転生領主?(1)
「領主様の命令を無視して、私たちと戦う気か?」
村人は、俺の作った武器を各々持ち出して、騎馬兵と対峙していた。
スラッシュメイスが数本。槍が大半、スライの長男は、この前作ってあげたばかりのヒートソード改を持っている。
前のヒートソードは、魔力がなければ使えなかったが、この武器はスラッシュメイスの技術も取り入れて、魔力を回収、解放する仕組みになっている。
魔力が濃すぎる場所で使うと暴発する危険性があるし、魔力が極端に少ない場所では威力が減る。
森で使えば、魔力が高いため近くの木ごと燃やして火事を起こしてしまいかねないという、欠点だらけの仕様ではあるが、ただ一つの利点は、【誰でも、魔法剣が使える】という一言につきていた。
つまり、村人のように力の使い方を知っている者でなくても使える武器。
そんな厄介な武器である事を知らない騎馬兵は、自分を囲んだまま、まったく動かない村人たちを見て、ため息をつくと、自分の剣に手を添える。
このまま、村人と兵士が、ひと悶着起しても、このまま兵士が帰ったとしても、絶対にこの村にとって良い事にならないと感じた俺は、ゆっくりと騎馬兵の前に出て行った。
「それを作ったのは、俺だ。なんの用だ?」
じろじろと俺を上から、下まで見ると騎馬兵は本当に嫌そうな顔をする。
「冒険者か?領主様がお呼びだ。本来なら、冒険者が相手なら、拘束する事も連れていく事もないのだが、今回ばかりは、相手が隣の王族でも連れて来いと領主様から強く言われている。だから、付いて来い」
騎馬兵は、心底面倒そうな声で領主の命令を伝えて来る。
俺は、ただうなずくだけ。
「ちょっとっ、この人は冒険者だから、何をしても、自由なはずですっ。領主様でも、冒険者には絶対に命令は出来ないはずですよっ!」
その俺たちの会話に、スライがかみついてきた。
へぇ。この国の冒険者は、本当に自由なんだな。隣だと、結構国が管理してていろいろ国が制限をかけて来ていたから、見方によっては国の兵士の扱いのような感じだったのにな。
そんな事を考えながら、まだ騎馬兵に文句を言っているスライの腰に手を当てて笑う。
「ありがとう。スライ。けど、このままこの兵士に帰ってもらったりしたら、この村の立場が悪くなるかも知れない。だから、行くよ。俺も、この村が好きだしね」
俺の言葉に、呆気にとられた顔をしていたスライは。
「けどね、私ね、あなたがね」
と顔を赤くしていたが、何も言えなくなってしまい。
「ありがとう」
そのまま、泣き出してしまう。
俺は、スライの額に口づけすると、騎馬兵に向き直る。
「準備は、いいんだな?乗れ」
騎馬兵の言葉に、俺は兵士の馬の後ろに乗り村を後にしたのだった。
「まったく、どんな色男だよ。いいよなぁ、冒険者はどこに行っても女性に困る事がないからなぁ」
領主への都市国家への移動中、ぶつぶつと、愚痴を言い続ける騎馬兵。
「兵士は、モテたりしないのか?」
俺が聞いてみると、関を切ったように兵士は愚痴を追加してきた。
「当たり前だろ?俺なんか、もう40前だぞ。なんで独身なんだよ。くっそ。この辺りじゃあ、争いも魔物の襲撃もそうそうないから、手柄があげれなくてな。万年、下っ端兵士だよ。そのせいか、町じゃぁ、俺たち兵士は警備兵みたいなもんで、ただ立ってる楽な仕事って思われてるんだよっ」
確かに、そんな状態であるなら、愚痴を言いたくなる理由も分からなくは無い。
「そんなに、襲撃は少ないのか?俺がいた所は結構小さい襲撃がちょくちょくあったんだが」
「今の領主様が、優秀すぎてな。何かおかしな動きがあったりしたら、すぐに直属の騎士たちが出て行くんだよ。全員冒険者経験ありでな。普通に強いし、俺たちじゃぁ、絶対に敵わないような奴らだよ。そのうえで、すぐに全滅させて来るから俺たちの町が襲撃されたり、近くの村が何かあったって事も聞かないなぁ。だから、今回俺に言われたのも、本当にびっくりしたんだよ。
ずっと門を守ってただけの俺に突然行って来いだぜ?焦るわな」
そう言いながら、笑う騎馬兵のおっさん。
そう。この騎馬兵。
いきなり領主様からの直接の命令を受けて、気が張ってただけで、本当はすごくフレンドリーなおっさんであった。
「まぁ。行けと言われたら行くしかないからよ。しかも、村で鍛冶をしてるやつがいるから、連れて来いとかよ。訳が分からん命令だったしよ。焦るよ」
言いながら、馬を飛ばす騎馬兵。
この世界の馬は、ロックバードと言われる鳥みたいな物なのだが、今このおっさんが乗っているのは、前の世界で見た馬そっくりであった。
「この馬もよ、実は、領主様が作ったのよ。本当は魔物だったんだが、その睾丸をどうかしてとか言ってたな」
その言葉を聞いて、俺は、昔の現代最先端技術を思い出す。
「豆もな、何かやったらしいし、とにかくいろいろ怪しげな事をやってるんだが、今の領主様になってから、生活が一気に楽になったのは確かだよ。この馬も、ロックバードとは違って、大量の荷物を馬車なしでも運べるしな」
なかなか、すごい領主様らしい。
「くれぐれも、おかしな真似するんじゃないぞ。領主様は、優しいのは優しいんだが、時々本当に怖いんだよ。あれは、なんだろうな?とにかくゾっとする事があるんだよ」
会話を続けながらも走り続ける馬。どこまでも広く、見渡す限り全てが地平線だった。
「町まで、遠いのか?」
俺が聞いてみると、騎馬兵のおっさんは笑う。
「そんな遠くねぇよ。3日ってとこだ。魔物に会わなきゃな」
それなりに遠かった。




