期待と不安
最初、蒼葉 夜視点です
◆から緋月 溟視点です
夜、またの名をヨルハ。彼女は自室にこもり1人思考の渦の中にいた。
「さて、どうすれば良いのでしょうか」
先程の彼等はアキハ様の記憶でも見たアキハ様と一緒に召喚された勇者達。
アキハ様は今彼等と会うのを望んでいるんでしょうか…。アキハ様は面白ければなんでもいいといつも仰っている。今回勇者達と会うことでアキハ様に不都合はあるのでしょうか。そもそもアキハ様がいつ帰って来るかもどこに転移して帰ってくるのかもわからない状態では対処の仕様がない。
ロビーを通って帰ってきた場合確実に勇者達とは出くわしてしまう。どちらにしろアキハ様が勇者達に会う前にアキハ様にこの事を知らせなければいけない。
いや、そもそもアキハ様にとって私が勇者達とアキハ様の繋がりを知っている事はおかしい事。そうなると必然的にアキハ様の記憶が私にある事も話さなければいけなくなってしまう。そうなったら私は…アキハ様にとって自身の過去を知っているという邪魔な存在、そうなると私は…捨てられてしまう…。
いったいどうすればーーーー
ーーーーー気付いたら部屋の中はすっかり暗くなっていた。もうそんなに時間が経過していましたか、そろそろ夕食の時間ですね。食堂に行かなければ。
ガチャ
部屋の扉を開けるとそこには先程まで私の意識の中心にいた人、アキハ様が肉の串焼きを頬張りながら立っていた。
「ア、アキハ様!?もう帰ってらしたんですか!」
「お、夜か。丁度いい、少し部屋で話があるから部屋の中に入らせてくれ」
「え、私の部屋ですか?」
「ああ」
「ど、どうぞ」
ギィィ、バタン
こ、これは。アキハ様と薄暗い部屋に2人きり!ま、まさか…。
「灯りつけるぞ、暗いと話しづらいしな」
「あ、はい」
灯りをつけた後、私とアキハ様は向かい合う形でソファへと腰を下ろした。
「食べるか?この串焼き結構美味しいぞ」
そう言ってアキハ様は手元の串焼きを一本私に渡す。
「いいのですか?」
「遠慮すんな、美味いから食べてみ」
「それでは、いただきます」
肉を少し嚙み切り口に含む。確かに美味しい、でもそれよりも私はアキハ様に頂いたという事が嬉しくて…。
「どうだ、美味いだろ。さっき偶然見つけてな。今度観光した時に行こうな」
「はい、ぜひ」
串焼きを食べるのを一旦やめ先程の事を聞く。
「あのアキハ様、話とは一体?」
「ん、ああ、実はさロビーに会いたくない奴等がいて、とっさに気配を消してばれないようにここまで来たんだけど。部屋に転移すると受付で部屋の鍵もらえないからな」
やはり、勇者達とは会いたくなかったのですね。あまり余計な行動をしなくて良かったです。
「それで、これから夜に話すことは他言無用で頼むぞ。今回は協力して欲しくてな。その為に話しておくことがある」
それはおそらく、あの勇者達とアキハ様の関係について…。
「はい」
「実は下にいた会いたくない奴らってエレスタの勇者達の事でな、俺とそいつらはーーーー」
そしてアキハ様は自分と勇者達の関係、勇者召喚についてなど私が生まれる少し前の事を話してくださった。私はアキハ様が話している内容を全て知っていた。話の途中に何度も打ち明けようと思った。けれど先程想像してしまった事、その恐怖で今回もこの記憶については話す事が出来なかった…。
「ーーーと、いう事だからさ。俺がこの後勇者達の目的を探ってくるからいろいろと夜に協力して貰いたいんだよね。詳しい内容は俺が勇者達の目的を探ってきてから話すから」
「目的なら知っています。彼等はアキハ様に会いたいと言っていました」
「え、夜あいつらと話したの?」
「はい。私達が宿に戻ってきた時にトライクさんに紹介され、その時に彼等の話を聞きました」
「へぇ、そうなんだ。ん?というか今、目的が俺に会いたいって言った?え、俺が生きてるのばれてんの?嘘、一体どこでそんなヘマした俺…」
「あ、いえ。申し訳ありません、ややこしい言い方をしました。彼等が会いたいと言っていたのは冒険者であるアキハ様です。なので彼等にはアキハ様の正体はばれていません」
「あ、そうなの、なら良かった。しかし、なら尚更なんで冒険者アキハに会いたがってんだよ。普通はSSSランク冒険者に会いたがるだろ。この世界で有名なのってあいつらだし。まあ、ディルとトライクにはもう会ったんだろうけど」
「それは、…彼等が言うには自分達とそう変わらない年齢で戦場に立っているアキハ様の話を聞きたいと。どうやらソーラスやルイーナでのアキハ様のご活躍も知っているようでした」
「へえ、なるほど。まあそれなら一応納得はできるか。しかし、それなら何とかなりそうだな。夜、少し手伝ってくれるか」
「はい、なんなりと」ーーー
ーーーー「明日午前9時、今日と同じ談話室に来てください。そこであなた方勇者7人とアキハ様1人だけでなら会って話しても良いそうです」
私はアキハ様に出された指示通り、食堂で夕食を食べている勇者達に伝える。結局アキハ様は勇者達に会うとご決断された。この指示以外は私も詳し事は聞いていない。
「そうですか、わかりました。わざわざありがとうございました」
確か田附と名乗っていた少年が礼を述べる。どうやら勇者パーティの中ではリーダー的存在のようですね。
「ん、ヨルハさん、アキハさんはまだ来ないのかい?早く来ないと私が料理を全て食べてしまうよ」
フェレサが料理を頬張りながら言う。なぜだか知らないが私達は勇者達と共に夕食を食べる事になった。まあアキハ様の指示もありましたし今回はその方が都合が良かったのでいいのですが。
「アキハ様は先程私にこの事を伝えてまた出かけられました。今日は外で約束している奴がいるから夕食はいらないそうです」
「へえ、そうなのかい」
フェレサは話の最中も食べる手を止めないのですね。
「約束って誰だろうね。王都でのアキハさんの知り合いとなると限られてくるよね。王都に来てから僕達といるか用事で出かけてるかぐらいだったし」
ディルが不思議そうに呟く。確かに一体誰と約束を。わざわざこのことで嘘を述べる必要はないでしょうし。
「ガルちゃんじゃねえか。あいつ国王だけどたまに城抜け出して俺と飲んでたし」
何故トライクさんもいるのでしょか。
ガタッ
「それでは私は部屋に戻ります。食事はもう十分いただきましたので」
「もっと食べてけばいいのに!まだいっぱいあるよ」
本当にフェレサは空気が読めませんね。
ギロッ
「十分、と言ったのですよ」
「ひ、ご、ごめん」
「それでは失礼しますね」
◆
次の日の午前9時、
談話室
「アキハさんにやっと会えるんだね」
田附君が言う。
「ちょっと緊張してきたわ」
夕実さんが少し強張った顔でそう言う。
「何言ってんだよ。言っても俺たちとそんなに変わらない年齢の奴だぞ」
笑いながらそう言う草林君。
「く、草林君だってそわそわしてるよ」
「なんか言ったか、小田倉」
「ご、ごめん」
こんな感じでみんな少しだけ落ち着きがない。会いたかった人とやっと会えるんだから当然かな…いやでもなんでアキハさんに?SSSランク冒険者と会った時だってこんな感じじゃなかった。確かにアキハさんの凄さは色々と聞いてきた。私達と変わらない年齢なのにと憧れた。
でも、それだけでこんな気持ちには……ああ、そうか。私達は勝手にアキハさんに期待しているんだ。勝手に自分達で理想像を組み立てて、弱い自分、その対照的存在としてまだ見たこともないアキハさんにこうあって欲しいと理想を押し付けている。
だから、その理想、期待がアキハさんと会うことで壊れてしまう事が怖いんだ。彼みたいになればこの世界でも生きていけると、そう思う事で不安感を抑えていた。それがなくなってしまうのが嫌なんだ。それでも会って確かめたいと、私達の理想通りだと、そう確信を得たくて、だからこんなに落ち着かないんだ。会いたいのと会いたくないという2つの気持ちが同時に存在して私達を混乱させる…。
自分と変わらない年の人にこんな気持ちを抱くなんて…はあ、つくづく自分が情けないな。
ガチャ
全員がその音に反応し扉へと視線を向ける。
談話室の扉、その扉がゆっくりと開いていく。そして遂に私達が会いたいと望んだ冒険者がその姿を現した。




