終わった後は
宿の自室へ戻って来た俺は気配を探りこの宿に勇者達がいない事を確かめる。
「…いないな。それに夜達は宿に戻ってきてたのか」
俺はロビーにいる夜達の元へ向かった。緋月さんを転移でこっちに戻してからどうなったのかなど色々聞きたい事があるからな。
「アキハ様!戻られたのですね!」
階段を降りた所で真っ先に夜が声をかけてきた。
「あ、ああ。今戻った所だ」
ロビーには夜、ディル、ノーメン、フェレサの他にトライクとスクロワ達3人がいた。
「魔王は大丈夫だったのかい?先に戻ってきた緋月さんが僕達にアキハさんが1人で魔王の所に残って私を逃したと言っていたんだけど」
ディルか聞いてくる。
「ああ、魔王の方は心配いらない。特に戦闘になる事なく帰らせてくれたよ。今回は単なる遊びにすぎないとか言ってたしな」
「まあ無事なら何よりだよ」
「ところで緋月さんは他に何か言ってなかったか?伝言を頼んだはずなんだけど」
「ああ、その事ならしっかり伝わってるよ。アキハさんの伝言通り国王は姿を現して今回の件の対処に大忙しだよ」
「勇者達は?」
「国王の所にいるよ。今回役に立てなかったから事後処理は事情を知ってる身として手伝いたいってさ」
「へぇ、そうなのか。にしても何でお前らここにいるの?」
「みんなアキハさんを待ってたんだよ。何か策があったようだけどさすがに魔王相手となると心配でね」
「そうか。まあこの通り無事だから大丈夫だ。さすがに今日はもう休みたいけどな」
ここ数日あまり寝てないしな。ふかふかベットで眠りたい。
「そうだね。今回国王と勇者の1人が魔王に連れて行かれ、その後無事帰還した事。その国王がアキハさんだった事。これを知っているのはここにいる僕達と勇者、それと僕達と一緒に防護壁の上にいたイクスさん、フェスラさん、あとは国王だよね。国王が今回の件をどう説明するのかはわからないけどきっとアキハさんに面倒事がないようにしてくれると思うし、ゆっくり休めるんじゃないかな」
「そうだな」ーーーーー
ーーーーーそれから、国王は今回何が起こっていたのかを方々に報せる事、国としての被害の確認や今回の騒動での損失などその他諸々を1日で全て対処しきった。実際今回の騒動の被害はほとんどなく、死者も出ておらずすぐに元通りの生活を送れるようになったらしい。
あと今回の不可解な事象は全て魔王がやった事として片付けられた。俺は騒動の次の日に国王に呼び出され、あの時魔王城に連れて行かれてから何があったのかを詳しく聞かれたが今回の事は魔王が暇潰しに起こした事であり、俺と勇者を魔王城に連れていったが俺が化けてた偽国王を殺して満足した為もう大丈夫だろうと話した。
俺の方は夜とノーメンに今回どういった経緯で魔王が攻めてきたかなど、今回の事の発端であるルイーナで2人の魔族を捕らえた所から今回俺は何が目的だったのかなど全てを話した。いや、全てじゃないか。魔王と協力関係を結んだ事は話したがその内容は偽った。また今度、俺の全てを伝える時に2人には話すつもりだ。フェレサに話すのはもう少し先になりそうだ。フェレサはもう少し強くならなければ教えられないな。
そして魔王騒動は収まり、いつもの日常がガルマリア王国には戻った。国王に聞いた話では今回魔王が攻めてきた事が4種族の同盟の間で少し問題になっていたらしい、大戦の兆しだとかなんとか。だが今回魔王は本気ではなかった事、おとなしく手を引いた事をガルマリア国王が説明し、そこまで大きな問題にはならなかった。ガルマリア国王としても今回の事を問題とされ今面倒事が起きるのは避けたかったんだろう。だがそれでも大戦へ向けて早急に準備は進めるべきだという結論に至ったと言っていた。
そんな大変そうなガルマリア国王だが、今回の騒動から3日経った今日、国王には俺との約束通り神具を渡す為に付き合ってもらっている。
「ここに神具があるのか?」
「ああ」
そう言って厳重に閉じられた扉を開ける国王。言っていなかったが俺は今宝物庫に来ている。どうやらここに神具を保管しているらしい。
ギギギィィィ
重たい扉が開いていく。それと同時に宝物庫に灯りがともり暗い部屋が照らされていく。
そこには金銀財宝様々なお宝が光輝いていた。そして部屋の中央、そこに人の像が飾られておりその両手にお目当のブレスレット型の神具がはめられていた。
「これが神具だ。どうだ、美しいと思わないか」
神具を見つめながら国王が言う。
「ああ」
確かに綺麗だな。宝石などはほとんどついていない。だが、この神具自体が放つ魔力、そして何よりその作り込まれた造形がこれを美しく見せている。
「それじゃあ貰うな」
そう言って像から神具を取ったが、その時に神具から多少の抵抗があった。手先に少し電撃が走った感覚だ。
「触っただけでは大丈夫そうだな。それは使用者を自ら選んでいるようでな、触るだけでこちらにダメージを与える時がある。たとえ触れられたとしても装備しようとすれば今までの奴等は必ず身体を負傷していたよ」
どこか遠い目でそう言う国王。
「国王は試したのか?」
「あ、ああ、触れたはいいが装備しようとした途端、雷魔法で撃たれたような痛みが身体を襲ってな、断念した。あれは本当に痛かったよ」
今までの奴等に国王も含まれてたのか。
「はは、それは気の毒に」
神具をアイテムボックスへとしまう。
「ん?今装備しないのか。まあ既にくれてやった物だし、どうしようと自由だが」
「俺は装備しないよ。これはあげようと思ってるからね。この神具にぴったしな能力を持ってる奴がいるんだよ」
「ほほう、そうなのか。それはもしやヨルハ殿か?確かに彼女もかなりの実力を持っているようだし、装備できる可能性はあるな」
それに国王は装備するのを試したと言っていたが、この造形的に女性の方が似合うだろ。
「もう、戻るか」
「そうだな。これで約束は果たしたわけだしな」
こうして俺達は宝物庫を後にした。
国王の部屋に戻った後はたわいもない話をして時間は過ぎていった。最後に俺達の今後の予定を聞かれ、まだよく決めてないけど、そろそろルイーナに戻った方がいいだろうなとだけ言っておいた。そうなるとこれが最後かもしれないので一応別れの挨拶を言って王城を後にした。
今日も宿には戻るが食事は外で食べる事になる。食堂で勇者達に会わない為だ。これも面倒くさいので明日にでもルイーナの街にいつ戻るのかを話し合っておくか。
次の日
今日は宿のロビーにある談話室で俺達の今後の予定を話し合っている。
予定と言ってもあと何日王都に滞在するかという事だ。当初の目的を果たした以上もう王都にいる必要はないわけだしな。
「私はすぐにでもルイーナへと戻りたい。ルサルファ様に仕える騎士としてはな。どうだろうか?」
スクロワが言う。
「そうか。俺はいつでもいいけど、みんなはどうだ?」
俺の問いに全員、任せるよと言った感じだ。
「そうだな。それじゃあ明日出発にするか。なるべく早い方がスクロワ達もいいだろ」
「私の都合ですまない」
「いや、もともと俺達は護衛依頼だし、目的も果たしたからな。そこまで王都に長居する理由もない」
ちなみにスクロワ達3人には王都にやって来た本当の理由、国王が俺に会いたかっただけというのは話してある。話した時は自分達が教えられていなかった事に少しショックを受けていたな。
「今日は最後だし全員で王都観光にでも行くか。どうせやる事もないしな」
「そうだね。まだ行っていない所もあるし、食べていない美味しい料理もあるかもしれない!」
フェレサのテンションが急に上がる。
フェレサはもちろん他も全員、王都観光には賛成のようだ。こうして俺達は最後の王都観光に出かけた。




