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準備期間

秋達側に戻ります



王都に来て2日目、今日は昨日話せなかったガルマリア国王に会いに行く。…しかし、眠いな。


「ふあ〜」


「アキハ様、寝不足ですか?」


「ん、まあな。少しやる事があって朝まで出かけてたんだよ」


「そういえば昨日は用事があると言ってどこかへ出かけていましたが、もしかして寝ていないのですか?」


「まあな、帰ってきたのは朝だったよ。今日は早めにガルマリア国王に会って話をしたかったし」


「だから会いに行くのを午前中にしようと提案されたのですね」


「そうだ」

それにしても、本当に眠いな。昨日はちょっと頑張りすぎたな。


…俺は昨日王都の観光はせず一旦ソーラスの街に戻りあの魔族2人、アルムとボルクに会いに行っていた。もちろん魔王の作戦の経過を聞きにだ。そしてその時聞いた話ではすでにソーラスを含めガルマリア国王の子息が治める街全てで十分な数の洗脳された住民つまり反乱分子は揃ったらしい。


そして本格的に作戦が動き出すのは7日後の午前9時。作戦の内容はまず反乱分子を使って街に暴動を起こさせる。その間に魔族達がそれぞれの街に住んでいる領主達を捕らえるというものらしい。領主を捕らえるのは流石に厳しくないかと聞いたところ。どうやら当日に魔王の幹部達がそれぞれの街に転移してくるそうだ。街を守る防護結界は転移を阻害するのでこれも当日にもともと街いた魔族が破壊すると言っていた。ちなみにこの国で防護結界が張られているのは王都と領主が暮らす街だけだ。


ここからは俺の予想だが魔王が考える筋書きは大体こんな感じだろう。まず領主が暮らす7つの街を占拠する。たぶん領主は生かして捕らえるだろう。国王にとって人質の価値が高いからな。そして残るは王都。ここで魔王はガルマリア国王に対してある提案をする。それは、俺と一対一の勝負をしろ、というものだ。それに勝てば今回我々はおとなしく撤退しよう、と。アルムが言っていたが魔王は今回の指示を出す際、街に潜入している魔族達に『最後の大物は俺一人で狩る。お前達はおとなしく見ていろ』と言っていたそうだ。


大物とはおそらくガルマリア国王の事だろう。そこまでする意図はわからないが魔王は国王とのサシの勝負を望んでいる。ならば魔王は必ず国王に勝負を持ちかけてくる。そして国王はこれに乗らざるを得ない。多くの国民、そして自らの子供達、それらを人質に取られては戦うしかないないだろう。しかしそれでも魔王が約束を守るわけがないという話になった場合、そこで魔王はさらに、私を契約で縛っても構わないと言ってくる。国王とサシで戦いたいのならそれをしても不思議ではない。たとえ人質がいたとしても国王がどんな選択をするかはわからない。そして正式な契約、誓いを行えばそれに魔王は逆らえない。そこに国王は最後の望みをかけてしまう。魔王に勝てないとわかっていてもそこに望みをかけ国王は魔王の提案に乗る。国王の強さは見た限りでは大体だがSSSランクのディルと同等だ。予想していたよりかなり強い。だが、それでもさすがに魔王には勝てないだろう。


魔王が国王にサシの勝負を提案した時点でこの国はどちらにしろ詰んでいる。多くの人質を取られれば国王は安易に他の種族へ助けを求める事も出来ないしな。それはもちろん冒険者ギルドも同様だ。


ただここまで予想しても魔王の目的が全くわからない。これは一歩間違えれば大戦の引き金となるものだ。国王を殺した後、魔王はおそらく国民及びこの事態を知っている者へ能力をもって洗脳を施すはずだ。アルム達が持っていた洗脳用の魔導具にはかなり強力な力が込められていた。おそらく魔王の力だろう。つまり魔王の力はそっち方面で強力だということ。そして洗脳によって今回起こった事自体を記憶から抹消し、死んだ国王の代わり傀儡王を玉座に座らせる。これで表面上は元通り、そしてここから4種族を内側から壊す事が出来る。と、考えたが国王が殺されてからは全て俺が考えた筋書きだからな、魔王が実際どうするのかはわからない。


いや、それともこれは本当に大戦の引き金として…。


ーーー「アキハ殿、聞いているのか?」


「ん?あ、ああ聞いてるよ。国王とトライクの関係だろう」


「そうだ、実は私達はな昔一緒に冒険をーーー」


王城で国王と話し始めて1時間、国王はほとんど一人で話し続けている。最初の方は昨日の謝罪、ルサルファの街を助けた事への感謝など普通に話してた。そういった話が一段落ついたところで俺が国王とトライクの関係を聞いた。いや、聞いてしまった。そしてそこらかずっと国王とトライクの出会いや関係性などを俺達は聞かされている。正直もう限界だな。


「それで私がトライクの鼻と眉間に向かって剣をーーーー」


「ちょっといいか。トライクと国王の関係はもう十分聞いた。それに他に少し話しておきたい事があるんだ」


「ん、もういいのか?まだ半分も話していないぞ」


「…そうか。でももう十分だ。それよりディル、もう話しておいたほうがいいんじゃないか。その為に来たわけだし」


「そうだね。わざわざありがと」


「なんだ?ディル殿が私に話したいことって」


ディルは立ち上がり、礼儀作法に則った一礼を国王に向ける。


「なんだいきなり?」


「…申し遅れましたが、僕は次期エンシャント大陸統治者ディル・クレインと申します。この度はアキハさん達に同行という形で急遽挨拶にきてしまい申し訳ありません。なにぶんこの身は冒険者、上に立つ者としての礼儀も弁えぬ故、こうして失礼は承知で会いに来た次第です」


いつもと違う雰囲気のディルに少なからず全員が驚きを感じた。それにしても意外にしっくりきてるな。妙に慣れてる感じがするし。


「それはまた急なものだな。しかしそうだったか。はは!次期大陸統治者がディル殿なら仲良くやっていけそうだ」


「僕もだよ、ガルマリア国王」


そう言ってソファに座り直すディル。あの喋り方はさっきだけなのな。


「いや、実に驚いた。まさかディル殿が次期大陸統治者とは。しかし大長老はまだご存命なのだろう?」


「うん、まだ生きてるよ。ただもうそろそろだろうね。だからこうして僕も大陸統治者になる者として動いてるわけだし」


「そうか…。まあこれからは互いによろしく頼む」


「こちらこそ」


「ところでだ。話していたらだいぶ良い時間帯になったことだし昼食にしないか。ぜひここで食べて行ってほしい。私も話し相手がいてくれる方が楽しいからな」


今更だがやっぱり国王にしては随分と軽い態度だよな。俺達の言葉遣いもわざわざそのままでいいって言われたし。まあ俺としてもその方がありがたいけど。


「昨日は忙しそうだったけど、今日は大丈夫なのか?」


「今日は1日何も予定を入れていないからな、緊急の用事が入らなければ問題ない」


「そうか。なら遠慮なくご馳走になろうかな。絶品料理が食べられることを期待してるよ」


「もちろん。振る舞うのは私が認めた最高の料理人が作る料理だからな、きっと満足させられるだろう」


ーーーーーー

ーーーーー

ーーーー

ーーー

ーー


王城での昼食時、なんか話の流れで誰も完食出来ないという激辛料理に挑戦し眠気が一気に吹っ飛んだ俺は王城を出てから全員で王都の観光に出かけた。本当は昨日観光するつもりだったんだが、昨日はいろいろとやる事があったしな、それにどうやら夜達も王都観光はしてないみたいだし。


「うぷ、ちょっと食べ過ぎた。…やばい吐きそう」


「またかよフェレサ。確かに美味かったがわざわざ限界まで詰め込んでくるなよな」

腹と口を抑えながら後ろをついてくるフェレサ。宿に戻ってろと言っても寂しいからと無理矢理ついてきた。前にもこんな事あったな。


「はあ、仕方ない。今日の観光はやめておこう。どうせなら全員でちゃんと“万全な状態”でした方が面白いしな。観光は明日にして今日は各自自由行動でいいか?」


「うぅ、申し訳ない、うぇ…」


「私に異論はありません」


「僕も別にいいよ。アキハさんの言う通りみんなでの方が楽しいだろうし、今日はフェレサさんもこんな状態だからね」


「私も構いませんが、…フェレサは自己管理をもう少ししっかりした方がいいですよ。あ、すみません。できませんかフェレサの頭では」


「な、なんだと〜、う、うぇ…は、吐く」


「その有様では何を言っても無駄です」


「うぅ〜」


「それじゃあ俺は少し出掛けてくる。今日も夕食はいらないから。じゃあな」


そう言い残し俺は再び作戦の為に、ある場所へ転移した。





「またですね。主様は昨日今日と一体どこに行っているのでしょう」


「わかりませんが、私達が気にしても仕方ないことでしょうね。アキハ様は私達にあまり自分の考えを話してはくれませんし」


「てっきり2人は知ってるものと思ってたけど、アキハさんは話していなかったんだ」


「ええ、アキハ様は何も話さずに1人で行動される事が多々ありますから」


「確かにそうだね。私も長い付き合いじゃないけどそういう事は多い気がするなあ」


「でも2人はフェレサさんよりアキハさんとの付き合いは長いんでしょ?」


「そうですね。出会った順番でいえば私、ノーメン、フェレサの順です。まあ付き合いの長さはあまり関係ないですけどね…」


「そういえばさ、そういったことって全然話してくれないよね、2人とアキハさんの関係とか。2人の接し方からしてアキハさんとは主従の関係みたいだし、結構気になってたんだよね」


「そうですね。時期が来たら話しますよ。それと1つ言っておきますがアキハ様が私達に主従の関係を強制しているわけではありません。それに自由になりたければ俺から離れるなり私達の好きにしていいと仰っています」


「「え!?そうなの!」」


「一体どう思っていたんですか…」


「いや、強制とまでは言わないけどほら、ね」


「まあ、少しは…」


「ここで改めて言っておきます。私達2人がアキハ様に付き従うのは私達の意思です。望んでのことです」


「その通りです」


「そ、そうだったんだ〜。それにしても少しでもヨルハさん達の事が知れて私は嬉しいなあ。やっぱり仲間としてはさ、そういう事も話せる間柄でいたいしね」


「仲間、ですか…」


「ん?どうしたのヨルハさん」


「いえ、何も。(アキハ様にとって仲間という存在がどんなものか知っている私にとってフェレサが言う仲間はどこか軽いものに聞こえてしまう。フェレサがそんなつもりで言ったんじゃないとわかっていても…)」


「それじゃあ宿に戻ろうか。フェレサさんも少しは元気になったみたいだし」


「そうだね。ただ、今は止まっているから普通に話せてるけどたぶん歩き出したら振動でまた吐き気がくるよ」


「はあ…まあ、宿へはゆっくり戻ればいいでしょう(アキハ様がいなければ私は特にやる事ないですしね)」


「お!ヨルハさんが珍しく優しい」


「蹴りますよ、フェレサ」


「なんでぇ〜!!」






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