帰還
この話を書いてる途中に
手を攣りました(つД`)ノ
魔王を手駒にする事に成功した俺は辺境伯邸のホールにギルド職員を連れて転移した。
まあ、成り行きで手駒になっただけなんだが。
「よし、着いたな。ちゃんと全員いるか確認しろよ」
ギルド職員達も自分達がソーラスに帰ってきたことに安心したのか先程までの緊張の表情も解けている。
そして俺は再び転移の準備に入る。俺は今回サラ達の願いを聞き届けずにその願いに対して背を向けた。その事については自分の意思でやったことで何ら思うことはない、だがそれならばそれを最後まで貫かないといけない。だから今回ギルド職員を助けたのは俺ではない、ということでいい。帰還したギルド職員の記憶も操作しておかないとな。
「アキハ様、お帰りなさいませ」
ん?…後ろを振り向くと夜とノーメン、他にもカイさんにシルさん、それとサラとその祖父、あとはその後ろに申し訳なさそうにフェレサが立っている。
魔王と戦ってから魔力感知を切ってたせいでこいつらがいるのに気付かなかっあ。まあ他にも原因はあるんだが、魔力感知はこれからは常に発動しとこう、というか前までそうしてたんだけどね。
しかしフェレサか、まあ俺に対してあんな言葉を言っておいて実際俺が職員達を助けてきてしまったんだから気まずいのも仕方ない。さてこれからどうやってフェレサをからかってやろうか。
それで、
「なんで夜とノーメンがいるんだ」
「アキハ様が魔王の所へ行かれたのはわかりましたのでならば職員達も助けるのでは、と思いましてこの屋敷で待っていたのです…(魔王と戦うついでにギルド職員を助けてここの者達に恩を売っとけば今後役に立つとお考えになると思いまして)」
あれおかしいな、夜さんの心の声が聞こえたような…。
「リイナ!」
サラがリイナに駆け寄る。
「サラ!」
お互いがお互いを強く、もう離さないと言わんばかりに抱きしめる。涙を流して姉の無事をまた会えたことを喜び合っているようだ、さすがにサラとリイナの祖父は一緒に抱きつかないようですね…。
そんな微笑ましい光景を誰もが温かい眼差しで見守っている。一部を除いてだが…そんなことを思っているとカイさんとシルさんがこちらにやってくる。
「どうした?」
「いえ、今回のことについてお礼をと思いまして。…本当に有難うございます、またもお助けくださるとは、アキハさんの力に頼らなければならないのが申し訳ないです。このご恩は必ずお返しします」
そう言って頭を下げるカイさん。
この人は辺境伯だ。人の上に立つ存在、それでもこういうことができるのはカイさんが辺境伯である前に一人の人間として物事を考えることができる人だからなんだろう。
「私もなんと言っていいか、私が不甲斐ないばかりに職員達を危険な目に合わせてしまい、それをお助けくださるとはーーー」
「ああ、もういいよそれは。それよりシルさんちょっと俺の近くに来てくれ」
「え?あ、はいこうでしょうか」
「そうそう、それでいいよ。後、今から何があっても喋らないでね」
いちいち騒がれるのは面倒だ。
「は、はい」
俺は包帯で隠されたシルさんの眼を右手で覆う…。
…「よし、こんな感じかな。最初はちょっと痛みがあるかもしれないけど、まあだんだんとそれも治まるから」
シルさんは何が起こったのか理解できないといった感じで反応に困っている。横で見ていたカイさんも同じようだ。
「えっと、いったい何をなさったのでしょうか」
「その包帯はずしてみな、そしたらすぐにわかる」
「ま、まさか!」
そう言われてさすがに予想がついたようで慌てて包帯をはずしていく。
そしてあらわになった閉じられた両眼、奪われてからずっと閉じていたであろう眼をゆっくりと開けていく。
「どうだ?」
「み、見える。すごい、眼が戻ってる!」
シルさんにしてはかなりテンションが上がっている、このまま踊りだしそうな勢いだ。見ていて面白いな。
「シルさんの魔眼だ、ちゃんと元通りにしておいたから」
スキルを使ったからほとんど完璧に以前の状態と変わらないだろう。
「まさか私の眼まで…本当に、本当に有難うございます…」
「まあついでだ、そんな気にするなよ。それじゃあ俺らは行くから、もうここには用ないし」
「そ、そんな!」
「まだ私達は今回の事のお返しをできていません!」
「あ〜、じゃあ貸しって事でいいや」
「貸し、ですか」
「ああ、今後俺がカイさんやシルさんに何か頼むことがあるかもしれないだろ、その時までとっておくよ」
「…わかりました。ですがどうにか明日までこの街にとどまっていただくことはできませんか?」
「なんで?」
「今日はここにいるギルド職員達のことに関して動かなければなりませんので時間がありませんが、明日ならここで食事を振る舞うことができるのですが…」
む!食事か…前に食べた時も結構美味しかったしな〜。
「まあ、そういう事なら明日まではこの街にとどまることにする。食事は何時頃だ?」
「そうですね…出来れば夕食が良かったのですがそうすると時間が遅いのでさらにもう1日この街にとどまることになりそうなんですが…」
「ん〜、まあ別に良いよ、それじゃあ明日の6時頃にこの屋敷に来ればいいか?」
「はい、その時間で大丈夫です」
そうなると二日間はこの街にいる事になるな、まあ久しぶりだし別にいいか。
「それじゃあまた明日な、夜、ノーメン、行くぞ」
「はい」
「…はい」
ん?若干ノーメンの声に疲れがみえたな、それになんか夜の方を畏怖が混ざった眼差しで見ているような…。夜となんかあったのか?まあ別にどうでもいいことなんだが…。
俺が扉に手をかけたところで後ろから呼び止められる。
「アキハさん!ちょっと待って!」
後ろを振り返るとフェレサが立っていた。
「なんだ?フェレサ」
「あ、あのその…こんな事を言うのもおかしいとは思うんだけど、どうかもう一度私を旅に連れて行ってくれないかい!」
フェレサは頭を下げる。先程俺に言った言葉もあり、もう一度一緒に旅をしたいと俺に言うのはフェレサにも何らかの決意が必要だったんだろう。
だが、どうなんだろう。ここにいる者たちを助けなくても良いんじゃないかと思ったのは俺の偽らざる本心だ。そもそも俺の行動理念は主に面白いか面白くないか、それにフェレサがこれから俺たちについてこれるかは正直わからない。そして今回こいつは俺の考えにはついて来れなかった。
だけどな〜、一緒に旅をしている者同士の意見の食い違いや反発は旅の醍醐味とも言えるし、それを楽しむこともできる。
はあ、なら答えはもう出ているな。
…「あっれ〜フェレサさん、先程はなんて言ってましたっけ〜。確か、僕のこと見損なった、でしたっけー」
からかうことにしました。
「な!それはつい口が滑ったというか、だってあそこで助けを求めている人達を見捨てるなんて私には出来なかったんだよ!」
いつもの元気なフェレサに戻ったようだな。
「それで良いんだよ。フェレサは俺とは違うんだ、当然自分自身の考えを持ってる。それで起こる意見の食い違いは仕方のないことだ、だから俺は最初に言ったんだ俺たちに失望したらすぐに離れろと、意見の食い違ったまま一緒に旅をしても楽しくないからな。だがもしそれでもフェレサがまだ俺たちと居たいと思うんだったら好きにしろ、その上でフェレサ自身の考えを俺たちにぶつけても構わない、それを聞きいれるかは別としてだが。ただ俺は好きなように生きるだけだ、だからフェレサも自分の好きなように生きろ」
「えっと、つまり…」
「一緒に来ていいそうですよ、フェレサの糞野郎」
笑顔でフェレサに言う夜さん、なんか怖いです…。
「ほ、本当かい!やったあ!!というかヨルハさん言い方がひどい!」
「何を言ってるのです、いつも通りじゃないですか」
「そ、そうだけど〜」
まあ大方いつも通りだな。
「それじゃあ行くぞ」
「うん!」
こうして俺たちは辺境伯邸をあとにした。
忘れがちですがノーメンは普段仮面をつけています。周囲が基本的に触れないのは触れてはいけないものなのだと思っているからです…怖いですからね、仮面って




