王都到着
魔法陣の光に包まれて、すぐに俺は地上に転移した。
周囲を確認すると全員無事地上に戻ってくることができていたようだ。
「アキハさん!」
コンクルが俺に気づいて声をあげる。
「アキハ殿!?どうしたんだ、私達が地上に戻って来てもなかなか戻って来ないから心配したんだぞ!」
「心配?スクロワさんはいつの間に主様と和解なさったのですか?」
ノーメンの質問に顔を赤くしながら慌てている。まあ自分の勘違いで俺を嫌っていたわけだからな、恥ずかしいのも無理はない。
「アキハ様、大丈夫でしょうか?」
夜が聞いてくる。
「何が?」
「いえ、アキハ様の雰囲気が少し暗く感じたので…申し訳ありません。余計な心配でしたでしょうか?」
夜は本当に申し訳なさそうに、俺を気遣いながら尋ねてくる。そういえば前にもこんなことあった気がする。
「大丈夫だよ夜、ありがとな」
そう言って頭を撫でると俯きながら「はい」と言って俺から離れた。しかし夜は良く俺を見ている。クロノスと話し自分でも多少の感情の揺らぎがあったのは理解している。だがそれでも表には出ていなかったはずだ。少なくとも夜以外がわからないほどには。
俺の感情が揺らぐ時、だいたいかつての仲間達が関わっている。もう、過去の事の筈なのにこの世界に戻ってきてからは思い出す事が多い。
はあ、切り替えよう。頭は冷静に常に自分と周囲を騙し、何事にも面白さを求める、そんな自分。…ふう、ほらもう落ち着いた。まあ実際のところこの感情さえもこれからの面白い事の材料になればいいと思っている。結局俺は最終的に面白ければ何でも言い訳だ。本当にクロノスが言った通り俺は変わったよ。まあ、こんな自分も大好きなんだけどね、大好きはちょっと言い過ぎだな…。
「話しは後だ、時間も時間だしまずは野営の準備をしてしまうぞ」
「「「はーい」」」
「アキハ殿、馬がいつ地上に戻ってきていたか知っているか?」
スクロワが野営の準備をしている途中に聞いてきた。
「なんだ、気づいてなかったのか。最初の転移の時に既に馬は地上に転移されていたよ」
「そうだったのか!アキハ殿が地上に戻ってくる前、全員でその事を話してたんだが全員が知らないと言っていてな。まあ大した話じゃないがわかってよかったよ」
まあ、気づかないのも無理はないだろうな。先に地上に戻したのはクロノスが馬は邪魔だと判断したからだろう。そしてクロノスは馬から認識をずらす魔法を全員にかけていた。その為地上に戻って馬の姿を確認するまで俺以外の全員が馬の存在を忘れていたんだろう。しかし、このメンバー全員がかかるほどの強力な魔法か。クロノスの力は大して衰えていなさそうだな。
「そういえばスクロワってさ冒険者が嫌いなんだろ?俺たちと話してて大丈夫なのか?」
「そうだが、誰から聞いたんだ?」
「王女が言ってたんだよ。スクロワは冒険者が嫌いだってな」
「そ、そうなのか!ルサルファ様が…。確かに私は冒険者が嫌いだ。でも、自分が認めた者は平気だ。それにアキハ殿のお仲間もディル殿も皆ルサルファ様が認めた者。そういった者達なら大丈夫だ。だが…」
「だが?」
「一度認めた冒険者なら大丈夫なんだが、それ以外の冒険者はどうしても嫌悪感を抱いてしまう。冒険者に対する悪い印象が、どうしても拭いきれなくてな」
「そうだったのか。まあそれなら過去に何があったかは聞かないが、俺はそれでもいいと思うぞ」
「え?!」
「わざわざその冒険者に対する悪い印象を払拭する必要はないだろう」
「なぜだ?これは改善したほうが…」
「確かに冒険者全員がお前が思うような冒険者ではないし、嫌悪感を抱く必要のない者だっている。でもな、それが全てじゃない。その中にはスクロワが思い描く通りの悪い冒険者だっている。なら全員をそう思っていた方が危険は少ないだろう?」
「確かにそうだが…」
「直接触れ合って、確かめていけばいいだろう。信頼できる冒険者か、そうでないかは」
「…確かにな。そう言って貰えると助かるよ」
「だからと言って戦場にその考えは持ち込むなよ。冒険者と共闘するときだってこれからあるだろうしな」
「わかっているさ」
「まあその時は信用できない冒険者も利用できる奴だと思って大いに利用してやればいい、もちろんそいつにも警戒は必要だがな」
「ふふ、ありがとう。私ももう少しこの感情と向き合ってみるよ、今までのように抑えつけるんじゃなく、受け入れられるように」
「ああ、頑張れよ」
俺との話を終えたスクロワは準備に戻っていった。
その後は野営の準備を終わらせ夕食の時間になった。先程中断した俺の話は夕食の時に詳しく話すことになった。と言ってもだいぶ事実とは異なる事を話したんだけどね。
まず俺が何故地上に戻るのが遅かったかだが、スクロワ達と共に転移したんだが俺一人だけ別の部屋に転移し、魔物と戦う羽目になった。そしてその魔物を倒した後、その部屋にあった魔法陣で転移したら地上に戻ってこれた、と。他にもいろいろ聞かれたがダンジョン内で起こった事は一切話さなかった。そもそも説明出来ないからな。
夜、ノーメン、フェレサにはまた今度四人だけの時に話せばいいだろう。これからダンジョン攻略をしていかなければいけないからこの三人には話す必要があるだろうし。まあ全てを話すつもりはない。クロノスの事も一切話さない。その辺は適当に嘘を話しておけばいいだろう。
夕食後は時間が遅いということもありすぐに就寝となった。予定的に明日中には王都に着くことが出来るだろうな……。
次の日、いつも通り早朝に出発した。
ガタガタガタ
出発して数時間が経つがとくに何事もなく馬車は進んでいる。昨日は雨だったが今日は快晴だな、残念。
「そういえばディルは王都に何の用事があるだ?」
馬車内で暇だったので気になっていたことを聞いてみた。夜は俺とディルの話に耳を傾け、フェレサは相変わらず寝ている。間抜け面で。
「僕もガルマリア王に会いに行くんだよ。一応僕も次期大陸統治者だからね、他の大陸統治者にも挨拶しておこうと思って」
「なるほどな。でもそんな急に会いに行って平気なのか?」
「平気じゃないからアキハさん達に同行してるんだよ。一緒に行けばついでって事で会えるかなと思ってね」
「ついでって…」
「主様!王都が見えてきました」
御者席にいるノーメンから声がかかる。もう王都か…思ったよりも早いな、まだ昼頃だ。まあ結構朝早くに出発したからな、それに森林から王都まではそこまで離れてないし、…そう考えるとこのぐらいの時間で着いて当然か。
馬車はそのまま王都の検問所へと向かっていった。外壁を見るに王都はルイーナの街を優に超える広さがあるようだ。
しばらく走ると馬車が停車した。どうやら検問所で諸々の手続きを行っているようだ。今回は王女の書状がある為わざわざ全員の身分証を見せずに王都に入ることができた。王都に入る前にスクロワがこちらの馬車にやってきてこのまま王城に向かうので護衛のアキハ殿達も一緒について来てくれ、と言われた。
そういえばスクロワ達は俺がガルマリア王に会うために護衛としてついてきたって知らないんだったな。というかそれぐらい教えといていいだろうに、後々説明するの面倒くさいし。というかその事はちゃんと書状に書いてあるんだろうな、ここまで来て国王に会えないとか面倒な事にはなるなよな。でもまあ、その時はルサルファに掛け合えばいいか。
時間帯が昼ということもあり王都内は賑やかだ。正門から王城まではまあまあ時間がかかるだろう。何せこの広さだ。暫くは馬車から王都の様子でも見ていよう。
ガゴォンッ
王都の店並を見ていると馬車がいきなり止まった。
「どうした、ノーメン」
「いえ、スクロワさん達の馬車が急に止まったもので」
なんだ、また面倒ごとかよ。
「ちょっと見てくるな」
「あ、僕も行くよ」
ディルもついて来るみたいだ、珍しいな。
「そうだ、夜。そこで熟睡してる役立たずを叩き起こしておいてくれ」
「わかりました」
馬車を降りるとすぐそこに人だかりが見えた。そこへ行くと既にスクロワ達も馬車から降りてきており人だかりの先頭にいた。
その人だかりを掻き分けスクロワ達の横へ行く。
「これは、また…」
人だかりができた原因であろうものを見たディルが呟く。おそらくディルのその呟きには呆れが含まれているんだろうな。
「それで、どうしたんだスクロワ」
まあ聞くまでもないだろうが。
「この男共が少女に暴行を働いていてな、それを止めに入ったんだ」
と、いうわけだ。スクロワ達の前には腹を抑えて嗚咽する少女、その奥に冒険者であろう格好をした男が五人。周囲の人だかりはスクロワが来る前には出来ていたようで、それに気づいたスクロワがわざわざ馬車を止めて暴行を止めに入ったわけだ。
さて、どうしたものか。
「それで、なんでこんなことに?」
「見ていた人が言うには少女と男共の一人がぶつかった時に少女が持っていた飲み物が男の装備品にかかったそうでその弁償として男共が高額な金を要求したらしい」
「それを拒否した少女が暴行を受けた、と」
「そういう事だ」
「なんだ、おめえら。なんか文句でもあんのかぁ!あぁ!」
「お前がさっさと金払えば良いんだよ!」
「どうすんだ、これ!高かったんだぞ。弁償できんのかぁ?おい、聞いてんのかよ!!」
こいつら似たようなことしか言わないな、仲良い兄弟かよ。
そんな事を考えていると男の一人が少女を再び殴ろうとする。
ガシッ
その手を掴みスクロワが止める。
「その辺にしておけ、これ以上は見過ごせないぞ」
「なんだ、オメェ、横から口出すんじゃねえよ!それともオメェが弁償してくれんのか?あぁ!」
スクロワから手を振りほどく。
「とりあえず落ち着くんだ、まずはその装備品の価値を明確にし、その上で不備などがあればその分の修理の為の金を出せばいいだろ」
「そういうことを言ってんじゃねえんだよ。迷惑料、弁償代を出せって言ってんだよ。こいつのせいで俺たちの貴重な貴重な時間がどんどん奪われていくんだぞぉ?わかってんのか?ブス野郎」
なんかもう、言ってることがめちゃくちゃだな、それに言っておくがスクロワはブスではない。
ピクッ
「どうやら話し合いは通じないようだな」
「おめえこそこれ以上邪魔するってんなら容赦しねえぞ!」
スクロワを男共が囲む。
「女だからと侮るとは、愚かな奴らだ」
「愚かな奴はオメェの方だ!」
男の一人がスクロワに向け剣を振り下ろす、それを軽がる避けたスクロワは男の腹に蹴りをかます。
グホォッ
「さあ、どんどん来るんだな、私達こそお前達にあまり時間を割けないんだ」
その挑発に乗りスクロワに攻撃を仕掛ける男達。だがその勢い虚しく次々とスクロワによって気絶させられていく。
そしてついに最後の一人となった。
「後はお前一人だけだぞ。どうする、自首するか?」
スクロワの言葉など御構い無しに最後の一人はスクロワに攻撃を仕掛ける。
しかし、その攻撃もスクロワによって難なく躱されその攻撃により自ら懐に入り込んだ男に攻撃を仕掛けるスクロワ。
ドンッ
スクロワの蹴りが男に当たる瞬間、男が今までより遥かに早い動きでスクロワの背後に回り込みスクロワの首へ手刀をはなった。
一瞬の出来事に辺りを妙な静けさが包む。
スクロワは男の手刀によって地面に倒れこんだ。おそらく気絶したんだろうな。
「ア、アキハさん!スクロワさんが!」
「なに今の動き…私には眼で追うのがやっとだったんだけど…」
俺たちと共にスクロワの戦闘を見ていたコンクルとキュルムが言う。まあ確かにいい動きだったな、だが、
「ディルさんよ、これはとんだ茶番じゃないか」
「そうだね、アキハさん。周囲に…五人、僕達を監視するような目線があるね」
「まったくだ。王都に入ってからずっとだからな、このまま王城に行ければ無視してたが、この茶番を見せられれば多少は対応してやろう」
「何かするの?」
「まあな」
まずは眼の色を翡翠色に変え【記憶操作】で周囲の人々の記憶からガルマリア王城を記憶する。そして今回の騒動を見ていた人々の記憶を消す。しばらくは放心状態だろうな。その後は眼の色を緋色に変えて【物質転移】を使う。
俺たちを監視する五人、この茶番の関係者諸々、あとは馬車ごと夜達を王城内の敷地に転移させた。騒動を見ていた人達の記憶も消したし転移の方は記憶消去の後の放心状態で覚えてはいないだろし、騒ぎにはならないだろう。
さてさて茶番の主謀者へ会いに行くとしようじゃないか。




