盟約の冒険者
「どうも。少しは気を休めたり、紛らわしてくる事が出来たかな?」
ドンキが目の前で、にこやかに笑っているが、俺はふてくされていた。
やっと、墓を建てて、弔いをしていた所だったのに。
俺は、魔物に襲われた村に残っていた時、死体すら無くて入れる事も出来ない墓を大量に立て続けていた。その途中でやっとスライの墓も作る事も出来た。
ほとんど死体は見当たらなかったが、(あっても小指とかだった)それでも、スライの子供達も含め、村人全ての墓を作っていた。
残った兵士たちも、魔物が全くいないので(俺が全滅させたのと、ビットを広域展開させているため)何をしていいのかわからない状態だったので、丁度いいと兵士にも手伝ってもらい、一緒に墓を作ってもらったり、墓地を作るために村の整地を行っていたりしたのだ。
ちなみに、魔物が湧き出るゲートは二つあったらしく、広域展開したビットがあっさり見つけ、処理してくれた。
そんな感じで、村人たちを毎日弔っていたためか、俺の心も少しだけ軽くなった気がしていた。
そんな中、早馬で、俺と、兵士に帰還命令が下ったのだ。
俺は兵士ではないので、一度、断ったのだが命令は絶対と言われ。一緒に帰らなければ、一緒にいた兵士たちも怒られてしまうと言われてしまい、仕方なく、キンカに帰る事にした。
キンカに帰ると、まず気になったのは、キンカの警備の兵士たちが俺たちにいや、正確には俺に対して、すごく丁寧にあいさつをしてくれた事。
そして、領主の館に住み込みで働いている人たちが、どこか震えているというか、緊張した様子で過ごしているのが分かった。
都市の中を歩いていても、領主の屋敷の中を歩いていても、隣の都市に襲われていたはずだったのに、キンカの城壁にも、中の建物にもまったく傷もないし、人が死んで悲しんでいる人もない。前に来た時と変わらない生活を送っている人々がいた。
ふてくされたままだが、気になったので、戦いの事を聞いて見ると、ドンキは笑いながら答えてくれる。
「戦争は?って事だろうけど、制空権を独占してるんだから、余裕でしょ?」
そう言いながら、いつもの果汁ソイを飲むドンキ。
「でもね、今回の事でちょっと思う所があってね。襲撃は仕組まれていた事が分かったし、この都市の侵攻も、向こうの領主がだれかにささやかれたみたいでね」
飲み物を飲み、一息いれると、ドンキは声を落とす。
「もう、待っていられる状況ではなくなったみたいなんだ。ここで待ちの手段を取ると多分、私はここで終わってしまうような気がするんだよ。だからね、私も行動を起こす事にしたんだ」
じっと、俺を見つめるドンキ。
「君がこの国にいや、この都市にいる限り、全面的に協力する代わりに、君という冒険者を使わせてもらいたい。
もちろん、これは、この国では重罪だ。本来なら、全ての都市国家から攻められても文句は言えないだろう」
うっすらと笑うドンキ。
「けどね、その全てを蹴散らして、平らげてしまえば、文句は出ないと思わないかい?」
俺は、何も言えない。
ドンキの気迫に、完全に飲まれてしまっていた。
「つまりは、私はこの国の乗っ取り。とまではいかないけど、西側全ての都市を僕の物にする事にしたんだ。もともとそのための馬であり、豆だからね」
ドンキは笑う。
「全てを。法律も、慣習もひっくり返して、キンカを中心に、西に楽園を作る。手伝ってくれないかい?シュン君。もう、二度とスライさんのような、昔の私たちから見たらありえない人生を送って唐突に死んでしまう人がいなくなる世界を作るために。世の中をひっくり返そうと考えている大バカ者を助けて欲しいんだ」
俺はスライさんの笑顔を思い出す。
「10代から体を売って暮らしていたの」と笑うスライさん。
女性がそんな生活を送らなければならない苦痛など、男性にはわからない。
しかし、空腹で他人すら食べなければならないバカげた世界なら、ひっくり返しても良いのではないかと思ってしまう。
他人から奪って得たものは、奪い返され、お互いに憎しみ合うようになり、お互いに何も残らなくなってしまうのだ。
そう思えば、全てを消し去ってしまったあの時の国王の行動は、正しかったのかも知れない。
奪われた者の家族からすれば、村ごと全てを消し去った事で、少しは気がまぎれたのかも知れないのだから。
だが、同時に、あの時の言葉が思い出される。
「奪った物は、奪い返されるぞ」
俺の言葉に、ドンキは笑いながら
「ならまた奪い返すまでさ。私の意志は、折れるつもりも、無くなる事も無い。そんなに弱い意志なら、数十年前に、人生から逃げてるよ」
その言葉と、気迫に。
俺は、ゆっくりと小さくうなづく。
その返事を持っていたかのように、笑いながらドンキは自分の机から何かの瓶のような筒を持って来た。
「さぁ。一杯やろうじゃないか。シュン君。君が受け入れてくれて本当にうれしいよ。まぁ、飲もうじゃないか。これはね、僕が開発した桃のような果物から作ったワインなんだよ」
そう言いながらコップに注ぐと、それは真っ赤な血のような色をしていた。
「血の盟約。むかしどこかで聞いた事があるんだよ。全てがつながり、二人が一人になる。真似事ではあるけれど、君と一蓮托生の私にとっては、それこそふさわしいと思ってね」
笑いながら、その真っ赤な液体を飲み干すドンキ。
俺も、真っ赤な液体を飲み干す。
「ありがとう。この老人に付き合ってくれて。でね、付き合ってくれるついでに、ちょっとお願いごとがあるんだよ」
ドンキは、笑いながらコップを置く。
「ここから、北東にあるギンキだけどね。攻められたから反撃で攻め落とす事にしたんだけど、武器がね。足りないんだ」
遠足に行くのに、荷物が足りないくらいの軽い口調で話すドンキ。
そして、その言葉とともに入って来たのは、ゴブリンのような顔をした背の低い女性だった。
女性と分かったのは、胸があったからだけなのだが。
筋肉で出来ているのかと思われるような体系の彼女は、ゴブリンの顔をゆがませて笑う。
「初めまして。ドワーフの、ダザだよ。ああ、ドワーフはね、女性が濁りの名前で、男性が濁りのない名前をつけているのさ。まぁ、例外は、あるけどね。ハーフとかさ」
豪快に笑う彼女は、ひとしきり笑った後。
「私じゃ、これの大量生産は難しい事が分かったんだよ。悔しいし、腹立たしいけどね」
そう言って、彼女が出して来たのは、俺が昔作ったアイシクルソードだった。
「とんでもない武器だ。けどね、この魔力の付与ってやつがどうもうまくいかなくてね。まぁ私にとっちゃ、昔から何かを追加するのは性分に合わなかったからねぇ」
じっと、彼女は俺を見ると。少し頬を赤らめる。
「腕のいい、鍛冶士や武器士は好みなんだが、どうやら領主さんに先にとられたみたいだから、遠慮させてもらうとしてね。あんたに、ドワーフの村に行って、これの量産をお願いして来て欲しいのさ」
彼女は目をそらさずにじっと俺を見つめ続ける。
「ああ。ドワーフは、完全中立国だから、いきなり襲われる事は無いから大丈夫だよ」
ドンキが笑顔を浮かべたまま補足してくれる。
「だったら、他の都市もこれを手にいれられるようになるんじゃないのか?」
「そのあたりは大丈夫。私もバカじゃない。上手いようにやれるよ。だから、君にはちょっとドワーフの村まで行ってお願いして来て欲しいのさ。これも一緒に持っていって欲しいしね」
そう言って取り出したのは、何重にも封がしてあるあきらかに重要と思える手紙だった。
「ドワーフの村は、ここから南の南。東南にずっと進んだ所にある山脈のふもとにあるからね。
ああ。馬は持って行っていいよ。さすがに、飛べるあの子は渡してあげれないけどね。あの子は僕以外には懐かないから」
「私からも頼む。私の腕が良ければ、こんな手間を取らせずに済むのだが、私の未熟さに免じてお願いしたいのだ」
ダザさんが俺に頭を下げる。
俺は慌てて、ダザさんの頭をあげさせ、ドワーフの村へ行く事を了承するのだった。




