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キャッタナ大陸へ

エレスタの勇者側の話です



ソーラスを出発してから結構な時間が流れた。1日だけの滞在だったけれど出発の際にはカイバルトさんがわざわざ見送りに来てくれた。昨日といいカイバルトさんの人柄がよく分かる。


今日は一切休憩を挟まずに目的地を目指すらしい。次の目的地は港町シオラス、そこまでの距離が中途半端らしく休憩と野営を挟んで2日かけて行くか、休憩を挟まず1日で行くか全員で相談し勇者全員が1日で行く方を選択した。理由はたぶん昨日のカイバルトさんが話していた冒険者アキハの事なんだと思う。彼はキャッタナ大陸にいるとカイバルトさんは言っていた。自分達勇者と変わらない年齢で戦場に立つ彼に私達は会ってみたいと思ったんだろう。勇者の中で一番年齢が上なのは日阪さんだけど、それでも20歳だ。そんな若さの私達はこれから否が応でも戦場に立つことになる。王都にいる頃も魔物とは戦ってきた。それでもやはりまだ何処かこの世界を甘く見ている様な気がした。


だからこそ、この世界に生き私達と変わらない年齢の少年は平和な日本で暮らしていた私達とどれほど違うものなのか会って知っておきたいんだと思う。

この先自身の命を賭けて戦場に立ち、戦う覚悟を持つために。


馬車はシオラスを目指して走り続け、シオラスに着く頃にはすっかり空も暗くなっていた。


今日は宿で各自しっかりと休息をとり、明日には船でキャッタナ大陸に渡る。




そして、翌日


ブオーー

私達を乗せた船が出発した。船に乗せてはいけない馬車と馬とはここでお別れだ。従者のタムさんは馬車を受け取りに来るエレスタの騎士を待つため一人シオラスに残り、後でこちらに合流することになった。



「緋月さん、調子はどう?」


「いつも通りです。いつ戦闘になっても大丈夫なくらいには調子がいいです」

甲板で景色を眺めてたところに木原さんが話しかけてきた。


「はは、相変わらず真顔で面白い事言うのね」


「すみません。あまり感情を表に出すのが得意じゃなくて…」


「別に責めてないわよ。私にとって緋月さんは大切な仲間だし一緒に居て楽しいもの」


「…こちらこそです。いつも気にかけてくださりありがとうございます」


「ねえ、緋月さん。いきなりだけどさ私は貴女ともっと仲良くなりたいと思ってるの。だからさ、溟って呼んでいいかな?」


「それは…」


「やっぱり嫌かな?」


「い、いえ違います。そうじゃなくてですね……私も仲良くなりたいと思っています。だから、はい、いいですよ」


「いいの?良かった〜、断られたらちょっと立ち直れなかったかも。それじゃあ私のことも下の名前で呼んでね」


「ゆ、夕実さん」


「うん、溟」


ダキッ


「うわ!?」


「む〜、2人だけで何を話してたのかなぁ?わたしも混ぜなさーい!」


「抱き着かないで川平、暑苦しい。溟だって嫌がってるよ」


ピクッ

「きいちゃんいつから緋月さんのこと溟って呼ぶようになったの?」


「ついさっきだよ。お互い苗字じゃなくて名前で呼ぼおって」


「それじゃあ私は溟ちゃんって呼ぶ。いいかな?」


「は、はい」


「やった〜」

そう言って抱きついていた手を放す。


「それじゃあ私の事はまいでいいから」


「はい、まいさん」


「うん!溟ちゃん」


相変わらず年齢がわかりづらい人だ。見た目的にも精神的にも。


「そういえばなんで夕実さんはまいさんの事を苗字で呼んでいるんですか?たしか日本でも知り合いだったんですよね」


「あーそれね、昔からの癖なんだ。木原とは幼馴染でさその時からずっと苗字で呼んでるから。今更って感じで」


「そうだったんですか」


「そうだよ、きいちゃんはずっと私と居てくれた大切な友達なんだから」


「そんな、大げさな」

まいさんの言葉に呆れた感じで言う夕実さん。

「大げさじゃないよー!」


私から見てもこの2人は本当に仲がいい。私はそんな関係を少し羨ましいと思った。


「ところで少し聞きたい事があるんですが」


「何?」


「ん?」


「昨日、カイバルトさんが言っていた冒険者アキハさんの事なんですが」


「ああ、その話ね。実は私もちょっと気になっていたの」


「そうだよね、だって私達と変わらない年の子がもう戦場に立って戦ってるなんて聞いたら気になっちゃうよね」


「まあエレスタの王都にいた騎士の人もギルドにいた冒険者の人もみんな見た感じ私達より年上だったからね」


「でも、そのアキハさんって人以外にもその人の仲間も全員私達と同じくらいの年齢と言っていましたよね」


「そうね、だからこそその人達と会って確認したい」


「確認?」


「この世界で生きてきたその人達と平和に暮らしてきた私達はどれほど違うものなのか。年が近いからこそわかる事があると思うから」


「そうですね」

やっぱり他の人達もそう思ってたんだ。


「まあまだ、会えるかわからないんだけどね」


「そうですね。でもカイバルトさんが言うにはアキハさん達は旅をしているそうですしキャッタナ大陸にいるなら王都には行く可能性が高い。王都に向かっている私達が会える可能性は十分にありますよ」


「そうね、幸いアキハさん達の見た目はわかりやすいわよね」


「そうですね。私達と同じくらいの年齢の冒険者は少ないと思いますし、それが4人ですから会えばわかるかもしれませんね」


ブオォーーー

船が音を鳴らした。前方を見るともう既にはっきりと見える距離までキャッタナ大陸に近づいていた。


「あれがキャッタナ大陸か…」


「そうですね」


「うわ、なんか迫力があるね!」


こうして短い船の旅は終わりを迎えた。


今日はこの港町の宿に泊まり明日出発する予定だ。早朝の船に乗ったため昼前にはキャッタナ大陸に着くことができた。ここからは二手に分かれ必要なものを買いに行く。主に食糧などだけど一番は馬車と馬を買わなければいけない。ここから王都までの足として必要だ。



「それでは私達2人は馬車と馬の入手に向かいますので食材などはお任せします。夕方再びここで会いましょう」


そうして、ヤムさんとマムさんとは分かれ私達7人で食糧調達へと向かったーーー




ーーー「よいしょっと、これぐらいで十分かな」


「重い…」


「ぼ、僕も結構きつい」


食糧調達を済ませ今は昼食を食べるところを探している。


「男なんだから頑張りなさい、情けない」

夕実さんが荷物持ちになっている男の人達に向けて言う。


「お前も少しは持てよ!」


「私達は草林君達が出来ない食料選びをしてるんだから、荷物持ちぐらいやりなさい」


「ちっ」


「まあまあ、落ち着けって草林」



『おい!なんだおめえ。ぶつかっておいてその態度!』


『何言ってんだい、今のはあんたがぶつかってきたんだろう!』


声がした方を見るとそこには冒険者らしき3人の男と揉めている買い物籠を持った女性がいた。


「なんだ、喧嘩か?」

それを見た草林君が呟く。

「いや、あれは喧嘩ではないと思うけど」


『おめえ、あんまなめた態度とってると痛い目見るぞ!』


『事実を言っただけよ、どうせわたしにいちゃもんつけて金でもせびろうとかくだらないこと考えたんでしょ?あんた達みたいなのが考えそうな事だよ、まったく』


『何だと、このクソババァ!』

男の1人が手を振り上げる。


「おい、あのままじゃあのおばさん危ないぞ」

草林君は意外と心配しているらしい、まあこの人根はいい人だから。


しかし、あのままじゃ確かにあの人が怪我をする。

「私が行きます。あの程度の人達なら私だけで十分そうですし」


「そうか、わかった」



私は女性のところへ駆け出し男の拳が女性に当たる直前で攻撃を受け止めることが出来た。


「な?!なんだおめえ!」


「手を出すのはやり過ぎです。これ以上続けるんであれば私が相手します」


「は!人助けってか?ばかばかしい」


「どうするんですか、続けるんですか?それならさっさとかかってきてください」


「ちっ、どいつもこいつも生意気なんだよ!お前らやるぞ!」

先頭に立っていた男が剣を抜き私に攻撃を仕掛ける。


「はああ!」


振り下ろされた剣を身体を横にそらして躱し、がら空きになった顎に向けて拳をお見舞いする。


グハァ!…ガタッ

その一撃で男は地面へ倒れ、気を失ってしまった。


「うそ、だろ」


「まじかよ」


立ち尽くしている後ろにいた男2人に声をかける。


「まだ続けますか?その気がないならその気絶している仲間を連れてさっさと去ってください」


「わ、わかった」


「ほら、運ぶぞ」

男2人は気絶した仲間を連れて逃げるように去っていった。面倒ごとにならなくて良かった。


「流石だな、緋月さん」

いつの間にかみんな近づいてきていたようで、田附さんが声をかけてきた。


「いえ、相手が弱かったですから。それより女の人に怪我はなかったですか?」


「大丈夫だよ、ほら」

後ろにいた女の人が私の方へと歩いてきた。


「助けてくれてありがとね」


「いえ、大したことではありませんから」


「それでさ、もし良ければうちに来ないかい?お礼代わりに昼食でも奢るよ。さっきそこの男の子がお腹空いたって言ってたしあんた達全員に振舞ってあげるよ」

そこの男の子とはたぶん小田倉君だろう。そっちを見ながら言っていたし。


「そんなわざわざ…」


「何言ってんだい。助けてもらったのは私の方なんだから遠慮なんてしないでよ」


「…そうですか、それではお言葉に甘えて。みんなもそれでいいですか?」


確認を取ると全員喜んでと言った感じで了承してくれた。


「それじゃあついてきて。街の外れだから少し歩くけど」

その言葉に田附さんが答える。

「いえ、昼食が食べられるなら俺たちはどこへでも行きますよ」


「ははは!面白い子だね。どこへでもはさすがに言い過ぎだよ」


田附さんは人と話すのが得意なようで誰とでもすぐに仲良くなる。私には到底真似できない事だ。





次話もエレスタの勇者側の話になりそうです

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