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そらのそこのくに せかいのおわり 〈 vol,09 / Chapter 03 〉

 ゴヤがオフィスに戻ったのは、昼休憩が終わった直後だった。

「大変ッスよ副隊長! やっぱ記憶も人も消えてるっぽいッス!」

 オフィスに入るなりそう言ったゴヤだが、室内にいたのはマルコとチョコの二人だけ。チョコは今日もヘッドホンをつけ、ノリノリで報告書を作成している。オフィスの扉が開かれたことにも、ゴヤが入ってきたことにも気が付いていない。必然的に、ゴヤはマルコに問いかけることとなる。

「今って二人だけッスか?」

 キールとハンクは分刻みでスケジュールが詰まっているし、トニーとレインもそれぞれ東部と西部に行く予定があった。彼らがオフィスにいないのははじめから分かっていることだ。だが、ベイカーとグレナシンは本部待機になっていたはずだ。隊長、副隊長が揃っている日はベイカーが隊長室、グレナシンが特務部隊オフィスのほうに詰めるのだが――。

「副隊長は……?」

 問われたマルコは手元の文書から顔を上げ、難しい顔で答える。

「まさに今、『存在消失』のことで呼び出しを受けて出て行かれたばかりです。ベイカー隊長とご一緒に……」

「え! マジすか? 誰が消えてたんスか? うちに出動要請かかるんスから、貴族ッスよね?」

「はい。隊長が向かわれたのは、南部の大貴族、マハ家の別邸です」

「マハ家⁉ アル=マハ隊長のご実家の⁉」

「ええ……ご子息に関して、どうしてもお話したいことがあるということで……」

 マルコは自分が手にしている文書を、ゴヤのほうに差し出した。ゴヤはそれを何気なく受け取って目を通す。


〈――私の息子は、生まれて間もなく死にました。まだ名前もない、本当に生まれたての赤ん坊でした。私と妻は確かにこの手で、死んだ赤ん坊を棺に納めました。

 けれどもなぜでしょう。私も妻も、その葬儀の日から先の記憶が曖昧になっています。そしていつの間にか、私たち夫婦の間には『アーク』という名の男の子がいました。

 赤ん坊のころから育てた記憶はありません。その子と一緒に過ごした思い出の中で、一番古い記憶は二十二年前のものです。その子は十二歳になっていました。この先中央の全寮制中学に進学するか、このまま屋敷で家庭教師に教えを乞うか、本人に選ばせている記憶です。彼は迷わず『進学する』と答えました。私も妻も本人の意思を尊重し、彼を中央へ送り出しました。

 彼はそれから、一度も家に帰ってきませんでした。私たちはとても寂しく思い、何度も手紙を書きました。私たちのほうから面会に行ったことは幾度かありますが、彼は終始淡々とした様子で、私たちの顔を見ても、喜んでいる様子はありませんでした。

 それでも私たちは、彼の親です。少しでも力になりたいと思い、彼が希望する騎士団への入団、国境警備部隊への配属、特務昇進と、特務部隊長就任、それらがすべてうまくいくよう、方々に根回しをしました。三年前の爆発事故で彼が命を落とすまで、ずっとずっと、彼のために尽くしてきました。

 おかしな話をすることを御許し下さい。自分でも、気を違えているのではないかと疑っています。けれども、これだけはどうしても確かめておきたいのです。

 先代特務部隊長アーク・アル=マハは、本当に私たち夫婦の息子でしょうか?

 先日中央市で発生した『集団記憶喪失事件』の直後、私も妻も、自分の息子が『赤ん坊のころに死んだ』ことを思い出してしまいました。しかし、だとしたらあれは誰なのでしょう。私たちには、彼を生み育てた記憶が無いのです。屋敷内のどこを探しても、彼の部屋だった場所も、彼のために購入した調度品も、衣服や日用品も、何ひとつ残されていません。彼が私たちと一緒に暮らしていた痕跡を確かめることすら出来ません。

 当時を知る使用人たちは、皆高齢のため他界しているか、痴呆が進んで話が出来ない状態です。私共の土地の慣例で、名づけ前に死んだ子供は出生届も死亡届も残りません。医者や家庭教師は必要に応じて呼び出しているものですから、通院、通学記録もありません。中学校へ進学する際に、はじめて身元を証明する書類を作成しました。ですが、当時は貴族の遺伝子サンプル登録は義務付けられていませんでした。彼のために作成した書類は、『この人物はマハ家の嫡男である』と記した簡素な書面、ただ一枚です。

 騎士団に保存されている彼の遺伝子サンプルと、式部省に登録された私たち夫婦のデータ。この二つを照合鑑定するには、どのように手続きすればよいでしょうか。

 私たちは今、ブルーベルタウンの別邸にいます。特務部隊長殿がお忙しいことは百も承知でわがままを申します。どうか、直接会ってお話しできる場を設けていただけませんか。ほんの少しだけ、特務部隊長殿のお時間を頂戴致したく存じます。〉


 マハ家当主からの手紙を何度も読み直し、ゴヤもマルコと同じ表情になる。

「アル=マハ隊長がマハ家の長男でないなら……あの人は誰なんスか……?」

 呆然と呟かれたゴヤの言葉に、マルコは小さく首を振った。それは私には分かりませんが、という意思表示をしながらも、マルコは現時点で分かっていることと、そこから推測できる事柄を口にする。

「彼は『神の器』となるべく、胎児のころに体を作り変えられた人間です。マハ夫妻はヘファイストスによって記憶を操作され、赤の他人の子供を預けられたのではないでしょうか」

「……他人の子……ッスか……」

 本人たちが納得したうえで養子縁組した関係ではない。いつの間にか偽の記憶を植え付けられ、血も繋がらない、一緒に暮らしたこともない赤の他人を『実の息子』と信じ込まされていたのだ。乱れた筆跡からは恐怖と混乱が、何度も折っては開いてを繰り返して傷んだ便箋からは迷いと疑念が感じ取れた。

 事実に気付いたのはマハ夫妻のみ。まともな記録はどこにもなく、当時を知る者は誰もいない。こんな荒唐無稽な話を誰に相談すればよいか、彼らは何度も話し合ったはずだ。そしてその結果として、息子とされている人物の後継者であり、集団記憶喪失事件の中心人物でもあるベイカー以外にはいないという結論に至ったのだろう。

 ゴヤは頭を掻き、理解できない事柄をひとまず頭の隅に追いやった。それから自分が持ち帰ったもの、特務部隊員全員分の身元証明書類をマルコに渡す。

 マルコはそれを無言で受け取り、一枚目から順に目を通していった。

 一枚目は特務部隊長、二枚目は副隊長。ベイカーとグレナシンには、現在隊員たちが把握している以外の家族や経歴は存在しないらしい。

 三枚目と四枚目は隊長補佐のアレックスとポール。彼らも以前聞いた通りのプロフィールと家族構成である。

 五枚目、六枚目の証明書はエリック・メリルラントとアスター・メリルラントなのだが、『メリルラント』という名の特務部隊員は彼らだけではない。

 七枚目の証明書には、マルコにとっては初めて目にする名前、『レクター・メリルラント』なる人物のプロフィールが記されている。

「……やはり、もう一人いましたか……」

 マルコはエリックが言っていた言葉を思い出す。


〈俺の兄弟は、おそらくはじめからアスターひとりだと思うが――。〉


 そう、エリックの記憶に間違いはない。レクターはエリック、アスターの兄弟ではなく、父方の従弟である。

 エリックが四月三日生まれで、アスターとレクターは翌年の三月四日生まれ。レクターの誕生から半年後、レクターの両親は馬車の事故で死亡。レクターはメリルラント本家に引き取られ、三人は同じ家で一緒に育てられた。

 三人は年子の兄弟と従兄弟でありながら、学年的には『同い年』である。身元証明書に記載された経歴は小中高、その後の騎士団入団までまったく同じ。やっと違いがみられたのは新人時代の配属先だが、アスターとレクターは同じ支部で、エリックだけが国境警備に回されている。入団から六年後には三人そろって特務入隊試験に合格し、再び同じ経歴に。

 しかし特務昇進以降、レクターの記録が途絶える。死んだとも、転属したとも書かれていない。この書類の通りならばレクター・メリルラントは今現在も特務部隊に所属しており、三年前の爆発事故でも、エリックの言う『二年前の記憶』の時点でも、メリルラント兄弟と行動を共にしていたはずなのだが――。

「……ピーコックさんに情報提供をお願いしましょう。レクター・メリルラントなる人物が現在どこで何をしているのか、確認せねばなりません」

「でも、情報部のほうで持ってる個人情報って、お問い合わせ可能なんスかね?」

「一緒に育った従兄でさえ記憶をなくしているんですよ? この書類をお見せして非常事態であることを説明すれば、情報部も動いてくれると思いますが……」

「ん~……それなら、まずは俺がシアンさんに聞いてみるッス。マルちゃんとピーコさん、そんなに仲良しってわけでもないんスよね? あんまり無理なお願いとか、できないんじゃないッスか?」

「ええ、まあ……」

「じゃ、ちょっと失礼して……」

 ゴヤは内線端末のところまで移動し、慣れた手つきで番号を押す。

「誰か出てくれればいいんスけどね? 情報部の昼休憩って時間決まってないみたいなんで……あ! コバルトさんッスか? 特務のゴヤッス! あの、シアンさんいますか? ちょっとお聞きしたいことがあるんスけど……」

 どうやらシアンもその場にいて、すぐに電話を取り次いでもらえたようだ。だが、ゴヤが何か言うより先に相手がしゃべり始めているらしい。ゴヤは時折「はい」「マジっすか」「そうッスけど……」といった相槌を打つばかりで、なかなか本題に入らない。そしてそのまま三分近く経過したところで、ゴヤは通話を終えてしまった。

「あれ? あの、ゴヤッチ? レクターさんのお話は……?」

 ゴヤはマルコの声に、油の切れた機械のような動作で振り返る。

「……そういうシステムだったんスね……」

「え?」

「隊長から預かったこのIDカード、役場の窓口で使うたびに申請内容の詳細とか、発行した書類の写しなんかが情報部に送られるみたいッス……」

「では、『レクター・メリルラント』という人物に関しては……?」

「すでに情報部の人間が調査を開始している、お前たちは迂闊に動くな、彼らの邪魔になる……って言われたッス……」

「そうですか……」

 マルコは溜息を吐き、もう一度書面に目を落とす。

 アスターとレクターは生年月日が同じ。レクターは両親の死後伯父夫婦の養子になっているため、両親の名前も本籍地も、その他の記述もそっくりそのまま同じである。何も知らない状態で二枚の書類を見比べたら、担当事務員はどう思うだろうか。双子の兄弟と思うか、それとも――。

「……レクター・メリルラントさん本人が目の前に居るならともかく、いつの間にか存在が消滅していたのなら……」

「名前以外まったく同じ内容ッスからね。なんかのミスでアスターさんの書類を写し間違えた、って考えるのが普通ッスよ。だってそんな人、本部のどこ探しても存在しないんスから……」

「とすると、レクターさんの騎士団内での記録は『事務手続き上のミス』として消去されているでしょうね」

「でも市役所の出生証明や納税記録とかは残っているから、外部の記録を取り寄せると……」

 二人はレクターの書類を見て頷き合う。


 消えたはずの人間の残像――この記録は、まるでゴーストである。


 二人は他の隊員や自身の記録にも目を通し、何の異常も無いことを確かめてから作戦会議を始める。

「レクターさんがいつ、どのように消滅してしまったのか、大変気になるところですが……」

「迂闊に動くとシアンさんに怒られるッスよ?」

「ええ、ですから私たちは、別のことを調べましょう」

「別?」

「はい。中央市内において発見された、身元不明遺体のその後です。ベイカー隊長が消えかかっていた時、体は平常時と同じく、見ることも、触れることも出来る状態でその場にありました。人々の記憶から存在が消えて、やがて死に至るとしても、物理的に消滅してしまうわけではないと思うのです」

「あ! そうか! 自分の記憶からその人に関する事柄が消滅していたら……」

「目の前にあるご遺体は、愛する家族の亡骸ではありません。どこの誰のものとも、いつからあるとも分からない、気味の悪い変死体でしかないはずです」

「ってことは、どこを調べればいいッスかね……? 市役所か、王立病院か……?」

「市営墓地はいかがでしょう? 身元不明遺体の合葬墓があったと思うのですが……」

「あ、それいいッスね! そっか! 墓地の管理事務所になら、いつどこの町から運び込まれたご遺体か、記録も残ってるし……」

「市役所や病院で大量の資料から該当しそうな案件を探さずとも、最終的に『身元不明』と判断されたご遺体の書類だけが保管されているはずです」

「よっしゃ! そんじゃ早速……って言っても、マルちゃんは出て行くわけにはいかないんスよね?」

「はい。隊長も副隊長もいらっしゃいませんし、ロドニーさんはビスケットの撤収作業が終わらないようですし……」

「ビスケット?」

「実は、ゴヤッチが出て行かれた後にひと騒動ありまして……」

 マルコはゴヤに午前中の騒動について話した。すると話を聞き終えたゴヤは、あきれた様子で両手を挙げて見せる。しいて言葉にするなら、先輩のコレクター根性にはかなわねえッス、といったところだろうか。

「そういうわけでして、他にもステッカー回収時に見落としていた『あたりマシュマロ』があるかもしれないと、一袋ずつ確認されているようです」

「あ~、それ絶対に終わらないやつ……。ん~、だとすると、どうしよっかなぁ~? 先輩に留守番頼めないとなると……」

「オフィスに貴族階級が誰もいない状態というのも、不安ですし」

「そうなんスよね~。何かあったときに武器とか特殊重機の使用許可出してもらえないと、現場がメチャクチャ困るんスよ~……」

「あの、申し訳ありませんが、ゴヤッチ一人で行っていただけませんか? 市営墓地の事務局には、私から連絡を入れておきますので……」

「了解ッス。場所が場所なんで、ゾンビが出たら銃使いますけど……事後承諾でも、大丈夫ッスよね?」

「それはもちろん。ゾンビもゴーストも、対処が遅れては市民に危険が及びます。今から車両管理部に連絡しますので、ゴヤッチはどうぞ、このまま一階へ」

「ウッス! 行ってきま~す!」

「お気をつけて」

 軽やかな足取りで出て行くゴヤ。マルコはその背が扉で隠れると同時に内線端末を手に取り、車両管理部のデニスに掛ける。

 あらかたの事情を説明すると、デニスは声を裏返しながらこう言った。

「墓地⁉ ゴヤさんと僕で⁉ マルコさん、本気ですか⁉ 誰がどう聞いても、ゾンビの群れに襲撃されるフラグがビンビン立ちまくりじゃないですか⁉」

「申し訳ありません、デニスさん。今自由に動けるのはゴヤッチだけでして……」

「まあ、行きますよ? 行きますけど……何が出ても、あとで『嘘でしょーっ⁉』とか『そんな馬鹿な話ぃ~?』とか言わないでくださいよ?」

「言いません。絶対に言いませんからご安心下さい」

「約束ですよ~? 信じてくれなかったら、僕、拗ねちゃいますからね? 僕ら笑いの神に愛され過ぎてて、一緒に出掛けると必ずミラクル百連発なんですから。それじゃ、まあ、ボチボチ行ってきま~す。墓地だけに~♪」

「あ、オヤジギャグですね?」

「イエ~ス☆ マルコさんナイス反応☆ 最近マルコさん、庶民文化分かってきましたね?」

「おかげさまで、ほんの少しですが。デニスさん、ゴヤッチの送迎、よろしくお願いします。どうかお気を付けて」

「はい♪ お土産は期待しないでくださいね~ん♪」

 デニスの軽快なトークに乗せられ、気付けばマルコは笑顔になっていた。

 内線端末を置き、自分の頬に手をやって、軽く息を吐く。

「そう言えば、私、今日はまだちゃんと笑っていなかった気がしますね……」

 忙しさにかまけて、微笑むゆとりもなくしていたようだ。これはいけない。もっと精神的な余裕を広く持たねば、視野も考え方も、どんどん狭くなってしまう。

 かつて玄武の放った黒い霧の中に取り込まれたとき、マルコは酷く暗くて狭いトンネルの中にいるような気分になっていた。出口があまりに遠くて、かすかな光すら届かない場所にたった一人で取り残されてしまったような――そんな感覚に取り憑かれて、前へと進む気力すら失いかけていた。


 本当はどこにも閉じ込められていなかった。

 本当は自分で光をともすことが出来た。

 本当はすぐそばにロドニーがいた。


 心が閉ざされた状態では何も見えないし、何も聞こえない。傍らにある仲間の優しさや温かさにすら気付かない。闇堕ちになどならずとも、人の心は揺らぎやすいものである。気持ちが沈むことも、ふさぎ込んでしまうこともある。常に自分のコンディションを意識して調整してやらねば、あっという間にうつ病のような状態になってしまう。

 マルコは肩を回し、首周りをストレッチしてみた。

「……いけませんね。かなり、血の巡りが悪くなっているようです……」

 心身の不調は表裏一体。心と体、どちらが不健康でも満足な生活は送れない。気持ちを切り替えるためにも、まずはこの肩凝りのほうから対処しようと考えたマルコだったが――。

(サマエルさんは、回復にはあれがいいとおっしゃっていましたが……)

 マルコは窓辺の水槽を凝視し、何とも言い難い表情で呟く。

「……さすがに、あれを飲むのは……」

 元通りの水位になるまで水を足された水槽の中で、サラは優雅に泳いでいる。サラは金魚ではなく四神の一柱・青龍である。観賞魚と違い、放っておいても水は濁らない。水を交換しているのは水草から出た老廃物や水面に浮いたチリやホコリを洗い流すためである。

(人間の肩凝りにも、効果はあるのでしょうか……?)

 試してみたい気持ちと、それで腹をこわした場合に効く薬が無さそうだと心配する気持ち。二つの気持ちが激しくぶつかり合い、そこに『魚の水槽の水を飲むなんて!』という一般常識が飛び入り参戦。マルコの心中では『激しい葛藤』などという言葉では形容しきれない、三つ巴の異種格闘技戦が始まっていた。

「しかし……いや、でも……う~ん……?」

 そんなマルコを見て、サラと玄武は黙っていた。なぜなら、妙なことに思い悩むマルコが面白かったからだ。そしてその間、チョコはずっとエアギターを熱演していた。


 特務部隊オフィスに、いつも通りの時間が過ぎてゆく。


 そんなマルコたちの姿を、監視カメラ越しに見つめる男たちがいた。

 情報部庁舎内、『コード・ブルー』と呼称される常設ユニットのオフィスで、情報部員コバルトとシアンが目を細めてモニターを睨みつけている。彼らに神や天使の加護はない。彼らが持つのは常識的な身体能力と感覚器官、騎士団員として体得したスキルと経験のみ。人知を超えた奇跡や世界を股に掛けた神々の戦いなど、彼らの手に負える問題ではない。しかし、それでも彼らは手を引く気はない。彼らは王立騎士団情報部。この国の治安に何らかの影響を及ぼすと判断されれば、たとえ相手が神であっても、立ち向かう覚悟はできている。

 シアンは手元のコンソールを操作して画面を切り替え、オフィスを出たゴヤの姿を追う。騎士団本部に死角はない。その気になればトイレやロッカールーム、シャワーブースにも偵察ゴーレムを潜り込ませることが出来る。しかし、今はその必要は無いようだ。ゴヤはごく普通に食堂に入り、サンドイッチなどをオーダーしている。任務の都合上、現地で思わぬ足止めを食らって泊まりになることもある。夕食が取れない場合の保険として軽食を持っていくのはよくあることだ。怪しい言動は見られない。

 シアンはもう一度画面を切り替え、特務部隊オフィスを映す。

「あの王子様は何をしているんだ? 水槽を見てじっとしているが……そんなに魚が好きなのか……?」

「チョコ君のほうは相変わらずノリノリだね。お、出た! 高速ヘドバン!」

「あのテンションで何をどうやって事務仕事をこなしているんだろうな? 他の隊員より正確かつ迅速に報告書を仕上げているようだが……」

「実は彼、特務部隊で一番『平均値』が高いんじゃないかな? 任務完遂率もゴヤ君を超えているだろう?」

「ああ……だが、本当にあれでどうやって……あ、ヘッドホン飛んだ!」

「あ~あ~、よりにもよって王子の後頭部に……ほら、やっぱり怒られた……」

 特務部隊オフィスが監視されていることは隊員たちも知っている。機密文書を数多く扱う部署である以上、個人のプライバシー以上に防犯体制の強化が優先されるのである。つまり特務部隊員らは、常に監視されていると分かった上で音楽を聴いたり、ラジオコントで爆笑したり、動物さんビスケットのおまけのステッカーで机をデコレーションしたりしているのだ。後輩たちのあまりに図太い神経に、シアンは生温い表情で溜息を吐く。

「俺たちのころは、もっとキッチリしていたはずなんだがな……」

「へえ? 僕は他所からの異動組だから、特務の雰囲気ってこんなものかと思っていたのだけれど……」

「『コード・イルミナ』の連中と会話したことあるか? あいつらの雰囲気が一番『昔の特務らしい空気』だ」

「え! あんな感じだったのかい⁉ イルミナの連中、ことあるごとに嫌がらせしてきて迷惑しているんだけども……」

「だろう? 本当に、昔はああだったんだ。部隊内でいくつも小グループが出来ていて、互いに競い合って……いや、あれは蹴落とし合いといったほうが正しいのかもしれないが……とにかく、もっと殺伐としていた。他のグループに弱みを見せないようにしていたおかげで、自然と規律にも厳しくなっていて……」

「だったら、これでいいんじゃないかな?」

「うん?」

「今の特務は、うちや事務方とも仲良くしているだろう? 仲良く楽しく仕事が出来て、これまでと同じかそれ以上の実績が上げられるなら、悪いことなんか一つもないと思うのだけれど……?」

「……」

 コバルトの言葉に、シアンは目を真ん丸にして絶句してしまった。


 その通りだ。悪いことが何も見当たらない。


 シアンはわずかに首を傾げ、再び画面を切り替える。

 食堂でサンドイッチを受け取ったゴヤはごく自然に笑い、言葉だけではなく、『ありがとう』という気持ちを顔いっぱいに表している。

 シアンは無言で手鏡を取り出し、眉間に皺の寄った自分を見た。


 いつから表情が消えたのだろうか?


 あまりにも大きな問題に気付き、完全にフリーズしてしまった同僚。その有り様に、コバルトは大袈裟に、芝居がかった仕草で溜息を吐いて見せる。

 これだから特務出身者は。

 そんな声なき声を察知して、シアンは仏頂面で弁解する。

「……表情筋の筋トレ方法なんか、教わったことが無いんだ……」

「うん。まあ、そうだろうねぇ……」

 特務部隊で行われる『顔の筋トレ』といえば、式典の際に必要な『真顔を保つ訓練』である。幼少期からモデルかアイドルのように美しく微笑む訓練を受けている貴族階級と違って、庶民は日々の激務と真顔トレーニングのせいで徐々に表情を失っていく。ピーコックは例外的にいつでも笑みを浮かべているが、あれは自分のペースを保つための虚勢だ。人を見下した言動と余裕の笑みで相手を激昂させ、自分に有利な状況を作り出す。いわば道化の化粧であり、笑顔と呼ぶには哀しすぎる。

 コバルトはあきれたように肩をすくめ、おもむろにシアンの肩を揉み始めた。

「まずはこのガッチガチの肩からほぐしていこうか? よく考えてみたら、僕は君がリラックスしているところを見たことが無い。まさか君、寝ている時までそんな顔しているわけじゃないだろうね?」

「自分の寝顔なんか知るか。そんなに知りたければ、俺の部屋にカメラでも仕掛けてみたらどうだ?」

「あ、いいのかい? 君が許可してくれるなら本当に仕掛けるよ?」

「すまん、冗談だ。それだけはやめてくれ」

「そうかい。それは残念だ」

 シアンのプライベート映像なら高値で売れそうだなぁ、などと守銭奴じみたことを考えながら、コバルトは壁面いっぱいに設置されたモニターの一つに目をやって「あっ」と声をあげた。

 つられてモニターを見たシアンも、一瞬で気配を変えた。


 騎士団本部一階、エントランスホール。

 ホール内全体を映すカメラに、ラピスラズリとピーコックともう一人、騎士団関係者ではない人物が映っている。

 両側から挟み込むようにピタリとくっついた情報部員たち。その間で居心地悪そうに顔をしかめているのは、中央市民に人気の地球料理屋『綾田うどん店』の店員、アヤタ・ラミアである。

 アヤタはエントランスホールの奥の通路に誘導されていく。シアンはすぐに通路のカメラからの映像に切り替え、三人がどこに向かったかを確かめた。

「うん? ここは……」

 一階奥、多目的室。ここは文字通り多目的に使えるように何も設置せず、何でも持ち込めるよう扉だけは大きく作られている。ラピスラズリとピーコックは倉庫から三脚の椅子を引っ張り出し、扉を開け放ったままで話を始めた。部屋も開口部も広いため、狭い部屋で尋問を受けているような圧迫感は感じないはずだ。

「どこも拘束されていないところを見るに、アヤタ君はこちらの要請に素直に応えてくれているようだね」

「ああ。しかし、だからと言って油断はできないが……」

「まあね……何しろ彼は怪しすぎる……」

 アヤタが情報部の調査対象になった理由、それはあまりにシンプルだった。


 彼は先週、あの騒動の折、ベイカーを忘れていなかったのだ。


 あのときチョコはなじみのクラブを訪ねて回り、DJたちに事情を説明した。はじめは『誰それ?』という顔をしていたDJたちも、チョコの話を聞くうちに一人、また一人とベイカーに関する記憶を取り戻した。それから人づてに一気に話が拡散し、あの『一斉路上パフォーマンス』が始まった。

 そう、あの時点では誰もがそう考えていたのだ。けれども後日、情報部のほうで『路上パフォーマンス』の発生個所とその時間を調査した結果、アヤタ・ラミアがパフォーマンスを始めたのはDJたちが情報を広める前であることが判明した。

 彼は連絡を受ける前からベイカーの存在を思い出していた。もしくは、はじめから忘れてなどいなかった。つまり彼には、何らかの『神的存在』の加護があるはずなのだが――。

「えー、面倒を省くために、これから君にあるものを見せる。これから目にするすべてのものは最重要機密に該当する。この場で見たこと、聞いたことを口外すれば、君と、君の家族、友人、恋人、店先で飼われている雑種犬のチョビスケくんに至るまで、その生命と平穏な生活は一切保証されない。何を言われているか、理解できているね?」

 ピーコックの物騒な言葉に、アヤタは神妙な面持ちで頷く。

「オーケイ、良かった。分かってもらえてうれしいよ。それじゃ、よく見ててくれ。サマエルちゃん、ちょっと出てきてもらえるかな?」

 呼びかけに応え、天使サマエルが姿を現す。と言っても、天使は実体を持たない。彼女自身がその気にならない限り、ただの人間が天使の姿を目撃することはかなわないはずなのだが――。

「うわっ⁉ ど、どこから⁉」

 アヤタには天使の姿が見えている。ということはやはり、彼にも何かが憑いているか、もしくは彼自身が神の子孫であるかだ。『アヤタ・ラミア』という名前からして、ストレートにラミアの子孫ではないかと疑っている情報部なのだが、それにしては様子がおかしい。

 天使の姿を視認してしまったことを慌てて隠すように、誰が見ても無理のある演技で強引に誤魔化し始める。

「あ、ど、どこから入ってきちゃったのかな~、この虫さんは~? ほ~ら、さっさとお外へお行き~」

「ん~? 何かいるかなぁ? なんにもいないよねぇ、アヤタくぅん?」

「え、あ、あっれぇ~? おっかしいなぁ~? 今この辺に虫がいたような気がしたんだけどぉ~? あっ! これってもしかして、飛蚊症かもぉ~? 眼科行かなきゃなぁ~!」

 必死に手を振り回してそれらしい動作を取ろうとするが、無駄である。『神の毒』を司る天使サマエルの前では一切の嘘は通用しない。

「はぎゃっ⁉」

 アヤタは裁きの雷に撃たれて感電、無力化した。

「あ~あ、変な嘘吐くから……」

 無様に椅子から滑り落ちたアヤタを片手で摘まみ上げ、ピーコックはグイッと顔を近づける。

「で? アヤタ君、君はいったい何者なのかな?」

 アヤタは何度か口をパクパクさせて何事かを弁明しようと試みていたが、すぐに無駄を悟って観念したらしい。

「あ~あ、バレちゃった。うまく馴染めてると思ってたんだけどなぁ~……」

 そう言いながら何気なく髪をかき上げると、彼の姿が変わった。黒い髪、こげ茶の瞳の黄色人種は、ほんの一瞬で赤紫色の髪とライムイエローの瞳の、禍々しい色彩の神に変化してしまった。象牙色の肌には部分的に鱗が生え、キラキラと光を反射する。全身に浮かぶ薄紫色の呪陣は、攻撃力を高める強化呪陣の類であろう。鱗が放つ光と相まって、まるでショーダンサーのボディペイントのように見える。

(……なんだ、こいつ……)

(この気配は……闇堕ち? いや、だが……?)

 ラピスラズリとピーコックは本能的に身構えた。アヤタから漂うのは『闇』の気配である。それもツクヨミやコニラヤのような『闇属性の神』とは違う、闇堕ちに限りなく近い禍々しい気配で――。

「うっわ、待って! ちょっと待ってってば! そんな怖い顔しないで! こっちにナイフ向けないで! 俺は闇堕ちじゃないから! 正確に言うと軽く堕ちている感じではあるんだけども、その辺も含めてちゃんと説明するから待って!」

 臨戦態勢の二人にそう言った後、アヤタはサマエルに向きなおり、早口でまくし立てる。

「俺は蛇神ラミアで、この体は地球人の『綾田(あやた)厄日(やっぴ)』! ただし中身は二年前の八月に世界から消失している! 綾田うどん店の大将はヤッピちゃんの父親の兄貴! 俺が記憶を操作して、ヤッピちゃんを実の息子と思い込ませているだけ! 本当のことは何も知らないし、全然悪い人じゃない! だから大将には手を出さないで!」

「蛇神ぃ? 体は地球人んんん~? おいこのクソガキ、吐くならもう少しましな嘘にしとけよなぁ~?」

 ラピスラズリに凄まれ、ラミアは必死に言葉を続ける。

「本当だって! 俺、嘘ついてないよ! なあ、天使サマエルって、あのサマエル? エデンの園でイヴに知恵の実食わせたっていう、あの蛇なんだよな? なら、俺が嘘ついてないってわかってくれるだろ⁉ 『神の毒』の前では嘘はつけないんだって、ザラキエルから聞いたことあるんだ! さっきの雷、主の『裁きの雷』だよな⁉ 頼むよ! 信じて!」

 言いながら彼は床に膝をつき、バッと両腕を広げ、無防備な胸と腹を晒してみせる。


 君たちと敵対する意思はない。


 全身を使って表明された態度に、サマエルは一つ頷き、宿主とその同僚を制す。

 二人のナイフが鞘に納められたのを見て、ラミアは安堵したように小さく息を吐いた。

「説明してもらえるか?」

「もちろん、そのつもりだよ。ただ、俺は人に何かを伝えるのが下手糞なんだ。俺が見た『現場の記憶』を直接見てもらいたいんだけど、それでもいいかな?」

 百聞は一見に如かず。記憶を直接相手に伝えることが出来るのは、神ならではの荒業である。三人は一も二もなく、ラミアの提案を受け入れた。




 二年前の八月三十一日、舞台は新宿区。

 雑居ビルの一室に、綾田厄日、ラミア、ザラキエル、ヤム・カァシュがいる。どうやらここは閉店した居酒屋のようだ。椅子やテーブル、内装などはほぼそのままで、グラスや調理器具のような小物はすべて持ち出されている。廃業後の最低限の片づけを済ませ、居抜きで次の借り手を探している最中と言ったところか。

 これはラミアの見聞きした記憶であるため、視界に映る頻度が高いのは自分の器、綾田厄日ということになる。ザラキエルやヤム・カァシュはこの時同じ空間で何を話し、何をしていたのか。ピーコックとしてはそちらのほうが気になっていたのだが、この記憶では、少し離れた場所にいる二柱の様子を窺い知ることは出来ない。

 綾田厄日はギターを抱え、いくつか音を出してみては、テーブルの上の五線譜に音符を書き込んでいる。非常に落ち着いた様子で、いつも通りのことをしているといった雰囲気だ。

「ヤッピちゃん? 美麻ちゃんとバネ君、ちょっと遅くない? コンビニに行ったにしては、時間が掛かりすぎてる気がするけど……」

 ラミアに声を掛けられて、ヤッピは手を止め、壁を見上げる。

 壁掛け時計は、六時四分を指している。

「漫画でも立ち読みしてるんじゃないかな?」

「でも、もうちょっとで一時間だよ? どっかで変な人に絡まれてたりしたら……」

「いや大丈夫だって。新宿っつっても、このあたりは全っ然治安悪くねえから」

「でも心配だよ。二人とも未成年だし……俺、ちょっと見てくるね?」

「おいやめとけって! この間そっちのアホ共が見に行って、せっかくイチャイチャしてるとこ邪魔しちまったんだから!」

「だけど……」

 心配するラミアが二柱に視線を向けるが、二柱はこちらを気にする様子もなく、スマホでワンセグ放送を見ている。ちょうど夕方のニュース番組が放送されている時間だ。何か気になるニュースが読み上げられているようで、二柱は真剣に画面を見つめていた。

「あぁ~、もう! みんな協調性無いんだから!」

 ラミアはそう言うと、一人で店を飛び出した。

 店の裏口から狭い路地を抜けると、大きな通りに出る。コンビニは通りに出てすぐの場所だ。実体のないラミアはコンビニの自動ドアをスイッと通り抜け、さほど広くもない店内をぐるりと見渡す。

「ん~……やっぱりいない……」

 ラミアはコンビニを出て、少し先の弁当屋を見る。しかし、ここにもいない。二人はまだ高校生で、今は帰る家を失った浮浪児のようなもの。自分の貯金などあるはずもなく、彼らは親の財布から抜き取ったクレジットカードを現金化し、その金で食いつないでいる。ゲームセンターやカラオケで散財できるような金銭的余裕はないし、精神的にも、それを面白いと思える状況にない。

 ザラキエルもヤム・カァシュも、元来の性質が影響しているのか、人間の感情の機微には疎い。居場所を失くした思春期の少年少女がどれだけ危うい存在か、ラミアがいくら説明してもうまく理解できないらしい。

 ラミアは焦っていた。

 このところおかしな事件が頻発している。テレビ報道によれば、それは家庭内でのトラブルから生じた傷害事件・殺人事件ということになっている。親から強く注意され、カッとなって殴った――そんな『よく耳にする動機』が報じられているのだが、それにしては妙なのだ。

 マスコミが学校関係者、近隣住民、親族などへ取材に向かうと、誰もが異口同音にこの言葉を口にする。


「どんな子だったか、印象にない」


 そんなはずはないのだ。マスコミが入手し、報じる写真には、他の子供たちと仲良く遊ぶ少年A、少女Aの姿がしっかり写っている。古い写真ではない。学校行事で仕方なく組まされた班行動の写真でもない。プライベートで遊園地や水族館に出かけた写真で、なおかつそれを心底楽しそうなコメントと共にSNSにアップしている。

 ワイドショーのコメンテーターたちは誰もが大げさに震えあがってみせ、こんな言葉を電波に乗せる。

「いまどきの子は本当に怖いですね。ネット上では、こんなにフレンドリーなコメントを書き込んでいるのに」

「SNS映えってやつでしょうね。さほど親しくなくても、写真につけるコメントは親友のように書くんですよ。私たちこんなにお友達が多いんですよ、って」

「進路や交友関係のことで、何か問題を抱えていたのでしょうね。なぜ学校は彼らの相談に乗ってあげられなかったのでしょう。教育の在り方が問われますよ」

「欧米ではいじめや家庭内でのトラブルに対して日本より対策が進んでいます! 我々はもっと海外のやり方を取り入れるべきです!」

 そんな『いかにもそれらしいコメント』を並べ立ててみても、誰一人、問題の本質に気付いている者はいない。

 ラミアは蛇神。その能力は人の心に入り込み、最も弱い場所を的確についてその人間に恐怖心を植え付けること。そんな性質の神だからこそ分かる。取材を受けた人間たちは誰ひとり嘘をついていない。彼らは本当に『そんな子は知らない』状態にあり、自分が一緒に映っている写真を見ても、その子のことをほとんど、もしくは全く思い出せないのだ。

 この三ヶ月でニ十件以上も相次ぐ傷害事件。補導歴も何もないごく普通の子供が、ある時突然自分の家族を殺傷する。取り調べられた子供たちの供述はどれも似通っている。

「出て行けと言われ、口論になった」

「いきなり殴られて、やり返さないと殺されると思った」

「あんたなんかうちの子じゃないと言われた」

「家に帰ったら開けてもらえなかった」

「ゴキブリでも見るような目を向けられるようになった」

 いずれも事情を知らなければ、家庭内暴力や虐待のように思えるだろう。しかし、ラミアは美麻とバネの二人を知っている。彼らは今この世界との繋がりを断たれ、存在が消失しかかっているのだ。すべてがそうとは言い切れないが、もし、加害者として逮捕された少年少女が美麻やバネと同じ状態に陥っているのだとすれば――。

(子供に関する記憶が何もかも消失していたら、自分の家の中に赤の他人が入り込んでいると認識するだろうな。当然、その『侵入者』を力ずくで排除しようとするだろうし……クソ、何が起こっているんだ? なぜ、同じくらいの歳の子供たちばかりが……?)

 美麻にはザラキエル、バネにはヤム・カァシュが憑いていた。美麻とバネはクラスメイトとして面識があったため、互いに相談し合うことも力を合わせることも出来た。そしてバネにはヤッピという『頼れる大人』がいた。ヤッピの隠れ家に転がり込むことで、二人は安全に寝起きできるだけの居場所も確保できたのだ。

 不応中の幸いというべきか、彼らには自分を忘れず一緒にいてくれるバディと、同じ境遇の仲間と、保護してくれる大人がいた。だからこそ今もこうして生きている。この条件のうちどれか一つでも欠けていたら、彼らもどこかで事件を起こしていたか、あるいは――。

「おい! あれ、飛び降りる気じゃないか⁉」

「嘘だろ! マジかよ! おい、やめろ! 何やってんだあんた!」

「下がって! 駄目! 駄目よ! 後ろに下がりなさい!」

 突然上がった人間たちの声に、ラミアは上を見た。


 人間が浮いていた。


 ほんの一瞬のことで、何かをしてやる余裕もない。一秒にも満たない空中浮遊の後はアスファルトへの直滑降。その人間はラミアの目の前に落ち、地面に叩きつけられて死んだ。

「……え……?」

 蛇神ラミアはその性質上、直接人を助けるような行動はとらない。あえて悪役として人間たちの前に現れ、道を違えぬよう、正義の心を忘れぬよう、全力で取り組めば乗り越えられる程度の試練を与えてやるのが蛇神ラミアにとっての『導き方』である。

 けれども、それでも自分は神なのだ。これだけ至近距離に自ら命を絶つほど思いつめた人間がいたら、その心の悲鳴に気付かないはずが無いのだが――。

「……なぜ、この人間には『魂』が入っていない? 体には、確かに記憶があるのに……」

 まだ温かい死体に触れて、ラミアは記憶を読み取る。

 この人間はすぐ近くのマンションに住む中学生らしい。自殺の動機は家庭内いじめ。自分の分だけ食事が作られていない、他人を見るような視線を向けられる、自分の持ち物を勝手に捨てられるなどの被害が続き、今日、ついに決定的な言葉を告げられた。


「あなた誰なの? なんで勝手にうちに入ってきてるの? さっさと出て行ってよ!」


 言ったのは母親、言われたのは息子である。二人は確かに血のつながった親子であり、ほんの数週間前まで、ごく普通に生活していた。遺体から読み取れた記憶はその程度だが、それで十分だった。

「……やっぱり、記憶から消された子供は美麻ちゃんとバネ君だけじゃない……?」

 ラミアは立ち上がり、人込みをすり抜けるようにして現場を離れる。

 どう考えてもおかしい。自分たちの知らないところで、なにかとても大きな『運命』が操作されているような――そんな得体の知れない、漠然とした恐怖を感じる。

「でも、どうして……なんでいきなり親の記憶が消えてしまうんだ……? それに、魂が存在しない人間なんてありえないのに……」

 魂が無ければ人間は『いきもの』として成立しない。体に『これまで生きてきた記憶』が蓄積されていたのだから、あの中学生が生まれ、成長してきた時間は確かに存在していたのだ。

 ラミアは考えた。

 人生が始まる一日目、『誕生の瞬間』が消えてしまったとしたらどうだろうか。あの人間の、それ以降のすべての時間が『なかったこと』にされてしまうのではなかろうか。

「……主が、こんなことをなさるはずが無いし……。とすると、時間を渡る能力を持つ神が、何か悪さをしているのだろうか……?」

 それらしい能力の神に心当たりがある。非常に頻繁に顔を合わせるカミサマ仲間、クロノスである。彼は今も昔も、時の守護者として自由気ままな生活を送っている。彼が歴史を書き換えるような重大なルール違反を犯すとは思えないのだが、念のため、彼に話を聞いてみようと考えた。

 ラミアが見覚えのある顔に気付いたのは、ちょうどそのときだ。

「……ん?」

 靖国通りの横断歩道を、信号を無視してまっすぐこちらに駆け寄る男がいる。その姿は誰の目にも映らず、体は自動車を通り抜け、声は神々の耳にしか届かない。

 それは今まさに会いに行こうと思っていた相手、時空神クロノスだった。

「ラミっぺ~っ! たぁいへぇんだぁ~!」

 いかにも運動が苦手そうなジタバタとしたフォームで駆け寄ったクロノスは、今にも泣き出しそうな顔でこう言った。

「誰かが勝手に歴史を操作している! 僕の器が『生まれなかった』ことにされたらしくて……体はまったく無傷なのに、魂が消失してしまったんだ! このままじゃ死んでしまう! 頼むラミっぺ! 僕の代わりに、僕の器についていてくれ! 僕は今から時間を渡って、狂わされた歴史を修正してくる!」

「えっ⁉ いや、ちょ、待ってよ! こっちだって今人探しの途中で……」

「伸信くんのマンション! ベッドの上に寝かせてあるから、体が弱らないようにほどほどに魔力を注いであげて! それじゃ!」

「あ! おいっ!」

 クロノスは言いたいことだけ言い終えると、一瞬で消えてしまった。

「……おい……なんだよ。何が起こってるんだ……?」

 呆然とした顔でボヤきながらも、ラミアは地面を蹴って宙へ飛び上がる。

 クロノスの器、能褒野辺伸信の自宅は新宿区高田馬場。空を飛べばほんの二分の距離である。どこにいるかも分からない美麻とバネを探すより、今まさに命の危機に瀕している人間を守るほうが優先度は高い。

「クッソ! あとで五百倍にして返してもらうからな、クロノス!」




 記憶の『上映会』はそこで幕間を迎える。

 神の記憶を見せられたことがあるピーコックはともかく、このような『記憶の直接移植』を初めて体験するラピスラズリは呆然とした顔で立ち尽くしてしまった。

「……マジかよ。空気の匂いや気温まで……これ、本物の『記憶』なんだよな……?」

「すごいだろ? カミサマのデータコピー能力」

「あ、ああ……確かにこれなら、伝達もれや細かなニュアンスの違いも出ないだろうが……なあ、アヤタ・ラミア。この先は? この後、いったい何が起こった?」

 ラミアは大きく息を吸い、心の準備をするようにほんの数秒目を瞑る。そしてその目を開くと、一息に言い切った。

「結論から言う。クロノスの器は死んだ。俺の器も死んだ。美麻ちゃんとバネ君はヤッピちゃんというアンカーを失って、世界との繋がりを完全に絶たれてしまった。最終的にはザラキエルとヤム・カァシュの心の中からも居場所を失って……俺たちは完全に敗北した……」

 顔色は変えず、涙も流さず。それでもラミアの声は震えていた。彼は心の中だけで泣いている。それが自分の不甲斐無さを嘆くものか、守護対象である人間を失った悲しみか、それとも他の何かに由来するものか、それは誰にも分からない。ラミア本人のみが知る、胸に秘めた思いである。

 ピーコックは傍らに立つサマエルに視線を向けた。神的存在同士のほうが話しやすいのではないかと思ったのだが、サマエルは首を横に振る。

「これはお前が聞くべきことだ」

「オーケイ、分かった。……あー、その、なんだ。つまりラミア、君が今使っているその体は、『消えた人間の残骸』なんだな?」

 ラミアは頷いた。

 過去を書き換えられてしまったせいで、『綾田厄日』という人間は世界から消失した。放っておいたら死んでいくだけの『魂の無い器』に神自身が収まり、この体が死なないように、いつか歴史が修正されたときにヤッピの魂が戻ってこられるように、今も必死に守り続けているのである。

 ピーコックとサマエルは顔を見合わせた。これは先週、タケミカヅチがやろうとしていたことと同じである。

「ラミア、教えてくれ。君は今『敗北した』と言ったな? 何に負けたんだ? 君たちは、いったい何と戦った?」

「……人間だ。俺たちはたった一人の人間に敗北した……」

「人間に? トウモロコシ野郎はともかく、蛇神と時空神と月天使が人間に負けただって? どういうことだ? 番狂わせにも程があるだろう?」

「俺だって、人間一人に何ができると思っていたさ! でも、歴史を書き換えるのに大きな力なんて必要なかったんだ! あいつがやった歴史の改竄方法は、口に出すのも馬鹿馬鹿しいような……本当にくだらない方法だった。けれども、確実に歴史を狂わすことが出来る方法だ。あれなら確かに、ヤッピちゃんも伸信くんも『生まれなかった』ことにできる……」

「それは……いったいどんな方法だ?」

「貼り紙だよ」

「貼り紙?」

「もしくは表示プレートを裏返すだけ。十秒と掛からない『非暴力的な歴史改竄方法』だ。あまりにバカげた手段だったせいで、クロノスの時空間検索にそれらしい『事件』が引っ掛からなくて……いつ、どこで歴史が書き換えられたのか、本当に分からなかったんだ。道理で同年代の子供たちばかりが消えるはずだよ……」

「なあ、おい、ちょっと待て。全然意味が分からない! その貼り紙ってのは、一体なんだ? どんな強力な呪符が使用された? ただの人間が呪詛を使いこなしていたってことか?」

「違う! 貼り紙自体は、コンビニのコピー機で適当に刷られたものだ! 問題はそこに書かれていた文字が『満室』だったことだよ!」

「……ん? あれ? いや、ちょっと待て? 『満室』の貼り紙か、表示プレートを裏返すかって……」

「それで子供が生まれなくなるっていうと……」

 ピュアな少年時代をとうの昔に卒業した中年男性二名は、どことなく締まりのない表情で顔を見合わせた。

「あれか?」

「あれだよな?」

 ピーコックとラピスラズリは、まるで幼稚園児か小学生のように「いっせーの……」と声を合わせた。

「ラブホテル!」

 この瞬間の大天使の絶望的な表情は、筆舌に尽くしがたいものがあった。

 運命とは非常に複雑に組み合わされた寄せ木細工のようなもの。どこか一か所でもパーツが欠ければ、その先の未来は完成しない。ラブホテルの入り口に『満室』の貼り紙をするだけで、その日、その場所で『作られる』はずだった人間が、その先の世界から消失してしまったのだ。

 誰かを殺したり、毒ガスを撒いたり、放火したり――クロノスが考えた『歴史の改竄方法』はどれも暴力的な手段であった。だからそれらしい事件が発生していないか、すべての時代のあらゆる場所を検索した。けれども検索には何も引っ掛からない。必死に時空間を駆け回り続け、力を使い果たしたころ、ようやく非暴力的手段もあるのではないかと思い至り――。

「生まれた人間を殺すんじゃなくて、作られないようにセックスを邪魔する方法もあるって気づいたんだけど……手遅れだった。伸信くんの体は魂を失ってほんの一時間でひどく衰弱していた。体がなくなったら、伸信くんがこの世界に帰ってこられる唯一の拠り所が消えてしまう。クロノスは伸信くんの体に入って、人間として生きることになった。そしてそれは俺も同じだ。伸信くんのマンションから戻ったら、もうヤッピちゃんの体に魂は無くて……結局、俺も何もできないまま、ヤッピちゃんの中に入ることになった」

 そう話しながら、ラミアは片腕を『器』から抜いて見せる。

 人間の体からずるりと抜け出る爬虫類じみた腕。その見た目だけでも大変なインパクトがあるのだが、問題はそこではない。実体のない神の腕が抜けた途端、『綾田厄日』の腕はだらりと下を向き――。

「……その色、まるで死体だな……」

「全部抜けたら、確実に死ぬってことか……」

 わずか十秒。たったそれだけの時間で綾田の腕は生気を失い、完全な土気色になってしまった。

ラミアが『器』に腕を戻すと、綾田の腕には再び血が巡りはじめる。見る間に元通りになるその様子を見て、ラピスラズリは溜息をもらす。

「半端じゃねえな。こいつが神の力か。本当なら死んでいるはずの体を、平然と動かしてやがるたぁ……」

 しかし、ラミアは首を横に振った。感心されるほどのことはしていない。今のラミアは『器』を生かしておくこと以外は何もできない状態なのだ。人間から畏れられた蛇神ラミアはもういない。ここに居るのはただの人間として生きる『アヤタ・ラミア』という男。綾田厄日の体に残された記憶をもとに勝手に続きを演じているだけの、『虚構の存在』である。

 ピーコックとサマエルは軽く視線を交錯させ、聞き手役を交代した。

「ラミア、これだけは確認させてもらいたいのだが、お前はそのとき、結局『美麻』と『バネ』を見つけられなかったのか?」

「ああ……ヤッピちゃんの隠れ家に戻ったとき、室内にいたのは呼吸が止まりかけたヤッピちゃんだけだった。ザラキエルもヤム・カァシュも、その時点では見ていない」

「その体……綾田厄日の脳に残された記憶では、ザラキエルたちが出て行ったのはいつだ?」

「午後六時二十三分。ヤッピちゃんは自分の体調に異変を感じて、ヤム・カァシュに声を掛けた。そのとき、ザラキエルが俺を呼びに行くと言って隠れ家を出た」

「ヤム・カァシュはそれから何をしていた?」

「ヤッピちゃんの手当を試みたけれど、原因が分からなくて、ひどくうろたえていた。そこに俺を呼びに来たクロノスが現れて、『伸信くんと同じ症状だ! 君の憑代は大丈夫か?』と言ったんだ。ヤッピちゃんは『俺はいいからバネ君が無事か確認してこい』と言って……」

「なるほど。それで、お前の器は一人残されて……」

「ヤッピちゃんは最後まで、自分より美麻ちゃんとバネ君を心配していた。だから俺も、あの二人を見捨てるなんて選択はできなかった。ヤッピちゃんの体に入ってから、すぐにあの二人を探しに行った」

「お前がその連中と再会したのはいつだ?」

「確か……午後十一時を過ぎていたと思う。美麻ちゃんたちは闇堕ちと交戦して、ボロボロになっていた」

「差し支えなければ、そのときの記憶も見せてもらえないか?」

「いいけど……たぶん、混乱するよ? 同じ時間の記憶が二種類あるから」

「どういう意味だ?」

「そのままの意味だよ。『真実』は二種類あって、そのいずれも矛盾することなく現在のこの時間軸につながっている。とにかく、見てもらえば分かると思うけれど……」

 ラミアがそう言うと、記憶の上映会が再開された。




 現場に到着したとき、既に戦いは終わっていた。全身に酷い傷を負い、血まみれになった美麻とザラキエル。そんな二人を必死に手当てするバネとヤム・カァシュ。そしてそこにはもう一人、ラミアにとっては初対面の男がいた。

「ラミっぺ! 良かった、無事だったか!」

 親しげにそう呼び掛けてくるのは、本当に知らない男である。成人男性としてはやや小柄で細身な体つき、片方だけを長く伸ばしたアシンメトリーな髪型、ツンと尖った耳と、頭に生えた二本の角。一見して、地球上に存在する標準的な人類とは異なる特徴を持ち合わせている。

 反射的に身構えるラミアに、男は苦笑しながら両手を挙げてみせた。

「ああ! すまない! 憑代を使っていることを忘れていた! 僕はクロノスだよ!」

「え? クロノス……?」

「そう、クロノス。ただし、僕はこの時間から二百年ほどさかのぼった時間軸のクロノスだ。この時代の僕から手を貸してほしいと頼まれて、時空間をジャンプしてきたのさ」

「あー……そっか。お前、そういうことも出来るんだっけ……」

「で、この『憑代』は人類の歴史上もっとも強い男。隣の世界から借りてきた、雷獣族のエリック・メリルラントくん」

「雷獣……? え? 隣の世界からって……どうやって……?」

「実は抜け道だらけなんだなぁ、これが。ま、そのうち教えるよ」

「相変わらず、お前ってやつは……なあ、クロノス? お前、ここで何と戦ったんだ? 美麻ちゃんたちの怪我は……」

「僕らが戦ったのは闇堕ちさ。君も何度も見たことがあるだろう? 馬鹿みたいに大勢死んだ戦争の後なんかに、ぞろぞろ湧いて出たアレだよ」

「あれって……いや、ちょっと待て? あんなものがどうしてここに……?」

「ここが『大虐殺の始まりの場所』だからさ」

「え?」

「瀬田川美麻と鬼怒川バネは結婚し、子供を産む。その子供はやがて政界へ身を投ずる。その人物は政治家として類稀なる手腕を発揮し、第三次世界大戦を回避。戦争とその二次的、三次的影響で死亡する可能性があった約七億人の命を救う。それがこの僕、時空神クロノスが見た『正しい世界』だ」

「……じゃあ、正しくない世界は……?」

「僕たちがいる、今のこの世界さ。瀬田川美麻、鬼怒川バネを繋ぎとめていた最後の希望、綾田厄日は消滅した。彼らはもうこの世界の誰にも記憶されていない。彼らと世界のつながりは完全に絶たれてしまった。これはこの時間軸での『確定事項』だ」

「それが確定事項なら……じゃあ、ヤッピちゃんを取り戻せる可能性はもうないってことか?」

「今、この時間軸では」

「別の時間軸では?」

「出来るかもしれない」

「方法は?」

「ホテルの入り口に貼り紙をした人物を誕生させない。あるいは誕生後、世界に影響を与える前に抹殺する。このいずれかの方法でなら、そこの二人も、ラミっぺと僕の『器』も、本来あるべき状態に戻るはずだ」

「だけどその時間軸では、その人間は『何の罪も犯していない状態』なんだろう? まだ何もしていない人間を殺すことは、俺たちに与えられた『役割』から逸脱する行為だ」

「そう、そこが問題だ。僕は未来がこうなることを知っているが、神として人間を裁くには、その人間が罪を犯した後でないといけない」

「なら、どうしたらいい? 主より賜った『役割』を外れて力を使えば、俺たちが堕ちることになるし……」

「ああ……だから、いまのところは手詰まりかな。何かいい方法があればいいんだけど……」

「……クソ……なんで……!」

 ラミアとクロノスが会話している間にも、ヤム・カァシュは美麻の治療を続けている。しかし彼はトウモロコシの守護神であり、癒しの神ではない。どうにか出血は止まったものの、美麻は意識を失ったままピクリとも動かない。この場に治癒能力を持つ神はいない。あとは救急車を呼び、『身元不明の若者』としてどこかの病院に収容してもらうことになるだろう。

 美麻の手を握っていたバネに、ラミアはそう説明する。するとバネは、何かを決意した顔で振り向いた。

「……なあ、教えろよ。お前ら、その犯人の顔知ってんだろ? クロノスが過去に飛んだときの記憶、共有してんだろ? だったらその記憶、俺にも寄こせよ。俺がそいつ殺してきてやるから……」

「バネ君、落ち着いて。今この時間軸にいるその男を殺しても、美麻ちゃんの怪我が治るわけでは……」

「んな事ぁ分かってんだよ! じゃあどうしろってんだ⁉ 美麻を覚えてるのは、ここに居る俺たちだけなんだろ⁉ 俺がやらなきゃ、誰が美麻のために動いてくれんだよ!」

「……それは……」

「だからラミア! 俺にお前の記憶を寄越せ! 神が裁かないなら俺がやる! この時間軸のそいつは、もう『罪を犯した後』だろう⁉ 裁けるよな⁉ 神の判断で、そいつを殺すことも出来るんだよな⁉」

「いや……まあ、それはそうなのだけれど……」

「だったら俺に命じてくれ! 神の代行者として、そいつを殺せと!」

「駄目だ! そんなこと、俺が言えるはずないだろう⁉ ヤッピちゃんは最後まで、君たちのことを心配していたんだ! 君と美麻ちゃんは俺が守る! 君の手は汚させない! 絶対にだ!」

「……っ! 頼むよ! ラミア!」

「いいや、駄目だ! 俺には言えない!」

「ラミア!」

 拒絶するラミアに代わり、クロノスが進み出た。

「よし、だったら僕が命じてやろう。鬼怒川バネ、君に歴史改竄者の討伐を命ずる。これがその男の顔だ」

 バネの額にそっと触れた指先。そこから伝わる記憶に、バネは歯軋りする。

「こいつが……こいつが美麻を……」

「ああそうだ。この男、『ニカイドウカイジ』こそ、全ての事態の元凶さ。君は今、時空神クロノスの代行者としてこの世界の中に『役割』を得た。その男を見つけ、殺すまで、君の存在は消えない。そして君が生き続ける限り、君の記憶により、瀬田川美麻も生き続けるだろう。だけどいいかい? これはとても重要な話だ。この『役割』を与えることは、僕から君への親切心なんかじゃない。ハッキリ言って、ただの呪いだ。君と美麻が生き続けるためには、その男を殺してはいけないんだ。君はその男への憎しみに呑まれてはいけない。どんなにその男が憎くとも、許し、生かす道を提示しなければならない」

「そんな……なんでだよ! 美麻をこんなにした奴を、どうして……!」

「まあ、ほら、あれだ。あまり大きな声では言えないが、僕はそれほど平和主義的な神様ではないからね? 首が繋がっていて心臓さえ動いていれば、『まだ討伐できていない』っていうジャッジにする程度の融通は効かすから……」

 長い付き合いの友人の言葉に、ラミアは頭を抱えた。実質、『死んだほうがマシだと思えるくらいボッコボコにしておいで』と命じているわけだ。

 クロノスの言葉の意味を正確に理解したバネは、物騒に笑って飛び出していった。その後姿を見送り、ラミアは友人に問う。

「で? バネ君と美麻ちゃんを生き永らえさせて、それからどうする気だい? まさか君、自分の『器』を殺されて黙っているようなことはしないよね?」

「当たり前だよ。でもあの男には、僕では手が出せないかもしれない」

「なぜ?」

「僕以外の時空神が憑いているようだ。操作された時間軸が上手くカモフラージュされていて、あの男が『今いる場所』になかなかたどり着けない」

「君以外の時空神? どこの神族の神だろうな……?」

「そのあたりも込々で、ちょっと創造主のところにお伺いを立ててくるよ。どう考えても、このまま放っておいたら世界大戦になっちゃうし」

「気をつけろよ。本当に君と同じ属性の神が暴れまわっているなら、君と同じように地球最強の格闘家とか、絶対に外さない狙撃手とかを憑代に使うかもしれないから……」

「あ、そうか。その可能性は考えていなかったな!」

「おい! しっかりしてくれよ! 君だけが頼りなんだぞ!」

「まあまあ! そんな悲観的な顔するなって。なんとかなるよ。これまでだって、ずっとそうだったじゃないか。それじゃ、また」

「ああ、じゃあな」

 クロノスはニコリと微笑むと憑代から抜け出し、空気に溶けるようにすっと消えた。だが、しかし――。

「……え? あれ? なんだ、ここ?」

 神は消えても、憑代は残る。突然見知らぬ街の路地裏に放り出されてしまったエリックは、驚いた顔で辺りを見回していた。

「……マジかよ。クロノスの奴、憑代放置していきやがった……」

 いきなり異世界に召喚された魔法の国の住人に、ここが東京都新宿区であることをどうやって説明したらよいのだろう。ラミアは蛇神歴一万年オーバーの知識と経験を総動員して考えてみるが、これと言って、使えそうな手は浮かんでこない。

 仕方がないので、ひとまずエリックを眠らせてしまおうと思ったラミアだったが――。

「うっわ! どうしたんだよその子! 大怪我してるじゃねえか! おい、看護用ゴーレム使うからちょっと離れてろ!」

「え? ゴーレム……?」

 エリックは胸のポケットから呪符を取り出し、起動させる。エリックの使う看護用ゴーレムは二体。桃色と水色のナース服を着た小柄なゴーレムが美麻の両側につき、手際よく衣服を脱がせていく。

「まずはこのお嬢ちゃんの怪我の治療と、身体機能のチェックだ! それが終わったら、こっちの羽の生えたガキもな! 魔力残量足りるか⁉」

「一号機、充電率97%です。全機能使用可能状態にあります」

「二号機、充電率95%。患者二名の連続治療、可能……」

「よし、任せた! 絶対に死なすなよ!」

「はい。治療を開始します」

「治す。絶対……」

 ゴーレムたちに指示を出し終えたエリックはラミアに向きなおり、状況の説明を求めた。しかしラミアには、この男がいつの時代から連れてこられたどこの誰なのかさっぱり分からない。まずはどのあたりから、どのように説明すべきなのか。判断しかねてまごつくラミアの様子に、エリックは小首を傾げる。

「あれ? ゴーレム見ても驚かねえから、特務の協力者かと思ったんだけど……ひょっとして違ってたか? 今ピアスの翻訳魔法が『日本語モード』で作動してるんだけど、ここ、日本で合ってるよな?」

 この言葉でラミアは理解した。クロノスは『うっかり憑代を忘れていった』のではなく、わざと置いていったのだ。エリック・メリルラントは『地球』という異世界を知っているし、何度も来たことがあるようだ。そして負傷者、それも明らかに戦闘行為で負った傷を見ても動じず、何の躊躇いもなく治療を開始した。

 ただの戦力としてではなく、その後のケアも含めて総合的に判断された『人類史上最強の男』ということなのだろう。

 ラミアはできるだけ簡単に、話を噛み砕いて説明する。

「えーと、俺はラミア。君はついさっきまでクロノスという神に体を乗っ取られていて、闇堕ちと呼ばれる怪物たちと戦わされていた。そこの負傷者たちは、君と一緒にその怪物と戦っていた人間だ」

「あ、なんだ。夢じゃなくて、俺、本当に戦ってたのかよ」

「覚えているのかい?」

「寝オチ寸前のギリギリ状態で映画観てたような感じで、まったく実感がねえけどな。ま、いいや。バケモンは退治できたし、あとはその子たちを治せばめでたしめでたしだな」

「めでたし……って、君、元の世界に帰る方法は? クロノスに強引に連れてこられたんだろう?」

「ん? いや、俺は今任務でこっちに……」

 そう話し始めたときのことだった。エリックの胸元からスマホの着信音が響いた。

「ちょっと失礼」

 エリックは軽く断りを入れてから電話に出て、顔色を変えた。

「レクター⁉ おい! レクター⁉ どういうことだ! お前、今どこに……クソ!」

 エリックは通話を切り、ポケットから数枚の呪符を取り出した。

「レクター・メリルラントの現在地を捜索せよ! 行け!」

 術者の命を受け、鳥型、虫型、ネズミ型の偵察用ゴーレムが一斉に駆け出す。

 エリックはラミアに向きなおり、険しい表情でこう告げる。

「さっきのバケモノが、仲間のところにも出現したらしい。俺は仲間の応援に向かう。そっちの看護用ゴーレムは残していくが、治療が終わったら、いったんお前んちに連れ帰ってくれないか? あとで迎えに行くから……」

「分かった、ありがたく借りさせてもらうよ」

「それじゃ……」

「あ、ちょっと待って! 君、闇堕ちに対抗できる武器は? さっきまではクロノスの力で戦っていたんだろう?」

「ん? あ、そう言えばそうだな……」

「君に『蛇皮』の防御魔法をかける。これは闇堕ちと同じ毒と闇の属性で体表を覆うものだから、闇堕ちに直接触れて攻撃できるはずだ」

「本当か? そいつは助かるぜ」

 エリックはラミアに魔法をかけられ、それから改めて弟の応援に向かった。




 エリックと別れたところで終了した記憶の上映会。ピーコックとラピスラズリは顔を見合わせ、どちらともなく呟いた。

「レクター……やっぱり実在したのか……」

「もう一人のメリルラント……」

 午前中、ゴヤが市役所の窓口で特務部隊の代表IDカードを提示した時点で、情報部では申請内容の詳細と発行された書類の写しを入手している。その中に『レクター・メリルラント』という見覚えのない名前があったことも承知している。

 まさかいきなり本命にぶち当たるとは。そんな驚きを顔いっぱいに浮かべる二人に、ラミアは『同じ時間のもう一つの記憶』を見せる。




 それは何もかもが同じ順序で進んで行く、同じ映画の再上映のようだった。けれども決定的に異なることがある。

 主演俳優はエリック・メリルラントではない。その従弟、レクター・メリルラントのほうだ。そして助演男優のクロノスも、二百年前ではなく、百五十年前から来たと言っている。

 クロノスはレクター・メリルラントの体でこう名乗る。

「僕はこの時間から百五十年ほどさかのぼった時間軸のクロノスだ。この時代の僕と、二百年前の僕から手を貸してほしいと頼まれて、時空間をジャンプしてきたのさ」

 そう、つまりこれは同じ時間の『やりなおし』でありながら、先ほど見た記憶の続きでもあるのだ。そこから先の話の流れはおおむね同じだが、終盤でかかってきた電話の相手で、この『やりなおし』の意味が分かる。

「あ、もしもし、レクターか? なんかよぉ、今よく分かんねー黒い連中に襲われたんだよ。剣で斬っても死なねえけど、雷撃なら効くみてぇだ。お前も変なのに襲われたら、初撃から魔法で行けよ。あと、そいつらには絶対に触るな。直に触ると呪いみたいなのに感染する。さっき目の前で人間が黒いのに抱き着かれて、同じバケモノに変化しちまうのを見た。いいか、絶対に触るなよ。俺は残りの連中を倒してから合流地点に向かう。ちょっと遅れるけど、ちゃんと待ってろよ」

「分かった。エリック兄さん、気を付けて」

「誰に言ってんだバーカ! 俺は無敵だ!」

 通話はそれで終了する。

 ピーコックには理解できた。エリック・メリルラントは強い。つい先週、彼は両腕を封じられた状態で神的存在と化したベイカーと戦ってみせた。勝利することこそできなかったが、白虎とニケの力を取り込んだベイカーに、生身で有効打を入れることが出来たのだ。

 世界最強の男を憑代に使えば、その従弟が死んでしまう。ならば逆の配役で『同じ時間』をやり直せば、二人とも生かすことが出来るのではあるまいか。

 クロノスの判断は正しかった。二つ目の記憶では切迫した様子は一切なく、レクターは美麻とザラキエルの治療が終わるまでその場に残り、綾田の隠れ家に二人を運んで和やかな雰囲気のまま別れている。

 と、ここでラピスラズリがハッとした顔で言った。

「記憶は消えても記録は消えないんだよな⁉ だったらあの看護用ゴーレムの医療記録は⁉ 瀬田川美麻という人間のスキャンデータが丸ごと残っているはずじゃないか⁉」

「あ! そうか! じゃあエリックの看護用ゴーレムを調べれば……って……あれ?」

「……ん? そう言えばエリックって、確か……」

「ゴーレムとか、トラップ系の呪符が苦手……というより、ほぼ使えなかったような……?」

「んんん? いや、待てよ? 呪符が苦手じゃ、まず特務昇進なんて不可能だろ? これまでに特例で入隊したのは隊長補佐のポールとアレックスだけで……?」

「……まさか、俺たちの記憶も……」

「書き換えられている……?」

 首を傾げる二人に、ラミアが真実を告げる。

「おそらく、君たちの記憶は改竄されていると思う。さっき見せた一つ目の記憶で、俺はエリック・メリルラントと別れた後、隠れ家に戻った。だけどその先の記憶はない。クロノスによって『同じ時間』がもう一度やり直されたことで、上書きされたんだ。だから俺はあのゴーレムを返せていないし、上書き後の世界では、俺とエリックが出会った事実すらない」

「……ん? ということは、あのゴーレムは……?」

「一度目はエリックから借りっぱなしで、二度目は会ってもいなくて……どこにあるんだ?」

「さっきも言っただろう? 『真実』は二種類あって、そのいずれも矛盾することなく現在のこの時間軸につながっていると。俺がゴーレムを借りたことも、借りなかったことも、レクターが死んだことも、死なずに済んだことも、何もかもそのままなんだ」

「……いや、ちょっと待ってくれ? 矛盾するよねぇ、それは……?」

「完全に真逆だよな……?」

「いいや、矛盾していない。矛盾しないように、歴史の流れが修正されたんだ。だって君たち、サイト君のことが無かったらレクター・メリルラントの存在に気付くことはなかっただろう? エリックが本当はゴーレム呪符を使えたことも、思い出さずにいただろう? レクターのこともあの二体のゴーレムのことも、世界中、誰一人としてその存在自体を知らない。知らない物がなくなっていても、誰も気付かない。気付けるはずも無い。ほら、どう? 矛盾する要素なんて一つもないだろう? 何も問題は無いよ?」

「知らなければ……?」

「問題はない……?」

 ピーコックとラピスラズリは静かに顔を見合わせ、それぞれに与えられた情報を咀嚼する。

 自分の知らないモノが見えないところで消えていても、人間の感覚器官ではそれに気付くことが出来ない。人間が知覚できる範囲は自分の五感が及ぶところまで。記憶を操作したうえで人目につかないところに死体を隠されてしまったら、その人間を探すどころか、存在した事実に気付くことすら不可能である。

「……おい……おいおいおい、なんだよ、それ。人間って、そんなに簡単に消せるモンなのかよ? 世界の整合性を保つために、レクターは消されたって言うのか? やり直した二つ目の記憶で、あんなにピンピンしてたのに……?」

「そういうことになるな」

「そういうことって……っざっけんなよ!」

 ラミアの言葉に激高したラピスラズリは、ラミアの胸ぐらをつかみ、腕力にものを言わせてつるし上げた。

「この野郎! クソみてえなことぬかしてんじゃねえぞ! てめえか⁉ それとも、さっきの記憶に出てきたクロノスとかって神の仕業か? ああっ?」

 凄んでみせるラピスラズリだったが、ラミアの表情は変わらない。淡々とした口調で、本当のことだけを告げる。

「誰の仕業でもないよ。世界というものは、そういう風にできているんだ。何かが欠ければ他のもので埋め合わせるし、何かが足されれば、それが元々そこにあったように記憶と認識が微調整される」

「微調整だぁ? んなレベルじゃねえだろ! 人間が消えたんだぞ!」

「ああ、そうだ。消えたのは人間だ。この俺、蛇神ラミアが『神の器』として造り上げたヤッピちゃんですら、たかだか人間の貼り紙一枚でいなくなってしまった。それが人間だよ。ひどく脆くて、危うくて、繊細で……神が全力で加護を与えても、それでも死んでしまうような、とっても脆弱な生き物さ……」

「……っ!」

 ラピスラズリは手を放した。いや、放さずにはいられなかった。ラミアは話しながら、綾田厄日との同調を切ったのだ。

「……おい、早く戻れよ。その体、本当に死んじまうぞ……」

 見る間に土気色になっていく肌、焦点の定まらない左右の眼球、力なくその場にくずおれた体。死体そのものにしか見えない綾田の体は、それでも微かに胸を動かし、呼吸をしていた。

 こんな状態になっても、彼はまだラミアによって生かされている。これははたして愛なのだろうか。それとも優しさや、神としての責任感なのだろうか。

 未練や執念とでも呼ぶべきこの行いに、ラピスラズリとピーコックは、ラミアという神の心の闇を見た。あまりに深いこの闇に、掛ける言葉が見つからない。

 そしてそれは、天使サマエルも同じだった。

(……守護対象が……この男の魂が消えてしまったら、私は……?)

 体に残された記憶をもとに、ピーコックに成り代わって『続き』を演じるのだろうか。それとも体を土に還して、一人で創造主の元に帰るのだろうか。

(もしもどちらも選べなかったら、そのときは……?)

 己の身に置き換えて考え、サマエルは気付いた。

「……だから、『奇跡』が必要なのか……?」

「え? サマエルちゃん、なんだって?」

「奇跡?」

 サマエルのつぶやきに反応した二人は、答えを聞きたいわけではなかった。ただ、この重苦しい沈黙を終わらせたいだけだったのだが――。

「すまないピーコック。私は、どうしても主にお尋ねしなければならないことがある。すこしの間お前の傍を離れる。ラミア、お前の器のことも、必ず聞いてこよう。だから私がいない間、もしものときには私の宿主を守ってやってほしい」

「へっ⁉ ちょ……サマエルちゃんっ⁉」

 サマエルはそれだけ言うと、光に包まれて消えてしまった。

 呆然とするピーコックに、『器』との同調を再開したラミアが声を掛ける。

「大天使サマエル様のご命令なら、聞かないわけにはいかないからね。いつまでだかは知らないけど、どうぞよろしく~♪」

 まだ血の気の戻らない顔で、焦点のずれた目で、ニタリと笑ってそう言うラミア。ホラー映画のゾンビのようなラミアを前に、右腕の消えたピーコックは、いまさらながら思った。


 やはり自分は、想像以上に重要なポジションに置かれてしまったらしいと。

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