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赤い海 緑の道

「悲しいな」

老騎士は、目の前に寝かされた、少女をそっと自身のマントで隠す。

死体など嫌というほど見てきた。

魔物に引きちぎられた死体、食い散らかされた死体。

しかし、目の前の少女は、笑っていた。

覚悟をしていた人間だけがこんな死に方をしてでも笑う事が出来る。

その顔を見て、目頭が熱くなる。

「いつか、この悲しみが全て無くなる日が来ると良いのだがな」

老騎士は呟く。

自分の側にいてくれた、穏やかな女性を思い出す。

娘の離隊に対して、抗議に行き帰って来なかった、副官。

あの頃から、将軍はおかしくなっていたのだろう。

全ての人が、悲しみを背負わない世界を。

そんな日は来ることは無いと身を持って知りながら、呟かざるをえなかった。


ーーーーーーーーーーーー


走る。 俺は、ただ走っていた。

目の前に出した地図から、将軍が居そうな場所を探し出し、さらに人がいる部屋を開けていく。


「何者だっ!」

こっちに気が付き、叫ぶ兵士を何も言わずに斬り伏せる。


槍の刃があっさりと溶けたバターを斬るかのように相手の体を真っ二つにする。


自分が切り飛ばした死体も見ず、次の部屋に向かい走る。


世界が、薄暗い。

モヤがかかったみたいに。


部屋を開け、兵士を切り捨て、次の部屋に行く。

途中で出会った敵の兵士も、何も言わずに斬り捨てる。


途中、

「シュンだっ!あいつの視界に入るなよっ!」

「暴走中だっ!逃げ切れっ!」

など、叫び声が聞こえる気がするが気にしない。

気にする余裕もない。


バタバタと扉を開け、何枚目かのその扉を開けた時。

不自然に、物が置かれている壁があった。


俺は、何も考えずに全ての物を空間収納に放り込む。

壁が現れるが、違和感がある。


マップも、この先に部屋がある事を教えてくれる。

「見つけた」


俺は、薄く笑いながら、壁を絶対結果で切り取る。

その壁を収納して、消し去った瞬間。


漂って来た異臭に、俺は、思わずムセて、中にあるモノを見て、さらに胃の中の物が全て上がって来た。


うず高く積まれた、ハリネズミのような山。


いや。

矢が無数に刺さった人が積まれている。


戦場に行ったのかと思うくらいの無数の矢が刺さっている、女性、男性、子供。


俺の視界がさらに暗くなり、うずくまる俺の横で、いつ来たのか、カラさんが、呆然とその光景を見て、立っていた。


「おうじ、、、ぉ う ひ」

つぶやく声が、小さく、聞き取りにくい。

カラさんが、無防備にただ立っている。

いや、手が、身体が震えていた。

震えながら、じっと赤い山を見つめるカラさん。


「何があろうが、絶対に許さんっ!シュリフっ!」


カラさんが、地の底から出るような低い声で叫ぶ。


俺は、もう一度、ハリネズミ。いや、人の山を見る。

データベースが、俺の疑問に答えて来る。

『第一王妃を始めとする、王位継承権を持つ王族全て』


胃の中の物が喉のダムを決壊させる。

俺は、うずくまり、その場に吐いた。


全てを吐き出して、吐き気が落ち着いて来て、やっと俺はデータベースに向かいつぶやく。


「どうやってやった?」

『〘神の目〙距離、空間を無視し、目標に矢を』

「そんな事はいいっ!誰がやったっ!」


俺の叫びに。

『スキル保持者。4S《空間の》』

無表情な音声で、返答がある。

その返答で、俺の中で、4Sは完全に敵になった。

《希薄の》に殺されかけた事は忘れていない。

そして今。

人を人とも思わず惨殺出来る奴が、正義な訳が無い。


俺が立ち上がると、我に返ったのか、カラさんは凄まじい音をたてながら、壁を蹴りながら、走り出していた。

怒っている。

シュリフのやり方に。


俺の怒りも限界だった。

いっそ、城ごと切り刻んでやりたかった。


しかし、ロアも、ライナも、レイナも城に突入したのが分かっている。


サラも、ダルワンもいる。

あの人達まで巻き込んで、全て切り刻むわけにはいかない。


とりあえず、ここにこの人達を晒して置いておくわけにはいかないよな。

俺はその死体の山を空間収納に入れる。


何も無くなった部屋に小さく頭を下げ、口元を拭うと俺は、カラさんを追いかける。


城の構造は、カラさんのほうがよく知っているはず。

カラさんに置いて行かれないように、ひたすら走る。


かなり走った。カラさんは、たしかに早いけど、今は隠密行動を行う事すら忘れているのか、走っている姿がよくわかる。しばらくカラさんについて行って走っていると、カラさんが突然、横の壁の中に消えて行った。


兵士達が戦っている後ろの壁に消えて行ったため、近づいて押して見ると、そこはスカスカだった。


目の錯覚や、魔法を使ったカモフラージュ。

壁に手を当てながら歩かないと気が付かないような作り。


そんな小さな空間を少し歩くと、紐が吊るされた穴が空いていた。


王族しか知らない、本当の隠し部屋。

マップにも、落とし穴みたいなこの穴は表示されていないから、魔法で隠されていたのだろう。


俺は、紐に手をかけ、降りる事にする。


半コルくらいか。


いつまでも続くかと思ったその穴は唐突に終わりを告げる。

柔らかい、膝まで埋まるくらい柔らかい水風船のような物体を踏みつけながら、周りを見る。


そこは、地下洞窟になっていた。


水が流れる小さな川があり、光る苔が周りを照らす。

かなり明るい。


奥に、いくつかの宝玉が飾られている。

マップは、この洞窟が、一本道で、どこかに繋がっている事を示していた。

その道の間。

広い空間になっている場所に、緑の印が2つあり。


今。その一つが消えた。

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