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怪盗0(ゼロ)  作者: 和栗
サラリア国篇
4/6

街の噂①


街に出るのは、随分久しぶりだ。


「安いよ安いよ!」

「そこのお姉ちゃん、ちょっと見ていきな」

「今日仕入れたばかりの魚だ!どうだい、まるで生きているみたいだろ」


王宮から歩いて半時間もかからない場所だが、ここはまるで別世界のようだ。


何を買うわけでもなく、見ているだけでも楽しい。


「あ、綺麗」


ピンクの花のビースが散りばめられた、美しいバレッタが店先に並んでいる。


「買うのかい?」


店番のおばさんが、値札を指差す。


(欲しいけれど、自分の為にお金を使うなんて…。お父様が頑張っているのに、自分だけ贅沢しちゃ悪いわ)


「いえ、素敵だけれど。諦めます」


「そうか、じゃあ俺が買うかの」


いつの間に居たのだろう。

隣には長身の、黒服の男が立っていた。

見たところ、年は20代…だろうか。

銀色の肩ほどの髪を、後ろに一つ、結んでいる。


「あらま、見かけない顔だねえ。旅のお人かい?」


店のおばさんは、しげしげと男を見つめている。確かに、この国の言葉にしては独特のくせがあった。


「ああ、俺は奇術師での。いろんな国を回っちょるところぜよ」


男は人の良さそうな顔で、一つ微笑んでみせた。


「へえ。じゃあそれは、国の奥さんにでもプレゼントするんだね」


男はおばさんから商品を受け取ると、軽く頷く。


「ああ、このお嬢さんにな」


「え、私に?」


突然、男の視線が私に移り、思わず声がうわずった。


「そう、お前さんに」


「でも…」


「旅先で知り合うた美女への投資は惜しまんタチでな。ええからとっとけ」


「あ」


私の掌にそれを握らせたかと思うと、瞬く間に男は雑踏へ消えていった。



(お礼、言い損ねちゃった)


男のくれたバレッタを、そっと髪に付ける。


「いいじゃないかい。似合ってるよ!」

「ありがとうございます」


男へのお礼も込めて、おばさんに頭を下げると、再び私は歩き出した。




しばらく歩いていると、古書堂が立ち並ぶ狭い路地に着いた。


古びたかび臭い本の香りが、路地中に漂う。


(好きだな、この匂い)


お父様の書斎も、こんな感じだっけ。


路地を進むにつれ、人は段々少なくなる。狭い通路の突き当たり。かがんで入るしかない狭い間口の店が一軒。


その店は他とは違い、どこか不思議な香りがした。


(どんな本が置いているんだろう)


ドキドキしながら、間口をくぐる。店の中は、湿っぽく、背丈ほどの棚が三つ並んだきりだった。

客は誰もいない。小柄な男が一人、レジで番をしている。だがその男ですら、いびきをかいて居眠りをしていた。


そんなわけで、誰に気兼ねすることもなく、私は店に入ることが出来た。

端から順に、私は本の題名をなぞっていく。しかし、どれも読んだことのある名前ばかりだ。お父様の書斎や、王宮の地下で私は、残念ながら全ての本を、知っていた。興味をひく本が、なかなか見つからない。


じっと本を目で辿る。最後の棚の上段で、ピタリ私の目は止まった。


「『時空と針』…?」

分厚い辞典のような本だ。背表紙は黒く汚れ、明らかに埃が積もっている。紙は乾燥し、触れれば今にも紙が砂のように崩れてしまいそうな。


(何の本かな)


慎重に、私はそれを抜き出した。

初めて聞く名前だ。小説だろうか…


目次をざっと目で確認する。


「時空と歪み」

「十一人の使徒」

「懐中時計」

「女王」

「ホトトギス」

「国家盛衰と針」


………




「何をしている」




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