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怪盗0(ゼロ)  作者: 和栗
サラリア国篇
6/6

家無し子


食卓の下座に腰かけて、リヒトはやっぱり黙ったまま、宙を見つめ考え込んでいる。


「朝は、家に入ってくれなかったくせに」


冗談めかして私は笑ってみせるも、反応は無い。


夕食のスープを混ぜていた時だ。

唐突に、リヒトは口を開いた。


「お前の父親に、頼まれたんだ」

「え、何を?」

「今夜…お前を守ってやってくれ、と」



゛何から?゛


そう聞こうとして、ふと止まる。

きっとそう聞いても、答えてくれないに違いない。

だってお父様もリヒトも、何故か私にそれを隠したがっているようだから。


うまく探らないと。


「今日の禁書は、家に置いといていいの?」


「ああ。明日の夕方、お前の父親が取りに来ることになっている」


「そう。…リヒトはあの本、読んだことある?」


リヒトは答えない。


(これは読んだこと、あるな)


長年の付き合いだ。

なんとなく、彼のだんまりの理由は分かる。

スープが温まり、私は二人分の配膳をして、リヒトの向かいに腰かけた。

食器の音だけが、家に響く。


「明日は、誕生日だな」


話を変えるように、リヒトはぽつり呟いた。


「そうなの。こんなにドキドキする誕生日、生まれて初めてだよ」


胸に押し込めていた不安が、再び込み上げてくる。

それを隠すため、私は笑ってみせた。

だが、リヒトは笑っていない。

全てを見透かすように、静かに私を見つめている。


やがてふと、自らの鞄に目を落とすと、中から小さな紙袋を取り出した。


「ちょっと早いけど」


差し出される包み。

何だろう。

戸惑いながら、震える指先でそれを開けると…



「素敵なバレッタ!」


水色の、透き通るほど美しいガラスのバレッタが、中に入っていた。


嬉しい!リヒトからのプレゼントなんて、初めてのことだ。胸がいっぱいになる。


「街に行ったついでに買ったんだ。

だけど、必要無かったかもな」


リヒトの視線が、私の頭上に移る。


「あ」


知らない男性からもらったピンクのバレッタを付けていたことを、ふと思い出した。


「リヒト、私とっても嬉しい。これからはピンクのバレッタと、そしてこの素敵な水色のバレッタ。毎日交互に付けるね。もちろん明日の誕生日は、こっちの水色にする!ありがとう!」


言って私は早速、ピンクのバレッタを外し、水色のバレッタを付けた。


よほど、私が嬉しそうにしていたのだろう。

リヒトは照れたように目を背けた。




「お前の父親には、感謝してるしな」


灯りのせいだろうか、リヒトの頬がほんのり色付いている。

ぼそり呟いて、リヒトは窓の外に目をやった。


「もう14年も経つんだね。リヒトがこの国に来てから」



私がまだ3つの時だ。

王宮の大きな樫の根本に、よちよち歩きの子供が一人、じっとしがみついていたらしい。それが、彼だった。


どこから来たのか分からない。


そうした意味で、名付けられた。

「リヒト」というのは、この国では家無し子という意味。

その意味を私が知ることになったのは、ずっと大きくなってからのこと。


「あれから俺は、お前の父親の計らいで、王宮で働けることになった。家無し子の俺が、だ。だから俺は、あの人の為なら何だってする覚悟はできている」


リヒトはきっと、お父様の為に素晴らしいことを言ってくれている。


でも、何故だろう。

少し悲しい。


「ねえ。じゃあこのバレッタも、私がお父様の娘だから、くれたの?」


リヒトは、はっとしたように私を見た。

そして決まり悪そうに目を泳がせ、小さな声で答える。


「……お前に似合うと思ったから」


YesともNoともつかぬ答えだが、喜びで胸がいっぱいになった。

少なくとも私に似合うと思って、リヒトが選んでくれた。その事実だけで嬉しい。


「約束する。私、このバレッタをずっと大切にするね」


リヒトはほんの一瞬、口角を僅かに上げたような気がした。

だがすぐに、元の顔に戻り、私に背を向ける。


「今日はもう寝る。向こうのソファー、使わせてもらうから」


言ってリヒトは、部屋の隅に寝転んだ。

私も食器を片付け、寝室に入る。



(今日はいろいろあったなあ。

禁書を見つけて、それにリヒトにプレゼントをもらって。

あ!あと、知らない男性にピンクのバレッタももらったなあ…


そして、あの噂…。怪盗0、新聞で読んだことがある。その国1番の宝を盗んでいく、世界一の怪盗。この国に来ている?


…まさかね)


考え込みながら、いつの間にか私は眠っていた。


そして、運命の朝を迎える-…


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