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プロローグ 闇の中

前書きに変えて


 古事記と本書の関係の話だけですんで、めんどくさいことは別にいいよ、と言う方は本編へどうぞ。


 古事記という書物があります。本邦最古の歴史書といわれるこの書物は、神代の天地創造から、聖徳太子こと厩戸皇子が、中国皇帝に対して、『うちのも天子だかんね!』と言い切って激怒させたことでも有名な天皇陛下、推古天皇の時代までが記されています。本書は、基本的にこの古事記をベースとしています。

さて、古事記を語る上で否応なく切り離すことが出来ないのは、現日本王朝、大和王朝天皇家の起源説です。これも様々な説がございます。

古事記から読み取るもので行けば、3王朝交代説。各天皇の名前にある、「イリ」「ワケ」「タラシ」の文字から、王朝の血統が3代分かれたのではないかという説です。

また、騎馬民族征服説というのも在ります。大国主が治めていた日本全域を、ニニギ率いる騎馬民族が制圧した、という説です。他には、「天照=卑弥呼説」なんかも。この二つは「火の鳥」で手塚治虫先生が書かれているためなんとなく有名ですが、学説的根拠は薄いため、支持はされていません。

古事記自体にも、偽書説等のいわくがございます。まぁ、偽書って言ったって、神代のこと書いてんだから学術的な証明は出来ないと思うんですけど。200年も300年も人が生きられるわけないし。

構成自体にも解釈があって、上・中・下巻はそれぞれ内容をリフレインさせているだけなんじゃね?って話もあったりします。

本書は、そういった諸説をごちゃ混ぜに混ぜに混ぜて、歴史物語風にアレンジした、偽伝記ファンタジーです。(魔法や怪物は出てきません、あしからず。ドラゴンも退治しません。あしからず。)ので、本気にして、『実はこうだったんだぜ!』とか吹聴すると、痛い目を見ます。または痛いものを見る目で見られます。という所だけご確認のうえ、どうぞ本編をお楽しみくださいm(_ _)m


物語は中国史で呼ばれるところの新末後漢初、西暦で言う所の30年代。今現在日本と呼ばれる領域の、西の境界から始まります。


 海は何処までも暗く、奈落のそこへ誘うかのように闇をたたえていた。頼りになるのは己の手の中にある槍の感触のみ。後ろに続く船を見やる日岐峰ひきほうは、改めて自分達が負けたのだということを思い知っていた。

 劉秀文叔りゅうしゅうぶんしゅくの軍が弁韓の領国に押し寄せたとき、一帯でも名のある名家であった日氏は当然の如く徹底抗戦を訴えた。しかし、かつて大陸をすべた”漢”の名を冠した劉秀に周囲の豪族達は瞬く間に寝返って行った。あまつさえ、内通者は同族日氏からすらも出た。

「とにかく、蓬莱までたどり着ければ。そのような顔をなさいますな、皆の不安を煽ります。」

傍らにある堤羅子ていらしの言葉もまた不安に満ちていた。

「分かっているさ。」

それを聞いて、彼もまた、不安に身をすくめていた。

 当初国を出たとき500人いた同族も、いまやその数100人を少し超えるほどまでに減っていた。脱走者、餓死者、波に飲まれたもの、敵方に走ったもの。多くの別れと裏切りを経て今に至っている。岐峰だけでなく、生き残った誰もが疲れ果てているのは明白だった。

 日岐峰は兄達や叔父、父を喪い今、日氏の長としてそこに在った。自分の肩にかかっているのは、この100人の命。それをどうすることも出来ない重荷と感じてしまう自分に、さらに嫌悪感を催し、岐峰は深く続く闇に目をやった。


 同じ海の対岸。

海岸にたった遠美君えんびくんもまた常闇に視線をやった。逃げ延び、この一支国に保護された今も、この東夷の地で、これからどうすればいいのか、この海のように自分達の未来にも暗澹たる闇が広がっていた。

もとより楚の地に地盤のあった遠氏は、前漢王朝哀帝の娘を保護し妃として迎えたことから祖父の代から南部における有力豪族たちの中心となった。劉秀の軍に対しての旗頭として、哀帝の孫に当たる父、遠比士えんびしが担ぎ上げられるのも当然であり、比士自身にも劉秀を倒し中華全土を統べる野望があった。

しかし、劉秀の軍勢は強かった。あくまでもばらばらの豪族の連合である南部軍は統率の取れた劉秀軍に蹴散らされた。

台湾の高砂族も、琉球の王家も、逃げた先の長達は悉く劉秀への恭順を誓っていた。比士の首を劉秀に届けるために、誰もが牙を向いた。からがらに逃げ延びてやっとたどり着いたこの一支国の王、帥氏はいまだ中立を保ち、一時的な保護として美君ら遠氏を受け入れてくれた。

しかし、それも一時的なことでしかない。長くいれば帥王にあだをなすことになる。しかし、その先の見通しなど全くないのが現状なのである。

「体に障るぞ、少しでも眠れ。」

叔父である遠撥耶えんはつやが、後ろに立っていた。

「撥耶兄様。」

 比士の年の離れた弟である撥耶は、美君にとって実の兄のような存在である。美君の不安を言わずとも感じていてくれるのが痛いほどに分かった。

「これからどうなるのか、などと考えているならさっさと寝たほうがいい。食えるうちに食い、寝れる時に寝ることだ。何が起こっても生き延びることが出来るようにな。」

 撥耶はそういって去っていく。

生き延びること。それ以上は今臨むべくもない。しかし、それすらも危うい。美君もまた海の先に深く深く続く闇に目をやった。


この、一つの海を挟んで立つ二人はいまだお互いを知らない。その先、何百年と続く大きな物語はこの闇を隔てて始まるのである。


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