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咎の華  作者: 芳香
初華
7/10

咎の跡ー吟遊詩人は嗤うー

センソウは終わった。


英雄だった悪魔は死んだ。


令嬢だった英雄も死んだ。


賢王だった愚王は死んだ。


愚王だった賢王は王座に縛られた。


全ては終わり凄惨な真実は美しい物語に、人々の憎しみや悲しみは記憶の底に静かに沈んでいった。


忘れてはいけない、忘れたい。


二度と起きないだろう、また起きるかもしれない。


そんな相反する感情を渦巻かせた人々は、この事実を物語にした。

誰かが唄い、誰かが語り、誰かが思いをはせる。そうすればきっと忘れはしない、そうすればきっと 二度と同じ事が繰り返される事はないと願って。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


吟遊詩人は唄う。嘗ての物語を。


悲しき悪魔と云われる英雄を、

麗しき英雄の姫君を。


彼らの愛と哀の顛末を。


すれ違い、追いかけ、憎しみ合い


その果てに、絶えた彼らの愛憎劇を。


吟遊詩人を見つめる少女達はどこかウットリと聴き入っている。でも、少年たちはつまらなさそうに口を尖らせた。


「ねえ、吟遊詩人さん。」

「うん、どうしたんだい? 少年?」


歌が終わった後、銀貨の雨が降る中である少年は不満そうに吟遊詩人を呼び止めた。


「そういう、面白くない話じゃなくてさぁ!もっともっとかっこいい話聞かせろよ!」

「ああ、いいよ、悪い王様から国を救う話とかどうだい?」



目を輝かせた無垢な少年を見て。吟遊詩人はくすりと嗤う。


やっぱり誰も、覚えてはいない。物語に真実が隠されていたとしても。誰も思い出さない、いや知らないのだと。


吟遊詩人は唄う。


悪しき王から飢餓に喘いだ国を救った麗しき姫君の話を。それを支えた今上の賢王を讃える歌を。


吟遊詩人は知っている。なぜなら、彼は沢山の|物語その中の真実》を知っている。昔むかし、なんて誰も気にしやしない事も知っている。


だから、吟遊詩人は唄う。

なにも語らず、ただ唄う。


美しい物語(彼の飯の種)を。


「なあ、吟遊詩人さんよぉ。」

「ああ、親父さんどうしたんだい?農作業は大丈夫なのかい?」

「まあ、それはそれだ!それより知っているか?」


あの噂を。


だから、吟遊詩人は嗤う。


「ああ、あのキナ臭い話だね。」

「そうだよ、なんか隣国の兵がうろついているらしいね!全く迷惑ったらありゃしない!オウサマも、あのくそったれな国をやっつけちまえばいいのによぉ。」

「そうだねぇ。」


物語(飯の種)のニオイを嗅ぎつけて。













さて、次はなにを唄おうか。















終わり



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