動乱の後
サラが地下通路を見つけ、中に入って来る。
彼女が見たのは、座り込んでいるダルワンと、ボロボロの死体。
その横には、倒れている女性の姿もある。
「カラどの」
サラは、小さくつぶやく。
その死に顔は、悔しさをにじませたつらそうな顔であった。
暗部の一人が、あっさり死んでいる事にも驚くが、何より、何度手合わせをしても、全く勝てる気すらしなかったシュリフ将軍が、本当の意味でボロボロになっているのが信じられなかった。
「シュン君は?」
サラの後から来たバル隊長が、ダルワンに話しかける。
「行ったぞ」
ダルワンは、小さくつぶやいた。
その言葉に、全てを悟ったバル隊長は大きく呼吸を吸うと。
「反逆者は討ち取った!残りの兵士は、残りの王族の捜索を行ってくれ」
素早く指示を出す。
凄まじい大声の勝どきを、生き残った兵士達が上げる中。
ライナは、呆然と父親の死体を見ながら、
「また、シュン君にお礼言いそびれちゃったな」
ライナは、父親の死を見ても、泣けない自分に戸惑いながら、全く関係の無い事をつぶやくのだった。
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バル隊長は、いや、バルクルス隊長は、忙しく走り回っていた。
まず、城の中を改めて全て確認していき。
城の隅、誰も来ない古い武器倉庫の中で、王の遺体を見つけた。
真っ二つになっていた王の死体は、明らかに皇帝斬の剣筋によるものである事がはっきり解るものであった。
その事実を発表し、遺体を丁寧に埋葬し、バースシュリフと兄、アラスの反乱を伝え、国民に謝罪。
アルを国王に推し、自身は補佐に回る事を国民に伝える。
蒼碧騎士団が壊滅のため、騎士団の変更を行い、赤、白、黄色の3部隊で編成。
ロアの部隊をそのまま、蒼碧として編成し直し、ロアをそのまま部隊長に任命する。
その流れで、ロアに、カロッゾの家名が与えられ独立貴族に。ライナとレイアの二人はそのまま結婚しカロッゾ婦人に。
白銀は、サラの父親である、ダルムに任せる。
二人に、アスカの家名を与え、貴族ヘ。
サラは、白銀騎士団の下部組織、黒銀騎士団の隊長に。
そして、ダルワンには、最初に地下へ到達していたにも関わらず、国宝が2つも無くなった事に対してA級冒険者からB級冒険者に降格処分。
ギルドマスターにも、罰金としてかなりの額が請求された。
ただ、二人には、別の話しでかなりの額のお金を渡しておく。
働かなくても生きて行けるくらいの額のお金を。
そう。国宝は2つ無くなっていた。
『エルフの証』と『空間結界』が紛失していたのだ。
『空間結界』は、城を守る結界を張っていた物であったため、急いで白銀騎士団の装備を、西の物に変更。
全員が、アイシクルソード装備として、王都の警備に専念させる。
そんな激動の中、ヒウマとにゃんは、西の武器作成のノウハウを全て吸収して、武器屋になっていた。
かなり儲けているらしく、貴族社会に疲れて来ていたロアが、
「変わって欲しいくらいだよ」
と漏らすくらいであった。
国として、幼すぎる国王を支えるため、今の貴族の中から、宰相を決めて国の統治をお願いする。
全てが一段落した後で、こっそりと西の独立統治を認めさせたのは、さすがバル隊長と言ったところであった。
全てが一気に変わった、シュリフ将軍のクーデターであるこの事件は、騎士の幻想 として、長く王都で語り継がれる事となったのだった。
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俺は走っていた。
クアルと合流する暇も無かったし、今更王都に帰る訳にも行かない。
そのために、走るしか無かった。
前に西に歩いて行った時には、ミュアが、リンダがいた。
しかし、今は一人だ。
寂しさを紛らわすかのように、明らかにおかしいステータスになった俺は、馬車を追い抜かしながらひたすらに走る。
スタミナも大分ついて来ていて、半日は続けて走れるようになっていた。
夜は、簡単な小屋を一瞬で作り、結界を張ってその中で眠り。
起きたら、再び走る。
幸い、水も食料もまだ余裕があるし、何も考えずに走っていた方が楽だった。
俺は、ひたすらに自分の片割れに会いに行くために、西に向かい走り続けるのだった。




