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死人の幻



リサルムさんの言葉に従い私達は冒険者ギルドにあるギルド長室へとやってきた。


「それではまず貴方達の身分を証明するものを出して下さい」


そう言われ私達は冒険者カードを見せた。まだランクは低い、これから冒険者ランクも上げていかなきゃいけない。旅をするなら高ランクの方が都合がいいだろう、という判断だ。


「なるほど冒険者だったのですね。しまっていただいていいですよ、ありがとうございました。ところでそちらのお二人は?身分証を提示してください。この街に入る時に確認されましたよね?」


「これで良いでしょうか?」

そう言ってヤムさんとマムさんは剣に刻印されている紋章を見せる。


「エレスタ王国の紋章ですか。…しかし、これだけでは身分の証明にはなりませんね。検問所で見せた身分証があるはずです。できればそれを見せていただきたいのですが」


なぜ2人はちゃんとした身分証を見せなかったんだろう。検問所で確認された時は普通に見せてたのに。


「…ふぅ、仕方ありません。マム、身分証を出してください」


「良いのですか?この方なら気づいてしまいます」


「こちらの方はギルド長です。たとえ気づかれたとしても信頼できます」


「そうですね、わかりました」


二人は小声で話していて聞き取れなかった。何を話してたんだ?


「リサルム様、少し耳をお貸しください」


「なんですか?」


ヤムさんがリサルムさんの耳元で何か話している。私達には聞かれてはまずい事なのだろうか。



ーー「…リサルム様、私達はできれば自身の身分に関して勇者の方々にばらしたくないのです」


「それは…いえ、理由は聞かないでおきましょう。ですが私はまだ彼等が本物の勇者と信じたわけではありません。ですので約束はしかねます」


「おそらく身分証を見て頂ければ納得していただけると思います。それでリサルム様が納得していただけたならその時はお願いします」


「わかりました」


話が終わったようでヤムさんがソファに戻る。



「では身分証をこちらに」


差し出された2人の身分証にリサルムさんが目を通している。


「なるほど、ありがとうございました。こちらはお返ししますね。…しかし、そういうことでしたか。そうですね、わかりました。…貴方達が勇者一行であると信じましょう。それと、先程の態度は少しばかり礼がなかったですね、ここでお詫びします」


ヤムさん達の身分証を見た途端私達が勇者であると信じてくれた。さっきまでは疑っていたのに…。たとえヤムさん達2人がエレスタ王国の者と証明できても私達が勇者である証拠にはならない。ということはそれ以外に2人の身分証には私達を勇者と認められるような事が書かれてたってことになるけど…。


「いえ、私達もわざわざギルド長の手を煩わせる事をしてしまい申し訳ありませんでした」


「いえ、それはもういいですよ誤解はとけましたから。それよりです、先ほど言っていた冒険者アキハに会いたいというのは?」


「ヤムさんそれは俺が話します。俺達自身の事ですから」

質問に答えようとしたヤムさんを田附君が制止する。

「わかりました」


「それでは貴方にお聞きします。それに理由次第では彼が今どこにいるのか話してもいいです。もっともアキハさんに害が及ぶと判断した場合はこちらもそれなりの対処をさせていただきます。たとえ勇者だとしても」


「場所を教えてくれるって本当ですか!?ありがとうございます!」


「理由次第ですよ」


「はい、分かっています。……俺達はーーーー」

田附君は自分の思いの丈を伝えた。私の考えと同じでありそれは私達の総意だった。


「なるほど、勇者とは異界の存在であると聞いています。貴方達が暮らしていた世界は平和だったのですね」

世界が平和っていうのは地球が平和だったわけじゃなくて私達が見ていた世界が平和だった、ていう意味だろう。


「…わかりました。彼の居場所を教えましょう」


「本当ですか!」


「「「やったぁ!!」」


「ただ、そこまで正確な居場所はわかりません」


「どういうことですか?」


「彼は今王都にいます。ですが王都のどこにいるかまではさすがにわかりません。広い王都です、探すのも大変でしょう」


「そうですか。でも、俺達にとってはその事を知れただけでも大きな収穫です。ありがとうございました」


「そうですか、良かったです。会えるといいですねアキハさんに」


「はい、俺達も彼に会えるのが楽しみです。…それでは俺達はこれで行きます。アキハさんが王都に何日いるかわからないのでもう出発して王都を目指そうと思います」


「それはまた急ですね、宿ぐらいは紹介しようと思っていたのですが」


「いえ、せっかくのアキハさんに会えるチャンスを逃したくありませんので。お気持ちだけで十分です」


「そうですか、…それでは旅中お気をつけて」


「はい、今日はありがとうございました」


こうして私達はギルド長室をあとにした。


ギィィ


バタンッ



いろいろとあっという間でした。それにしても元気な人達でした。まだ若い、未来ある若者。

…そういえばアキハさんはガルマリア国王に会ったらこの街に戻ってきますしこの街で待っていれば確実に会うことができましたね。まあ、別にいいですかね、わざわざそこまで教える必要はないでしょうし。


しかし…あの7人が今回召喚された勇者ですか。エレスタの勇者、私もそこまで詳しいわけではありませんが、過去の勇者達を思えば彼等には同じ道を辿って欲しくはないですね。異界の勇者達、この世界の都合で彼等の人生は狂ってしまった。この世界の住人として、本当に申し訳ないです。




「願わくは彼等の辿る道が幸多き人生であらんことを」








冒険者ギルドを出て私達は馬車を受け取りに馬車庫へ向かっている。


「良かったわね、アキハさんの居場所がわかって」


「うんうん、本当にね!」


顔も知らない冒険者に勇者の全員が会いたがってる。やっぱりどこかみんなもこれから先魔王と戦わなければいけない状況を覚悟しきれていないだろう。だから覚悟するきっかけをアキハさんに求めている、そう見えてしまう。だって私もそうなのだから…。


「でも、王都に行ってからは結構大変そうだわ。私達の本来の目的はガルマリア国王に会うこと、アキハさんを探さなきゃいけないとなると時間があまりないわよね」


日阪さんでさえアキハさんに何かを求めているように見える。日阪さんは自分に厳しくあまり弱音を吐かない人だ。普段は気持ちを抑えてしまう部分もあるんだろう、本心を人に見せない人だけど今回はなんとなく日阪さんの気持ちが伝わる。


「確かにそうだね」


「ガルマリア国王に会うことよりアキハさんに会うことを優先したいけどね」


「本来の目的がずれちゃってるよきいちゃん」


「はは、そうーーー」


「うわ!!!?」

前を歩いていた小田倉君が急に大きな声を出して尻もちをついた。


「どうしたんだ、小田倉?」


「こけたのか?」


「まったくドジね。饒舌の時のあんたはもっとキビキビしてるでしょう。少し不注意よ」


夕実さんの小田倉君への言葉に少し同感してしまう。確かに饒舌の時はなんとなく動きがキビキビしてる。


「ち、違う。今あっちに伊月君の姿が…」

全員が小田倉君が指差す方を見る。


「当たり前だけどいねえじゃねえか」


「冗談にしてもひどいよあんた。私達は伊月君が炎に焼かれて死んだのをこの眼で見たでしょ」


「人も結構いるし見間違えたんじゃないか」


「た、確かに僕は…」


「ほらさっさと立て。時間がないんださっさと行くぞ」


「うん…」


もう一度先程小田倉君が指差した方を見る。


やはり彼の姿は見当たらない。当然か、だって伊月君はもういないんだから。


「どうしたの、溟ちゃん。行こ!」


「はい、すみません」



この後は馬車を受け取り、すぐにルイーナの街を出発した。




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