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ガレイロ銘菓 ラトンケーキ

「とりあえずミャア, 今日の寝床を探しに行こうか?」


「えぇ...もう少しここで日向ぼっこしていかない? こんないい天気なのに, わざわざ人の多い所に行かなくていいじゃん。」


と言って, 彼女は草原に寝転んだしまった。太陽の暖かい光に包まれて表情は早くも蕩けている。このままでは本当に寝てしまいそうだ。


「駄目, はい起きて。今日の夜, ここで野宿する羽目になるよ?」


「えぇ...それもやだなぁ。」


「はい, じゃあ近くの町に行ってとりあえず宿を探すよ。」


とは言ったものの,

「ミャア, ここから一番近い街はどこにあるの?」


「え? 知らない。」


「え..? じゃあ, ミャアはここにどうやって来たの?」


「なんとなく, 天気が良かったから, 日向ぼっこに向いているところないかなぁ って探してたらここについた。」

「それに, 君 自分が管理者なの忘れてない? それくらいは出来るでしょ?」


言われてみればごもっともな話だ。管理者権限をもってすればそれくらいは造作もないはずだ。とは思ったものの,

「どうやって使うの?」


「『Command List』って言うと一覧が出てくるよ。」


「Command List」


「...すごい量だな。近くの街を調べるのはどれだ?」


リューが唱えると同時に再び彼の目の前に, 空色の光板が出現しスクロールを数回繰り返しても終わりが見えないくらいの膨大な量の文字列がずらっと書かれていた。


しかしながら, リューの独り言を認識したのだろう。先程の光板の横に『Map + 検索したい内容』と書かれている光板が出現した。


「あぁ, なるほど。これは便利な機能が備わってるじゃんか。」

『Map 最近隣の町』


シュン

彼の目の前に4枚の光板が浮かび上がった。左から"町中心部の画像", "街の地図や座標情報", "施設や人工等の情報", "現在地からの通常の移動方法"が表示される。

イノーラント王国 アギマナ辺境伯領 第二都市ガレイロ。現在地から馬車・徒歩で4日間。


「は? 4日ってクラ, あなたどれだけ街から離れたところに居たのさ。」


「そんなこと言ったって, 私だって『お昼寝に丁度いい場所』ってここに着たんだもん。」


「まぁ, 良いか。さっきテレポートのコマンドがちらっと見えたし試してみるけど, ちゃんとついてきてね?」


「いいよ。」


なんなんだろうか, ミャアを見ていると, ペットとか妹弟を見ている気分になるんだよな...。俺もかなりの面倒くさがりやなはずなんだけどな?


『Teleport イノーラント王国 アギマナ辺境伯領 第二都市ガレイロ』


-----


イノーラント王国 アギマナ辺境伯領 第二都市ガレイロ

人間族最大の国家であるイノーラント王国。魔神率いるヒルビンス帝国。その境に位置するアギマナ辺境伯爵領。

その立地からこの爵位領は軍事的要所になりやすく, 王都に比べて治安が落ちやすいが, 一歩郊外へ足を運べば広大な自然が広がる快適な街である。


ガレイロの中心街につながる路地の1つに空間のゆがみが発生した。その歪みは靄を発生させ, 清廉な顔立ちの青年と中性的な穏やかな表情の2人が出てきた。

第二都市とはいえ10万人を超える人口の大きな都市であり, 路地から出なくとも通行人の会話や, 商人の声, 工場から聞こえてくる音などが響いている。


「着いたよミャア。想像以上に活気あふれる街なんだな。辺境伯爵領だから失礼な話, もう少し簡素な街だと思ってた。」


「本当にね。思ってたより, 面白そうな町で少し興味がわいてきたよ。」


「それは良かった。」


とりあえず今のうちに通貨を最低限作っとくか,

『Make この世界の通貨』


チャリリン

リューが拡げた左手の中にそこそこの額がが入った革袋が生成される。通貨を生成することは経済に影響を与えかねないが, 彼が作った分くらいでは左程ものではないだろう。

この星には, 下から 鋼貨 銅貨 銀貨 金貨 白銅貨 白金貨 が存在する。日本円に換算するなら, 100 1,000 10,000 100,000 1,000,000 10,000,000 位が近しい。

厳密には, 特殊貨として爵位家当主が発行する硬貨があるが, これは家柄や状況によって左右されるうえに, 滅多なことでは世に出回らないため, 通貨として用いられることは無いに等しい。


リューが路地から出ると, そこは1つの豪華な噴水を中心とする大きな広場があり, 噴水を交点とするように東西南北に太い街道が走っている。

建物は, 煉瓦と木材が融合した趣のある作りになっている。街灯のようなものや, 水路も見受けられ十二分に発展している都市だという事が伺える。


「宿屋は何処だ? とりあえずあっちに向かってみる?」


「いいよ。」


2人は, 広場を通り南に伸びる街道へ歩いて行った。

南側は様々な商店や食堂などが並ぶ活気盛んな街道で, 人の交通量も多く, 行商人や旅人に冒険者, 中には人間ではない種族まで歩いている。

これだけ栄えた街道ならば, 宿屋の1つや2つはありそうだ。


「リュー, 何あのお菓子。 おいしそうじゃない?」


「確かにおいしそうだな。宿屋を訊くついでに買ってみるか。」


ミャアが指差した先の屋台ではパンケーキのような生地にベリーを混ぜこみ, クリームやチーズでコーティングしたお菓子がおいしそうにガラスケースに並べられていた。

その屋台の中では, Tシャツ姿の凛々しい愛嬌のある顔つきの青年が, 果実を切っていた。


「お兄さん, これなんてお菓子?」


「はい, いらっしゃい。これは, ラトンケーキと言って, 目の細かいスポンジにラトンと言いう果実を混ぜ低温でじっくり焼いたケーキだよ。」

「元々は名前の通りラトンの実だけを使ってたんだけど, 最近はお客さんの好みに合わせて色んな果実を使ったり, クリームやソースと合わせたりしてるんだ。1つどうだい?」


「いいね。お兄さんのおすすめの組み合わせで2つほどちょうだい。」


「OK. じゃあ, シンプルなのと果実多めの2つでどうだい? 少し待ってくれれば, もうすぐ焼きたてのを出せるよ。」


「じゃあ, それで。」

「話かえて悪いんだけどお兄さん, この辺に宿屋ある?」


「宿屋ね...この街は大きいからたくさんあるけど, どんな宿屋が良いんだい? 見たところ, お兄さんらこの辺の人じゃなさそうだし, かといって旅人や冒険者に見えないし。」


屋台のお兄さんは, 会話をしながらも手早く生地を焼いている竈の確認をしたり, 他の果実を切り始めたりしている。


「そうだね...観光客って言ったところかな。」


「そうだったのか。一応, この都市は近くの都市からそこそこ離れてるから, 冒険者でもない限り宿屋を知らずに来るなんて珍しいんでね。」


「まぁ, 気にしないでおいて。危ないことは何一つしてないから。」


「そうかい, もとから詮索はする気ないから, 大丈夫だよ。で, どんな宿を探しているんだい?」


「私は部屋が広い所が良い。」


「じゃあすぐそこの中央広場を東に進んで数分のところに赤い屋根の大きな建物があるはずなんだ。そこはどうだい? 少しは値が張るが, 評判のいい宿屋だよ。」


クラが若干食い気味に会話に入ってきた。

けれども, 屋台のお兄さんは爽やかな笑顔で答えてくれた。さっと答えられるに, この街に詳しいのだろう。


「ありがとう。行ってみるね。」


「と, お兄さんや。ラトンケーキできたよ。鋼貨8枚ね。」


「はい, ありがとう。」


ファルはラトンケーキを受け取った後, 革袋から銅貨を1枚取り出し手渡し, 中央広場と呼ばれる最初に出てきた広場に歩いて行った。

中央広場の噴水沿いにはベンチや簡単な机が設置されていて, ファルとクラはそこに座って落ち着いた。


「ミャア, このケーキすごくおいしい。」


「そうだね, あのお兄さん, いい仕事するな。また買いに行こうか。」


「うん。」


果実たっぷりのラトンケーキを頬張るクラは, 満面の笑みを浮かべている。

彼女の中性的な顔立ちと相まって, その表情は多幸感にあふれて見え, 可愛らしく純朴になっている。


はぁ...本当にクラを見てると妹弟を見てるみたいだなぁ..。


「へぇ, リューって兄弟いるんだ。」


「え? うん。2つ下の妹と6つ下の弟。」


「下の子って可愛いの?」


「そりゃあ, 我が子のように可愛いよ。」


「会いたくなったりしない?」


「ん...まぁ, 私が居なくなって大丈夫か心配だけど, どっちもしっかりした子だから, 私が居なくても元気にやってけるかなって。」


「そういうもんなんだ。」


「ミャアは?」


「ひとりっ子。」


~数分後~


「じゃあ, そろそろいこうか。」


「うん。」


-----


ミャアとリューはラトンケーキを完食した後, 東側に伸びる街道に向けて歩いて行った。あまりのおいしさに買い足したラトンケーキを片手に頬張りながら。

東側の街道も南側と同じように人通りが活発で様々な建物が立ち並んでいるが, 南側に比べて1つ1つの建物が大きく整ったものが多い。

その中に一回り大きな建物があった。四隅の大きな木の柱に赤レンガと木版の調和が美しく, 屋根は夕焼けのような濃い赤の瓦葺で, 高級感や美しさがある。


「たぶんここだよね?」


「うん, 合ってると思うよ。」


「入ってみるか。」


リューが正面の黒檜の大扉を押し開けると, そこには赤絨毯にガラスと水晶製の大きなシャンデリラのある広間が広がっていた。入って正面には受付と思われるカウンターがあり, スーツ姿の男性が立っている。

清潔感があり姿勢の良さや服装などから, 教育の行き届いた宿屋であることがうかがえる。


「こんにちは。急で申し訳ないんですけど, 今日部屋空いてますか?」


「はい。ベーシッククラスになってしまいますが, 空きがございます。」


「分かりました。ミャア, 部屋どうする? 別々が良い?」


「一緒で良いよ。」


「じゃあ, 一部屋貸してください。」


「かしこまりました。1泊夕食・朝食付きで銀貨3枚となります。」


おぉ..さすが高級感のある宿屋だけあってそこそこの値段するね。でも, 夕食朝食を用意してくれるのはありがたい。


「質問なんですけど, この辺に不動産屋はありますか?」


「えぇっと...不動産屋とは?」


「んと...土地とか建物とかを売っている店ですかね。」


この世界には不動産という言葉がないのか。そりゃあそうか, そもそも不動産という単語自体が民法に由来する現代の言葉だしなぁ。


「それならば, 南街道を奥に行くと広場がございます。その広場に面する大きな丸屋根の建物がこの都市で一番大きな協会になっています。」


「ありがとうございます。」


-----


ガチャ

今夜宿泊するホテルの一室を開けると, 廊下と同じ絨毯がひかれ中央にはクイーンサイズのベッドが置かれている。

南側に大きな窓があり, 椅子や机などは高級感にあふれたもので統一されている。


「わぁ, 良いホテルだけあってすっごく快適そ。」


「確かに, 居心地はよさそうだな。」


ミャアはベッドに飛び乗りごろごろし始めている。ふかふかの布団に乗って心地が良いのだろう, 彼女の表情は早くも蕩け始めていて, なんともほのぼのしい風景である。


「さぁ, ミャア。日が暮れる前に不動産屋に寄っていこう。」


「えぇ...宿屋もとれたし, 今日はここで休んでいこうよ。」


「駄目, まだ明るいんだから今のうちに行くよ。夜になったらいくらでもごろごろしていいから。」


「は~い。」

長くなってしまったので, 次話に続きます。

大体1話あたり200行を目安にしています。


お久しぶりです。本当にお久しぶりですね...。

描きたいことは色々あるんですけど, 気力が足りなかったのです。

はい, 頑張ります。


新作始めました。両方読んでいただけると, 物語が進むにつれ楽しくなると思います。

『創世神だけど転生したので魔神に仕えてみます。』

https://ncode.syosetu.com/n0797fy/


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