国王と勇者
かなり長くなってしまいましたm(_ _)m
昨日は作戦準備の為いろいろと駆け回っていた俺だが今日は昨日の約束通り王都内観光に5人で出かけている。と言っても特に王都の名物がある訳でもなくほとんど魔道具店を見て回る感じになっている。まあこれも意外と楽しいけどね。時々掘り出し物とかあるし。
そういえば1つだけ王都で見ておきたいものがあったんだったな。これも名物といえば名物だか。
「なあ、そろそろコロシアムを見に行こう。リサルムが言っていて少し気になってたんだよ」
「そうですね」
「私も異論はありません」
「いいよ。私も見てみたいし」
「僕もいいよ」
全員の了承が得られ俺達はコロシアムへと向かった。
で、コロシアムのすぐ目の前についたわけなんだけど、
「やっぱ、でかいな〜!」
「はい、何というか迫力がありますね」
「そういえばディルさん、ここって普段は何をするところなのかな?今日は何もやってないみたいだけど」
「僕もそこまで詳しいわけじゃないけど確かこの国が開く武道大会の会場に使われたり、冒険者ギルドが開くそういった大会の会場にも使われてたと思うよ」
「武道大会だと!それはいつ開催されるんだ」
「うわ、急にどうしたの?そんなに武道大会に出たいの?」
「それはもちろんだ。すごく楽しそうじゃないか」
「はは、確かにね。えっと、この国が開催する大会はもうしばらくやらないかな、ついこの間開催したばかりだし」
「そうなのか…」
「あ、でも冒険者ギルド主催の方は年に数回あるからそんなに遠くならないうちにやると思うよ」
「そうか、まあその時を楽しみにして待つか。…ところでこれって中に入れたりしないのか?」
「普段は閉鎖してるから中には入れないんだよ」
「まあ中を見るのも大会までの楽しみとしとくか」
そう話しているとノーメンと夜が何やら小声で話している。
「主様がすでに大会に出られる気になっている…」
「アキハ様が出場したらこのコロシアムもその日でさよならですね」
「……?」
しかし、魔王と敵対中だっていうのに結構そういったことやってんだな。まあわざわざ屈強な連中が集まる場所を襲撃しようと思わないだろうし、それになんだかんだ言って今のこの現状はギリギリ均衡が保たれてると言えなくもない。それはお互いに水面下で探り合いをしている結果なんだろう。しかし、今回その均衡を崩しかねない事態を招こうとしているのが魔王クオレマ・オリムだ。奴の狙いがわからない以上考えても仕方ないけど。まあ俺の作戦にどっぷりはまってくれることを祈っておこう。
「そろそろ昼食でも行くか」
「昼だー!」
「フェレサが今度吐き気を訴えた場合私が胃の中のもの全てを吐かせます」
「ひぃ!き、気をつけます!」
「いいですよ、そんな気をつけなくても。できなければ地獄を見るのはフェレサですから」
「いやぁーーー!!」
なんか夜とフェレサのこんなやりとりもだいぶ見慣れてきたな。その所為かとても微笑ましく…は見えないな、だって夜は本気で言っているんだから。まあ、だからと言ってフェレサにも同情の余地はないけど。
さてと美味しい料理が食べられる店を探さないとな。
◆
「やっとついたわね。王都」
「でも、ほとんど馬車の中だったからちょっと身体が痛いや」
「私達だけじゃなくて強化された馬達もさすがにきつそうでしたね」
「まぁ当分は休めるのだし、いいんじゃないかしら」
日阪さんは馬に対しても厳しいなぁ。
「すみません。ヤムさん、マムさん。2人にはかなりの負担をかけてしまいました」
田附君が2人に謝っている。
「いえ、いいんですよ。私達はあなた方をサポートする為にいるのですから」
「ヤムの言う通りです。それにアキハ様に会うことが勇者様方の今後の為になるならば尚のことです」
「ありがとうございます」
そう、今回2人にはかなりの負担をかけてしまった。私達がルイーナの街を出発してから王都に着くまで2回しか馬車は停車していない。その2回で身体を休め、他はずっと走りっぱなしだった。私達は馬車内で休めるからいいが2人はここまでずっと御者をやってくれていたのだ。
「すみません、勇者様方。王都についてすぐにでもアキハ様を探しに行かれたいのは重々承知しています。しかしまずはガルマリア国王陛下に謁見していただきたいのです。一応王都について初めに、というのが払うべき礼儀ですので…」
「そうだね。俺達の本来の目的はそこだったんだしまずはそれを済ませてからアキハさんを探したほうがいい」
「そう言っていただけて良かったです。それでは王城へと案内させていただきます」
馬車を預け、歩いて王城に向かった為まあまあ歩くことになった。馬車で王城まで行くこともできたらしいんだけどこの時間はおそらく混みますと言ったヤムさんの提案で歩いて王城まで行くことになった。
そして王城前、門に佇む兵士にヤムさんが何かの紙を見せたところもう1人いた兵士が王城内に消えていきしばらくして戻ってきた。
「確認が取れました、どうぞお入りください。ここからは私が国王陛下の元へ案内させていただきます」
そのまま兵士の1人に案内され私達は謁見の間へと連れてこられた。
「この先で国王陛下がお待ちです」
そう言って兵士は扉を開ける。
ギィィィィ
私達勇者7人が前に出てヤムさんとマムさんは扉の付近で待機している。
バタンッ
後ろから扉を閉じた音が響く。
「初めましてガルマリア国王陛下、俺達が異世界より召喚された7人の勇者です。今回は挨拶に来させていただきました」
玉座に座るガルマリア国王は私達を見定めるかのような視線を向けてくる。
「いいだろう。…さて、それでは私は用済みだな。国王陛下、この子達は大丈夫だ」
突然の言葉に私達が理解できないでいると玉座の後ろにある扉からガルマリア国王と瓜二つの人が姿を現した。ガルマリア国王が2人!?
「もう下がっていいぞ。後は私1人で話をする」
後から出てきたガルマリア国王がそう言うと、初めにいたガルマリア国王と護衛の人達は謁見の間から出て行った。
「これはどういうことですか?ガルマリア国王」
「はは、ちょっとした冗談さ。すまないね。彼奴は私の分身とでも言っておこうかな。忙しい時はいろいろと彼奴に任せていてな」
「今日は忙しかったのでしょうか?都合が悪ければ出直しますが」
「いやいや、さっきのはちょっとした冗談だ。君達を驚かせようと思ったんだよ。どうだね、私の歓迎は」
「え、はい。驚きはしました」
全員が呆気に取られていた。それは先程まで話していたのが本物のガルマリア国王ではなかったというのもあるが一番は私達の中の獣人族の王のイメージとの相違だと思う。いやまあ、見た目は想像通りといった感じだけれど、内面があまりにもイメージと違いここまでフレンドリーに接してくれるとは思っていなかった。勝手なイメージではあるんだけど、それでもエレスタ王国とは規模が違う。大陸1つを治める王、そんな人がこういう風に接してくれると先程まで強張っていた身体も少し楽になったような気がした。
…そうか、私は緊張してたんだ。
「勇者達よ、少し聞いても良いかな?」
ガルマリア国王が先程までとは違い真面目な声音で話しかけてくる。
「え、はい。大丈夫です」
咳払いを1つしガルマリア国王は話し始めた。
「君達がどういった存在かはある程度知っている。本来ならば君達に勇者になり、魔王と戦う義理がないこともな。だから聞いておく、これから共に大戦を戦うであろう君達に。…君達はこの先の未来に何を望む?未だ迷いがあるのだとしたらここで明確な答えを出す必要はない。それで私が君達に失望することはない。君達はまだ若い、若すぎる。だから大いに悩んでくれ、そして自分が信じる道を歩んでいってほしい」
ガルマリア国王の言葉が軽いものではないと私達はすぐに感じた。そしてその言葉が私達を思って出ている事も、だからおそらく全員がその問いに対して正直に答えるつもりだろう。
最初に話し始めたのは田附君だった。
「俺は、元の世界に帰るために戦います。現状この世界には帰還の方法がないと聞いています。だから俺はそれを探し出すために戦う」
田附君の考えは召喚された時から変わってはいない。地球への帰還、それは田附君の何にも代え難い成し得たい事だ。
田附君が話し終わったのを見計らい日阪さんが話し始めた。
「私は正直言ってこの異世界召喚?に巻き込まれた時点で日本での私は死んだと思っているわ。だから今の私にあの世界に戻りたいという願望はない。それでも、同じ境遇のみんな、そんな大切な仲間の為にはなにかしたいと思ってる。だから私はこの世界で戦う。自分が生き抜く為にも強くなりたい」
普段はあまり表に出すことのない思いをしっかりと言葉にして伝える日阪さん。
日阪さんが話し終わり次は小田倉君だ。
「僕も日阪さん同様あの世界へ帰りたいとは思っていません。でも田附君の事は全力で協力したいと思っています。まだ短い付き合いですけど、それでも僕は今のこの環境と関係が好きだ。それに本心ではこの世界がどんなに残酷でも僕は異世界に来れて良かったと思っています。…異世界召喚は僕の夢でしたから!ケモミミっ娘最高です」
次はまいさん。
「私はこの世界に残っていたいかな。私はきいちゃん1人が一緒にいてくれればどこに行こうと平気だと思ってた。私はきいちゃんに助けられてばっかり。でもこの世界に来てみんなに出会ってみんなと一緒にいれて本当に楽しいし良かったと思ってるの。だから私はみんなが戦い続ける限り一緒に戦いたいと思ってる。みんなの助けになりたいと思ってる。それでも時々足が竦むし戦場に立つことを恐れちゃう。だから私はそれをなくせるだけの覚悟を持ちたい」
どこか気の抜けたところがあるまいさん、だけど今の言葉は彼女の底知れぬ力強さを感じさせるものだった。
そして次は夕実さんだ。
「私も別にあの世界に帰りたいとは思わないわね。まだこの世界の危険性もわかっていない無知な私だけど、多分どんな事も大抵は受け入れられる。それでも耐えられない事は大切なものを失う事。だから私は私の大切なものを守る為に戦うわ。と、いってみたものの戦場を知らない私が何を言ってもそれを貫けるかどうかなんてわからないわね」
戦場を知らない。これから見る世界に私達が耐えられるかなんてわからない。だからこそ、彼女はその機会を求めているんだろう。
次は草林君。
「俺か…俺はな、元いた世界で本当にとんでもない事をしてきたんだよ。結構な数の人にも迷惑をかけてきた。それを悔いた矢先この世界へ召喚された。正直あの世界に戻っても俺が償えることはないと思う。だから俺は、少しでもこの世界では後悔しないように生きていきたいと思ってんだ。まあそんなあまいこと言ってちゃ覚悟なんて当分はできそうにないけどな」
ぶっきらぼうな彼は彼なりの思いを抱え生きてきた。それは彼だけじゃない、ここにいる勇者全員が何かしらの思いを抱えている。お互いの過去を知らない私達、それでもみんなお互いを仲間だと信じているんだろう。
私はどうなんだろうか…。
最後は私だ。正直言って私はみんなみたいなしっかりとした考えを持ってるわけじゃない。それでも…私は私なりの考えを持たないといけない、それなら…。
「…私もたとえ元の世界に帰れることになっても帰らないと思います。元の世界に私の居場所はないから。だから私はこの世界で戦う事を選択しました。強くなりたいと思いました。この世界で自由を手にする為に誰にも屈しないでいられる力を手に入れる為に」
こうして全員が自分の考えを打ち明けた。まだ心に秘めている思いはあるかもしれない、話せていないことがあるかもしれない。それでも今この場で口にした言葉はきっと偽りない本心なんだろう。
私達の眼をまっすぐ見据えて聞いてくれていたガルマリア国王が口を開く。
「全員の考えは一先ず聞くことができた。自分の道だ、それに責任と覚悟を持って歩んでいってくれ。聞いておいてなんだが私にはそれしか言いようがない。戦場を知らない君達が本当の戦場というのを目の当たりにした時、心に癒えないほどの大きな傷を追うかもしれない。それは事前にどんな覚悟を持っていようと防ぎきれない傷なんだ。だから君達は傷を受ける覚悟、それを受け入れる覚悟を持つんだ。ただし、それは決してその痛みに慣れろということじゃない。その痛みは決して慣れというもので忘れていいものではないからな」
ガルマリア国王は少し間を置き私達全員の表情を確認した後再び話し始めた。
「…まだ私が言っていることは理解できないかもしれない。だがいずれ本当に理解できる時が来たらその時は思い出すんだ。自分が何の為に戦っているのか。今、君達が口にした事を。確かに私は自分の歩む道に責任を持てといった。だが君達がこの世界の行く末に責任を持つ必要はないんだ。常に自分の正しさを持つんだ。傷を受けてもいい、それで落ち込んでもいい。ただそれで立ち直れるだけの信念を、何にも代え難い仲間を持つんだ。そうすれば君達はきっとこの先もこの世界を生きていけるはずだ」
その言葉一つ一つに私達は聞き入っていた。国王の言葉は常に私達を思って発せられるものだった。そんな言葉はきっとこれからも私達の胸に残り続けるんだろう。
「はは、長ったらしく話してしまったな」
「い、いえ。今の俺達にとって本当に為になることばかり。ありがとうございました」
田附君の言葉に続き、私達もガルマリア国王に感謝の言葉を述べる。
「なに、そこまで言われるほどのものでもない。それではあまり長話をさせてもあれだしな、そろそろ終わりとしようか」
「あ、少しいいですか?」
「ん、なんだ」
「少し聞きたいことがあって…えっと国王陛下は冒険者アキハがここ王都にいると知っていますか?」
突然の質問に国王は少し驚いたようだ。確かにアキハさんはルイーナの街では有名だった。それなら少しは耳にしていてもおかしくない。
「ああ、確かにアキハ殿の事は知っている。ここ王都にいることもな。だがそれがどうしたのだ?」
「実は俺達はアキハさんにぜひ会いたいと探していて、この王都にいる事はわかったんですが、王都のどこにいるかまではわからなくて」
「そうなのか!いや、まさかアキハ殿は勇者達にまでその名を知られているとはな。いいだろう彼が泊まっている宿を教えよう。会いたいという理由も何となく想像がつくしな」
「本当ですか!?ありがとうございます。…それにしてもどうして国王陛下がアキハさんが泊まっている宿を知っているのですか?」
「アキハ殿が王城に来たからだ。私も彼といろいろと話したいことがあってな、わざわざ来てもらったんだ。それでその時に私が宿を紹介してね」
「そうだったんですか」
ガルマリア国王のアキハさんに対する態度が…。一介の冒険者がここまでの待遇をされるなんて、ますますどんな人なのか会ってみたくなった。
「それじゃあ宿の場所を教えよう。どうせなら君達もそこに泊まったらどうだ?今すぐ行ってもアキハ殿がいるとは限らんしな」
「とりあえずは宿に行ってみます。宿泊に関してはそれから考える事にします。ありがとうございました」
こうして私達はアキハさんが泊まっているという宿へ向かった。




