エレスタの勇者達
この話から四章にさせていただきます。四章は勇者達と秋達の行動を交えた構成にしたいと思っています。
勇者達がなかなか登場しなく、勇者…誰?となっても仕方ないですね…m(_ _)m
「はっ!はあ!はああ!」
エレスタ王国王城の第一修練場で一人の少女が複数の男を相手に剣をふるっている。
「緋月さんすごいね、何人もの騎士さん相手に!」
「そうね。剣術では緋月さんの腕が一番だもの」
「でも、きいちゃんもすごいよね魔法!」
「まあ、魔法が一番得意だったからね。だから後衛専門になっちゃったけど」
「それでもすごいよ。私なんか回復しかできないから戦うことすらできないし」
「でも、回復はパーティにはとても大切よ」
「そう言ってもらえると助かるよ〜」
あの日以来、蒼葉 秋もとい伊月 涼が死んでから勇者達の進歩は目覚しかった。
この世界の現実、今までいた世界の当たり前が通じないことを伊月 涼の死によって勇者達は改めて理解した。
そこで自分には無理だと、この世界で生きていけるわけがないと逃げ出すものはおらず、それぞれがそれぞれの目的を胸に日々鍛錬に励んできた。その結果この世界に来てから数日で確実に勇者達は大きな成長を果たした。
「緋月さん、お疲れ様」
「お疲れ〜、緋月さん」
「木原さん、川平さん、見ていたんですか」
「すごかったね、緋月さん」
「ええ、男共より強いんじゃないかしら」
「はは、そうだといいんですけどね。ところで木原さんと川平さんはどうしてここに?城下町に買い物に行くと言っていたような…」
「それはもう済んだんだけどね。それよりもちょっと緋月さんに話があって」
「話?」
「実は日阪さんのことなんだけど....」
「たしか日阪さんって今日は訓練のために雇った冒険者達と王都の近くのダンジョンに潜っていますよね」
「ええ、そうだったんだけど、どうやらダンジョンに潜る前に冒険者達をボコボコにしちゃったらしいのよ」
「え!?どうしてですか?」
「どうやら雇った冒険者達がやらかしたらしくて」
「一体何をしたんですか?」
「日阪さんを襲おうとしたらしいの」
「それは…日阪さんも災難でしたね」
「ええ、本当に」
「それでね、私ときいちゃんと緋月さんで日阪さんの様子を見に行こうと思って」
「そうですか、ちょうど訓練も終わりましたしいいですよ」
「そっか、じゃあ修練場の出口で待ってるから着替え終わったら日阪さんのところへ一緒に行こ!」
「わかりました。じゃあ着替えてきますので」
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コンコン
「木原です。日阪さん、入ってもいいですか?」
「はい、どうぞ」
ガチャ
「こんにちは日阪さん」
「こんにちは〜」
「失礼します」
「どうしたのかしら?」
「さっきほど兵士の方に日阪さんが冒険者に襲われたって聞いて…大丈夫だったんですか?」
「それでわざわざ来てくれたの?ありがとね。まあ私は大丈夫よ。それよりも冒険者たちに対して少しやりすぎちゃったのよね、つい男の象徴を潰しちゃったもの」
「うわぁ…」
「それはまた…まあ、とりあえず無事で何よりです」
「ところで男組はどこに行ってるのかしら?今日は見ていないけど」
「三人とも冒険者登録をしにギルドに行っていますよ、そろそろ帰ってくると思いますが」
「そういえば男組はまだ登録していなかったわね」
「私達はすでに済ませてますけど、男共はずっと鍛錬ばっかりしてましたからね」
「そういえば今日はこの後王様に呼ばれてるんだったわね」
「三人が登録から帰ってき次第、王の間に来てくれと言われていますよ」
「それじゃあそれまではお菓子でも食べて待っていましょうか」
「そうですね」
「やったー!」
「はい」
ーーー暫くして
コンコン
「どうぞ」
「失礼します、 。登録にお出かけになられていた御三方がお戻りになられたので王の間へとお越しください」
「わかったわ」
そうして四人は王の間へと向かった。
◆
王の間にはエレスタ国王と勇者達が向かい合い座っている。
「今日は急な呼び出しですみません」
エレスタ国王が勇者達に対して謝罪を口にする。
「いえいえ大丈夫ですよ。それより早速本題に入りましょう」
それに答えたのはこの中で誰よりも地球への帰還を望むコンビニ店員の田附 真也だ。
おそらくこの中で一番の成長を果たしたのが彼だろう。そして勇者達のまとめ役でもある。
…七人の勇者全員がこの部屋に揃うのはこの世界にやってきた日、伊月 涼が死んだ日以来だ。
1つ咳払いをしエレスタ国王は話し始めた。
「勇者様方はこの短期間で我々の想像を遥かに超える成長を遂げました。…しかし、それでもまだ魔王には程遠い…それほど七夜の魔王は強大な力を持っています。そして勇者様方のさらなる成長を願い勇者様方七人には旅に出ていただきたいのです」
「やっと来ました。お決まりの冒険の旅!!」
「うるさいぞ小田倉」
「す、すみません」
草林 猛の言葉に縮こまる小田倉 茂史。
このやりとりもすでに見慣れたものでエレスタ国王も含め勇者達も皆呆れ顔でこの二人のやりとりを見ている。
「確かに実戦の経験は大きい、でも今はその為に定期的にダンジョンに潜っているんじゃないんですか?」
「勇者様方は現在、あの『嘆きのダンジョン』の地下何階層までお進みになられましたか?」
「今は一番進んでるのでちょうど五十階層ですが…」
「そうですか…。しかしあそこは五十一階層から魔物の強さが格段に跳ね上がるのです。トラップなども今までとは比べ物にならないほどに危険度が跳ね上がり今現在五十一階層より深部へと進んだ者はSSSランク冒険者のディル・クレインという人物のみなのです」
「SSSランク冒険者…。それで、今の俺たちでは力不足という事で旅に出て力をつけてこいということですか。なるほどそれで先に冒険者登録をさせておいたといわけですね」
「その通りです。この世界を渡り歩くならば冒険者登録は必ず役に立ちますから」
「しかし旅に出て強くなれと言われても俺たちはどこへ行けばいいんですか?この世界の知識はまだ碌にありませんし」
「それならば心配ありません。こちらで何人か従者をつけさせていただきます。それでですね、まず勇者様方にはトロスト王国のソーラスという街に向かっていただきたいのです」
「トロスト王国というと隣国の、…何故ですか?」
「そこのソーラスという街が先日魔族の襲撃を受けたと報告がきたのです。勇者様方にはこの世界での魔族の在り方と魔王の脅威、そしてこの世界の現状をこの旅で見て実際に感じていただきたいのです」
「それじゃあ強くなるというのは?」
「もちろんそれも目的です。この大陸にも他の大陸にも当然力を持った魔物は山ほどいます。旅の中でそれらの魔物と対峙し勇者様方のパーティの連携、戦闘の経験を積んでいって欲しいのです。そして最終的にはキャッタナ大陸、エンシャント大陸、フォールン大陸の三つの大陸に渡っていただきそれぞれの大陸を治める統治者達と会って頂きます。魔族との戦いには助力を願うこともあると思いますので親交を深めておいて損はないかと思います。書状はしっかりとこちらで用意しておりますので会う事に関しては何も問題はありません」
「しかし、すべてのとなるとかなり時間がかかりますが…」
「それは問題ありません。キャッタナ大陸を治めるのはたった一人の獣人族の王です。そしてエンシャント大陸は大長老と呼ばれるエルフ族の長が一人、フォールン大陸だけは7人のドワーフ族が治めてはいますが、人間国と違い国は1つ、おそらく会うとなれば七人同時にとなるでしょう。統治者と会うためにはそれぞれの大陸の中心都市へ向かえば会えるはずです。その三つの大陸をまわりその中で自分の腕を磨いていただければなと思います」
「それならまあ大丈夫そうですが。いつここを出発すればいいのですか?」
「3日後、ここを出発していただきます。旅に必要なものは全てこちらで手配しますのでそれまではご自由にお過ごしください。それと勇者様方の他に三人従者をつけさせていただくことにします。この三人は十分に腕の立つ者たちです。きっと勇者様方の助けになるかと」
「なるほど、…わかりました。みんなも大丈夫そうかな」
「大丈夫です」
「少し不安かな…」
「大丈夫だって、川平」
「俺はいつでも大丈夫だ」
「ぼ、僕も大丈夫」
「私も大丈夫です」
反対意見は無く、これで勇者達の旅立ちが決定した。
ーーそして、三日が過ぎ勇者達が旅立つ日
「お気を付けて」
その言葉と共に心配そうに勇者達を見送るのはセレナ第二王女である。この旅立ちの事は国民には伏せられており勇者達を見送るのはこの城でお世話になった騎士や兵士、王族達だけである。
「そんな顔しないでセレナ、私達はきっと強くなって戻ってくるわ、約束する」
「そうですよ、セレナ!」
川平 まいと木原 夕実は特にセレナ王女と仲が良く、お互いに異世界の話を毎晩のように語り合っていた。
「それではお見送りありがとうございます。俺たちは魔王討伐に向け必ず強くなってこの国に戻ってきます」
「ご武運をお祈りします」
こうして勇者達はやっと本当の意味でこの異世界へと旅立つのだった。
そして勇者達はまだ知らない、エレスタ国王が何のために勇者達を旅立たせたのかを…その本当の意味を。
やっと勇者達が物語に関わってきてくれた。
本当によかった…




