獣の王
リュメルの森
近隣国からは魔の森とも呼べれており、迂闊に迷い込めば生きて戻る事は出来ないと言われている。
しかし、この森の最深部には甘い蜜を出すルメルの木が自生している。
ルメルの蜜は、近隣国だけでなく全国で人気があり高値で取引されている為、ルメルの蜜を採取しようとリュメルの森に入る人も後を絶たない。
何故リュメルの森が魔の森と呼ばれているか、それはルメルの蜜を求めているのは人間だけで無いからだ。
獣王 リュメル
世界最大の獣であり、最強の獣と呼ばれる熊である
この森は、その名の通りリュメルの領域であり、この森に住まう全ての獣、魔物、熊はリュメルの配下である。
この森で熊を狩る事は重罪であり、見つかれば生贄として手足の腱を切られ森の中に放置する、という刑罰が存在する国もあると言う。
誰もリュメルと敵対しようと思わないのだ。
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「この無駄にだだっ広い森の必要性を問いたくなるくらいに広いな」
フィルリオが、リュクスの森に到着して一週間が過ぎていた。既に初日に出会った熊は全て胃の中である。
次の獲物を狩らねば食料は無いのだから、餓死が近付いて来ているのを感じる。
「死にたくは思えども餓死は嫌だな。
熊も初日こそは良く見かけたのに、ここ数日は一切見ない。
熊だけじゃ無い、魔物も獣も見なくなったな」
実際、初日の熊以外は生き物に出逢っていなかった。
生き物の気配は感じれど、姿は見えずといった感じだった
スゥ––––––––––––
ある時、目の前の空間が裂けた。
そこから見えるのは闇。
しかし、此方を覗く二つの眼があった。
『我が同胞を殺し、食らったのは汝か?』
腹の奥まで響く、ズッシリと重い声で闇の中の眼は問いかけて来た。
最強の肉体、それを動かすは最強と呼ばれた師から受け継いだ技術。
それでも勝てないと本能が告げていた。
全身が強張り、緊張が増す
勝機はゼロに等しい。
–––––––––此処では死ねない。
死を望んでいた少年は死を拒んだ。
理由は分からなかった。
「ああ、君の言う通り。彼を殺し食らったのは私だ。
私は生きねばならない、理由は未だ分からない。
しかし、その理由を探す為に生きる必要があった」
『.....汝からはあの男の匂いがする。
何処からこの森に参ったか?』
あの男...?
この五年間常に近くにいた人間は師匠だけ、つまりはあの男=師匠ということか
「この森を麓とする、あの山から」
『あの山に住んでいたということは汝...エルシオの親族か?』
やっぱり師匠関連の人物(?)か
師匠繋がりだと碌なモノはいない!と断言出来る五年間を過ごしてきたのだ、正直関わりたく無い。
フィルリオは気付かなかったが、エルシオの名前がでた時から、眼が意図してか眼の放つプレッシャーは薄れていた。
それと同時に、フィルリオも緊張は消えていた
「エルシオ・リンクスは私の師です。
何か昔、エルシオが?」
『エルシオの弟子か...
そうなれば、汝に手を出す事は出来まいて...
何よりその反応、我を知らぬようだ。此度は許そう。
しかし、二度目は無い。
この道を真っ直ぐ進めば他の国に出よう』
話が繋がっていない。
だから、師匠関連は関わりたく無いんだ
それでも、重要な情報は得た。あと気になるのは、この眼の持ち主だ
「あなたの名前をお教え願いたい」
『去れ。』
この言葉を残し、空間が埋まり元に戻っていく。
相変わらず腹の奥を響すが、最初に比べ重さは無くなっていた。
名は聞けなかったが、またいずれ会う事もあるだろう。会いたくは無いけども...
そんなことより、真っ直ぐ進めば国!
どの国かわからないが国!
国に着いたらまずは食料だな!
フィルリオは眼に言われた通り、真っ直ぐに進んでいく。
この森の領主の言葉を信じて
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これが、彼等の最初の出会い
最初があれば最後があれども、まだ先のこと
彼等はこれから先も頻繁に出会うことになる