偽国王
今この部屋には俺とガルマリア国王の2人しかいない。
「突然だが国王、俺と取引をしないか?」
「は?取引?」
何を話すのかと思っていた所に取引という言葉が予想外だったのか国王は素っ頓狂な声をあげる。
「ああ、今回のこの一件。不可解な事が多すぎるだろ。例えば、魔王がこの事態を起こした理由とか」
「ああ、確かにそうだ」
「それで、さっきの作戦を聞く限り国王の身の危険はかなりのものだろう。もちろん勇者達もだ」
「そうだが、街の安全確認が取れればこちらも全戦力で魔王に対処できる」
「それでもだ。この状況で7つの街の安全確認が取れたとしても魔王がどう現れるかもわからない。戦力はこの王都にいる者達だけ。それで本当に魔王に対処出来ると思ってるのか?」
「くっ…それはそうだが、この状況ではこれしか手の打ちようがないだろう」
「そこで、取引だ。俺が国王として正門前に勇者達と行く。その代わり俺はある褒美を貰いたい」
「待て待て、話が急すぎるぞ。まず、アキハ殿が私の身代わりとして姿を現すとして、魔王が指名したのは私だぞ。どうやって魔王を欺く」
「見た方が早いだろう。あんまり知られたくないからちょっと眼をつむっててくれ」
「あ、ああ。わかった」
ここで、前もって【生命創造】で造っておいたガルマリア国王の身体をアイテムボックスから取り出す。
俺の意識をその身体に移して…はい、完了。速い!…ただし、本体は身体と違いアイテムボックスには入れられないので宿の部屋に転移しておく。本体と身体の違いは本体には俺の魂が残っているという事だ。意識は身体に移しているが魂は本体に残っている、その為身体の状態で死んでも意識が本体に戻るので俺自身は死なない。本体と身体は繋がりのようなものがある為本体に危険が迫った場合は強制的に意識が戻されるから本体の危険もない。
とっても便利な能力です!
それでは、さっそくお披露目。
「目開けていいぞ」
目を開けた瞬間、驚きの表情で固まる国王。
「どうだ。これで容姿は完璧だろう」
「あ、ああ…これが、アキハ殿の能力か…」
「まあ、一応そうだな。ところで、魔王と国王は直接会った事はあるのか?」
「ああ、あるぞ」
そうなると気配も同じにしないといけないな。魔力の違い、気配の違いを探られて俺が偽物だとばれたら困るからな。まあ、国王の魔力をコピーすればいいだけなんだが。そもそも気配なんてのは魔力が発する波動みたいなものだからな。
本来なら魔力のコピーはその者の身体に触れてなければいけないが、一度変換した魔力ならいつでも変換できる。以前コピーしたのは馬とフェレサの魔力だ。この2つなら今でも変換できる。そして国王の魔力はこの前国王と飲みに行った時にコピー済みなので心配いらない。
自身の魔力を国王の魔力に変換していく。
「…よし、まあこれで完璧に国王その者だな。どうだ、国王の身代わりになれる事はこれで証明されただろ?」
そう言ってみるものの国王はまだ納得いっていない様子だ。
「それはそうだが、そもそも私は誰かを自分の身代わりにしてその者を危険に晒す気はない」
まあ普通はそうなるよな。
「なあ、国王は俺より強い自信があるか?」
「いや、ない」
おお、きっぱり言うな。
「アキハ殿が王都に来た日、トライクとアキハ殿が対峙した時の話はトライク本人から詳しく聞いている。SSSランクのあいつが『俺では話にならない。あいつは別次元の強さだ』と言い切ったんだ。それなら私では敵わないよ」
それは実にありがたい評価だな。
「そう。俺なら魔王にも対処しきれる」
「だが、魔王もまた別次元の強さ。それに魔王が1人で来るとは限らない。むしろ手下を連れてくると考えた方がいいだろうな。たとえアキハ殿でも魔王にはーー」
「たとえそうだとしても、国王より俺の方が魔王に対処できる可能性は大きい。そして勇者達だ。彼等はこれからの大戦で人々の希望と成り得る存在。だが今はまだ未熟だ。そんな彼等をここで死なせるわけにはいかない。その面でも国王より俺が適任だと思うんだがな」
「…確かに、そうだな。だがアキハ殿はそれで本当に良いのか?」
「もともと俺が提案した事だし、俺はしっかり見返りを貰うつもりだ」
「そうだったな、アキハ殿が欲する褒美とは何なのだ?出来る限りは応えたいが」
「ここに神具がある筈だ。それを褒美として貰いたい」
「!?…そうか。確かにあれは扱える者がいない代物。アキハ殿ならば扱えるかもしれないし…わかった。この取引乗るとしよう。あの神具も相応しい者が持つべきだしな」
とりあえずこれでこの作戦をたてた一番の目的は達成できるな。あの魔導具は絶対手に入れときたかったからな。
「そうか。それじゃあ早速なんだがこの事をディル達に伝えに行くぞ。それとこの先は素顔を隠してディル達と共に行動する事になるから」
そう言って顔が隠れるようになっているローブを渡す。
「今着てる服を脱いでこれを着てくれ。国王の服は俺が着るから。ここからは俺が国王として動く。ディル達以外にはこの事がばれないようにしろよ。後々面倒だからな」
「わかっている」
そして服を着替え終わった俺と国王はディル達がいる部屋へ転移した。なぜ王都内で転移が使えるのかと驚かれたが、すぐに、まあアキハ殿だからなと勝手に納得されてしまった。
俺の姿を見たディル達も驚いていたが、こっちもすぐに納得してくれて作戦の内容も理解してくれた。
夜がずっとこっちに視線を向けているのが少し気になったが、まあこの一件が終わればちゃんと教えてやるから我慢してくれ、と心の中で言っておいた。
説明を終えた俺は国王をディル達に任せ先程の部屋へと戻った。
やる事がないな〜と、しばらく惚けていると全ての街の安全確認が済んだことを国王の部下が報告しに来た。とりあえず部下に対する振る舞い方でばれる心配はない事がわかった。口調なんかも違和感はなかったようだし。
まあそれに街が安全なのは、俺が仕組んだ事だし当たり前だ。前もって7つの街に潜む魔族は全て俺の元へ降らせた。ルイーナの街で最初に俺の元についたアルムとボルクを含め19人、全て俺の元についた。これに関しては能力なんかで強制はしていないが、全員が魔王を裏切る事を選択した。まあ全員等しく魔王に良くない感情を抱いたので、俺の元へ降らせるのは意外と簡単だった。俺がどの種族にもついていないと伝えた事も大きいんだろうな。
ここから先のネタばらしは魔王に直接話してやろう。きっといい表情をしてくれる事だしなーーー
ーーー午後4時まではあと5分となった。俺と勇者達は正門から王都の外に出て魔王が現れるのを待っている。
閉じられた正門の裏には騎士、兵士、冒険者など、王都の戦力が待機している。防御壁の上には国王に状況に応じて動けと指示を受けた7人と指示を出した国王本人が待機。
勇者達もこんな事に巻き込まれて大変だな。俺が仕組んだことだけども。まあいい経験にはなるだろ、間近で魔王が見れる訳だし。
ドンッ!!!
大きな気配が突如として眼の前に現れた。その瞬間、俺達の眼の前は暗闇で覆われた。その暗闇、いや禍々しい魔力はジリジリと俺達がいる空間へと侵食している。
その中心にいる者は漆黒のローブを身に纏い、躯体は霞のように揺れ動き手には大鎌を携える。その姿はまさに死神という名が相応しいだろう。
ただ、骸骨じゃないのが残念だな。フードで顔はよく見えないけど、肉がついているのがわかる。まあ細身の男って感じだな。たぶん。




