まりだした大宴会をうまく避け、タチュの工房へと避難するのだった。
俺が、タチュの工房に入ると、タチュは酒を飲みながら待っていた。
「おお。来てくれたか。じゃぁ、始めるぞ」
まぁ、だろうね。と思いつつ俺はうなづくと、槍と、斧を改めて見る。
俺の武器とリュイの斧。
ドワーフの習慣で、生まれた時に武器は作られ、成長に合わせて大きくして行くらしい。
武器は、その子を見て感覚で作るらしいのだが。
俺は、ゆっくりとリュイの斧を鉱物の塊とし、ワイバーンの骨の圧縮をさらに試みて穂先部分と、斧の部分を削っていく。
骨を塊に出来ないか、試して見るが、不可能である事に気が付き、ならば、鉱石に骨を入れ込む事にする。
しかし、これがさらに難しかった。
鉄の中に入れ込もうとするだけで、こんなに難易度があがるのか?
俺は、さらに集中する。
リュイが、入って来た事にもまったく気が付かなかった。
鉱物を右に入れたら左が、頭が、尻が。崩れそうになるのを抑え、形を整え強度を保ち。
魔力を湯水のように流し込みながら、混じる場所を探す。
それは、天井から針に糸を通そうとするかのような途方もない作業で、あきらめたくなる。
しばらく、いろいろ試していた時、突然カチッと何かがはまるような感覚があった。
斧から、鉄塊に変えていた塊が虹色に輝く何かに代わっている。
データベースで見てみると、目の前の素材が、一つになっており、鮮やかな緑と、赤黒い色が混じった石に代わっていた。
説明には、竜に匹敵する硬度を持つ、最強といわれる鉱石。
そう書かれていた。
これだ。
俺は、その竜鉱石を、ゆっくりと加工していく。
加工が凄まじくしやすい。今までの骨の加工より圧倒的にやりやすい。
一気に、竜鉱石で俺の槍斧と、リュイの大斧を作っていく。
竜鉱石が出来てからは、あっと言う間に仕事が終わっていた。
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お義父さんからは、工房へは入るなと言われていたのだけど、私の好きな人が入って行くのが見えて私もこっそり工房へ入って行く。
婚姻して、ペアになったら旦那の鍛冶の仕事を見るのも、許されるから。
わくわくしながら入って行くと、そこにシュン様がいた。
凄まじく真剣な顔で、私の斧と、自分の槍を並べ、手をかざしながら何かをやっている。
お義父さんは何をしているのかわかっているのか、じっとその手を見ていた。
本当にかっこいいと思う。
真剣な顔をしているシュン様は、本当に切り取っておきたくなる。
いつも、いつも。
シュン様の世話をしながら、顔が赤くなるのが止められなくなる。
旦那になってくれる。それだけで、十分だったのに、私はすでにシュン様から離れたくなくなっていた。
一目ぼれ。初めて会った時から、体がしびれるような、「ああこの人だ」と言う感覚があった。
一緒にいて、楽しい。そばにいて、落ち着く。
ドワーフの里にいて、家族より一緒にいて落ち着く人がいるなんて、思いもしなかった。
【かわいい】と言われた時、嬉しさとびっくりしたのといろいろな思いがあふれて義父に泣いて報告してしまった。
今、シュン様の手が光り、何か別の塊がシュン様の手の先で出来ていた。
「まさか、神の鉱石か、、」
お義父さんが呟いている。
そのまま、彼は、二つの武器を作り上げる。
前よりも光沢のある、緑色に輝く槍斧
緑と、黒に輝く大斧。
二つの武器を見て、笑顔になるシュン様を見て、私はさらに彼を好きになる。
うん。決めた。
彼が逃げようとも、絶対おいかけて、彼が死なないように私が守るんだ。
私はドワーフ。
岩よりも頑丈で、鉱石よりも鋭い、盾なのだから。
彼が、私を見つけて、そっと大斧を渡してくれる。
その顔を見ながら、私は、心に誓う。
【この人を守ってみせる】
10 21 少し中間あたりを書き換えました。




