赤い空
町の真ん中で演説があり、兵団が出した討伐軍の強制依頼への登録を終わらしてから1週間が経っていた。
僕は、冒険者資格が無いから付き添いというか3人のお荷物みたいなものだけど。
けど、僕たちは今までと変わりなく、ホワイトピックや、兎の討伐を行っている。
キシュアさんいわく、「簡単に倒せて、しっかり稼げる。危険もないから、安心」なんだって。
だから、ポーション代を稼ぐために、そんな魔物をずっと狩り続けている。
そのポーション代だけど、数がなくなったとの事で、通常の5倍まで値段が上がっていたのはびっくりした。
「とりあえず、80本はあるから、安心だけどね」
キシュアさんはそう言って、笑っていたけど。
かなりお金を使ったから、カイルたちも貯め直さないといけないらしい。
そんな事を言っているけど、ずっとしっかり稼ぎ続けているから、3人がお金に困っている風には全く見えないんだけどね。
町には青い鎧を着こんだ、騎士団も到着していた。普段は、青いマントに、青いローブ風の服を着てて、見ていてカッコいい。
蒼碧騎士団と呼ばれていたけど、剣も蒼白いし、僕の孤児院の妹たちは、あの人達と結婚するっ!と騒いでいた。
そんなこんなで、大規模討伐戦まで、後一週間。町全体が決戦に向けてそわそわしているのを感じていた。
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ピギャッ
鈍い音を出して、ホワイトピックが、倒れる。
「よし、こんなものかな?」
カイルは、剣をふるい、血糊を払い落とす。
僕たちは、今日は町の近くの森の入り口近くで、狩りをしていた。
「本当に、ギルドて面倒な依頼を出すわよね。ホワイトピック30匹とか、勘弁して欲しいわよ」
レイア姉さんが愚痴をこぼす。
「まあ、食料不足になっているのは、確かですからね」
キシュアさんも、ちょっと気だるそうに答えていた。
そう。僕たちは、ギルドから指名依頼として、ホワイトピック30匹の納品依頼を受けていた。
はっきり言ってやめて欲しいと思う。そんなに、大量に数がいる魔物じゃないのに。
どうやら、僕たち、炎の楔が、定期的に討伐しては、売りに行っていたのが、いけなかったらしい。
きっと秘密の狩場を知っているのだと思われて、じゃあ、いっぱい狩って来て。 となったようなのだ。
そんな秘密の狩場なんか無いのに。僕のスキルのたまものなのに。
ギルドの人が、話しをする中で、何度もそんな事を思ったけど、僕のスキルは3人以外には秘密にしてるから、文句も言えない。
結局、ごまかす事もできなくなって、受ける事になってしまったのだった。
「これでとりあえず、帰るか。」
カイルが、ホワイトピックをギルド特性の空間収納が付与された特別制の袋に回収しながら、呟いた時。
突然、矢がカイルの腕に刺さった。
「ぐっ!」
カイルが自分で、矢を引き抜いたのを見て、
キシュアさんが、素早く回復魔法をかける。
「大丈夫?カイル?」
僕もすぐに、レイアさんの横に移動する。
次の瞬間。数十本の矢が一斉に飛んで来た。
次々と剣で矢を叩き落とすカイル。
保護魔法をそんなカイルへ追加でかける、キシュアさん。
「来たわよっ!て、何?あの数」
レイアさんが叫びながら、森の奥を見る。
ざっと、見えるだけで30体はいる。弓持ちと、こん棒持ちのゴブリン。
無理。
僕はそう判断する。
「逃げるぞっ!」
カイルが叫んで、後ろを向こうとした時、足に黒いツタがからまっているのが見えた。
「ちっ!勘が鈍ってやがる。みんな、気をつけろっ!ゴブリンレンジャーの縄張りに入っちまった!」
ゴブリンレンジャーの縄張りには、足止めトラップが張られる。
その一つに引っ掛かったみたいだった。
見るとキシュアさんは、沼みたいなものにはまっている。
「ゴブリンアーチャーもいるみたいですよ?これ、どうしますかね?」
足止めし、矢の一斉射で、獲物を仕留める、弓ゴブリンの狩りの仕方だ。
「来たぞっ!」
森の奥から、矢が一斉に飛んで来る。さっきの倍以上。
「絶対結界っ!」
僕は力一杯叫んだ。
カイルの前に結界が張られる。
盾役は絶対守らないとっ!
カイルを狙った、全ての矢が、光りの壁に弾かれる。
「シン!お前は町に走って、この事を町の門番に伝えろっ!」
カイルが叫ぶ。
「ダメだよっ!おいて行けないよっ!」
僕が叫ぶと、カイルから、さらに怒鳴られた。
「ガキを守りながら、遠距離の敵と戦うのは、しんどいんだよっ!お前が助けを呼んで来てくれりゃ、済む話しだっ!とっとと行って来いっ!」
「行って来て。私たち、強いのよ?死にはしないわよ。それよりも、これ以上数が増えたら、私たち3人だけだと面倒なの。お願い。」
レイアさんにも、お願いされる。
「このお使いこなしたら、キスのご褒美あげるわよ」
追加で、笑うレイアさんを見て僕も笑いが出た。
「カイルに殺されるから、やめとくっ。怪我しないでよっ!行って来るからっ!」
僕は、町に向かって必死に走り出した。
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「行ったか」
俺、はシンの後ろ姿を見ながら呟いていた。
レイアが俺の横に来ると、じっと見つめて来やがる。
額に汗が出ているのが自分でも分かった。
手も足も少し震えている。痛いからじゃない。毒と、死への恐怖からだ。
俺はあきらめて、じっと見て来る恋人に白状した。
「わりぃ、多分、効果が遅い致死毒だ。アーチェリーがいやがる」
「バカ」
泣きながら、レイアは、俺の腕に触れる。
最初の一撃。シンの索敵範囲外からの攻撃。
「多分、大攻勢ですね。これ」
解毒魔法をかけながら、キシュアが呟く。
目の前には、ゴブリンが群れで、見えていた。
視界いっぱいに。
もう、逃げ切れない。
致死毒は、解毒するのに、時間がかかる毒だ。解毒魔法をかけてもらいながら、町でゆっくり半日は安静にしとかないと、消えない上に、歩き回ったりすれば、必ず死んでしまう。
「本当にわりぃ。レイア、お前も逃げろ」
「あら?逃げて何?あなたの墓でも守りながら暮らせと?真っ平ごめんよっ!」
レイアが炎の壁を生み出す。
キシュアの解毒魔法で身体が軽くなるが、しょせんは応急処置。気休めでしか無い。
だが動ける。レイアがキシュアが作ってくれた少しの時間。
キシュアが、さらに、強化魔法を俺にかけてくれる。
シンの結界が目の前で薄れていく。
守りも無くなった。
「みんな、本当にわりぃ。アリンに叱られに行って来るわ」
「あら、大丈夫よ。私が、アリンを言い負かしてあげる」
「アリンは優しいですから。そんな事言いませんよ」
「あいつが優しいのは、お前だけにだよっ!」
まったく、最高の仲間だ。最高の恋人だ。
キシュアに怒鳴りながら、笑っている自分がいた。
やれるだけやるっ!
剣をもう一度握り絞め、気を引き締めると俺は、足止めになっていたツタを力技で外し、走り出す。
「炎の楔っ!カイルっ!覚えやがれっ!ケダモノ共があっ!」
俺は、視界いっぱいの敵に突っ込んだ。
みんな、最高の時間をありがとう。
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僕は必死に走っていた。
速さにもう少し振っとけば良かった。後悔する。足が重い。けど、走る。少しでも速く、速く。
あの人達が死ぬなんて事はないだろうけど、怪我してたりしたら、すごく悲しい。
とにかく、速く町に行って、門番に伝えて、応援をお願いしなきゃ。
時間にしたら、そんなに走ってないと思うけど、すごく長い長い時間走っていた気分。
やっと、町の囲いが遠くに見えた時、僕は違和感を感じた。
何か、紅くない?
町の空が、赤黒い気がする。
気持ちがザワザワする。落ち着かない。
とにかく、町に向かって、僕はさらに全力で、走り出す。
その時、僕は、あえて無視していたけど。信じたくなかったけど。マップは森の中と町の一部が紅く染まっていた。
9 6 少し書き換えました。