自由人作者は秘密アリ?
草原で気持ちよさそうに横たわっていた彼女が, ぴょんと体を起こして,
「君も大変だね。よくわからないところで目が覚めて, よくわからない人に連れられて, よくわからない場所でよくわからない人が待ってて。」
まぁ, そうなんだけど...君はだれ?
彼女の明るい笑顔とは反対に, 青年の頭上には疑問符が浮かんだ表情になった。
「まぁ, 君の疑問もごもっとも。」
え..? この人...私の考え読んだのか..?
「私は作者だよ。って言ったじゃん。」
本当に何で..怖いんだけど。
青年の顔に浮かんでいた疑問符に, うっすらと警戒心が混ざり始めた。
「まぁ, 怖がるのが一般的かな。」
「君, このまま怖がられてても話が進まないからさ, そろそろ納得してもらっていい?」
いやいや...そんなことできる訳..できる訳...できた。
「ありがと。」
まさか...この人が何かした!?
「そういう事。だから言ったでしょ?『私は作者だよ』って。」
「作者なんだから, 登場人物の考えてることぐらい書き換えられるよ。文字通り, この世界の全ては私の意のままだよ。」
あ...そうか。これは夢か。
「夢じゃないよ。」
そうか。夢じゃないのか。
え...待って。私の言動は全部この人の意のまま..? 怖い。
「あぁ, その点は大丈夫。」
何が..!?
「君はラプラスの悪魔って知ってる?」
「乱暴に言えば, 現状のすべての全物質の位置と運動量から未来を知ることのできる存在のこと。」
「私達人間の脳も物質である以上, この世の物理法則からは逃れられないでしょ?」
「なら, 私達が1秒後に何を考えるのかも決まっているでしょ?」
「つまり, 私達人間も『自分の意志に基づいている』って思ってても, 実際は物理法則に従って思考してるだけ。」
「それが物語の主人公である君にとっては, 私の書く文字列だってだけのこと。」
なんか急に難しい話になったな...半分くらいしかわからない。
「乱暴な例えをだせば, 洗脳されている人が『自分は洗脳されてる』って自覚してると思う?」
「『自分は他人に意志を操られててこわい』なんて考えると思う?」
思わない...だろうね。
「でしょ? 彼らは自分の意志で考えてるようで, 実際は誰かの考えに従って思考してるだけ。」
「もし仮に世界の全人類が一つの洗脳にかかっていたとしたら?」
「それが普通だから『君は洗脳されてるよ』って教えてくれる人も, 自分で気づくこともない。」
まぁ, そうだろうね。
「それと一緒。世界の摂理として私の書く文章に従って思考している。」
「けど, 自分で思考しているって思っているから, それが物語の登場人物にとっての普通であり真実なの。」
「君は『自分は物語の登場人物である』って自覚したことある?」
あるわけないじゃん?
「そういうこと。」
つまりは, 『俺にとってはそういうものだから仕方ない』的な感じ?
「乱暴に言えばね。あと, そろそろ吹き出しを使って会話してくれない?」
「あぁ, ごめんごめん。」
彼女に言われて, 自分が声を使わずに会話していたことを初めて自覚した。
自分では普通に会話していたつもりだったのだが, コミュニケーションが成立していたため, 全く気にかけていなかった。
おそらく彼女の言っていることもこういうことなのだろう。
事実がどうこういうよりも, 自分がどう思っているかが, 自分の中の真実である...的な??
「まぁいいか, それは追々に納得してもらうとして, とりあえず物語を進めよっか。」
まぁ, 確かにこのまま難しい話を続けるわけにもいかんしな。
「とりあえず, ここはどこ?」
「ここは, 第3世界 第2宇宙 第24624星 イノーラント王国 アギマナ辺境伯領 第二都市ガレイロ」
「ちなみに地球は, 第2世界 第16宇宙 第739777星だよ。」
「ということは, ここは地球とは違う世界ってこと?」
「そういう事。」
彼の想定外の答えが帰ってきたのだろう。
不思議そうな怪訝な表情をうっすら浮かべている。
「君は作者らしいからな, 異界の星に呼ばれたことについては仕方ない。」
「さっき俺が主人公であると言っていたが, 俺は転生させられて何をすればいい?」
「特にないよ? 強いて言うなら私とこの世界を旅して。」
「は...?」
青年の顔に浮かんでいた怪訝な表情が消え, 面食らったような純粋な疑問が表情から読み取れる。
「この世界は色々と面白い事になってるから, あちこちを見て回りたいんだけど, 私一人で行くわけには行かないじゃん?」
「だって私は作者だもん。それと, 詳しいことは後々教えてあげる。」
「なるほど, 旅のお供をしろと?」
「じゃあ, 最後にもう一つ。私はいずれ地球に戻れるの?」
「転生戻しね。できるよ, 簡単。私は作者だもの, 1行足せばお終い。」
「ただ, 物語が終わっちゃうし, なにより それじゃあ私が面白くないから 却下。じゃあ こうしよう。『この物語が 最終回を迎えることになれば, その時は前の世界に帰してあげる。』」
「まぁいいか。旅は嫌いじゃないし付き合おうじゃないか。」
青年の顔に浮かんでいた疑問符が少し薄れ, 納得と安心を感じる表情になっていった。
「ありがと。それと, そろそろ君を『青年』って書くのも何だし自己紹介してくれない?」
あ。俺のこと『青年』って書かれてたのか。
そりゃあ, 自己紹介も必要か。
「俺の名前は 龍ヶ谷 紳。地球では一介の大学生だった。」
「趣味は旅行と読書。まぁ, ありきたりな自己紹介だな。」
「うーん...。毎回『龍ヶ谷 紳』って書くのも変だし, そもそもこの星は名前がカタカナの世界だしなぁ。」
「そうだ。君は今から『リュー』ね。」
リューは少し驚いた顔をしつつも, すこし嬉しそうな顔をした。
「まぁ, 地球でも『りゅう』ってあだ名だったしな。」
「で, 君の名前は?」
「私の名前はミャア。」
「ミャア? なんか猫の鳴き声みたいな名前だね。」
「分かる。私もそう思う。」
ミャアの顔にもリューの顔にも明るい笑顔が浮かび, 二人の間には打ち解けた雰囲気が漂っている。
彼らのいる場所が, そよかぜの吹く草原であることも加えて, ますます平和なムードを感じさせる。
「あ, そうそう。君に1つプレゼントあげる。」
「この世界に転生させて何も無しじゃ大変でしょ?」
ミャアがそう言うと, リューの前に一枚の青空色の光の板が現れ, そこには『ミャアから管理者への招待があります』と書かれていた。
「管理者?」
リューが不思議そうな顔で質問すると,
「そう。管理者。文字通りこの世界を管理する権限を持つ人のこと。」
「その招待を承認すると, 君はこの世界の摂理の上に立つことができるようになるよ。」
「摂理の上に立つとは具体的にどういうことなんだ?」
「君はオンラインゲームのGMがプレイヤーにキルされると思うかい?」
「彼らはプログラムというゲーム世界の摂理を支配しているから絶対的存在なの。」
「それと一緒。この世界の摂理の上に立つ管理者は, たとえ天神だろうと傷つけることはできないし, 魔神と力勝負したって勝てちゃうどころか, 創世神の意思に反する世界の書き換えだってできちゃう存在ってこと。」
「そんな権限を俺に渡しちゃっても良いのか?」
「魔法があって, モンスターのいて, 力による統治があるこの世界で, ゼロから成り上がる覚悟があるなら良いけど?」
「...いや, ありがたくうけとっておこう。」
「でしょ?」
もらえるものは受け取っとくに越したことはないし, なにより護身のためにも強い力が有ったほうが良いしな。
リューが光板の『承認』の文字に触れると, 文字盤の文字が『管理者になりました』と書き換えられた。
ミャアとリューの会話が一段落ついたのを見計らって, ここまでリューを連れてきた二人が,
「では, 私たちはここらへんでお暇しますね。」
「あまり硬くならずに, この世界を楽しんでね。」
「君達, 居なくなるの?」
「はい。最初に言った通り私達はお使いで, リューをミャアの所に案内するまでが任務だからね。」
「ばいばい。」
そういうと, 二人の周囲に青白く輝く光の柱が幾つか立ち並び, その光の収束と共に帰っていった。
ご愛読, ありがとうございます。
今回で, 作者の登場ですね。
いや~この人, 本当に自由人ですね...どこかで見覚えのあるような人なんだけど, 誰だったっけか。
という訳で, 次話も読んでいただけるということで, ありがとうございます。
まだまだ, 書きたいことが山ほどあるので, すぐに投稿できるかと。
ではでは。