試験前の勝負
SSSランク冒険者、ディル・クレインが経営する宿は料金は特段高いという訳ではなかった。宿の値段の相場がどのくらいなのかはわからないがこの大陸の港町で泊まった宿と宿泊代はさほど変わらなかった。ギルド長がここを俺たちに紹介した真意はおそらくだがーーー
「君達はしばらくこの街に滞在するということだね」
「ああ、その間はこの宿を使わせて貰うつもりだ」
「もちろんいいとも、代金もしっかり支払ってくれるんだからね、断る理由がないよ。それじゃあ部屋へ案内させてもらうよ。あ、ちなみに夕食は午後7時で朝食は9時、昼食は12時、食堂に来た人に作ってあげるから外で食べる時もわざわざ僕に知らせなくてもいいよ」
「わかった」
そのあとは四人がそれぞれの部屋に案内され夕食もその宿で食べた。夕食は俺たち四人とディルも一緒に食べ、その時に色々と事情を聞いた。どうやらこの宿は臨時でやっているものでそれまでは世界のあちこちを旅していたそうだ。今ディルが臨時でこの宿をやらなければいけない理由は大体想像がつくが…まあそれもおいおい分かることだろう。
夕食も終わりに近づいた頃にフェレサが自分の育ての親であるユフィという冒険者を知らないかとディルに聞いていた。何か知っていると言っていたが夕食が終わった後、俺たち3人が部屋に戻ってからフェレサと二人で話したいらしい。
珍しくフェレサが真剣な顔で頼んできたのでおとなしく俺たちは部屋に戻った。
…がしかし!もちろん盗み聞きします。自分の部屋にいる俺はベットに腰掛け目を閉じ聴力を強化し食堂に耳を傾ける。
ーーー「それじゃあ話そうかな」
「うん、よろしくお願い」
(ちょうど話し始めたようだな)
「まず君が聞きたいことはSSSランク冒険者、ユフィのことで良いんだね」
「うん、そうだよ。ところで君はユフィとはどんな関係なんだい?」
「僕もそこまで深い関わりがあったわけじゃない。ただSSSランク冒険者同士は顔を合わせる機会も何回かあってね。その時にたまに話をしていたんだよ」
「それじゃあ今の所在は…」
「うん、残念ながらわからない。今SSSランクでギルドが所在を把握しているのは僕とあと3人だけユフィを含めた他の6人はギルド総長にでも呼ばれない限り滅多に姿を現さないんだ。でもユフィについて僕が知っていることは話してあげるよ」
「本当かい!ありがとう!」
「まず君がユフィと一緒に過ごしていた時、ユフィの容姿は何歳ぐらいだった?」
「えっと二十歳ぐらいだったと思う…十代と言っても何らおかしくないぐらいには若かったよ。発言はちょっと年寄りぽかったけど」
「…僕はね能力を使うことで人の年齢が見えるんだよ、まあ能力の一部と言った方がいいと思うんだけど。でだ、僕は初めて会う人の年齢をいつも癖で見てしまうんだけどユフィの年齢は最初見ることが出来なかったんだ」
「それってどういう…」
「つまり僕の測定できる年齢を超えていたということ。僕は人だけじゃなくて万物の年齢を見ることができるんだけど、最高で見れたのが千歳までだった。つまりユフィの年齢は千歳以上という事なんだ、あとちなみに君の年齢は18だね」
(初対面の相手の年齢を見るって俺はともかく夜やノーメンは何歳だったんだ。肉体年齢的には俺と同じだが…)
「当たってるよ、すごいね。…でもユフィが千年以上も生きているなんて信じられない…」
「そう、僕も最初は信じられなかったんだ。自分の能力を疑った。だからユフィに聞いてみたんだよ、この事を」
「それでどうだったんだい」
「もう一度見てみれば、と言われて見てみたんだ、そしたら二十歳ぴったしだったんだよ!ははっまさか本当に自分の能力が誤っていたとは思わなかったよ」
「そ、そうだったのかい!な、なんだ〜、それで今の話ではユフィの年齢しかわからなかったんだけど」
「ごめんごめん。ちゃんと話すよーーー」
と、ここからディルが話した内容をまとめるとこうだ。
まずユフィが冒険者になったのはSSSランクからだそうだ、これが本当ならばソーラスの街のギルド職員のサラが言っていたいきなり高ランク冒険者だなんて前例がありませんというのも前例があったわけだ。
いやSランクが前例がないと言っていたんだっけか?まあどうでもいいか…。
話は戻るがユフィがSSSランクになった初めの頃、まだSSランクだったディルは冒険者ユフィという名は知っていてもそれ以外の情報は何も知らないほど関わりはなかった。
そしてしばらくしてディルがSSSランクになってから、彼女と話す機会があり、そこから少し話すようになったようだ。ユフィがフェレサを育てていたのはユフィがSSSランクになってすぐあとのことだろうとのこと、ユフィとの話の中にフェレサという少女の話がでたことがあり、その時少し聞くことがあったそうだ。ディルのユフィと対面した時の感想は一言で言うととても強い女性だったよ…心身ともにだと。
ーーー「この話では大してユフィのことはわからなかったかな、ごめんね」
「い、いや、少しでもユフィのことを聞けて良かったよ」
「あ!思い出した。確かこんな事も言っていたよ、私はある物を探していると、それを見つけるために世界中を旅していると。だからもしかしたら同じように旅をしている君もそのうち会うことが出来るかもしれない」
「探しているもの?何なんだろう」
「そうだね、どうやらSSSランク冒険者になる前から探しているものらしいんだよね」
「ずっと探しているもの、か…ありがと。今日は話を聞けてよかったよ。それじゃあ部屋に行くね」
「うん、それじゃあまた」
…俺は聴力強化を解く、盗み聞きしてたけど大したことはわからなかったな。残念…まあもうやる事もないし今日は寝ようかな。
こうして俺たちのこの街での初日は終わっていった……。
………今日はノーメンの冒険者Sランク試験の日だ。指定されている時間は2時だが宿で昼食をとってからせっかくなので修練場を試験前に使ってみようということになり、今はギルドの地下にある修練場へと来ている。
修練場は地下に何個か区分けされているようで、俺たちが今いるのは試合を行うための広場だ。修練場とはまた別で設けられている。おそらく闘技場であろう一辺20メートルの正方形のものがいくつもこれまた正方形の形の広場に並んでいる。周りはドーム席のようになっておりそこにも人は何人かいる、どうやら闘技場で手合わせをしている冒険者をを見ているようだな。ここでノーメンは試験を受けることになっている、今見る限りも何人かが手合わせをしている。
「結構広いんだな」
「そのようですね、人数も結構います」
「ノーメンさん、試験は大丈夫そうかい?」
「はい、主様が見られているので恥ずかしくない戦いを出来るようつとめます」
「まあノーメンなら誰が相手でも大抵は大丈夫だろ」
「ねえねえアキハさん。ノーメンさんの試験まで時間があるしさせっかくだから二人一組で手合わせしないかい?」
「お!いいなそれ、フェレサにしては珍しく良いことを言う」
「どういう意味だい!」
「じゃあどういう組み合わせにする?」
「私は出来ればアキハさんと手合わせをしたいんだけど…」
「おお、そうか。じゃあノーメンと夜でいいか?」
「はい、試験前に気合いの入れ直しにしごいてきます」
お、久しぶりの夜先生だ。
「…お手柔らかにお願いします」
頑張れノーメン。
「それじゃあ真ん中に行くか。ちょうど2つ空いているしな」
こうして俺たち、俺 vs フェレサ、 ノーメン vs 夜の勝負が始まる。




