許すこと
柚彦は言葉を失い、ただ驚愕の表情を浮かべ立ち尽くしていた。
「これが……事件の真相よ。私はずっと……貴方を……」
媛野だった女は、その場に崩れ落ちた。
「嘘だ……そんなの……だったら俺は、俺は……」
自分を裏切った女を殺す。それだけのために、ここまでした柚彦には受け入れ難い現実だった。復讐だけに囚われて、事件のほとんどを忘れてしまっている彼には、あまりに衝撃的な内容であると言えよう。
「馬鹿だよ、あんたは。愛してたんじゃねぇのかよ、だったらなんで間違えるんだよ。だから嫌いなんだ……ずっと気付いて貰いたかった。でも、いつもあんたはあいつを追う。殺したのは私の方なのに……」
「一番馬鹿なのはお姉様でしょ。お姉様があんなことをしなければ、この魂にずっと私達の意識が存在し続けることもなかった!」
「……ハハ」
柚彦は、乾いた笑いを漏らす。
「大切な人々を蘇らせたかった……でも、開けた瞬間、私は息が止まるほどの痛みを心臓に感じた。その瞬間、世界が黒く染まって何も見えなくなって……気がついたら、私の手は小さくなっていた」
「お姉様は結局、使えなかったんだね」
「私に与えられた罰だ。生き地獄、ただただあんたが殺されるのを見ているだけ。本当は私なのに……私がいつもこいつの傍にいて、どんなにウザい行動をしても、殺されるのはあんただった」
眞白は、唇を噛み締めた。眞白はこの中でただ一人、ずっと意識を持ち続けた存在。全てを見届け続けた存在。
「不思議だよ、私よりあんたらの方が早く死んだのに。何故か、私があんたらより早く生まれ変わってしまうんだから。やっと……伝わる時が来た。もう分かっただろ? あんたが殺すべきは私だ」
眞白は立ち上がり、柚彦の元へと近付く。
「……どこまでお前は狂ってるんだ」
「柚彦、あんたにだけは言われたくなかったよ。異常なまでの復讐心で、私達の魂をここまで束縛し続けているんだから」
「駄目だよ、殺したりなんか……もうそれ以上本来の体の子達の魂を穢さないで!」
女は必死に叫ぶ。
「……でも、このままだと絶対解放されないわ」
「ねぇ、知ってる? 人は許すことが出来るんだよ」
その提案に、二人は予想外だったのか目を見開いた。
「許せだと? 許せる訳がないだろ。こいつは全てを奪ったんだ、大切な物も未来も夢も希望も! ここで討てば結局は解放される! なら、殺す!」
柚彦は、眞白の首に向かって手を伸ばす。眞白は逃げようとはしない。
「駄目!」
女は、伸ばされたその手を強くはたいた。
「どうして……邪魔をするんだ。君は憎くないのかい? こいつさえいなければ……きっと!」
「憎くないなんて言ったら嘘になるよ。だけどね……人は許すことが出来る生き物なんだよ。復讐が生んだ物って何? 何もなかったでしょう? もうこんなことを続けても、苦しいだけだよ。終わりにしよう……」
女はただ、皆を救うことだけを考えてここまできた。それによって救うために必要なこと以外、ほとんど忘れてしまっていた。憎しみと後悔に囚われた二人を解放するために、彼女はここまでしたのだ。
「簡単に言ってくれるね。君は優し過ぎるんだよ。昔からそうだったのかな? だから愛したのか……何も思い出せないけど」
柚彦は鼻で小さく笑った。目は悲しそうで、手が震えている。柚彦にあるのは迷い、どちらにしても救われるのなら柚彦にとってはどちらでもいいだろう。
「……どうするの」
眞白は強い口調で、冷たく言い放った。
「俺は――」
眞白の首に向けて伸ばした震えた手を――。




