イケメン有罪~ナンパ~
俺は駅前で一人立っている。
もちろんイケメンの俺が無為に突っ立っているわけではない、
彼女との待ち合わせだ。
俺はいつも待ち合わせ時間の30分前には万全の態勢で彼女を迎える用意ができている。
時間の余裕は心の余裕、余裕があってこそのイケメン。
駅前というだけはあって、他の待ち合わせや駅の利用客などで随分な賑わいである。
こういう場所での待ち合わせこそ、俺のイケメン力の出番だ
人ごみに紛れていてもイケメンの存在感のおかげですれ違いや
見つけられなくて慌てて携帯でお互いの位置を確認するような事はない。
しかし、こういう人通りの多い場所には必ずと言っていいほど
無節操に通りがかる女性に声をかけ続ける輩がいるものだ。
今も通りがかる女性に次から次へと声をかけに寄って行っては逃げられ、
待ち合わせをしているであろう女性に近づいてきては追い払われ、
また、話しかける時のオーバーアクションが落ち着きのない印象をさらに裏付ける。
どうしても話を聞いてもらいたいのか強引に肩をつかんで振り向かせる行為など
もはや、変質者として通報されてもおかしくないレベルだ。
話をしたいのならまずその第一声、
ここで聞いていてもわかるほど
誰に対しても同じコピーの声のかけ方をやめることだ。
その隣で無節操男を冷笑しつつ、狙いを定めてから声をかけようとしている男も
狙いを定める目つきが不気味な眼光を発しすぎて、
女性が自分の周りを避けて歩いていることも気が付かんのか。
周囲からの冷たい蔑むような視線を集めながら、彼らは何度も声をかけている。
こんな時イケメンならばな。
同じ男としてあまりにもかわいそうに思えてきたので少しヒントをやろうか、
イケメンは無節操に声をかけたりしない、ギラギラした目つきで周囲を見渡したりもしない。
そう、今の俺のように立っているだけだ。
もちろん、ただ立っている訳ではない。
少し考え事をしているような、物憂げな表情で
時間を持て余して退屈なのか少し視線を下げる。
長い時間そこに立っていて少し疲れたのか無意識に壁にもたれかかってしまったかのように
軽く背中を壁につけ、少し足の位置を変える。
こうやってほんの少し隙を作るだけで、
『あの・・・すいません・・・』
物の5分もせずに向こうから声をかけてくる
俺、イケメン!
おっと、今は彼女を出迎えるためにここにいるんだった
失礼、お嬢さん。
ここは相手の自尊心を傷つけずうまく帰ってもらうか。
切り返しパターンを考えながら待ち受けていると、
声をかけてきたのは、
お前は無節操男!
『お願いします、一緒にナンパしてください』
何を言っているんだ、
女性を口説きたければ一人で努力しろ、自分を磨け。
俺はお前など相手にしている暇はない。
ここでもオーバーアクションで迫って来る。
限りなくうっとうしい、ここまで不快だったのか同性ににさえこれほどの不快感、
先ほどから、声をかけられては足早に去っていく女性たちがどれほど嫌な思いをしていたことだろう。
俺のイケメン力で力づくにでも止めておくべきだったな。
すまない、世の女性達よ。
『一回で、一回だけでいいのでお願いします』
もう、うっとうしいというか、キモイ。
何を考えているんだ、いや、彼はいったい何がしたいんだ。
今度は土下座か、オーバーアクションにも程がある。
無駄に動くは、声はでかいは、
やめろ、足にすがりつくな。
一回だけと叫びながらすがりつく男を足蹴にしている姿に
憐れむような視線が降り注がれる。
数多くの視線の中に一際冷ややかな視線が一つ。
その視線をたどった先には、彼女が立っていた。
助かった、俺は心から安堵した刹那、
彼女は無表情のまま踵を返し雑踏の中に消えていく、
俺は謝りながら追いかける無節操男を引きずりながら。