入学準備?
ある日。僕は盛大に落ち込んでいた。あんなに張り切って。冒険者になるって。
目標を決めたのに。
ミスった。失敗した。本当にそう思う。
馬車になんども乗り着いで。お小遣いも全部使って。一年もかけて、王都に来たのに。
いざ学校に着いたとたん、入学したいと張り切って伝えたのに、冷静に言われたのは、「年齢と、時期が足りないから、無理だね」の一言だった。
宿屋の一室で、僕はベッドの上でふて寝をしていた。
だって、仕方ないじゃない。学校に入学年齢制限があるなんて知らなかったし。
少し大きな町が襲われた事件は、王都でも皆の知る所になっていた。
あの町から来たと言うと、王都の宿屋の主人は優しくしてくれた。
あのゴブリンの襲撃事件が起きた後、僕の気持ちで、シスター、姉妹たちの弔いを、町の合同葬祭を行った。
生き残った子供として。僕も参加したけれど。もう涙は出なかった。
自分や、周りが落ち着いてきたのか、誰も何も言わなくなったし、町の役人に呼び出される事も無くたった頃、僕はカイルたちのお金を一部降ろして、馬車に乗ったのだ。
なんとか冒険者学校のある首都に来たのに。まさか、入学は13歳の夏からと言われてしまった。
夏にならないと入学出来ないのに。
王都に着いたのは、春だったのだ。
キシュアさんも教えてくれれば良かったのに。
ここにたどり着いたくらいから、なんか頭が痛い。お金もすごい勢いで減っている。でも、王都では、さすがに勝手に狩りをすると面倒になりそうな予感がして、ウサギも狩りにいかない事にしていた。ただ、おとなしく宿で暮らしている。
皆が残してくれた財産に手をつけないといけない状況に。
僕は少し落ち込んでいた。
けど、待ちくたびれるけど、後ちょっとだ。
僕は布団に横になったのだった。
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その日は、なかなか眠れなかった。
頭も相変わらず、痛かった。
何度も寝返りを打ち、なかなか寝れなくて、かなり遅くなってから、やっと眠りに入った。
その日。夢で、僕はなんか、若い人に怒られていた。ただひたすら、頭を下げていた。
書類を出され、何か数字の書かれた部分を指さされる。
誤って、その紙を書き換え。どこかに帰った後、さらに何か紙を書いていた。
外に出ると変な乗り物がいっぱい走っていた。
そんな不思議な風景の中、空中にかかっている橋を歩く。
ふわっと落ちる感覚。目の前が真っ白に光り。なにかにぶつかった。
目が覚めると、何か優しい人に出会った。
パチッと何かが外れる音がした。
僕は(俺は)知らない記憶が一気に溢れて来た。
巨大なオオカミを真っ白い槍で串刺しにしていた。
どこかの狭い場所で、木の板の上で、多くの子供達と何か書いていた。
手に持った四角い何かで、誰かと話しをする。
トラ型の魔物の攻撃をすりぬけ、喉元に槍を突き刺す。
車を運転し、槍を投げつける。薬草をすりつぶし。シュワシュワする液体を飲み込む。
記憶が自分が。別の何かに書き換えられる感覚。怖い。けど、止めれない。
そして、最後に、目の前に光りの壁が押し迫って来て、真っ赤な空の下、自分がその光に飲み込まれるのを感じて。
大きな、女性に包み込まれて。
「だぁっ!」
俺は目が覚めた。汗だくの体を感じながら、自分の手を体を改めて見る。
うん。13歳の体だ。
自分がサラリーマンとして過ごしていた、前の人生での30年。狩りをし続けて魔物を食べ続け、薬をつくり何とか生き延びた40年。全ての記憶があった。そして、自分がシンとして過ごしていた今の数年も思い出す。
けど、自分が生まれた村を出る事になった原因が、どうしても思い出せない。というか、その事を思い出そうとすると、赤色しか出て来ない。
思い出そうとすると、涙が止まらない。
枯れたと思ったのに、まだ涙が出る事に驚く。
カイル、レイアさん、キシュアさん。
自分の手を握って、後悔する。
この記憶があれば、もう少し上手く、立ち回れたはず。40年も、40年も森の中一人で生き残って来たのだ。
ゴブリンなんて、なんて事も無い。
40年、森の中で戦って来た記憶には、もっと多くの魔物に囲まれた経験もあったのだから。
憧れて、後を追い、肩を並べたいと思った人達の事を思いだし、俺は再び目頭を押さえた。
心で、カイル達にお詫びの言葉を何度も言うのだった。
[名前] シュンリンデンバーグ
[職業] 冒険者付き添い
[ステータス]
[Lv] (表示不可能) 15
[Hp] (400) 200
[Mp] (700) 120
[力] (300) 45
[体] (250) 32
[魔] (200) 60
[速] (400) 60
[スキル]
(データベース) (EPシステム) (火炎魔法・使用不可)
(水魔法) 風魔法 (偽装) 回復魔法 絶対結界
(残EP 0)
(カッコ)内は、偽装にて隠匿中。
落ち着いてから、改めて自分のステータスを見て、自分を殴りたくなっていた。
偽装前の本物のステータスは、レベル30~40くらいのステータスだ。
今の僕の年齢なら、確かに、化け物扱いされるレベル。HP、MPは圧倒的に低いけど。
だけど。
女神が言っていた、大進撃がいつ来るのか分からない。
今のステータスだと、孤児院があった町を襲った、ゴブリンの大攻勢が起きてもすぐに死んでしまう。
10億の敵なんで、夢のまた夢だ。
この世界の魔物は強い。この辺りにいるウサギなんかなら瞬殺できるけど、トラ型の魔物や、虫型の魔物は、本当に厄介だ。さらには、もっととんでもない魔物も存在する。
このままだとまずい。何も出来ないで死んでしまう。
僕は、ステータスをあげる為、とりあえず狩りをしようと、データベースさんに聞き、マップを開く。が、王都の法律。と言うタグがマップの上に浮かんでいた。
開けてみると、王都周辺では、冒険者、騎士以外が魔物狩りをするのを強く禁止していた。違反はかなり高い罰金になっており、冒険者を一人雇えば、冒険者以外が倒しても特に何も言われないらしい。
冒険者は、商人のボディーガードでもあり、狩人でもあり。いろいろな法律に守られた特殊な職業という立ち位置になっていたのだった。
てか、データベース!
お前、かの有名な検索ソフトかっ!なんで、Wikiが出て来るんだよっ!
と突っ込みをいれながら、実は、今の状態では、今は何も出来ない事に気づく。
だって、13歳が、冒険者雇って、狩りをするなんて、どんな大富豪の息子だよ?と言う話しだ。
もう一度、冒険者学校の説明をデータベースから、しっかりと調べて行く。
「狩りが出来ないと、本当に困った事になるんだけど」
とにかく、穴がないか調べてみる事にした。wikiを手当たり次第に検索していく。
そして。
年寄りの悪い癖が出てしまった。
調べ始めたら、楽しくなってしまったのだ。
政治は?通貨は?一番安い宿は?人気の狩場は?不満ランキングは?美味しい食べ物は?
人気の武器は?魔法は?流行りの服は?
デートスポットは?
ご飯も忘れて、時間も忘れて、データベースの情報を読みあさった。
あ~楽しい。結局、入学試験の前まで、俺は部屋にこもり、
必死にデータベースの情報の波に乗り続け、宿の主から、何度も声をかけられ、生存確認をされる羽目になってしまったのだった。
けど、やめられない。
時々、すぐ近くの食べ物屋に行っては買い込み、部屋で何かしている。
(殻こもりの少年)なんてあだ名がついてしまった事など全く気がつかず、俺は部屋でのネット生活を満喫してしまうのだった。
10 6 前半部分更新しました。
2023 2 修正しました。