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優しくない世界に転生した。精一杯生きてやる。~創世記の英雄は転生者~  作者: こげら
第2章 フェーロン共和国編 あらたな冒険
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リュイ2

「シュン様、ごはんです」

リュイが、少し顔をあからめながらスープを出してくれる。

豆と、肉の入ったスープだった。

一口食べ。

「美味しい」

俺は、心からそう呟く。塩加減、肉の出汁の取り方。どれをとってもほぼ完ぺきだった。

その中に、リュイの人柄なのか、甘目に煮た豆が入っているのが、さらにおいしさを極たたせている。

俺が、無心に食べていると、タチュが入って来た。

「を。すまんな。二人が一緒とは思わんかった。シュン殿。少し悪いのだが、後で落ち着いたら私の火入れ場に来てくれないか?」

そう言いながら、タチュは、残りのスープを取ろうとして、リュイに手をはたかれていた。

「いいですよ」

俺が返事をすると、タチュは目を細めながら。

「リュイ、祭りはあと4日後から開始だ。祝い日は初日にするからな」

真っ赤になるリュイを見つめ、出て行く。

「リュイ、俺が相手で本当にいいのか?」

俺がつい、聞いてみると。

「怒りますよ。どうでもいい相手を、2日も介抱なんかしません。それに、(本当に一目ぼれでしたしぃ)」

最後の、それにの後はよく聞き取れなかったけど、下を向いて赤くなっているリュイは本当に可愛い。

ミュアにしていたように、思わず撫でたくなる。

「それに?」

俺が意地悪く聞き返すと。

「変顔のドワーフに、いきなり求婚する変わり者に言われたくはありませんっ!」

突然、リュイは叫び、俺に向かって布が飛んで来る。

俺が飛んで来た布を避けると、リュイは顔を真っ赤にしたまま、その場で笑っていた。

俺も、思わず笑う。


スープは、俺が今まで食べた中で一番おいしかった。




「待っておったぞ」

嬉しそうに俺を迎えてくれるタチュ。

しばらく一緒にいただけだったが、もうその表情が分かるようになっていた。

笑いながら、お酒を出してくれるのだが。

俺がためらっていると、「これは、本当に軽い酒だ。もう、義娘には怒られたくないからな」

と大笑いする。俺はタチュの言う、軽い酒を一気に飲んだ。

その姿を笑いながらみた後、満足したようにうなずいたタチュは、一本の剣を持っていた。

「さて、来てもらったのはな。義娘の事じゃなくてな。この、剣の作り方についてだ」

タチュは、アイシクルソードを持ち出して来る。

「お前が義娘と、帰らなくともこの剣は作ってやる。これは、ドワーフとしての誇りに誓っていい」

タチュは、真剣な顔で俺を見る。

俺は、一つうなずくと、空間収納から、オオカミの骨を取り出す。

ゆっくり、じっくりと骨を圧縮し、剣とし鋭さを増していかせ、溝を掘るように魔力の流れを作る。柄を作り、持ち手を布などで固定し、一本の武器とする。

「魔力を、吸収、固定させる魔力石をつけるんだけど、さすがにこれは在庫が無いから、作れない」

俺がそう言いながら、できた武器を渡す。

その武器を渡された時、タチュは、一瞬怪訝(けげん)な顔をする。

「なるほど。魔物の骨を圧縮する技術。魔力で全て行うのか。なかなか見事だ。溝も言う事ない」

そう言いながら、剣を見回すように眺める。

「鉱石で作るのは、無理なのか?」

「たぶん、強度が足りない。人相手なら大丈夫だろうが、魔物は鉱石を食って生きてる奴もいる。そんな魔物も切れなければ意味がない」

俺が言うと、タチュはうなずく。

「確かにの。この辺りでいうと、鎧虫かの。あれは、アダマンタイトの武器ですらへし折りよる」

「魔物は、魔物の攻撃で折れたりする事はありません。引きちぎられたり、切られたりする事はありますが、それは強度の違いでしょう」

俺が言うとタチュは、笑う。

「確かにの。鉱石だけで武器を作る必要は無く、魔物は魔物が倒す。当然の考えなのに、誰も考えなかった事だ」

タチュは、感心したように武器を再び見る。

「うむ。儂には、ここまで魔物の骨を圧縮する技術は無いが。鉱石と合わせる事で、本当に楽しい素材が作れそうじゃ。作れるじゃろうな。この武器は」

タチュは、本当に楽しそう話ながら、しかし、険しい顔つきでいつまでも、武器を見ていた。



「リュイ」

タチュは、自分の義娘を呼ぶ。

「何?お義父さん?」

最近、おしゃれに気を遣うようになったのか、髪を念入りに整えている義娘を見ながら、タチュは少し寂しさを覚える。

「今日、シュンに武器を打ってもらったのだがな」

リュイは、髪を整える手を止めて、義父を見る。

「いい腕だ。武器職人として、やっていっても、一級の職人になれるだろう。数本打っただけで、一年は食べていける値段の物をあっと言う間に作れる」

滅多に出ないタチュの、誉め言葉に、自分の事のようにうれしくなるリュイ。

「しかしな」

タチュは、下を見たまま、話そうか、悩んだ末。

「シュンは、もしかしたら、お前を助けた後、ふらっといなくなるかもしれん」

リュイが、驚いた顔をする。

「今日、打ってもらった武器にはな、寂しさ、悲しさ、自分への罪悪感、虚無感(きょむかん)が詰まっておった。たぶん、大事な人を守れなかったのだろう。そして、それを引きずっておる」

ため息を吐き、一呼吸入れるタチュ。

「そう言う事はよくある事だ。この前も、何か大きな地のうねりがあった。何か大きな事が起きたのだろう。だが、シュンは、その全てを背負ってしまっておる」

タチュは、自分の娘をもう一度見る。

「お前は、誰が何を言おうが、儂の娘じゃ。お前を預かったその日からの。だが、あの者がいいやつと信じて、お前を託す事にした。だがな、もしシュンがお前をいらないというのなら、帰っ」

「お父さま、私は物でも、ウサギでもありません。私は私の意思でシュン様のそばにいると決めたのです。お父様の後押しは、本当にうれしかったですけど、結局は私が決めた事です。

しかも、間違っているのは、お父様の方です。私は、シュン様を守ると決めたのですから。あの、泣き虫な、弱いお方を守ります。ドワーフの誓い、【地となり、全てを癒す母となれ。岩となり、全てを守る盾となれ】です」

「あいつが逃げてもか?」

「逃がしません」

はぁ。

タチュはため息を吐く。

結婚をシュンにお願いし、リュイにも話をもちかけたのは、自分であったが。

一度惚れた相手なら、どんな事をしてでも手に入れるのは、この子の母ゆずりかもしれん。

人のように、屈託なく笑い、本当に強かった女性。自分が昔に好きになったドワーフを思い出し、思わず苦笑いが出るタチュ。

「ああ。でも、私がいなくなったら、お父様の世話が出来る人がいなくなりますね。どうしましょうか?」

リュイが意地悪い顔をするのを見て、タチュは激怒する。

「いらんわっ!いつまでも、お前の世話になり続けたら、酒も思うように飲めんようになるわ」

リュイは、そんな父親の全てを知っているかのように笑っていたのだった。



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