最強
始まりは五帖程の広く無く、それでも狭くは無い一室で始まった
「早く回復魔法を!」
青白く染めた表情で叫ぶ女性の声
「まずは出血を止めろ!
出血が酷すぎる!全てが手遅れになるぞ!」
両手を真紅に染めて、傷を押さえる男性の声
「必ず“母子”両方を救うんだ!」
そう、言い放ち回復魔法を唱えつつ止血する方法を模索する年老いた男性の声を最後に何も聞こえ無くなった
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聞いた話によると
助かったのは子供だけだったらしい
この村では出産途中で母親が死に、子だけが助かるとその子は忌み子として扱われるという暗黙のルールがあった。
生まれると同時に、一人の母親を殺して生まれてきた、生まれながらにして殺人者と認識されるらしい。
そのせいで俺は、村八分的な扱いを受けている。
あの場所の事はうっすら覚えていた。やっと死ねて終わっていた筈だったのに
この身体は強すぎた。
その強さに母は適応出来なかったらしい。
俺を産むと、事切れた様に静かに眠るように最期を迎えたらしい。
あれから十年後
父は殺人者の親という立場、扱い。その全てに耐えきれずに死を選んだ。
父は最期まで俺を恨む素振りは見せず、何かある度に、ごめんなと謝っていた。
謝罪の理由は理解出来なかったが俺も父に対して恨みは一切なく、ただその選択肢が選べた父が心底羨ましかった。
水に沈みそのまま死ぬ事も出来なかった
炎が身を包みそのまま死ぬ事も出来なかった
刃物が我が身を貫く事も無く、傷一つも付けることは出来なかった。
その度に思い出した。
『君には与えられなかった。
それでも、それに近しいモノは与えられそうだよ
たっぷり後悔しておいで
そして–––になりなよ』
あの時ソレが言った最後の言葉
そして–––––最強になりなよ––
俺には理解が出来なかった。
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俺...私が生まれたあの日から既に十五年経った。
今でも死ねずにいる...生きている。
私は父を失った時に家を燃やし、村を出た。
それ以降戻る事は無かった。
既に私の生まれた村は存在していない。
噂によるところ、人口三百人程だった村は一晩で滅んでしまったらしい。
私は名前を変えた。
無理やり性格も変えた。
全てをやり直そう。
そしたら死ねる筈だから...
そして逢いに行こう。
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東の山の山頂付近に住む人物の噂を聞いた
曰く、彼の人物は熊を素手で殴り殺す
曰く、彼の人物が住む東の山は最低ランクがB -以上の魔物しか生息していない
曰く、彼の人物は老い先短く自分の全てを受け継ぐ事の出来る弟子を求めている
私はその話を聞き、その人物に弟子入りしようと心に決めた
弟子入りが許可して貰えれば、私の力を上手く導いてくれるかも知れない。
許可して貰えなかった場合、その山の魔物に殺して貰えれば良い。
そう思い、家に火をつけて村を出たのだ。
村が滅んだのはそれから一週間としない内にだったのだが、彼にはまだ関係のない事だった。