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滲む景色

僕が町に着いたのは、もう日も大分傾いた頃だった。

町に着いて、急いで門番の人を探すのに、いつものところに立っているおじさんがいない。

 周りを見ても、ほとんど人がおらず、マップを見ると、僕の家である孤児院に人が集まっているのが分かった。


人を探すために、僕は自分の家の方に歩き出す。

とにかく人を探して、カイルたちの事を伝えないといけないのは分かっているのだけど、何かがいつもと違う。

マップはいつもと変わらないのに。

 さっきマップが赤かった気がしたけど、気のせいみたいだし。


けど、なんだろう。なんだか、やっぱりそわそわする。

なんでいつもいるはずの門番のおじさんがいないの?

いつもなら必ずいるのに、すれ違う人が一人もいないのは、なぜ?


とにかく、早く人を見つけて、カイル達の事を話さなきゃ。

 その義務感だけで、僕は歩く。もうへとへとになっている僕の両足に頑張れと言いながら歩く。


ちょっと歩いていると、遠くから声が聞こえて来た。


いや、普通の声じゃない。怒鳴り声。泣き声。叫び声。悲鳴。

自分でも、何がなんだか分からなくなって、僕は走り出す。


そして、僕が見たのは、真っ黒く崩れ落ちた風景だった。


いつも、配達に行っていた家が無い。配達の仕事をさせてくれてた、女将さんの家が無い。

 いつもの坂道に、黒い染みが大きくついている。


いつもなら、家で見えないはずの教会のローダローダ様が、崩れているのが見える。


「ちょっと待てっ!」


青い鎧を着た兵士に呼び止められたけど、僕はそんな声を無視した。

煙がまだ立ち上っている所もあるけど。そんな事は関係ない。

だって。あそこには。教会には。孤児院には。

シスターが。 妹が。 弟が。

カイル達の事も頭の中から消えていた。

僕は走る。

吐きそう。足がもう悲鳴じゃなくて、動けないと言っている。

でも止まれない。転びそうになりながらも僕は走る。


その途中で、突然、僕は誰かに捕まれた。そのまま、抱きかかえられる。

「離してっ!」

僕の力は、300まで上がってるっ!振り切れるっ!

力一杯、振りほどこうとして、もがいた僕の力はすぐに抜けてしまった。


僕の頬に冷たい物が落ちてきたから。

「すまない。俺たちの失態だ。本当にすまない」


泣きながら、僕を捕まえ、謝っていたのはいつも立っていた門番のおじさんだった。

今までの苦しさが少しだけ、軽くなった僕は、おじさんを見上げる。


ぐしゃぐしゃだった。泣いていた。


その顔を見て、僕は分かってしまった。

シスターも、妹も、弟も。


居なくなってしまった。

僕は、おじさんの胸に顔を埋めて、泣きまくった。


――――――――――――――――――――――――――――――――――


僕が落ち着いてから、おじさんではなく、騎士の一人が僕に何が起きたが教えてくれた。


僕達がホワイトピックを狩っていた頃、ゴブリンの集団が出て来たらしい。

町の外に来たゴブリンを倒すために、騎士が町の外に出た。その隙を狙うかのように、なぜか、一部壊れていた壁の穴から町の中にゴブリンが入り込んだらしい。数は不明。


外のゴブリンを倒して、やっと町の中のゴブリンを倒しに来たが、すでに一区画がやられ、燃やされた後だったとの事だった。

一区画。つまり僕たちが住んでいた場所のあたり。


僕はその説明を上の空で聞いていた。


話しは分かった。けど、理解ができなかった。

流す涙もなく、ずっと話しだけ聞いていた。



カイル達の事を伝えて、町の兵士たちに応援に行ってもらったのは、僕が町に着いてから、かなり経ってからになってしまった。




そして、僕は。カイル達の遺品を受け取った。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


最初は何を言われたのか、分からなかった。

《炎の楔》の遺品です。と、杖と、折れた剣と、ローブの切れ端を渡された。


渡されても、実感なんてなかった。


家も無くなった。カイル達も居なくなった。


ギルドに行けと言われて、行ってみたら、カイルとレイアさん、キシュアさんが、ギルドに預けてあるお金は全て万が一自分達が死んだ時、僕へ渡して欲しいと依頼されていたと言われ、僕が必要になれば引き出せますと説明を受ける。


今日寝る場所もない。カイル達といたから、ご飯を食べるお金は持っているけど。


ギルドで説明を受けた後、ギルドの人に言われて、カイル達が泊まっていた宿の、カイル達が泊まっていた部屋に案内された。


宿の人からは、宿賃を前払いでもらっているから、しばらく泊まっていいと言われた。


そして、僕はベッドにうずくまって、また泣いた。


何日泣いたか分からなかった。起きて、泣いて、泣きつかれて、寝て、カイル達のおいて行った荷物を見て泣いて、部屋の中に置かれた、スープを見て、泣いた。


女将さん、肉屋のおじさん。配達中に会ってた人達。僕が治してた腰の悪いおじさん。 孤児院のシスター達、妹達、弟達。


みんな、みんな。


多分、僕は、死ぬまでに流すはずの全部の涙を流したと思う。



何日目の朝か、夜か、僕は起きて、目の前のスープと、パンにかじりついた。


 もう、涙は出なかった。

そして、カイル達の最後が知りたくなった。


でも、誰も知らない。僕が助けを呼ぶのが、遅かったから。

泣きたくなったけど、涙は出ない。

「涙、枯れちゃった」


僕は、そう呟くと、データベースに、カイルの最後はわからないか聞いて見た。


結果。データベースから出てきた情報は。


格好良かった。


カイルは、最初の一撃、あの矢で毒を受けてらしい。


全く僕は気がつかなかったけど。


けど。なのに。


ゴブリンローグ10体 ゴブリンアーチャー7体 ゴブリン15体も倒していた。最後は、体が動かなくなり、ゴブリンアーチェリーに射ぬかれて死亡。


レイアさんは、ゴブリンアーチャー12体 ゴブリン10体倒し、カイルが倒れた上に被さる形で、死亡。


キシュアさんは、ゴブリン5体を倒した後、カイルを射ぬいたゴブリンアーチェリーの場所を発見し、アーチェリーと相討ち。


無茶苦茶強い。


一つのパーティーが60体打倒。囲まれた状態で、この戦果はAランク冒険者並らしい。3人で。

その奮戦のおかげで、ゴブリンたちは、森の奥へ帰っていったらしい。

誰にも知られず、町を守った英雄たち。


僕は、一度、自分の頬を叩いて、窓を開ける。


「決めたよ。僕、冒険者になる。カイルより強く、格好良くなるから」



僕には何も無くなった。けど、カイル達が残してくれたのは、凄く大きい背中。


目標。


追いつけないかもしれないけど、追いかけて見る。

僕は、宿の窓から、空を見ながら覚悟を決めた。


幼少期終了です。

 ガッツリ執筆する事が、私の力不足のため、できそうもありません。2、3千文字の短い短編を毎週投稿する形になりそうです。

 もし読んでいただける方がおられれば、気長に読んでいただけると幸せます。

9 28 少し変更しました。

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