ガルマリア国王
王城の敷地内に転移してきたが今俺の目の前には計十一人の獣人族がいる。そのうちの四人は先程スクロワによって気絶させられており、地面に突っ伏している。
「な?!どうなってる!」
「どういう事だ、私達は先程まで…」
俺によって突然王城に転移されたこいつらは突然の事に動揺している。まあ、当然の反応といえば当然の反応だろうな。
「お前らが俺達を正門からつけていたのは気づいていた。誰の命令かもわかっている。だから騒がずにおとなしくしてろ」
そう言った瞬間、俺たちをつけていた五人は散り散りに逃走をはかる。しかし、これは少し予想外だった。ここまで来て逃げる理由がわからない、まあ逃がさないけど。
「逃すと思うか?」
その言葉を発した瞬間、目の前にいる全員に言葉では言い表せぬ恐怖と見えない重圧がのしかかる。そしてそれに耐えきれなかったものは意識を手放し、耐えたものもそのほとんどが跪くしかなかった。
「な、なん、なんだ…」
「意識が持ってかれ…」ガクッ
「へぇ、やっぱりお前は耐えられるようだな」
「おいおい、冗談じゃねぇぞこんなの。こんな力、お前一体何者だ?!」
逃走をはかった五人が次々と地面に倒れていくなかスクロワを気絶させたあの男が唯一気絶も跪くこともなく立っていた。
「何者って…俺はただの冒険者だ。今回はガルマリア王に招待されただけだし書状もしっかりあるんだがな、それなのにこれはどういう歓迎の仕方だ?全てガルマリア国王の指示だろ?」
「はあ、なんだお前気づいてたのか」
「当たり前だ。先程の茶番、明らかに暴行を受けた少女の方がお前以外の男共より実力があったし腹を抑えてはいたが大した怪我もしてなかった」
「そんな事までわかってんのかよ」
「さらにその男共の中に一人だけ遥かに実力のある者、つまりお前がいた。王都に入ってすぐに起こった面倒事、周囲の監視の眼といい少し考えればわかることだ」
「は、なるほどな。…ああ正解だ、これはガルマリア国王が仕組んだお前達を歓迎するちょっとしたサプライズ、というやつだ」
何がサプライズだ。ただの面倒事だ。
「それで、ガルマリア国王には会わせてもらえるのか?」
「ああ、もちろんだ。…その前に、その殺気を解いてくれないか。もうこっちは俺以外全員が気絶している。俺も動きづらい」
「そういえばまだ解いてなかったな。すっかり忘れてた」
そう言って先程から発しぱなしだった殺気を解く。
「ふぅ、これで身体が動く。それじゃあ馬車とかはここに置いといていいからついて来てくれ。あと、気絶してる奴らもほっといていいからな、お前の殺気が解けたからもうじきここに騎士達がやって来るし、馬車もそいつらも騎士達が片付けてくれるだろうから」
「そうか」
こうして俺たちはこの男の案内に従い、ガルマリア国王の元へ向かった。
気絶しているスクロワと一緒にコンクルとキュルムは客室で待ってもらうことになった。
ちなみにフェレサは俺が言った通り夜が起こしてくれていたようでその証拠にフェレサの左の頬が腫れていた、どんまいフェレサ。
一際大きな扉を通り、案内された場所は謁見の間だった。その奥の特別豪華な椅子に座っているのがガルマリア国王だろうか。その横には一列に護衛であろう騎士が並んでいる。
「ガルマリア国王、言っていた冒険者一行を連れてきたぞ」
男が俺たちの一歩前に出て国王に話しかける。というかこいつ、国王にこんな態度とって大丈夫なのか?
「御苦労。だがここに来てもらって早速ですまないが君達は私の自室に招かせていただく。話はそこでゆっくりとしよう。トライク、案内は頼んだぞ」
トライクって言うのかこの男。
「なんだよここで話さないんだったら連れてきた意味ねえじゃねえか。はあ、まあ良いけどよ、わかった。連れて行けばいいんだな」
「ああ、よろしく頼む」
「ほら、行くぞお前ら」
何も言葉を発する事なく俺たちは謁見の間を出ることになった。というか本当にここに連れてきた意味って何だったんだよ。
謁見の間を出て暫く歩きようやく国王の自室とやらについた。かなり歩いたな。どんだけこの城複雑な造りしてんだよ。ほとんど迷路化してるぞ。
コンコン
「入るぞ〜」
返事が返ってくる前に扉を開けるトライク。しかしさっきの謁見の間での態度といいこいつの立場がよくわからないな、国王にあの態度をとって許される者って何者だ?
ギィィ
部屋の中に入ると机を挟み奥の椅子に座っている男がいた。筋肉隆々、金色の短髪、顎髭をこさえ、その容姿はどこかライオンを彷彿とさせ、こちらを鋭い眼光で見つめている。
なるほど、やっぱりさっきの謁見の間にいた国王は偽物だったか。目の前にいる国王と謁見の間の国王はその容姿は瓜二つだったが気配が多少異なっていた。それに普通に考えればあそこで会った後にわざわざ自分がいない自室に招き客人を待たせるのもおかしい、その結果考え付くのは先程会った国王が偽物だった、ということだ。さすがにこっちが偽物だとは考えづらいしな。
「やっと来たな、待ちわびたぞ!」
俺達の姿を見た途端そう言ってきた。というかあんたが面倒な事をするから余計に時間がかかったんだろう。
「とりあえず席についてくれ。話はそれからだ」
そう言われ全員が席に着く。案内してくれた男は何故か国王の隣に座った。
それでは早速聞こうじゃないか。
「それで先程の茶番はなんだ?その男以外全員気絶させたぞ」
「そうか、そうか。それは実に愉快!いやあ、何、ちょっとした悪戯心だよ。それに本当なら君とこいつを闘わせて君の実力が計れれば良かったんだがな!傷がない所を見ると二人は闘ってないのだろう?」
隣に座ったトライクの肩を叩きながら言う国王。すげえ嫌がってるぞ、トライク。
「まあ、確かに闘ってはいないな」
「ガルちゃん、確かにちゃんと闘ってはいないけどこいつの実力は確認済み。たぶん俺より強い」
思わず吹き出しそうになった。なんだよガルちゃんって!
「それは本当か!?ルサルファからアキハ殿がかなり強いとは聞いていたが…SSSランク冒険者のお前より強いというのか」
「SSSランク!!」
先程まで左頬の腫れの所為で元気がなかったフェレサが声をあげる。お前はテンションの起伏が激しんだよ。
「僕は気づいていたよ。前にトライクさんとは一度だけ会ったことがあるし」
トライクを見ながらディルが言う。まあSSSランク同士で面識ががあってもおかしくはないだろう。
「おう、久しぶりだなディルちゃん。しかし珍しいなディルちゃんが冒険者パーティに入るなんて」
「別にそういうわけじゃないんだけどね…」
そうだな、ディルは国王に会うために俺達についてきただけだからな、言わないけど…。
「まあその辺の話はまた後でして貰うとして、…冒険者アキハ殿、此度はわざわざお越し頂きありがとう。私の我が儘に付き合わせてすまない」
ガルマリア国王が謝罪の言葉を述べる。
「いや、こちらとしても国王陛下にお目にかかれるというのは光栄な事だよ。それで早速なんだが俺を呼んだ理由、その他諸々詳しく話してくれるよな?当然、先程の茶番についても」
その質問にこちらから顔をそらす国王。
「それなんだが、本当にすまない。今日は急遽別の重大な用件が予定に入ってしまってな、これからそちらに取り掛からなければいけなくなったんだ」
「つまり、今日は話せないと」
「ああそういう事だ、本当に申し訳ないな。明日必ず詳しく説明する機会を設ける。それでだ、今日はこちらで用意した宿に泊まってくれ。宿の案内はトライクがする。もちろんそこの宿代はいらないし王都に滞在する間はそこの宿を使ってくれてかまわない」
今日は話せないとなると、時間ができるな。まあ今日は王都の観光でもすればいいか。まだ時間は多分にあるし。
「そうかわかった。それとここまで一緒に来たルサルファ王女の部下は俺達と同じ宿に泊めてもいいか?」
「もちろんだ。存分にそこの宿でここまでの旅の疲れを癒してくれ」
「ああ、それじゃあまた明日会おう」
「ああ、今回は本当にすまなかったな」
こうして俺たちは王城を後にした。
ーートライクに案内されてついた宿は外から見た感じではそこまで高級な宿といった印象は受けず、普通に質素な宿だった。
中に入ってもやはり想像通りといった感じで普通の宿だ。国王が紹介する宿だからもっと煌びやかなものを想像していたが俺としてはこっちの方が落ち着いていいし、よかった。
部屋は一人一部屋で、どうやらトライクもこの宿に泊まっているようだ。明日はトライクについても聞けるといいんだがな、SSSランク冒険者のトライクとガルマリア国王の関係も気になるし。




