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もう少しで


私達は国王から教えてもらったアキハさんが宿泊しているという宿に来ていた。


「ここが、アキハさんが宿泊してる宿か」

田附君がそう呟く。


「思っていたよりは普通だね。でかいけど」

まいさんが宿を見たままの感想を述べる。確かに思ったより普通だ。もっとこう、高級感溢れるものを想像していた。


「国王が紹介した宿だからもっと煌びやかなものを想像していたわね」

日阪さんも同じような事を考えていたようだ。


「早速宿に入ろうか」

宿を見ていても仕方ないと田附くんが宿の扉を開く。


ガチャ

中も外から想像できる何というか普通の、よく言えば落ち着く内装だった。

私達は宿の受付へと向かう。


「すみません。少々お聞きしたいことがあるのですが」


受付の男性にヤムさんが訊ねる。今回はヤムさんに任せっきりだ。


「はい、なんでございましょう?」


「ここに冒険者アキハ様が宿泊されていると思うのですが、今は宿にいらっしゃいますか?」


「すみません。お客様のプライバシーに関する質問にはお応えすることができません」


「これを国王陛下から預かっています」


そう言ってヤムさんは懐から取り出した手紙を受付の男性へと渡す。


「ん?これは…。そうでしたか、あなた方は国王陛下の。それで今日はここに宿泊を?手紙には宿泊するかどうかはあなた方に任せると書かれていますが」


「え?書いてあるのはそれだけですか?」

少し驚くヤムさん。たぶん思っていた内容と違ったんだろう。


「はい、そういった内容だけですが」


「となるとアキハ様の事は聞けませんか?」


「はい。国王陛下からの御達しならば私に拒否権はありませんが、この手紙には国王陛下のお客様、つまりあなた方をこの宿でもてなすようにとしか…」


「そうですか…」


「お、なんだお前ら。アッキーに会いたいのか?」


声がした後ろを向くと身軽な格好をした男性が立っていた。誰だ?


「トライク様、お出かけですか?」

受付の男性がその人に訊ねる。


「あー、まあそのつもりだったけど、ちょっとこいつらと話しをしようと思ってな。談話室は使わせてもらうぞ。それじゃあついて来い、アッキーに会いたいんだろ」


「え、はい」

戸惑いながらヤムさんが答える。


この人とアキハさんの関係性はわからないが今の所アキハさんがここにいるかどうか知る術はない。そう思い全員おとなしくついてった。


男性に案内されたのは談話室と呼ばれるまあまあの広さがある個室だった。


テーブルを囲み全員がソファに座る。



「あの、貴方は一体?俺達はただアキハさんに会いたいだけで」

男性の真意を探ろうと田附君が訊ねる。


「ん、ああ。俺もアッキーとは知った仲だからな。見た事もない奴がアッキーの名前を出してたら気になるだろう」


アキハさんをアッキーと呼んでいるあたり結構親しい仲なのだろうか?でもアキハさんの仲間は全員私達と同じくらいの年齢のはず。この人はどう見ても私達よりそれなりに上の年齢だ。


「あの、貴方は?」


「俺はトライクという。SSSランク冒険者をやってる」

証拠だ、と言ってカードを見せてくれた。


「「「SSSランク!?」」」


「うお、すごい驚きようだな」


「それはもちろん!話には聞いていましたが会うのは初めてですので」


「そうか。まあ俺の事はいいからお前達の話を聞かせてくれ。もちろんお前らがアッキーを探してた理由もな」


そこから全員の自己紹介をした。それとなぜアキハさんを探していたのかも。一応私達が勇者である事、国王にアキハさんがここにいることを聞いてやってきたことも話した。そこまで話したのはヤムさんのSSSランク冒険者なら信用できるという判断からだ。


「そうか、ガルちゃんに言われてきたのか。まああの受付の男は仕事に忠実であんまり融通効かないから、教えてくれないだろうな」


「ガルちゃん?」

話の内容よりそっちが気になってしまった田附君。


「ん?ああ、国王の事だ」


国王をガルちゃんって、…アッキーといいあだ名をつけるのが好きなんだろうか。


「それで、アキハさんは今この宿にいるんですか?」


「(まあ別に教えても困ることはないか)いや、今はいないんだよ。王都観光にお仲間さんと出掛けてるからな。まあ待ってれば帰ってくるだろ、まあまあ早い時間に出て行ったし」


「そうですか。ありがとうございます」


「なら田附君、別に宿に泊まってもいいんじゃないかしら?せっかくガルマリア国王が紹介してくれたんだし」

夕実さんがみんなもどうかな?と訊ねる。もちろん反対する人はいない。


「それでは私が受付に行ってまいります」

そう言って立ち上がるヤムさん。


「ありがとうございます。ヤムさん」


ヤムさんが談話室を出て行くと再びトライクさんが話しかけてきた。


「しかし、お前達もそれなりの実力があるみたいじゃないか。これだけの人数でその実力を持っていれば結構な戦力だろ。流石勇者って言ったところか」


見ただけで実力がわかるなんて…さすがSSSランクということか。みんなも私同様驚いている。

「いえ、まだまだです」

田附君がそう言い返す。


「………」

トライクさんが急に黙ってしまった。


「どうしたんですか?」


「どうやら帰ってきたみたいだぜ。…あ、いやアッキーはいないみたいだな。他の奴らだけだ。まあとりあえずそいつらに会いに行こうぜ。アッキーに会うんだったらそいつらにも挨拶しておいたほうがいいだろ」


そう言って早々に談話室を出て行くトライクさん。私達は慌ててトライクさんについていく。


談話室を出てトライクさんについていくとちょうど宿に入ってきた4人組の前で立ち止まった。


「よう。観光はどうだった?」

その4人に気軽そうに話しかけている。


「いやー、結構楽しかったよ。美味しい料理も食べれたしね」

そう言ってお腹をさすっているのは、スタイルのいいすごく美人な女性だった。年齢は、私より少し上かな?大人の女性にも見えるな…。


「ところでトライクさん、その後ろにいる方々は誰でしょうか?」


私達に気づいて仮面をつけた執事服の人がトライクさんに訊ねる。なんで仮面!?みんなも私同様驚いている。


「ああ、なんかこいつらがアッキーに会いたいって言うからさちょっと話を聞いてたんだよ」


「アキハ様に?一体何のご用でしょうか?今アキハ様は大切なご用事で出かけてらっしゃるのですが」


綺麗な黒髪、それにさっきの女性とはまた違う雰囲気の美しい人だ。そんな見惚れてしまうほど綺麗な女性がこちらに視線を向けながら言う。男達は完全に見惚れてしまっている。小田倉君は目の前の2人の女性を交互に見ながら顔を真っ赤にしている。


「まあまあ。ここで話してもなんだし談話室に行こうよ。あ、トライクさんはこれスクロワさんの部屋に持って行って。果物買ってきたから」

少年?がトライクさんに籠いっぱいに入った果物を渡す。そういえばあの宿のおばさんに聞いていた仲間の数より1人多いな。また新しい仲間が増えたってこと?聞いてた年齢的にあの少年がそうなんだろうか。


「ああ、わかった。それじゃあお前らあとはこの4人と話してくれ。この4人がさっき言ってたアッキーの仲間だから」


トライクさんはそう言い残し階段を駆け上がって行ってしまった。


「それじゃあ談話室に行こうか」

そう言った少年の後ろへ何も言うことなくついていく私達。


談話室に入り全員が一先ず自己紹介をした。その後あの少年…ディルさんに聞かれ、私達が何故アキハさんに会いたいのか、それとここまでの事の顛末を話した。


ヨルハさんとノーメンさんはあまり話しをせず、ずっと私達の話を聞いているだけだった。少々気まずくなりそうな空気をディルさんとフェレサさんがなんとか払拭してくれている。


「でも、さっきもヨルハさんが言った通りアキハさんはいま出かけてるからね」


「何時頃ここに戻ってくるかはわからないんですか?」

田附君もよく喋ることができるな、さっきからヨルハさんの視線が怖くて田附君以外みんな喋りづらいのに。それになんかプレッシャーみたいのを感じる。


「多分夕食頃には帰ってくると思うけど、君達はこの宿に泊まるんだよね。ならそれまで待ってれば会えるんじゃない。それで会った時に君達から今話した事をお願いしたら?」


「そうですね、そうさせて貰います。今日いきなりというのも失礼なので後日会えるように聞いてみます」


「まあ、君達がすれ違いになったら、僕達の方からアキハさんに教えておくよ」


「ありがとうございます」


「それじゃあ僕達はこれで失礼するよ。また機会があれば話そうね」


「はい!」


そうして4人は談話室を出て行った。


4人が出て行くと少し空気が軽くなったような気がした。それはみんなも同じようで一気に肩の力が抜けたようだ。


「それにしても田附君よくあの中で普通に話せたわね。あのヨルハさんっていう人からすごいプレッシャー感じたわよ。視線も怖かったし」


夕実さんの言葉に同調し全員が凄いと田附君に賛美を送る。


「いや、俺だって結構きつかったんだから。手なんか話してる時ずっと震えてたよ」


「まあ、あれは仕方ないわよね」

確かにあのプレッシャーは確実に私達に対して向けられたものだったし、恐怖を感じるのが普通だ。


「それにしてもすごいよね!この王都にきていきなり2人もSSSランク冒険者の人に会っちゃうなんて」

興奮気味にまいさんが言う。


「それにその1人がエレスタ国王の話にも出てきてたディルさんだったなんてね。あのダンジョンの先がどうなってるのかも聞きたいよね」


「見た目には少し驚きましたね」


「確かにね。まるっきり少年だったものね」


「えっと、それじゃあどうする?一応俺達はこの宿に泊まることになったけど、アキハさんが帰ってくるまでロビーで待ってるか?」


「そうだね、ディルさんは私達がすれ違いになっても教えてくれるとは言ってたけど、なるべく早く会って見たいし」


「まあ、今日会えたとしてもちゃんと話ができるのは後日なんだけどな」


「それじゃあロビーに行こう!とりあえず夕食の時間まで待つってことで。昼食はさっき出店で買ったやつを待ちながら食べればいいしね」

昼食が入った袋を見せながらまいさんが言う。


「そうだね」


「ぼ、僕ももうお腹空きましたよ」


「お前饒舌じゃない時って飯の事しか言ってなくね」

小田倉君の言葉にすかさず草林君がつっこむ。



…全員が少しばかりテンションが上がっているように見えた。それはおそらく会いたいと望んだ相手に会えるのが楽しみなのと、先程のアキハさんの仲間を見た時に感じた少しばかりの不安からくるものなんだろう。


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