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優しくない世界に転生した。精一杯生きてやる。~創世記の英雄は転生者~  作者: こげら
第2章 フェーロン共和国編 あらたな冒険
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転生領主(2)

ゆっくりと巨大門が目の前で開いて行く。


3日間、おっさん騎馬兵と話しをしながら来たのだが、それなりに退屈はしない旅であった。

魔物の襲撃は一回もなく、マップも赤くもならず、綺麗なまま。ビットも魔物を回収してこないため本当に魔物はいないのだと知らされた。こんなに安全なのなら、なんで行商人がいないのか旅の途中におっさんに聞いてみると、答えはただ一言。

「ロックバードが、ほとんでいないから」

という、なんとも言えない、現実的な問題だった事が判明してしまった。

この国では、ロックバードの生息が難しいらしい。

なぜかはわからないが、すぐに死んでしまうらしいのだ。

それゆえに、商人が行商先で動けなくなったりと問題が発生してしまうため、最終的に物資の輸送を行いたい場合の解決策はただ一つだった。

『冒険者にやってもらえばいい』


その流れで、冒険者はけっして拘束できず、都市国家での囲い込みも禁止されていた。

高レベルの冒険者の囲い込みが発覚すると、他の都市国家に町を明け渡す必要すらある。

それほどの厳罰であった。


それを考えると、この領主は、かなりギリギリないやむしろアウトラインを責めているのが分かる。

冒険者経験のある人間を騎士として、囲い込んだりしているし。

おっさんの話ではロックバードが使えないため、領主が作った【馬】を都市国家キンカは所有しているのだが、これまた、兵士全員が馬に乗れるとの事だった。というか、兵士全員が馬に乗る練習をさせられ、馬に乗れない兵士は町の外壁警備すらさせてもらえないらしく、さらに都市国家の外へ出ては行けないという厳格な規則があるらしいのだ。

その反面、領主が持っているこの【馬】は国としてはかなり重要な戦略物資のはずなのだが、まったく気にもせず普通に兵士に使わしていたりする。

しかも、他の都市国家には、絶対に渡さないようにしているとの事だった。


おっさんの話を聞いただけでも、このキンカの領主は、かなりいい性格をしてるのが見て取れる。

共和国を乗っ取れるだけの地盤を十分に持っている領主じゃないか。


そんな事を思いながら、俺は都市国家、キンカに入って行く。

キンカは、共和国の中で一番西にある都市国家で、人口は400万。

都市国家としては、かなり広いのだが、今俺たちは2番目の門をくぐっている最中である。


一番外の外壁のすぐ中には、魔物であるはずのウサギが囲われて飼われていたり、農作物畑があるのが見える。村にあった豆の畑も村の数十倍広いものが、しっかりと実をつけているのが見てとれた。


スラム街もあるんだ。と、おっさんに説明される。

今入って来た、外壁の門がある場所とは反対側の壁の外に作られているらしい。

そして、内門をくぐると、四方に区切られた京都の街並みのような都市が見えた。

そう。内門は、高台に作られており、門から出た先はすぐ下りの坂道になっているのだ。

門の横にこっそりと、油っぽいものが置いてあるあたり、この都市が対魔物ではなく、対人間相手として作られている事をこっそりと教えてくれる。

門の外側に撒いても、内側に撒いても滑ってなかなか門に到達しずらくなり、門を抜けた先でも急な坂であるため、走って突入はしずらくなる仕組みだった。


「来る途中も言ったが、くれぐれも粗相のないようにな」

町の中央にそびえたつ、とてつもなく大きな屋敷まで来ると、おっさんがふたたび釘を刺してくる。

「まあ、久しぶりに楽しかった。なんと言ってもここ最近、刺激が無かったからな」

笑って握手を求めてくるおっさんに、俺も笑って握手を返す。


おっさんと別れて、領主の館の敷地に入ると、すぐに俺は3人の兵士に囲まれる。

「こちらにどうぞ」

兵士は丁寧に扱ってくれてはいるが、どうみてもいつでも俺を取り押さえられるような配置であった。

データベースさんに調べてもらうと、やはりというか。

3人とも、もと冒険者。レベルも、60超えだった。

昔やった事があるゲームなら、ラスボスすら倒せるレベルだ。


俺は、特に何をするでもなく兵士たちに連れられて一つの部屋に案内される。

その中にいたのは、普通のおじさんだった。


いいものと思われるローブを着てはいるが、どこかヨレヨレになっている。

「来てくれたかね。私がこの都市国家、キンカとその周辺を統治させてもらっている、ドンキ・ボッテだ。格安ではないが、よろしくお願いするよ」


「おい」

俺は思わず突っ込みを入れていた。

「そのセリフと、その名前。どう見ても、もと、日本人だろうっ!」

「ははは。やはり、君もそうなんだね。いや、一発で分かる洒落に気づいてもらってうれしいよ」

俺は、その言葉に顔をしかめる。

「まぁ、そんなに警戒しないで欲しいかな。その通り。私も、元、日本人でね。転生者ではなく、転移者と言われている者になるのかな?30歳で転移とか人生、終ったと思ったよ。まぁ、座りたまえ」

椅子を進めてくる。

「私は、カルア系のお酒が好きでね。けどここには無いから、頑張ったんだよ。なんとかソイミルクまでは作れたから、お酒を割ったりして代用させてもらっているよ。君も飲むかい?」

そう言って、出されたものは、限界まで冷えたベリーソイのようなものだった。

お酒ではなさそうである。

出されたジュースを飲むと、昔飲んだ味に良く似ている。

これに、コーヒーを入れたら、コーヒーソイが出来るな。ヒウマが喜ぶかな。

そんな事を考えてながら、懐かしい顔を思い出していると。

「まぁ。君には関係ないかも知れないけど、私はこう見えて遺伝子工学の大学に行っててね。領主になってからは、いや。その前からかな。いろいろいじったよ。魔物も、人も、ね」


その一言とほぼ同時に。突然、部屋の空気が変わる。

ぞわっとする視線。

ああ。分かった。こいつは。

「魔物と、何かを掛け合わせてあの馬や、豆を作ったと言う事か」

「そう。この世界は、はっきりいって、前の世界よりクソだったからね。知っているかい?僕がここの領主になるまでは、女性は体を売り、時には、食べられていたんだよ。男は、隣の都市国家と戦い、女性をさらってくるだけの存在だ。本当にクソだろう?」

冷たい表情で、うっすらと笑うドンキ。

何も言えないでいる俺にドンキは続ける。

「だから、この世界の人と転移者との間の子供の遺伝子と、魔物の遺伝子を掛け合わせて兵器を作った。今は、その兵器は、全て処分したけどね。設計図は頭にあるから、いつでも作れるよ」

自分の頭をつつきながら、ドンキは部屋を回りだす。

俺の周りにいる兵士の顔色がものすごく悪くなっている。

ドンキから出ている、圧迫感のような空気に気押されているのだ。

高レベルの元冒険者が。

「前の領主を殺し、その血縁もすべて殺し。私はここにいる。どうだい?軽蔑するかい?」

悪人ではある。極悪人だろう。つい最近、同じ事をして王座に座ろうとした人物を思い出し、吐き気に襲われる。

しかし、だからと言って、その行為そのものが悪だったのか?今の平和な村や、この都市を見ると疑問も湧いて来る。

「軽蔑はする。俺も日本人だからな。だが、俺も、多くの大切な人を失って来た。だから、今は平和な穏やかそうなこの都市と、俺がいた村を見て、お前が最悪だとは言えない」

俺が素直にそう言うと、にっこりと笑うドンキ。

「君なら、そう言ってもらってくれると信じていたよ。そして、僕のくだらない自己紹介は終わりだ。本題に行こうじゃないか。僕が聞きたいのは、ただ一つだよ。これだけの犠牲と、決意と血をかぶって作ったこの町を、君は潰す気なのかい?」

そう言いながら、一本、武器を机の上に置く。

さらに空気は張りつめ、もはや凍っているのではないかと思われるほどの温度になる。

そう。机の上に出したのは、俺の作った武器。

スラッシュメイスだった。


「よくできてるよね。魔力が無い兵士でも、一般人でも使えて、一撃が激しく高い。かすっても致命傷だ。つまり、いつでも、この僕の都市を攻める事が出来る武器だよね?」

俺は、やっとここに連れて来られた理由が分かった。

恐れられたのだ。

量産可能な、強力無比な武器を作った事で。

この国が、戦争と殺しの歴史しかない国と分かっていたら、もう少し気をつけたかも知れないが、もう作ってしまった以上は、仕方なかった。

「そんなつもりは無い。ただ、村人が死なないようにしたかっただけなんだ」

俺は、言い訳がましく呟く。

「そう。けどね、君の武器は全て僕の想像を超えてるものばかりなんだよ。隣で作ったものも含めてね。知らないとでも思ったかい?」

じっと、俺の目を見つめてくるドンキ。


「だからね、君をどうしようかすごく悩んでる。君は危険だ。僕が、何もかも捨ててつかみ取ったこの世界を一瞬で壊せるのだからね」

返事もできずに黙っていると、ドンキはゆっくりと武器を取ると。


一気に俺に向かって振るう。

激しい衝撃とともに、吹き飛ぶ付き添いの兵士。

スラッシュメイスは、俺の絶対結界に受け止められ風魔法を発動、周りの兵士を吹き飛ばしそのまま、折れた。


こいつ、シュリフより強いっ!

俺がドンキをにらみつけると。

いきなり笑いだすドンキ。

「ははははは。さすが、流石。西の砦を一人で守った英雄さんだ。ハハハ。僕の攻撃がまったく通じない所か、無傷。僕の全魔力を込めた攻撃でも、1ミリも動かす事が出来ないとか、まったく笑うしかないよ」


ひとしきり笑った後。部屋の空気はふたたび穏やかなものになっていた。

「試して悪かったね。僕じゃ、君をどうにも出来ないのは知っていたんだよ。君の強さも、栄光も調べさせてもらったからね。オークの集落を一人で壊滅して、西の砦では、一人で数万の敵を蹴散らし防衛に成功。まったく、作り話とか思えない話ばっかりだったんだけどね」


まさか、現実にそんな人物がいるとはね。

そう言って笑うドンキ。

「シュン君。僕の町、キンカへようこそ。歓迎するよ。でね、こっからは取引の話なんだけど。

その武器のレシピ。売ってくれないかな?それなりの値段は保証しようと思うし、この村にいる限り、お金の心配はしなくていいように出来るけど」


笑いながら、あっさりと手のひらを反すドンキに。

本物の治世者を見た気がしていた。

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