冒険者アキハ
エレスタの勇者側の話です
緋月 溟視点です
エレスタ王国王都を出発して二日目
今朝は早くに出発し、昼頃に最初の目的地だったソーラスの街に到着した。
街の外壁は未だ修繕されていない箇所があるなど魔族の襲撃がどれ程大きな被害をもたらしたかがわかる。
街民は何人が亡くなったんだろうか、どれほど多くの人が悲しみを味わったんだろうか、と外壁を見ながら思った。
だけど、そんな考えも街に入った途端に消え去ってしまった。街の復興作業に勤しむ街民の表情には一切の悲しみが見られず、全員が曇りのない顔で復興作業に励んでいる。その顔を見て私はやっぱり日本と違って常に危険が隣り合わせのこの世界の人々は強いんだなと思った…。
ヤムさんに聞いた限りでは今日中にここの辺境伯のカイバルトさんという人と会う事になっているらしい。その為、検問所を通ったら馬車と馬を馬車庫に預け、辺境伯邸に向かう。
辺境伯邸に向かっている途中、街の様子を見ていたけれど、半壊した建物などが多く見られた。特に被害が大きかったのが正門付近のようで辺境伯邸に近くなるにつれ被害を受けていない建物が増えてきた。
おそらく魔族が途中で襲撃を止めたから街全体に被害はないんだろうけど魔族はなんでこの街を襲撃したんだろう。何が目的でトロスト王国の街、それも辺境の街を襲ったんだろう。他種族への宣戦布告ではないだろうし、他にこの街に目的があったとかかな?
そんな考えを巡らせているうちに辺境伯邸についたようだ。ヤムさんが門の呼び鈴を鳴らすと自然に門が開いた。これは魔法なんだろうか…。
辺境伯邸の庭は一面が花畑でとても綺麗だった。様々な種類の花が彩取りに咲きほこっていて魔族によって建物を破壊された街民には失礼だけれどここは無事で良かった、と思ってしまった。
広い庭を歩いて邸宅につくとまた自然に扉が開いた。中に入ると執事服を着た男性が立っていて私達にお待ちしておりましたとお辞儀をし、辺境伯の部屋へと案内してくれた。
コンコン
「失礼致します、旦那様。お客様がおみえになられました」
「はいってくれ」
そう言われて部屋に入ると辺境伯のカイバルトさんにソファにかけてくれと言われ言葉通り全員がソファに座った。
部屋は私が想像していたものとは違い質素でこの人数が部屋にいても暑苦しく感じない程度には広さもある。
「話は国王から聞いている。街がこんな状態で大した歓迎も出来なくてすまないな」
カイバルトさんは見た目は凄く威圧感があったけれど、物腰は柔らかで少し驚いた。
「いえ、今回この街を訪れたのは俺達がこの世界の現状、それと魔族というものを知る為なのでわざわざ歓迎なんてしていただくほどのことでもありません」
すっかり勇者一行のリーダーが板についた田附くんが答える。
「そうだったね。…それで、君達はこの街の惨状を見てどう思った?」
いきなりの質問に少しの沈黙が訪れる。最初に口を開いたのは意外にも小田倉くんだった。
「僕はこの世界の魔族の在り方も一応理解しているつもりです。だからこの街を見て最初に思ったのは魔族は何が目的だったのか、でした。中途半端に破壊された街、あの惨状からして魔族はこの街を滅ぼすことが可能だったんではないでしょうか?それなのに途中で襲撃は終わっている。多分ですが目的を果たしたから街を襲撃する必要がなくなったんではないでしょうか…」
小田倉君のスイッチは切り替わっていたようで、今日も饒舌だ。
「…なるほど、君は頭が回るようだな。確かに君が言っている事は当たっている。そして解答を言えば魔族達の襲撃の目的は、この街のギルド長の眼だった」
「眼?」
「この街のギルド長、シルベルは魔眼持ちでな、それを魔族達は狙っていた」
「それじゃあそのシルベルさんの眼は…」
「いや、シルベルの眼は無事だ」
「え?!でも実際小田倉が言った通りならこの街の襲撃が途中で終わっているから魔族達はそのシルベルさんの魔眼を奪うという目的を果たしたんじゃないんですか?」
「確かに、魔族達は一度は目的を果たした。だがそれを一人の冒険者が取り返してくれたんだ」
「冒険者?それはSSSランク冒険者でしょうか?」
「違う。彼はSランク冒険者だ。だがその実力はSSSランク冒険者に匹敵するだろう」
「しかし、魔族の襲撃という事は魔王が命令を下したんではないんでしょうか?魔王相手となると容易に手出しはできないんじゃないんですか?」
「おそらくな、魔王に仕える魔族が魔王の指示意外に襲撃なんてものはしないだろう。勝手な行動を起こせば魔王に殺されかねないからな」
「だとすると、その冒険者は魔王と戦ってまで眼を取り戻したと?」
「それはわからない。彼はその事に関しては何も話してはくれなかった。ただ、奴等からシルベルの魔眼と連れ去られたギルド職員を取り返してきた、としか言っていなかった」
「魔族に連れ去られた人達がいたんですか!?」
田附くんが声をあげる。それもわかる、私達はこの街が数日前に魔族の襲撃を受けたとしか聞かされていないんだから。
「やはり何も聞いていなかったようだな。先程の態度から何となくそうだとは思っていたが」
「すみません。俺達は数日前にこの街が魔族の襲撃を受けたとしか聞いていません」
「そうか、それなら私が詳しく話すとしよう。この街で起きた全てを、この街の英雄である冒険者アキハと仲間達のことを」
それからカイバルトさんはその英雄の話を話し始めた。話は魔族の襲撃のさらに数日前に起こった魔物の襲来から始まり、その時の冒険者アキハとその仲間である女性の活躍を聞かされた。その後は今回の本題である魔族の襲撃を話してくれた。冒険者アキハに助けを求め一度は断られ彼が自分達の前から去ってしまったこと。それからどうしようもないと思っていたところに人質を助け出し再びここに戻ってきてくれたことを。
この街の人的被害がゼロというのにはみんなが驚いていた。しかし、カイバルトさんの話では結局その冒険者アキハが魔族からどうやって人質と魔眼を取り戻したのかわからなかった。
それから少し気になって魔王が再びこの街を襲う心配はないのかと聞いてみたが、アキハさんがそれは心配いらないと言っていたから大丈夫だ、と言って何の心配もしていない様子だった。一介の冒険者が地位のある人の信頼をここまで得ているというのもすごいなと思った。
カイバルトさんの話を聞いて私達勇者が思った事はこの世界の冒険者のレベルの高さについてだと思う。
話を聞く限りそのアキハさんという冒険者と仲間の冒険者のヨルハさんはあのSランクの魔物を余裕で屠っていたらしい。私達のレベルではSランクの魔物と互角程度。現状では到底その人達にはとどかない。国王が言っていた実力不足というのもこの話を聞けば頷けるというものだ。
「話を聞く限りではそのアキハさんという方はさぞ屈強な戦士なんでしょうね」
日阪さんがそんな事を口にする。
確かに今の話を聞いてはアキハさんの姿をそう想像してしまっても仕方ない。実際私も話を聞いている間はそんな感じの姿を想像してた。でも、思えばこの世界の強さは決して見た目では測れないものだった。
「いやいや、アキハさんの容姿は普通の少年だったよ。それに他の三人のお仲間も容姿からして同じくらいの年齢だろうね」
「少年!?そんな若さでそれほどの強さを持ってるんですか」
「年齢は大体16歳か17歳ぐらいだろうね」
私と同じくらいの年齢。そんな若さで既に戦場に立って戦っているなんて、本当にこの世界は厳しい世界なんだな。いや、もしかしたら日本という環境が優しすぎたのかもしれない、だってこの世界の人々はこんな環境でもずっと当たり前に暮らし続けているんだから。
「そう言えば今は確かキャッタナ大陸に居るって言っていたっけな。君達もこれからキャッタナ大陸の王都に向かうんだろう。なら、会えるかもしれないな」
「そうですね。それ程の人ならば俺達も一度は会ってみたいです」ーーーー
ーーーその後はカイバルトさんがせっかくだからと言って私達全員に屋敷のシェフの料理を振舞ってくれた。そして食事後はカイバルトさんが紹介してくれた宿へと向かった。
宿について明日の予定を話してからはそれぞれ自由行動となった。今日でソーラスに訪れた目的は果たしたので明日にはもうこの街を出発するみたいだ。




