街の危機に
ちょい長めです
勝者のコールを確認した俺は眼の色を緋色に変えて地下100メートルで身動きが取れなくなっている二人を闘技台へ転移させる。
ドサ
転移と同時に二人は闘技台に倒れ込む。
「どうだった身動きが全く取れないっていうのは?結構恐怖心が出てきたか」
「は、はい…やはり自分の力不足を実感しました」
「本当に…無茶苦茶だよ、アキハさん。今起こったことの全てが、こんなの僕がどうにか出来る相手じゃなかったよ」
「いやいや、二人とも良くやったと思うよ。ディルは結局最後まで全力とは言い難かったし夜もあのレベルで魔法が使えるとは思わなかっよ。出来ればもう少しだけでもお互いの力を出し合いたかったんだけどね…」
そろそろ時間が来てしまうから、仕方ない。
『素晴らしい戦いを見せてくれた三人に盛大な拍手を!』
ブウウウウウン!ブウウウウウン!
拍手の音を遮り警報が鳴り響く。
『緊急事態発生、緊急事態発生、住民の方々は街の裏門へ避難してください。冒険者、及び兵士は街の正門へ至急お集まりください。これは訓練ではありません、繰り返しますーーーーー」
来たか。
二階にいる冒険者たちも速やかに行動を開始している。大した混乱もなく動けているのはさすがというべきか、ギルド職員がしっかりと誘導しているようだ。
「な、なんだいこれは!?」
先程まで離れたところで試合を見ていたフェレサとノーメンがこちらにやってくる。
「わからない、ただ確実に言えることはこれからこの街を守るために戦わなきゃいけないってことだよ。普通は何かあったとしてもこの街はルサルファ王女の部下達が対処しているんだけどそれじゃあ対処しきれない事態が起こったということだね、今回は」
フェレサの問いにディルが答える。
「アキハ様、行くのでしょうか?」
「ああ、行くよ。そのルサルファ王女の部下達も見てみたいからね」
「それじゃあ早速正門へ行こう」
そう言って出口に向かおうとするディルを止める。
「ちょっと待て、外は人が多そうだからこのまま正門へ転移する」
「え?わ、分かったよ」
そうして俺たち五人は正門へ直接転移した。
ーーー正門にはすでに冒険者らしき人達が集まり始めていた。兵士は救護テントなど準備を整えたり、何か話し合っている奴らもいる、そしてその中にはルサルファ王女の姿もあった。
それから数分で結構な人数が集まり、それを確認したルサルファ王女は魔法で作られた舞台へと上がる。
ゴホンッ
「先程の呼びかけに応じて集まっていただき感謝する。時間がないので早速本題に入らせてもらうが、この街から数キロ離れた場所に魔物の大群を確認した。そして今回は君達に街の防衛にあたって欲しい」
魔物と聞いて周囲に一瞬ざわめきが起きるが、それもすぐに収まった。周囲の表情を見るにまだ余裕がある。ただの魔物じゃないんだがな。
「魔物の襲撃なら、この街の兵士達で対処できたんじゃないですか?そこまで数が多いのでしょうか」
冒険者の誰かがそんなことを言う。
確かに兵士の中に魔法の手練れがいるならばランクの低い魔物が大量にいようが殲滅出来る。
「今回は我々だけでは対処しきれないと判断した。確認された魔物の数は50体、その全てがSランクの魔物だった」
その言葉に周囲は一気に騒がしくなった。
それも当然のことだ。ここにいる冒険者達の中にどれほどの強さの者がいるかなんてすぐにはわからないがSランクの魔物は本来手出しできる魔物じゃない。その魔物が50体もいるんだ。混乱するのは仕方ないだろう。
「静まれ!今回、この街の住人達を守り抜くには君達の力が必要不可欠だ。何とか力を貸して欲しい」
周囲はどうやら迷っているようだ。…冒険者は魔族以外の人為的危機以外に滞在する街に危機が訪れた際は街の防衛に力を貸すこと。これは冒険者ギルドで正式に決まっていることではなく冒険者達の暗黙の了解として冒険者達自身が守っている事だ。つまりここから逃げ出そうが本来なら咎められはしないんだが、それはプライドを持った冒険者達なら絶対に許さないだろうな。
…この場を動こうとする冒険者はいないようだ。
「どうやら戦場から逃げ出すような臆病者はこの中にはいないようですよ、ルサルファ」
「え!?どうして…」
ルサルファ王女は驚いている。
その声の主、ギルド長のリサは舞台に上がり言葉を続ける。
「冒険者、兵士含めこれからあなた達の指揮は私がとります。自分の信念を持って戦場に立ちなさい。必ずこの街を守り抜くのです。救援は呼びました、ですがその前に…別に倒してしまっても構わないのですよ。何も救援を待つ必要はない、自らの力を持ってここにいる全員でこの街の危機を乗り切りましょう!」
〈〈〈〈うおおおおおおおお!!!!〉〉〉〉
全員の士気を高めたリサはルサルファとともに奥のテントに入っていき俺達もそこへ呼ばれた。
「で、なんなんだ?」
「冒険者と兵士達の指揮は私がとると言いましたが、あなた達五人には自由に行動してもらいたいのです。状況を見て各自その場で判断して動いてください」
なるほど確かにな、Sランクの魔物を一人で余裕を持って倒せるのはここにはこの5人しかいない。
「ちょ、ちょっと待って、何で私まで」
フェレサが言う。
「フェレサ、お前は俺たちばかり見ていて気づいていないだろうが、お前自身SSSランクには及ばずともかなりの力を持ってるんだぞ。自信は持っていいはずだ」
「…そ、そうなのかい?よく実感がわかないけどアキハさんがそう言うなら頑張ってみるさ」
「それで、細かい作戦はどうするんだ?」
「幸い人数は多いので、Sランク冒険者並の実力を持つ者が最低でも二人いるチームを作ってローテーションで魔物の撃破に当たります。上手くいけば救援が来るまでにそれなりに魔物の数を減らすことが出来ると思います。ただ消耗戦になるのでなるべく重傷人を出さずに救援まで切り抜けなければなりません。その為にあなた達にはその場で状況を判断して動いてもらいたいのです」
「なるほど、わかった」
「というかですね、私はあなた達五人が全力をだせば救援が来る前に魔物を返り討ちにすることもできるのではないかと思っているんですよ。さっきの闘技場での戦いを見るに」
「いやいや、さすがにきついよSランクの魔物が50体は」
リサの言葉にディルが反論する。だがリサの言う事は正論だ。俺はともかく、夜とディルはSランクの魔物を相手とるには十分過ぎる実力、そして二人には及ばないにしてもそれなりの実力を持ったノーメンとフェレサがいる。Sランクの魔物50体なら俺がいなくても周囲の冒険者たちと協力すればこの四人でどうにかなるだろう。…まあだが、それはSランクの魔物だったらという話だ。
忘れてはいけない。今回の作戦はルサルファ王女の俺への信用と信頼を得るためのものだ。この街の危機に対処しきってもらっては困るんだ。だから事前にしっかりとこの街の戦力を確認し魔物達との力の差を確認したんだ。たとえSSSランク冒険者だとしても一体で十分に楽しめる魔物になっていることだろう。
「それでは、早速外にでて魔物が来るのを待ちますか」
リサの言葉に頷き俺たちは外へ出る。
ーーー今、俺たち五人は街の防護壁の上へと来ている。俺たち以外は後衛の冒険者や兵士達、そして指揮をとるギルド長のリサとルサルファ王女だ。
俺たち五人はここから戦況を確認してから行動することになった。そしてルサルファ王女なんだが、彼女は本来下でチームを組んで魔物を迎え撃つはずだったんだが、俺たちのように自由に行動したいそうだ。というか本当なら王女が戦場にでていること自体おかしいんだが、本人の希望で周囲の反対を無理矢理押し切ったそうだ。というかいつもこんな感じだそうだけど。そして今回自由に行動させてくれとリサに頼んだルサルファ王女、最初は反対していたリサだったんだが、少しでも君達の力になりたいだという言葉で渋々許可を出してしまった…。
さて、今更だと思うがここで今回の俺の作戦を話しておこう。まあここまで来ればだいたい想像がつくだろうが。
そう、俺は以前死の森で倒したSランクの魔物を使ってこの街を襲わせようとしている。【生命創造】によって生まれ変わった魔物たちは見た目がSランクの魔物だとしてもその実力はそれを優に超えている。
そして、今回魔物たちの指揮を取らせているのがこの間手駒にした魔王配下の幹部だ。魔物を操る能力を持っていたのでそれを利用させてもらった。
まあ本当は魔物たちは俺の命令なら聞くからそれで良かったんだが細かい指示なんかをあいつに任せてある。普通はあのレベルの魔物ならあの幹部の能力じゃ操れないが、そこは俺が細工をして操れるようにしてやった。
準備はこれで完璧に整いあとは大まかな作戦の流れなんだが、正直言うとここら全く考えてなかった。
いや、最初は魔物にこの街を襲わせてそれを俺が倒してヒーロー的な、ソーラスでやったようにやりたかったんだが、ここからどうやってその流れに持って行こうか迷っている。本当の危機を救われなければルサルファ王女の信用は得られても信頼は得られない。
理想的なのは俺以外が全員魔物にやられ俺一人でこの魔物の群勢を倒し、それをルサルファ王女がしっかりと目撃するというところだが、これも結構単純な作戦だ。勿体ぶっといてなんだが…いや、本当はやっぱり遅れてやってくるのがヒーローっぽいからいいんだよな。地球のテレビでは早く来いよヒーローってイライラしてたけど実際遅れて登場の方がなんかかっこいいと思うんだよね。
というわけで、なんか理由をつけてこの戦場から離れようと思っていたんだが、先程良い案が思いついて実行しといた。そろそろその結果が来るはずだ。
「ギルド長!」
今回の街の防衛作戦の確認をしていたギルド長にギルド職員が駆け寄る。
「どうしたんです、そんなに慌てて」
「ま、街の裏門にSランクの魔物が10体確認されました!」
「なっ!?どうして!先程まであちらには何も…」
今の報告は周囲にも聞こえてしまい、動揺が伝わる。
「ギルド長!正門から正面に魔物の大群を確認、ここに辿り着くのも時間の問題です!」
また、別のギルド職員が報告する。
「リサ、とりあえず下にいる者たちに魔物がすぐそこまで来ていることを知らせるんだ」
ルサルファ王女が言う。
「そ、そうですね。貴方は下に報告をお願いします」
「はい!」
指示を受けたギルド職員は下へと降りて行った。
「しかし、どうするのです。あちらに戦力をまわしたらこちらを対処しきれなくなってしまいます。けれど、それじゃあ住民が…」
「俺が行こう、俺一人が抜けても、この四人がいれば大丈夫だろう」
「し、しかし、幾ら何でもSランクの魔物10体は…」
「大丈夫だ、それよりも今はこっちの戦場に集中しろ。こちらの危機は何も変わらないんだからな。それじゃあ夜、ノーメン、フェレサ、ディル、こっちは任せたぞ」
「はい」
「かしこまりました」
「任せてよ!」
「もちろん」
そうして俺は街の裏門へと向かった。
秋くんの作戦は成功してくれるのでしょうか…




