帰り道では
昨日の王都観光は結構盛り上がった。以前夜に食べさせた串焼きの出店に行って大食い対決をしたり、魔道具店で変な魔道具を弄っていたフェレサが爆発したり、他にもギルド長のレーズに教えてもらったおすすめ店をまわったりと最後の王都を満喫していた。それと観光を終えた俺達はレーズの所と国王の所へ別れの挨拶をしに行った。
国王とは俺が別れの挨拶をしておいたんだが、王城に馬車を預けていた事をすっかり忘れていて、明日出発の時に受け取りに来ることを伝え、結局出発当日に王城で国王達に見送られる事になった。
そして今日。王城の正門前、二台の馬車が準備されており、今はそれぞれ別れの挨拶をしている所だ。
「それではまたな。アキハ殿」
「ああ、元気でな国王。それとトライクも」
「おう、アッキーも元気でな。まあアッキーの強さなら元気かどうかなんて心配はいらないと思うが…」
一瞬夜達の方を見るトライク。
「ただな、アッキー。おめえの抱えているものを俺が完璧に理解してるわけじゃねえが、せめてお前を慕う者が身近にいる事は忘れるなよ」
「あ、ああ。…どうしたいきなり」
「はは、なんでもねえよ。またな」
「ああ、じゃあな」
俺の本心は表に出していないつもりだ。…だが、トライクは俺の本質に気づいていたのか?よくわからないな…。
「それじゃあ、出発するぞ!」
出発と言ってもここから王都正門まではそれなりに距離があるから王都出発はまだなんだがな……。
ガタガタガタ
王都を出発して数時間、ルイーナまでの帰りも野営をする場所は行きと同じだ。最初の野営地はダンジョンに出くわした森林地帯、王都からこの森林地帯まではそれほど距離はない為早朝に出発して午後1時頃には到着する事ができた。
そして俺は今日からルイーナに戻るまでスクロワ達3人に闘気を教えなければいけない…。いろいろあって忘れていたが、闘気を教えるって言ってたんだったな〜。
野営地に到着した俺達はとりあえず昼食にする事にした。昼食は王城の料理人が作って出発の時に渡してくれたものだ。渡したかったから自分で勝手に作ったと言っていたな。なんでも激辛料理に挑戦した俺を気に入ったらしい。それでまた美味しい料理が食べられるのだからありがたいものだ。
美味しい昼食を食べ終え少し休憩した俺はスクロワ達3人に稽古をしようかと声をかけた。それを聞いていたフェレサが私も見たーいと言い出して結局全員、俺が3人に闘気を教えている所を見る事になった。見ててもあまり面白いものじゃないと思うけどな。
教えやすいように俺達は少し開けた場所へ移動した。
3人にはいつもの装備を脱がせ動きやすい格好をさせた。まあキュルムは戦闘スタイル的にいつも動きやすい格好をしてるからそれほど変わってないけどな。
「稽古って何をするんだ。剣術でも教えてくれるのか?」
スクロワが聞いてくる。
そういえば剣術も教えたかったんだよな。まあ、時間があったら教えればいいだろ。
「いや、今日は闘気を教えるつもりだ。前にそう言っちゃってたしな」
「なるほど闘気か。結局王都では稽古をつけてもらえなかったしな。ルイーナに戻るまでには習得できるのだろうか」
「ん〜…まあ頑張り次第だと思うぞ。3人ともセンスはいいから意外と早く出来るかもな」
「頑張ります!」
張り切るコンクル。
「それで、アキハさん。最初は何をすればいいの?」
キュルムが聞いてくる。
「まずは俺がやるから、それを見て少しでも感覚を掴んでくれ」
そう言って少し大きめの岩を準備する。
「その岩は何に使うのだ?」
「魔力を纏った拳と闘気を纏った拳の威力の違いを見せる。よく見とけよ」
魔力を拳に纏うが魔力量はかなり抑える。強さを間違えたら魔力だけで岩が砕けちゃうからな。闘気の方で岩を砕けるように調節しないと。
「これが魔力を纏った拳」
ピタッ
岩に拳を軽く当てる。
「魔力では何も起こらないだろ」
次は魔力を闘気に変換する
「どうだ?さっきの魔力を纏った時との違いがわかるか?」
「ああ、拳から凄い圧力を感じるぞ」
「何というか存在感が増したと言いますか…」
「それを岩に当てるの?」
「そうだ、いくぞ」
ドッガァン!
拳を岩に当てた瞬間岩が粉々に弾け飛んだ。
……ちょっと調整を間違えた。
「な、この通りだ。闘気は攻撃だけじゃなく防御にも使えるから、便利だぞ。それじゃあやってみろ」
「え?何かコツとかはないんですか」
「ん、コツか…。えっと、闘気ってのはそもそも本質的には魔力と変わらないんだが、通常の体内にある魔力を身体に纏う時より、密度が高い魔力を纏うって感じだな。魔力を身体から一気に放出しその魔力を身体の周りに留まらせ、魔力が空気中に漏れないようにする、かな」
まだよくわかってないって顔だな。説明が下手でしたかね、すみません。
「まあ、まずは魔力を片方の手に纏ってみろ。そうしたら纏った魔力を一旦手に戻し、戻した魔力を外に一気に放出する。まずはこれをやってみてくれ」
これは普通に簡単だったようで3人とも数回で難なくできるようになった。
「よし、次はその勢いよく放出した魔力をそのまま放出してしまうのではなく手の周りに留めて纏う。これで闘気に変換される。闘気を纏い続ける限りは自然と魔力は闘気に変換されるが、一旦闘気を解けばまた今の手順を踏まなければいけないからな」
そこから数時間、3人はひたすら今の手順を繰り返した。だが、なかなか放出した魔力を手に纏うのが出来ないようだった。その中でもスクロワだけが今日中にできるようになった。やはり剣術の技で知らずに闘気を使っていた為感覚を掴むのが早かったんだろう。
コンクル、キュルムは今日の稽古ではまだできるようにならなかった。一瞬なら変換できるがそれを少しでも維持するのが難しかったようだ。まあスクロワも維持は難しいようでそこまで長くは維持できていなかったがそれでも攻撃するのには十分な時間変換する事は出来ていた。だが、ここから先難しいのは他に意識を向けながら闘気を維持することだ。これができなければ戦闘では役に立たない。
俺達の稽古を見ていた夜達はというと、途中から飽きたのかあいつらも闘気を使って威力比べをしていた。
フェレサが夜を煽ったらしいが少し開けた場所が結構開けた場所になるくらいに森林を破壊していた。
稽古を終えその後は再び昼食を食べた場所に戻り野営の準備をし、夕食は女性陣が作った料理を食べた。明日も早朝に出発する為、夕食後はすぐに就寝の準備を整え各自眠りについた。
王都を出発して2日目、今日も変わらず早朝に出発した。昨日とは違いここから次の野営地まではまあまあ距離がある為途中で休憩を挟む。
今回は珍しく野営地に着くまでに盗賊や魔物なんかが出現した。魔物はスクロワ達が片付けてくれ、盗賊の方はスクロワ達の顔を見た途端勝手に逃げて行ったらしい。どうやらルイーナを出発した日にスクロワ達が倒した盗賊達だったようだ。
そして、問題なく野営地についたわけだが、今日は昨日と違いここに到着するまでには結構時間がかかった為今は午後5時頃だ。野営の準備を整え、夕食は夜達に任せて俺はスクロワ達3人を連れて稽古に出かけた。
今日の稽古は前半はひたすら闘気の維持の練習をした。スクロワ以外の2人も昨日の時点で一瞬だが、闘気を纏うことが出来てた為前半の稽古で昨日のスクロワ同様少しは維持できるようになった。スクロワはより維持できる時間を伸ばしたようだ。
後半は闘気を纏ったままの攻撃の練習だ。身体の動きに意識が向くと闘気は解けてしまう。それを維持する練習だ。
「さあ、遠慮なくこの岩を殴れ、闘気が解けたら自分の手が痛いから気をつけろよ。それと今日はこれが出来るまで終われないからな。この岩を砕けたら終了だ」
結果から言えば3人とも難なく稽古を終わる事ができた。それにそこまで時間はかからなかった。ただ何回かの失敗で手の方はだいぶダメージを受けていたのでポーションで回復させておいた。
これにはもう少し時間がかかると思っていたが、3人とも予想より上達が早いのでこちらとしても教え甲斐がある。
その後は夜達が作ってくれていた夕食を食べ、今日も早々に就寝した。




