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練習風景



今日もいつも通り早朝に出発、それから時間は流れるように過ぎて行った。何もないと時間の流れを早く感じる。…途中休憩の昼食も済み、再び走り出した馬車は何に邪魔されるわけでもなく目的地を目指して走っている。予定では明日の夕方にはルイーナに着くことになっている。そして今日はまた野営だ。


暇な俺はこれからの旅の予定を考える。本来の旅の目的は再び戻ってきたこの世界を見て回り、面白おかしく退屈しないで過ごせれば良かった。まあ今もその為にいろいろと考えてはいるが。


だが、この世界を旅するうちにそれ以外にもやらなければ行けない事ができてしまった。たぶん俺にとって一番大事な事…俺はクロノスにかつての俺の仲間がどうなったのかを聞いた。だが、クロノスは答えられないと言っていた。あいつが答えられないという事はかつての仲間達はこの世界の変容、クロノスが喋ることができなかった事態に巻き込まれた可能性が大きい。


あいつらに関わることならば俺はこの世界が変わった原因を知らなければいけない。出来ることならば俺が死んでからあいつらがどうなったのかも知りたい。俺が唯一自分の命で助ける事ができたのが奴等だと思ってた。自分が死ぬ事であいつらは幸せに生きていけたと思っていた。もし、そうじゃないのなら俺はそれを壊した原因を突き止めなければいけない。…その為にまずは全てのダンジョンを攻略する他ない。今までの情報で多少予想はできる。だがそれも絶対そうだとは言えない。


世界の変容はアークと同じ時代を生きた精霊王に会えれば分かると思っていたが、クロノスがあの様では精霊王も望みは薄いだろうな。一応会いには行くが。


まあダンジョンと精霊王という二つの目的があるから次の目的地はエンシャント大陸になるか。



ガタンッ


どうやら野営地についたようだ。そういえばスクロワ達に稽古できるのは今日が最後になるのか、まあ一応闘気を使うっていう目標は達成したわけだし、今日の稽古が終わってもあいつらが自分で磨き上げていくだろう。


そうだな、今日はスクロワに剣技を教えよう。他2人にもそれぞれの武器の使い方を教えたわけだしな。


馬車を降り全員が野営の準備に取り掛かる。

一度野営した場所の為準備は手際良く進められ、あっという間に終わった。そして昨日同様夕食の準備は夜達に任せ、俺とスクロワ達3人は稽古に出かけた…。




「よし、それじゃあ始めるか。と言ってもコンクルとキュルムは自主練をしてくれ」


「えーなんでよ」

不満そうにキュルムが言う。


「今日はスクロワに剣技を教えるんだよ。2人にも以前それぞれの武器の使い方は教えただろ」


「ああ、そういえばスクロワはまだだったね」


「自主練と言っても何かメニュー見たいのはありませんか」

コンクルが聞いてくる。


「そうだな…。それじゃあ今度は闘気を身体全体に纏えるようにしろよ。細かい感覚は手に纏う時にやってるからそれを意識してやればいい」


「難しいの?」


「いや、簡単だと思うぞ。言ってなかったが手のように身体の一部だけを闘気で纏う方が身体全体に纏うより難しいんだ。それができたんだから身体全体に纏うぐらいすぐにできるだろ。だからあとはそれをどれだけ長く維持できるかだな」


「望むところだよ」


「はい!」


2人は俺とスクロワから少し離れた場所で自主練を始めた。



「それじゃあ俺達もやるか。剣を構えてくれ」


スクロワの剣はバスタードソード、片手半剣だ。それに、スクロワの剣はそこまで重くもなく素早い剣術に向いている。その為前にやっていた弾射付きみたいな一撃必殺のような剣技は本来なら使わない。


今日は新たな剣技を教えるのと同時にスクロワの今現在の未完の剣術を完成させる。


まずは剣術自体を完成へと導く…。


踏み込み、姿勢、剣筋など、それらの細かい部分を修正していった。まあもともと完成に近かった為教えればすぐに直し、それほど時間もかからずにスクロワは剣術を完成させた。


次は剣技だな。


「それじゃあまずは闘気を纏って」


「……ん?どこをだ?」


「身体全部を」


「いや、まだやった事がないぞ」


「まあまあ、一回やってみ。さっきも言ったけどこっちの方が簡単だから」


意識を集中させるスクロワ。


「は!……で、きた。できたぞ!」

スクロワの身体を闘気が包む。


「な、簡単だって言ったろ。それに手だけに纏うより維持しやすいだろ」


「ああ。確かにこれならある程度は身体を動かせる。だが何故最初にこれを教えなかったんだ?」


「時間もなかったからな。それにお前達なら難易度を上げてもできると思ってたし」


「そ、そうか!」


「だが、局部に纏っている時よりは闘気が弱くなっているから気をつけろよ」


「ああ、わかった」


「それじゃあ次はその闘気を剣に纏わせるんだ。魔力を流し込む感じでやればできるぞ」


これには少し時間がかかった。剣に闘気を纏わせようとするとどうしても身体に纏っている闘気が解けてしまうようだ。その為剣を身体の一部とし闘気を循環させるようにしろと言ったら難なくできるようになった。最初からそうやって説明すれば良かった…。


「その状態は通常より攻撃力が上がっている。もともとお前の弾射付きは剣に纏うというよりは剣先に闘気を纏って放つ技だった。その為攻撃力は跳ね上がっていたが本来スクロワの剣術には合わないものなんだよ」


確かにスクロワが放つ弾射付きは一撃必殺の技、だが本来の弾射付きはおそらく一回の剣技で数発相手に撃ち込む技だ、スクロワにはそれをするだけの力が備わっていなかっただけだ。


「合わないか…。それなら私に合う剣技とはどのようなものなのだ?」


「それを今から教える。これを参考にしてこれからは自分で剣技を考えればいい。それじゃあちょっとその剣を貸してくれ」


スクロワから剣を受け取った俺は用意しておいた大きな岩から少し離れた場所に立つ。


闘気を剣に纏い構える


まず左上から斜めに振り下ろし、次は右上から斜めに振り下ろす。最後は二刀目により左下に振り下ろされた剣をそのまま横に振るう


トゴァン!!


衝撃とともに岩は綺麗に六当分されていた


「凄い…まるで風魔法の鎌鼬のようだったぞ」


「確かに鎌鼬に似ているけどこっちの方が断然威力は上だ」


「それで、今のはどうやってやったのだ?」



「ちゃんと説明するからそう焦るなよ。…今のは一刀目と二刀目の斬撃を闘気により空中に残らせる。そして最後の斬撃を闘気に乗せて2つの斬撃に飛ばし同時に3つの斬撃を相手に与える技だ。ただ、これにはある程度の剣速が必要だ。剣速が遅ければただ斬りつけているようになるか、ただ斬撃を飛ばしているだけのようになる」


「それは…結構難易度が高いのでは?」


「いや、スクロワの剣速なら十分できる筈だ。あとは闘気をうまく扱えるかどうか。一刀目と二刀目はただ闘気を剣に纏えばいいが最後の太刀は斬撃と共に闘気を飛ばさなければいけない。さあ、頑張れ」


「あ、ああ。やってみる」…



そこからスクロワは幾度もこの剣技を試みたが、最後の斬撃を飛ばす事がなかなか出来るようにならなかった。


「スクロワ、イメージするんだ。剣を横払いした時の剣が放つ風、その風に剣に纏っている闘気を乗せるんだ。もうそろそろ時間だし、これが最後だぞ」


スクロワは剣を構える。



「行くぞ!!」


振り下ろされる剣、やはり一刀、二刀は成功した。後は最後の斬撃を飛ばせるかどうか…。



「は!!」


ドゴォン!!


「……で、出来た!!」


「うわ!やったねスクロワ!」


「凄いです。スクロワさん!」


自主練を終えスクロワの練習を見ていたコンクルとキュルムがスクロワに駆け寄る。


俺もスクロワの元へ行く。


「良かったなスクロワ」


「ああ。アキハ殿、ありがとう!」


本当に嬉しそうに言うスクロワ。


「それじゃあ今日で俺の稽古は終わりだけど、3人ともちゃんと闘気の練習はしろよ。やらないと使えなくなるかもしれないぞ、ははは」

冗談だ。闘気は一度使えるようになれば使えなくなる事はない。熟練度が落ちるだけだ。


「そうか。…今日で終わりだったな」

残念そうに言うスクロワ。


「ありがとうございました、アキハさん。教えられた事は忘れず毎日精進します」

コンクルが言うが相変わらず態度がかたいな。


「ありがとね、アキハさん。もっと教えて貰いたい所だけどここからは自分で強くならなきゃね」

キュルムが言う。コンクルもキュルムのような余裕のある態度を見習えばいいのにな。


「もっと使える剣技を増やして、強くなるよ。…アキハさんありがとう」

最後はスクロワが礼を述べる。なんかここで別れるみたいな状況だな。これから夕食なのに。


「おう。…それじゃあ野営地に戻るぞ。そろそろ夕食が出来てるだろからな」



正直言って俺も今回は楽しかった。最初は育成ゲームのような感覚のつもりだったんだが、途中からは違った。自分の技術が誰かに伝わり、それを使っている者を見るのは普通にいい気分だった。まあ教えるのが上手だったかどうかは置いといてだが。

アークだった頃の俺は教会に預けられた子供達に剣術を教えていた。スクロワ達に教えているとその頃の事を良く思い出した。まあ、懐かしい思い出だな。


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