転生? 転移だろっ!
残酷描写あります。鬱展開が多いですので、苦手な方は注意お願いします。
カクヨムで、リニューアル版を書いています。
【あらすじ、話しに→話に】「今日も時間が足りなかった..なぁ」
とある日。終電も無くなった夜中、いやもう朝方に、俺はフラフラと道を歩いていた。
「お前の部署の奴の事だろうが。先輩が助けてやるのは当たり前だろう!」
そんな事を言われて。
やってもやっても、わき出て来る仕事と、後輩や、同僚のミスの処理。
さらには、次々と新しい仕事を持ってくる上司に、殺意さえ覚えつつ仕事をこなし。
やっとひと段落終わった所で仕事場から抜け出すように退社したのだ。
そんな日々がずっと続いている。
ここ最近は残業時間の残りや、今月は何時間働いているのかを考える暇もない。
いつか、残業時間の多さで怒られるだろうが、その時はバカ上司と一緒だ。
そんな黒い事を考えながら、とぼとぼと駅まで歩く。
とにかく、今は布団が恋しい。
もう終電は出てしまったというのに、習性のようにふらふらと駅に向かって歩いている。
ふと目の前がぼやける。
まるで、森の中にいるかのように、周りにうっそうとした木々がビルの合間に見える。
「疲れてるなぁ。癒されたいんだろうなぁ」
幻覚まで見始めたのに、他人ごとのように感じながら歩く。 足は自分の意志を無視して勝手に動いていた。
歩道橋の階段を登った所までは覚えていた。
突然鳴り響いた激しいクラクションの音で目が覚めた俺は、すぐ目の前に迫っていた、大きな明かりと、これ以上ないほどに目を見開いた、トラックドライバーの顔を見る。
階段を登った所までは、登り切った所まではまだ覚えていた。
けど、そこから先の記憶が無い。
歩きながら寝ていたのかもしれない。
そういえば、あの歩道橋、この前車高を無視したトラックが突っ込んで、一部崩落していたような。
ロープが張ってあった気がする。
そんなどうでもいい事を思いながら、トラックの運転手が叫んでいる表情をゆっくりと他人ごとのように見ていた。
何も思い出せないし、何も浮かんでこない。
ああ。走馬灯すら流れない人生なのか。30数年。何もない人生だったな。
何もやり残した事が無いと思える自分の人生に、うんざりしながら。トラックに引き潰され、光に呑まれ。俺の意識はなくなった。
激しい光に包まれ。
唐突に、瞼の後ろにすら見えていた激しい明かりが無くなったのを感じていた。
痛みすらない。
「まぶしく・・・ない?」
俺はゆっくりと回りを見回す。
なぜか、森の中に寝ていた。
薄汚れたスーツに着いていた泥をはたき落としながら、俺は立ち上がる。
さっきまで夜中だったはずなのに。
太陽の光りが木々の隙間から、差し込んでいる。
「何があったんだ?」
周りを見るけど、全く見覚えのない、森の中だった。
目の前にある木は、それこそ日本にあったらご神木といわれそうなくらい大きな物だ。
しかも、それが一本じゃなく、無数に生えている。
見上げれば、どこまでも天高く、枝が伸びている。
「いや、俺、歩道橋から、落ちたうえ、轢かれたよな」
突然の光景に混乱しながら、あらためて、自分の体を確認する。
手もある。足もある。
むしろ安っぽいスーツが汚れているだけで、スーツが破れている所すらない。
「何処だここ? 夢の中なのか?」
うっそうとした森の中で、自分の置かれている状況が分からずに、訳もわからない。
確かに、俺は歩道橋から落ちて、トラックにひかれたはずなのに。
訳は分からないまま、だけど、ずっとここにいても仕方ないので、とりあえず歩き出す。
ジャングルといえばいいのか。巨大な木が何処までも生えていて、地面から生えている雑草も、170センチと、平均身長の自分の背丈にせまるほどだ。
草や低い木の葉をかき分けて進まないと、歩けない。
そんな森の中をしばらく歩くと、突然ガサッと音がした。
その音に、俺は誰か人がいるのかと思い、その方向へ歩き出す事にした。
一番やってはいけない行為ではあった。
【基本歩かない。動かない】なんて山での遭難時の基本を考えられるほど、心に余裕なんて無かった。
俺は、自分の背丈くらいあった藪を掻き分ける。
藪の先には、赤い壁が広がっていた。いや、よく見ると少し動いているようにも見える。
俺はゆっくりと視線を上へと上げていく。
その先に座っていたのは、目が4つある、真っ赤なトラ。座っているのに、見上げるくらいの大きさの。
何で見えなかったのか。そんな大きなものが分からなかったのか。
いや、大きすぎてそれが生き物だとは思わなかったのだ。
その巨大な生き物と、目が合ってしまった。
4つの目でじっと見られた。
自分の身長よりもはるかに上からの視線。
足がすくんだ。動けない。
なんだ。知らない。こんな動物は知らない。
冷や汗が噴き出て来る。
「グルル」
4つ目が唸り、ゆっくり立ち上がり。動き出した瞬間、俺の金縛りは解けた。
生物としての恐怖。捕獲される側の自覚。
「喰われる!」
その瞬間。恐怖が全身を駆け巡る。
すぐ後ろを向いて、逃げる。走る。足がもつれる。木に、草に突っ込む。
木が。草が邪魔だけど、とにかく走る。
怖い。怖い。怖い。
前を見ないで足元だけを見て走ったからか、大きい木に頭からぶつかる。
足が止まった時、真後ろから唸り声が聞こえた。
「グルル・・・」
獣の臭いがただよい。その臭いを嗅いだ時。俺は恐怖から、絶望から、振り返り、力いっぱい叫んでいた。
言葉にもならない言葉を。
そして、俺は意識を失った。
20代はまだ子供だった。先輩の背中を追うので必死だった。
20代終わりで、初めて、自分から勉強する大切さを知った。
30になったけど、俺は、まだ基本子供だと、自覚はあった。
大人になれない大人。自分でも、その一人だと自覚はあった。
「ひっ!」
目を覚ますと、目の前に巨大なトラの鉤ヅメがあった。
ガリッガリッと、目の前の光の壁を引っ掻き続けている。
その壁は壊れないのか、ガリガリされても全くびくともしていない。
自分はぶつかった木の洞にちょうど入る形で後ろに倒れ、気絶していたらしい。
ウロの入り口に光の壁が張られていた。
その壁は今も巨大な虎の巨大なかぎ爪を防いでくれている。
顔が痛い。擦りむいた額から、血が出ているらしい。多分鼻血も出てる。
痛みと一緒に、これが夢でない事を理解させられる。
現実であると同時に、目の前で、がりがりと引っかき続けられる自分の腕以上もある巨大なかぎ爪が絶望しか与えてくれない。
この壁が壊れれば。すぐにでも、自分の体が引き裂かれる事がよく分かる。
引っ張り出されて、頭から喰われるだろう。いや、引っかかれただけで、体が残る気もしない。
「お前、大きいんだからさ。こんな小さいのを狙う必要はないだろう?」
思わず声に出る。
虎は飽きる事もなく、ずっと壁を引っかき続ける。しつこい。
一瞬で自分を切り裂くであろう爪の一本一本の動きがよく見える。
今、何分?何時間経った?
余りにも長く感じる。
ダメだ。気が狂う。
「はははははははは」
誰が笑ってる?
それどころじゃないだろ?
生死のストレスが、恐怖が、限界を超え、俺の何かが弾けた。
その時、トラが視界から消えた。
突然現れたさらに巨大な黒い影がトラをさらって行ったのだ。
もう、大きすぎて、何がなんだか分からない。
ただ。目の前にいた恐怖は居なくなり。
生き残れた安心感で、一息ついた俺の前には、運良くトラの前足一本がまるまる残っていた。
「腹へった」
それだけ呟くと、自分の体ほどもある、その足を一本を引きずり。俺は森の奥へと歩いて行った・・・・
40年。
「がああああッ」
俺は、魔物の骨から削り出した愛用の槍で、2メートルを越えたトラのような魔物を突き刺す。
白髪しかない髪、ただ筋肉だけはすさまじく、ボディービルダーも真っ青であった。
トラが殴りかかって来る一撃を、光の壁で盾のように受け止め、真っ赤な首筋に槍の2撃目を加える。
創作物でよくある、転移したら使える特殊能力。
俺にはこの光の壁が使えた。
最初に命を助けてくれた光の壁。
大きさは自由自在。発動時間も自由自在。
設置して、常備型にすれば、10日は持つ。
これで、拠点を作り、戦い方を考え、いろいろな薬を作り、生き延びた。ただ、ただしぶとく生きた。
絶対結界。
自分でそう呼んでいる力。
体ごと槍をひねり、トラを引き倒し。突き刺していたもう一本の槍を引き抜き、頭を撃ち抜いた。
「ぐる」
俺は満足すると、トラを引きずり拠点に帰る。
40年。生きている人には誰一人会わなかった。
獣や、魔物以外、話しができる存在に一回も会わなかった。
何年目からだったからか。独り言すら言わなくなったのは。
言葉すら忘れ、獣のように生きてきた。
心は完全に置き去りになっていた。
この世界には魔法があった。
魔物が、火をまとい、風で吹き飛ばし、切り裂いてくるのだ。
完全結界がなければ、絶対に死んでいた。
この結界が俺の運命を切り開いてくれた。俺は生きた。生き残れた。
拠点に戻り、魔法で炎を作り、トラの肉にかぶりついた時。
世界の端から、光の壁が走ってきた。いや、赤い壁ともいうべきか。地面がなくなって行く。
空は血を流したかのように真っ赤に染まり。
一瞬後。俺が転移した星は、激しい光とともに弾けとんだ。
2020 8 10 読みにくいと思った所を少しだけ修正しました。
2021 7 28 大幅修正加えました。
2023 1 いろいろ書き換えてみました。