予期せぬ事
「まあどうやったのかは説明しても意味ないから俺の能力という事だけ言っておくよ。それで実際に何をしたかだけど、さっきも言った通り戦場を夢として擬似的に体験してもらったんだ。実際にそうだっただろ?」
「ああ」
そう言われちょっと思い出したようで、田附君が俯きながら返事を返す。まあさすがにトラウマにはならないだろう。所詮夢だし。
「見せた夢は全員がだいたい同じ内容だ。戦場で自分以外の仲間が全員死ぬ夢。これで少しはわかっただろ。今お前達が見たのが戦場だ。そして戦場で失う物、それも何となく味わうことができただろ」
「確かに、少しは理解することが出来たと思う」
「それはよかった。これから先、お前達が今見た光景を見ることになる可能性は十分にある。戦場に立つ覚悟はその光景を受け入れる覚悟と同じだ。まあ、正直言ってその事を受け入れた上で強くなるしかないんだけどな。この世界を少しでも楽に生きていくには強くなるしかない」
「アキハさんはこれまでにこういった体験をしてきたんですか?…あ、ごめんなさい。失礼な事を…」
緋月さんが聞いてきた。
「あるよ。まあ俺は仕方ない事だと割り切ってるよ」
実際はちょっと違うんだけどな。俺はそんなもの、はなから背負っていない。
「どうだ、まだ何か聞きたいことはあるか?一応俺から話せることは全部話したけど」
「最後に1つだけ聞いていい?」
日阪さんだっけな。彼女から質問とはちょっと意外だな。
「聞く分には自由さ」
「わかったわ。それじゃあ聞くけど、貴方はこの先起こるかもしれない大戦というのには参加するのかしら」
大戦か。まあやるんだとしたら俺も当然参加はするよな、どう参加するのかはまだわからないけど。
「その時になってみないとわからないけど、たぶん参加すると思うよ。なんでだ?」
「いえ、ちょっと気になっただけ。ありがと」
今の質問の意図って何なんだ?気になっただけ、とは思えないけどな。
「それじゃあ最後にこっちからも質問する。お前達ってあと何日王都にいるの?」
最後の質問と聞いて身構えていたのか、え?といった表情をしている。
「えっと、まだ詳しくは決めていないけどもう少し王都で休むと思う。ここを出発したら次も長旅になりそうだから」
田附君がそう答える。
「そうか、ありがと。それじゃあ俺はこれで行くな。あんまり役に経ってなかったと思うけど勇者と話せて良かったよ」
そして俺は談話室を出て行った。
談話室内、勇者達
「なんか、凄かったな」
アキハさんが出て行ったドアを見ながら田附君が言う。
「ええ、なんか私達と変わらない年齢とは思えないわよね」
夕実さんが答える。それは全員同じ考えだろう。話していてどうしてもこちら側が謙ってしまうような雰囲気だった。
「そうそう、なんか雰囲気が凄いというか」
まいさんの言葉に続き全員がアキハさんについての感想を述べていく。
アキハさんについての話がひと段落ついたところで田附君が私達に質問してきた
「みんなはアキハさんが見せた夢についてどう思った?」
「どうもこうも凄いとしか言いようがないわよ。あんな能力」
夕実さんが答えるがおそらく田附君の質問の意図はそっちの意味じゃないだろうな。
「いや、確かにアキハさんの能力は凄かったけど。そっちじゃなくて、覚悟の方だよ」
覚悟と聞いて私はつい口を開いてしまう。
「私は受け入れるしかないんじゃないかと思いました。私達は既にこの世界に来た初日に戦う覚悟をしてしまったんだから」
「そう、だよな」
「確かにな」
全員が私の言葉に頷き返してくる。
「なら後はその戦場で生き残れるだけの強さを手に入れるだけだな。俺達自身で」
田附君が最後にそう締めくくった。そう、結局ここから先は私達次第なんだ。
ーーー身体を元に戻した俺は夜に勇者達との話が終わった事と俺はしばらく宿には戻らない事を告げた。みんなへの説明は夜に全部任せた。
勇者達がこの宿にいる限り、この宿には戻れないからな。作戦の準備を急ぐとするか。
勇者達はしばらく王都にいると言っていた。魔王の作戦開始は6日後それまで居てくれると俺としても勇者達を俺の作戦に組み込み安いから助かるんだけどな。
早速準備に出掛けるとするか……。
◆
ーーアキハ様が宿に戻らなくなってからもう既に2日が経った。今回も私にはアキハ様のお考えを話してくださらなかった。今日は冒険者ギルドの修練場に来ている。一昨日、昨日も私達はここ修練場に勇者達や回復したスクロワ達と試合をしに来ていた。どうやら勇者達からディルに頼んで来たらしい、そして私達もディルに誘われた。本来なら一緒には来ないが、アキハ様が何かお考えである以上私はなるべくディルやフェレサ達と共にいた方が良いと判断し一緒について来た。そして今日は一昨日、昨日は居なかったトライクさんまで修練場についてきていた。
「あれ、レーズさんだ。なんか慌ててこっちに走ってくるよ」
ちょうど全員が休憩していた所にギルド長のレーズさんが慌てた様子でこちらに走って来た。
「どうしたんだテレっち。そんなに慌てて」
トライクさんが事情を聞こうとする。
「テレっちと呼ばないでください!じゃなくて、トライクさん、ディルさん、アキハさん、フェレサさん、ヨルハさん、ノーメンさんは至急王城にいる国王様の元に行ってください。大至急です」
以前あった時と少し口調が変わっている気がする。それに確かその時はディルの事を様付けで呼んでいたような…まあ、今はどうでもいい事ですね。それよりも気になることがありますし。
「何かあったのか?」
大至急という言葉に少し表情が変わるトライクさん。
「それはわかりません。ただ、王城にこの六人を呼んでくれと。あれ?アキハさんはいないのですか?」
「アキハ様は今はいません。会ったらこちらから伝えておきます」
「そうですか。ありがとうございます」
「まあ、とりあえずわかった。それじゃあ行くぞお前ら。悪いけど勇者とスクロワ達は先に宿に戻っててくれ」
「え、はい」
「わ、わかりました」
突然の事に理解出来ない様子で返事を返す田附さんとスクロワさん……。
修練場から急いで王城に駆けつけた私達は以前も来た国王の部屋へと案内された。
「さあ、来てやったぞガルちゃん。どうせ緊急事態とか言って今回も娘に求婚者とかーー」
先程まで真剣な表情だったトライクさんは部屋に入った途端呆れた表情をしながら国王に話しかける。
「ん?違うのか」
国王の只ならぬ雰囲気を感じとり、改めてトライクさんが問いかける。
「残念だが、今回は本当に緊急事態だ」
国王の真剣な声音に全員の表情が変わる。
そして私は瞬時に悟った、おそらくアキハ様が関わっているであろうことを。
「…何があったんだ?」
「私の子供達が住む7つの街が魔族によって占領された」
◆
同刻、キャッタナ大陸のとある辺境地、見渡す限りが荒野。そこにいるのはたった二人の男女。
「はあ、これはどういう事だ」
「はは、私がお前を逃すと思うか?前回は折角の楽しみに途中で逃げられてしまったんだ。今回は絶対に逃がさんぞ」
作戦の準備に勤しんでいたところにこの魔王が現れた。正直今回は相手するのちょっと面倒くさい。いやでも、ちょっとだけなら相手してもいいか、気分転換にもいいだろうし。
「逃がさない、か。どうやら念入りに転移阻害を仕組んでいたようだし、その言葉は本当のようだな」
会った瞬間に転移して逃げようとしたんだが出来なかった。王都に張ってある防護結界にも転移阻害は仕組まれているが、そのレベルなら俺は転移する事ができる。どうやらそれよりはるかに強力なもののようだ。
方法は全くわからない、何かの魔道具なのか、それとも他の方法なのか。そしてここら一帯がその転移阻害の効果範囲のようだ。
「当たり前だ。今回お前には戦う事しか選択させんぞ」
「ところで聞いていいか」
「む、なんだいきなり」
「名前教えてくんない。そしたらおとなしく戦ってやるから」
「ほほう、まあこの状況で逃げられるとは思えないが良かろう。私の名はギニィシルヴィアだ。お前を殺す者の名だ。今度はお前が名乗れ」
「俺はアキハだ。お前が無様に敗北する者の名だ」
「はは、やはりお前は面白いぞ。それでは早速戦うとしようではないか。もうこの身体の疼きが抑えられそうにないのでな!」
やっぱり戦闘狂か。
「ああ、行くぞ!」




