因果改変
「魔族に占領された!?おいおい本当にやばいじゃねぇか。詳しく聞かせろ!」
トライクさんが驚きの声をあげる。それにしても魔族絡みですか。アキハ様の狙いがわからない以上私も少し注意した方が良さそうですね。
「ああ。…つい先程、魔王クオレマ・オリムから手紙と一緒に私の子供達が装備していた魔道具が占領した証拠として届けられた」
「もしかして以前クオレマ・オリムの幹部をガルちゃんが殺したから、その報復か?」
そんな事してたのか、この国王は。
「それはわからない。ただ手紙には『今日の午後4時、王都正門前に7人の勇者と国王だけで姿を現せ。観客は居ても良いが他の奴らが手を出し次第こちらで捕らえているお前の子供達を1人づつ殺していく。まあ時間までは自由に足掻くがいい』と」
「それはますますやばいじゃねえか。どうすんだよ」
「私も正直混乱している。魔王クオレマがどうして勇者が王都にいるという事を知っているのかもわからんしな。もしかしたらこの王都内にも魔族が侵入しているかもしれん」
「それでどうするんだ」
「一応信頼できる者で作戦を立てた。そこにお前達も加わって欲しいのだ」
「作戦?」
「ああ、一先ず魔王クオレマが指定した時間まではあと3時間ほどある。それまでに占領された各街に出向いて情報をこちらに送るのと、出来れば街を奪還してほしい」
出来ればとは言っているけれど、それができなければほとんどこの国は終わったも同然でしょうね。まあアキハ様の作戦でなければの話ですが。
「奪還って俺たちは5人しかいないぞ。アッキーは今ちょうどどっか行っててここにはいねえし」
「わかっている。その前にこれは一応冒険者であるお前達への依頼としたい。その上で受けるか否かは自由にしてくれ。私としてはこれはかなりの危険な行為だと思っている。情報を得るのはともかく奪還のほうがな。だがそれでも何としてでもお前達には協力してほしい」
頭を下げる国王。
「誰も部屋を出て行かないぞ、ガルちゃん。どうやら全員依頼を受けるようだぜ」
「本当にありがとう。この礼は必ずする。それでは私についてきてくれ、場所を変える。今回の詳しい作戦はそこで説明する」ーー
ーーー国王に連れて来られたのは王城の地下、どれくらい降りたかはわからないがおそらくかなりの距離を降りただろう。
「ここは?」
大きな空間が広がっている。そこには7つの祭壇らしきものがあった。
「非常事態しか使わない場所だ。ここにある7つ祭壇には子供達が暮らす各街への転移術式が組み込まれている。ここからそれぞれの街の地下に転移してもらう」
「だが、占領された街の奪還はさすがに俺達1人だけっていうのはきついんじゃないか」
「ああ、わかっている。こちらで奪還チームの編成はした。こいつらと共に行ってくれ。優秀な部下だ、きっと役に立つ」
ぞろぞろと現れたのは服装からして騎士ではなくもっと隠密行動に長けた者たちだろう。
その者達と私達1人で各5人のチームだ。
「そういえば俺達がいない他の2チームはどうする?戦力的に奪還は難しいんじゃないか」
「その2チームには我が王国最強の騎士と魔導士が加わってくれた。心配はいらないだろう」
「わかった。それじゃあ早速行くとするか、時間は限られてるしな。午後4時、それまでに任務を完遂しなきゃいけねぇ」
「少し待ってくれ。もうすぐ各街に偵察に行った各チームのリーダーが帰ってくる。街に転移後はリーダーの指示を聞いてやってくれ。おそらくお前達は街を占領している主力と戦う事になる。情報は必要だろう」
しばらくすると7つの転移術式から各チームのリーダーが戻ってきた。
という事は1チーム6人の編成になったということだ。出発する前に私達全員にとある魔道具が渡された。
「それでは出発してくれ。先程渡した魔道具はこちらに声のみを転送する魔道具だ。お互いに連絡を取り合う事もできる。それを使って逐一報告を頼む。それでは無事を祈る」
こうして私達は各街へと転移した。
◆
ギニィとの戦闘が始まった最初の方はお互いに肉弾戦だった。俺はここでギニィを殺すつもりはないのでもちろん相手と同程度の力で戦っていたんだけど…。
「もう肉弾戦は飽きた、さっさと全力でかかって来い。俺も暇じゃないんだ、それに俺はお前みたいに戦闘狂じゃないんでね」
まあ戦闘自体は俺も楽しいけども、あそこまでじゃない。たぶん…。
「はは、いいではないか。戦闘は楽しんでこそだぞ。まあ、全力でのぶつかり合いが楽しいのもまた然り。そうだな、ここからは正真正銘全力を出してやろう!」
全力、それは即ちスキルの使用ということだ。
全力を出すと言ったギニィは拳を構える。
「アルティメットスキル【因果改変】!」
スキルを発動したと同時に拳を前に突き出すギニィ。普通ならば距離が離れた俺には届かないだろうが、
「っ……」
拳は届いていない。しかし俺の腹にはしっかりと拳で殴られた衝撃が伝わっていた。
「やはり硬いのうお前。今ので倒れないとは」
アルティメットスキルを所持していたか。しかし今のは一体なんだ。衝撃が腹に伝わった直後に俺は身体を逸らした。それでも向きが変わった俺の身体に攻撃は入っていた。
「まだよくわかんねえけど、とりあえず避けても無駄みたいだな」
「ふふ、さあ私は使ったぞ!お前も使え、アルティメットスキルを!」
ふむ、どれにしようかな。まあこの後も使う事になりそうだし、紫紺色でいいかな。
眼の色を紫根色に変える。
「お望み通り使ってやるよ。アルティメットスキル【幻霧之夢】」…
何も起きない事にがっかりした表情を見せるギニィ。
「……おいおい、何も起きないじゃないか。それならこちらから行かせてもらうぞ!」
そう言ったギニィはその場で乱舞のように何もない場所へ何百もの攻撃を入れる。
そしてその攻撃は先程同様、遠く離れた秋へダメージを与える。
「グハッ、ゴヘッグ、グガッ………」
ギニィの攻撃は秋が倒れるまで続いた。秋がギニィに近づこうとしても絶対不可避の攻撃が行く手を阻み近づけさせなかった。
「かなりダメージは受けたようだがまだ、戦えそうだな。まあどうせ最後は死ぬんだ。せっかくだから教えてやろう。私のこれは因果を書き換えているんだよ。お前が私の攻撃でダメージを受けるという一連の流れ。それを私の攻撃という原因と攻撃を受けるという結果、原因と結果を直接繋ぎその過程をなくしたというわけだ。結果が決まっているこの攻撃をお前は絶対に避けられない」
倒れた秋は小声で何かを呟いている。
「……いて、従わざる者へ天罰を下せ!轟け、雷天!」
秋の詠唱が終わると同時にギニィの頭上に極大魔法陣が出現した。
「おお、やはりまだ戦えそうだな。…だが、無駄だ」
ギニィが手を振りかざすとギニィの頭上にあったはずの極大魔法陣はいつの間にか秋の頭上に移動していた。
「因果を変える。私が攻撃を受けるという結果をお前が受けるという結果に変えた」
「くそ…」
ドゴォン!ドガァン!……
魔法陣から降り注ぐ雷は鳴り止む様子を見せず、ただ一点、秋という狙いを撃ち抜き続ける。
「ははははは!よいぞ、よいぞ!まだじゃ、まだこんなものでは終われん。お前もまだ立てるであろう!私はまだ満足していないぞ!ーーーーー
ーーー「うお、やってんなー。あの魔王、ずっと1人で存在しない“幻”相手に楽しんでやがる」
【幻霧之夢】によってギニィには幻の俺と戦ってもらっていた。だが、さすがは魔王というべきか結構な抵抗があり、あの幻もせいぜい15分が限界だろう。まあそれだけあれば十分だ。俺はその間にさっさとこの転移阻害の術式を解読しなきゃいけないんだからな。
というか、ギニィのあの様子からして幻の俺は結構やられてるみたいだな。俺の予想でだいたいギニィより少し弱いぐらいの設定にしたんだけどな。俺が思っていたよりギニィが強かったってことか。意外と侮れないな七夜の魔王は…。




