足取りを追って
おばさんの家で昼食をご馳走になり、今は食後のお茶をいただいている。
「へぇ、あんた達旅をしてるのかい。まだ若いのに立派だねぇ」
「いえ、俺達にも目的がありますから。それに自分達の為にやっている事なので決して立派では」
「謙遜出来るなんてますます立派じゃないか。若い冒険者っていうのも珍しいからね。厳しいとは思うけど頑張りなよ」
さっきから私達は褒められっぱなしだ。しかもこの人はこれが煽てとかじゃなくて本心で言ってるようで反応に困ってしまう。
「ところで旅ってことは今日はこの町の宿に泊まるのかい?」
「はい、そのつもりです」
「それならちょどいい。ここに泊まっていきなよ。見ての通り宿を経営していてね、今なら宿泊料金も半額にしてあげるよ」
「それは…こちらとしてもとてもありがたい提案ですが、いいんですか?宿泊客が他にいるのでは?それに俺達の仲間はまだ他に2人いて全員で9人と結構人数多いんですが…」
「それなら心配いらないよ。ここ数日、宿は休業していたからね、今宿に客はいないんだよ」
「いや、それこそ迷惑なんじゃ。休業中に泊まってしまっては」
「休業って言ってもわたしが少し休みたかっただけだからね。それに明日には宿も再開しようと思ってたから別に構わないよ」
「…そうですか。それならお言葉に甘えさせてもらいます。ありがとうございます」
「はいよ」
いい人だな、少し助けたくらいでここまでやってくれるなんて。
「すみません。ちょっといいですか?」
「ん?なんだい」
急にどうしたんだろう小田倉君。
「少し失礼なことを聞くようですがこの宿は町の外れにありますが、宿泊客はちゃんと来るんでしょうか?少し気になってしまって失礼ですよね、申し訳まりません」
急にどうしたんだと思ったら本当に失礼な質問をしてきた。しかも既に饒舌に変わってるし。小田倉君が饒舌に変わる基準がよくわからない。
「ははは、確かにそう思うよね。でも心配ご無用しっかりやっていけてるよ。それどころか最近は繁盛してるくらいさ」
「繁盛ですか。何か特殊な宣伝方法でもあるんでしょうか?」
「いや、まったくないよ。それに少し前までは本当に客数が少なくて宿を続けるか迷っていたんだ。でも、ある日突然客足が増えるようになっていってね、おかげで今も宿を続けていられるよ」
おばさんは笑って言っているけどやっぱりそれなりに苦労していたんだろう。
「ある日突然ですか、…その原因に何か心当たりとかはあるんですか?」
なんでこんなにぐいぐい質問するの、小田倉君。
「心当たりね、特にないかな…。いや、そういえばあるお客さんが来た翌日から急に客足が増えたね。そうだ、そういえばその少年がしばらくすれば客も増えるだろうって言ってたんだよ。まさか本当になるとは思わなかったよ」
「「「少年!?」」」
全員が少年という言葉に反応する。確証はない、だけどやはり少年と聞いて私達が一番最初に頭に思い浮かべたのは彼だった。
「すみませんがその少年の名は?」
田附君も気になるようですぐに確信へ迫る質問をする。
「ん?確か…アキハって言ってたよ。冒険者らしくてね他にも仲間を3人連れていたよ。あの少年達ともまた会いたいもんだね」
「やっぱりそうなんだ」
「まさか、こんな偶然があるなんてな…」
「そうね。この大陸に渡ってこんなにも早く彼の話が聞けるとはね」
「なんだい。あんた達あの少年の事知ってるのかい?」
「いえ、会ったことはないのですが同じ冒険者として会ってみたいと思っていて探しているんです」
「そうなのかい。…あ、そういえば私にルイーナの街について詳しく聞いていたしもしかしたらその街に向かったかもよ」
「本当ですか!ありがとうございます」
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おばさんの宿に泊まることになった私達はとりあえず馬車を買いに出ていたヤムさんとマムさんを迎えに行きあそこの宿に宿泊する事になった経緯を話した。
宿に戻り夕食の時間までは明日の予定を話し、明日は私達の希望でルイーナの街に行くことになった。そこにアキハさんがいなければその日のうちに再び出発し王都を目指す事になっている。
その後は夕食時に料理を運んで来たおばさんの娘さんの事をまいさんが可愛いと言ってはしゃいでいた以外には特に何事もなく終わっていった。たぶんだけど、はしゃぐまいさんを見てみんなが思ったんだろうな。見た目はたいして変わらないな、と……。
翌日の早朝、裏門まで見送りに来てくれたおばさんと娘さん二人に見送られながら私達は出発した。
ルイーナの街まではそれほど遠くないので魔道具で強化されたこの馬達なら昼頃には着けるだろう。魔導具はエルノイド大陸においてきた馬のものをそのまま使用している。
そんな馬によって馬車の進む速さは少しも衰えず私達はルイーナの街に到着することができた。
今の時刻がだいたい午前11時でアキハさんを探すのは午後2時まで。それで見つからなければこの街を出発して王都を目指す。別にルイーナに一泊しても問題はないとヤムさんは言っていたけど本来の目的は王都へ向かうことだからと私達が言った為この様な予定になった。
街で馬車を預けたあとは各自で冒険者アキハの聞き込みをした。これでこの街にいるかいないかぐらいわかればいいんだけど…。
午後1時、再び全員で集まって入手した情報を話し合う。そこで結局冒険者アキハの所在がわからなければこの街をすぐに出発しなければいけない。
全員が集まったところで情報交換が始まった。
「アキハさんがこの街にいるかどうかはまったくわかりませんでした。ただ、聞いた人全員がアキハさんの事を知っている程有名人でした」
「やっぱり緋月さんの方もそうだったのか。俺の方も彼のことは知っていても今この街にいるかどうかまでは知らない人ばかりだった。他のみんなはどうだった?」
結局全員が同じ結果でめぼしい情報を得られていなかった。
「彼はどうやらこの街では英雄のような存在のようだよ。街の危機を救った英雄と誰もが口にしていた」
「でも、これでアキハさんを探すのは終わりなんでしょ。見つからなきゃ出発するって予定だったし」
「そうだな、仕方ないけど出発しよう。でも、もしかしたらこの街にいない可能性もあるしまだ会えないと決まったわけじゃないからね」
この街を出発するため預けた馬車を受け取りに行こうとしたところ後ろから声をかけられる。
「貴方達、少しいいですか?」
後ろを向くとそこにはタイトスーツを着た女性が立っていた。
「何の用でしょうか?」
「先程冒険者アキハについて聞きまわる人間族がいると情報が入りまして、その事で対処しにきました」
「対処?えっと、すみません。別に俺達は怪しい者ではないんです」
「その言葉を信じるに値する証拠はありますか?あるならばすぐにそれを提示していただけないでしょうか。ないのであれば拘束の後尋問させていただきます。ちなみに抵抗は無意味ですよ。抵抗した場合この街が貴方達の敵となります。抵抗する場合は覚悟してくださいね」
そう言って私達に笑みを向ける女性、今の笑みには全員が少なからず恐怖を感じた筈だ。
「す、すみません。決して悪意があってやった事ではありません。私達は勇者一行でしてその冒険者アキハさんには学ぶ事が多いと思い会いたいと願っていただけなんです」
タイトスーツの女性の言葉を聞いてヤムさんが慌てて弁明する。
「勇者一行?…なるほど、まあその話を信じるかは別として。そうですね、話す場所を変えるとしましょう」
何とかこの場は収まりみんな胸をなでおろす。でもあのヤムさんがあそこまで慌てるなんて、でも確かにこの街と敵対した場合私達勇者の立場が危ぶまれかねないし、それは今後魔王討伐に影響しかねない。ヤムさんの必死の弁明は正しい判断だったのか。
歩き出そうとしたところ急に止まって再び後ろを向く女性。
「そういえば自己紹介がまだでしたね。私はこの街のギルド長のリサルムと申します。それでは行きましょうか、冒険者ギルドへ」
「「「ギルド長!?」」」
私達は結構な大物に目をつけられてしまったらしい。




