廻り廻る3人
「知らない! 離せ!」
柚彦は、眞白を突き飛ばした。眞白は、そのまま後ろに座り込む。未来を打ち砕かれてしまった絶望的な表情を浮かべて。
「どうして私だけ忘れるの? どうして私だけあんたは忘れるの? こんなにずっと傍にいても……」
――何なんだよ、この女。面倒だな……この体の奴の姉だろう? 俺と関係があったのか? さっぱり思い出せん。
「簡単だ。お前の存在などどうでもいい。俺は、あいつに復讐するためにここまでやってきた……それ以外のことなんてどうだっていい。関係がない。お前がいくら俺の過去を知っていようとも、だ」
柚彦は、氷のように冷たい笑みを浮かべた。悔しそうに眞白は床を力強く叩いた。
「復讐は人を変えてしまう……復讐に囚われてしまったら最後、果たすまで抜け出せない。貴方のように、それ以外のことは全て忘れて」
人知れず、ひっそりとリビングのドアの前に媛野が立っていた。無論、それもまた中身は別人であったが。
「いつの間に……まさかお前の方から来てくれるとはね。家を知らなかったから助かったよ。どうやらお前もまた体を支配しているらしいね」
柚彦は微笑んだ。あの日、約束を交わし合った時のような優しい笑み。しかし、柚彦は覚えていない。あの時の同じ笑みであっても、伝わってくるものは違う。
「どうしてここに来たの!? 思い出しているのなら尚更! あんたはどこまで馬鹿なの!? あんただってもう分かってるんでしょ。殺されるのはあんたじゃなくて、私。あんたが毎回毎回、現れるからそれが上手くいかないのよ!」
眞白は頭を抱え込む。それを聞いた、柚彦は驚きの表情を浮かべた。
「どういう意味だ……」
「……ずっと伝えようとして伝えられなかったことがあるの。今回の貴方が冷静であって良かったわ。ちゃんと話す機会があるのは初めて。お姉様と先にお話をしてくれてたお陰かな」
柚彦が覚えているのは、赤い着物の女に殺されたこと。記憶には一切残っていないが、約束を破られたことへの激しい怒り。それでもその女を見つけることが出来たのは、家宝のお陰だった。柚彦が親から聞いていたのは、家宝を使えば死者の復活。それは間違いではない。だが、もう1つの開ければ災いの方が柚彦の復讐の手助けを続けていた。
「貴方を殺したのは、私ではなくお姉様の方。双子のお姉様の方。私は約束を守っていた。いつかきっと堂々と2人会える日を信じて。その中で、突如告げられたのが貴方の死。何が起こったのか、全てを話せる時がついに訪れた……いいよね? お姉様。これが真実なのだから」
「えぇ……」
それは、夏の暑いいつも通りの日であった。ただ、いつもと違ったのは、ここにいる3人が前世の人として立っているということだけだ。
異様な雰囲気の中、媛野だった女が口を開いた。