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怪盗0(ゼロ)  作者: 和栗
サラリア国篇
2/6

歴史の門番①


王家の敷地のうんと隅に、小さなレンガ造りの家がある。いや、小屋という方が正しいか。


いつもより騒がしい、鳥の羽音で私は目が覚めた。

辺りを見渡し、耳を澄ます。


誰もいない。

どうやらお父様は、お出かけのようだ。


「いい匂い」


窓から流れ込む、山茶花の香りに誘われて、私はふらり外に出た。


空が澄み渡っている。清清しい気分だ。

こんな日にはきっと、何か素敵なことが起こるに違いない。


「マーシャ」


ぼんやり空を眺めていると、誰かが私の名前を呼んだ。

くるり振り返る。大きな袋を両手に抱え、リヒトが後ろに立っていた。短髪で、肌の色は私と違い少し黒い。彼は共に王宮に仕える、大切な私の幼なじみだ。


「おはよう、リヒト。素敵な朝ね」


私の声が聞こえているのかどうか。

彼はむっと押し黙ったまま、王宮を見つめている。


「お父様の書類を持ってきてくれたのね、ありがとう。せっかくだから、一緒に朝食をどう?」


リヒトは玄関先に袋を置いて、静かに首を振った。


「やめておく。お前ももうすぐ、17歳だ。気軽に男を家に入れるのは、やめた方がいい」


そう言って、リヒトは背を向け立ち去ろうとする。


「リヒト!」


呼び止めた声もむなしく、リヒトは王宮へ戻っていった。


残された私はふてくされながら、玄関に置かれた紙袋の中身を確認する。


「ナラジー川の氾濫の歴史」

「今年度財政決算書」

「第26代国王ミジョンの勝率と、その戦法について」


などなど。

どれもお父様に王宮から送られてきた資料だ。


思わず、ため息が出る。


(今はお父様の物だけど、近い内にこれらは全て、私が覚えなきゃいけないんだわ)


そう考えると、ぞわり恐ろしくなり、その重圧に押し潰されそうになる。



「マーシャ。我々はね、この国の歴史を司る……いわば、歴史の門番なんだよ」


うんと私が小さかった頃。

お父様は教えてくれた。



私達は代々、国の歴史を管理し守っていく家柄なのだということ。


17歳になれば、一人前の門番として、国の全ての歴史を知る権利ができるということ。


そして、

17歳の誕生日を迎えた夜には、

先代より口頭で、サラリア国のある歴史を伝承されるということ。




17歳の誕生日は、もう明日の夜に迫っている。


私は震えが止まらない。


(そんな大役、私なんかに務まるのかな


嗚呼、お父様はなんて、立派なのだろう!)



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